平和構築
平成19年度平和構築人材育成事業 本コース修了生
外務省中南米局南米課首席事務官 古本建彦さんへのインタビュー
インタビュアー:
国際平和協力室インターン 村上真絢(むらかみまあや)
ペンシルベニア大学国際関係学部3年生
(注)インタビュー実施日は平成28年8月9日
1 平和構築分野に興味を持たれたきっかけを教えてください。
もともと国際関係や紛争解決に興味があり,筑波大学では紛争研究のため現場を頻繁に訪れていた故秋野豊先生に出会いました。そこで先生のゼミに出入りするようになり「現場主義」の考え方を学びました。
しかし秋野先生は1998年7月,当時展開していたタジキスタンの国連ミッションの一員として活動されていた際に,現場で襲撃され命を落とされました。この出来事は私にとってとても衝撃的で,紛争解決,平和構築分野に対する思いをより突き詰めたいと思い,この道を志しました。
2 事業参加前はどのようなお仕事をされていましたか。
大学を卒業するときは,新聞社の特派員になって様々な紛争地を巡り紛争について考えたいと思い,通信社に就職しました。しかし,記者はある意味観察者で,第三者に伝えることが仕事です。それも重要な役割なのですが,次第に自分自身が物事の解決に携わることが出来ないことに,もどかしさを感じ初めていました。自分が働きたい現場と,いざそこに立ち向かう時の自分の役割を考えたときに,実務を担当する者として平和構築に直接関わりたいと思い,国連への進路変更を決意しました。その後,まず修士号を取得するため英国の大学院で平和構築,紛争解決を学びました。
3 国内研修で一番印象に残っていること,また,国内研修で学ばれたことが具体的にどのように海外実務研修で役に立ったか教えてください。
印象に残っていることは2つあります。国内研修中に行った演習では,仮想事例への対応案をグループごとに考えました。研修は非常にアクティブで,対応案がどのように評価されていくのかを学べたのでとても良かったです。また,研修を通じて,「多様性の尊重」「プロフェッショナリズム」など,国連職員の価値観(Values)や資質(Competencies)等を確認出来たことは,地味で抽象的な経験でしたが,その後国連で働いていく中で,考え方の基礎を作ってくれました。例えば「client orientation」という言葉がありますが,これも「難民のため」など,当たり前のことですが自分が今誰のために,何の目的で働いているのかをより強く意識するようになりました。常にこうした軸を持って働く姿勢の大切さは外務省で働いている今でもよく思い返します。更に,セキュリティーに関する研修もその後の海外実務研修で役に立ちました。私は現南スーダンの首都ジュバに派遣されましたが,紛争直後の国で生活するのは初めてだったので,治安やストレスに関する考え方を派遣前に国内研修で教われたことは良かったと思います。
4 海外実務研修で派遣された国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)南スーダン事務所ではどのような活動を担当されていましたか。
私が現南スーダンで活動していた2007-2008年頃は,スーダンにおける南北包括的和平合意の直後でした。スーダンは難民帰還の全盛期にあり,私が滞在した約半年間で5万人もの難民が帰還しました。UNHCRは国境と難民の主要帰還先との間にできた帰還ルートを結ぶように拠点を設立したのですが,私はジュバの“帰還ユニット”で働き,毎日近隣国キャンプから帰還する難民の移動の調整を担っていました。ある時にはオフィスで連絡を取り,またある時には,実際に現地に赴き帰還先まで難民を乗せた車両に同乗したり,帰還民にインタビューをしたりしました。
5 海外実務研修中に一番苦労されたことは何ですか。また,研修を通して得られたものについて教えてください。
上記でも触れましたが,治安やセキュリティ面は大変でした。紛争直後の途上国で生活することは初めてだったので,治安やセキュリティ面から来るストレスを抱えたこともありました。しかし,国内研修はそのための心構えとしても良い事前準備になったと思います。
ちなみにその後,この分野で活動していく上でセキュリティについてはもっと本格的に学んでおきたいとUNHCRの方に申し出たところ,UNHCRのトレーニングに参加させてもらえました。誘拐される模擬練習など,色々な事態への対応を学びました。これも,本事業から得られた縁であったと思います。
6 NGOでの勤務経験もおありですが,国連とNGOそれぞれの活動内容,そして平和構築に対するアプローチの違いなどを教えてください。
数ヶ月という短い間でしたが,NGOでミャンマーにおけるサイクロンの復興を担当しました。私は基本的に東京で働いていましたが,モニタリングで現地にも行き,支援対象の村や,地域の役所を訪ねて被害状況や支援のニーズを確認しました。一般にNGOの活動は現場からの“bottom-up”の要素が強いと言えると思います。
一方で,国連は支援対象国によっては開発計画の策定も担います。さらに相手国政府と密に協力しながら,ガバナンス,保健など,セクターごとの支援も計画から実施まで担います。実際にプロジェクトを実施する際は,独自に実施することもあれば,NGOや相手国政府と協力して行う方法もあり,様々です。上流から下流まで,全体を見て仕事をすることが多いということは,国連の特徴の一つとしてあげられます。
7 現職の外務省中南米局南米課でのお仕事内容を教えてください。
外務省には2012年に中途採用で入省し,現職は三つ目のポストに当たります。外務省には地域を見る「地域局」と分野別の外交テーマを扱う「機能局」がありますが,南米課は前者に属し,南米と日本との関係強化を,政治,経済,開発,文化など様々な観点から図っています。私の仕事は,この南米課が力をしっかりと発揮できるようにするための課内マネージメントが主です。効果的にその仕事を担うために,今南米で何が起こっているのか,日本との関係では何が課題か,そのために在外公館はどういう体制になっていて,どういうニーズがあるのか,など総合的に把握するよう努めています。
一見,平和構築とは縁が薄い地域と思われるかもしれませんが,南米でも平和構築や開発がテーマになることもあります。例えば,コロンビアでは「米州最後の紛争」とも表現される政府とゲリラ組織との国内紛争の和平交渉が行われていますが,目下最終合意へむけての機運が高まっており,新設の国連コロンビア・ミッションも話題になっています。また,エクアドルで4月に大地震が発生した際には,同国への緊急援助を南米課が担当しました。
8 今後のキャリアプランをお聞かせください。
国連での勤務経験など,過去の経験から来る強みを活かせるような仕事をしていきたいと思います。平和構築分野においても,本事業の修了生の一人として学んだことを生かし,この分野に直接的にでも間接的にでも関与していけるといいなと思っています。機会があれば国連に関わる仕事もしたいと思います。
9 本事業への参加を考えている方々にメッセージをお願いします。
平和構築分野と言っても様々な活動がある中で,自分のキャリアパスを真剣に考える機会を本事業は与えてくれます。また,平和構築に本格的に携わるには基礎的な知識や一定の現場経験を身につけることが必須です。それを得るために,本事業をぜひ活用してもらいたいと思います。
また,本事業のメリットは研修そのものにとどまりません。一緒に研修を受ける仲間や先輩修了生たち,そして平和構築の一線で活躍している講師たちとのネットワークを作ることが出来,それが本事業の魅力の一つでもあると思います。興味のある方は是非チャレンジして頂きたいと思います。