平和構築
平成20年度平和構築人材育成事業 本コース修了生
事務総長室 国連オペレーション・危機管理センター レポーティング・オフィサー 渡辺愛子さんへのインタビュー
インタビュアー:
国際平和協力室インターン 村上真絢(むらかみまあや)
ペンシルベニア大学国際関係学部3年生
インタビュー実施日:平成28年8月3日
1 大学院での専攻を教えてください。また平和構築に関心を持たれたきっかけは何でしたか。
私は大学院で,政治経済開発を専攻し,特にガバナンスを中心に学びました。修士論文に相当するものとして,私を含む4人のメンバーで,南アフリカにおける伝統的リーダーシップと土地のガバナンスに関する綿密なリサーチとフィールドワークを行いました。
幼少期をオーストラリアで過ごし,多種多様な人種,民族,文化,そして宗教に囲まれた環境で育ったこともあり,私は長い間紛争に興味がありました。特に大学時代,コソボでの4週間のボランティア経験は,紛争直後の援助活動とその後の開発活動を結びつける平和構築の必要性を間近で感じるものでした。当時、このような必要性に対する国際的関心も集まっており、2005年12月には国連平和構築委員会が設立されるに至りました。このような経験により,学部時代の卒業論文は平和構築におけるNGOの潜在的役割について研究しました。
2 平和構築人材育成事業へ応募した理由を教えてください。
本事業は,平和構築への理解を深め,見識を広め,その理解を国連機関での実務においてすぐに活かすことができるというすばらしい機会を与えてくれました。大学院を卒業したばかりでしたので,本事業は国際開発分野での最初の一歩を踏み出すものとして理想的なプログラムでした。
3 国内研修で得られたものについて教えてください。また海外実務研修中に,それがどのように役立ちましたか。
本事業が提供するコースは素晴らしく,平和構築活動への知見が深まる一方で,最も貴重だったのは,コースに参加する中で育まれた友情と仲間でした。互いに励まし合い,アドバイスし合うことで仲間意識が芽生え,海外実務研修も乗り切ることができました。
4 海外実務研修先の国連開発計画(UNDP)コソボ事務所では何を担当しましたか。
UNDPコソボ事務所では,私は民主的ガバナンス・環境クラスターのプログラム分析官として,特に汚職防止に取り組みました。私の役割は,汚職防止プロジェクトを実施しているチームと緊密な連絡調整を行いつつ,プロジェクト実施の障壁となり得る事項について議論すること,より深刻な問題について幹部に注意喚起することも含め必要に応じたサポートを提供することでした。もう一つの役割が,実施中のプロジェクトの終了が近づいていたことから,新しい汚職対策プロジェクトを立ち上げ,そのために必要な資金を確保することでした。
5 UNDPコソボ事務所で働いている間にあった最大の困難は何でしたか。また,そこで得られた経験を教えてください。
私が参加した当時,本事業はパイロット・フェーズであったため,私の海外実務研修は5か月間に過ぎませんでした。最も苦労したことは,結果を出し,私を5か月の任期後もこの事務所で雇用する価値があることを示すことでした。5か月という期間はこれを実現するためにはとても短い期間です。同時に,数多くの職員が短期間の不安定な契約から国連のキャリアを開始しているのが現実だと知りました。もし私がこの分野でキャリアを築くことを望むなら,このような契約を受け入れ,簡単に挫折しないように覚悟する必要があるとすぐに理解しました。
6 国連PKO局では,どのようなお仕事をされていますか。その中でも,最も印象的な経験などはありますか。
今の部署には異動してきたばかりなのですが,過去2年間は国連事務局PKO局事務次長室で働いていました。そこでの私の役割は主に,(1)私が担当するPKOの中で,事務次長の関心の高い案件を取り上げ,必要に応じてアドバイスを添える仕事,(2)事務次長の承認を必要とする内部文書や公的文書の内容を精査する仕事,(3)局内からの事務総長、副事務総長及び官房長用のブリーフィング資料を取り纏め、必要に応じてフォローアップをするという仕事でした。特に国連総会やアフリカ連合サミット前には大変な仕事量でした。さらに、数々の会議への出席,種々の書類作成や情報提供,局内の他課からの問い合わせへの対応等,一つのカテゴリーにまとめることができない様々な業務がたくさんありました。
7 今後のキャリアプランを教えてください。
今は特に政務と開発の連結と,それが紛争後もしくは危機の状況下における平和の持続にいかに貢献できるかに関心を持っています。これまでに従事したどの仕事も,一連のスキルを向上させ,紛争への理解を深めることに役立っています。今後も本部・フィールドにかかわらず,この分野を歩み続けていきたいと思っています。
8 平和構築分野において,女性はどのような役割を果たすことができますか。平和構築への女性参加の重要性について教えてください。
特定の限られた状況において,女性のみが果たすことのできる役割はあると思います。たとえば,紛争下では残念ながら性的暴力が日常的に起こります。そういった状況で被害者との面会や支援を行うときは,女性は男性より適していることが多いでしょう。
しかし一般的には現在女性の活躍が少ない分野においても、男性にできることは女性にできない訳がありません。平和構築分野に限ったことではありませんが,管理職、特に課長級以上のクラスへの女性の登用を増やすことが重要だと思います。国連ではジェンダー平等を積極的に打ち出していますが,ジェンダー公正という観点からはより努力していく必要があるのではと思います。
9 本事業を目指す方たちにメッセージをお願いします。
本事業は、特に平和構築分野において国連や国際機関でのキャリアを希望している人の様々なニーズにぴったり合ったプログラムであると思います。また、自分が平和構築や開発の分野に向いているかどうかを、実務経験を通じて確かめる良い機会でもあります。さらに平和構築に関するあらゆる側面をカバーする派遣前研修を受けられるだけでなく,同じような分野でのキャリアを目指す仲間と出会うことができ,大変貴重な財産となります。本事業は私や今や友人と呼べる同期の仲間に,国際平和や開発分野における熱心なプロフェッショナルとして最初の一歩を踏み出させてくれたものでした。皆さんにもこの事業を通して,私と同じようにその一歩を踏み出せることを願っています。