平和構築
平成20年度平和構築人材育成事業 本コース修了生
パレスチナ子どものキャンペーン エルサレム事務所代表 手島正之さんへのインタビュー
インタビュアー:
国際平和協力室インターン渡邊美月(わたなべみづき)
東京大学公共政策大学院1年
(注)インタビュー実施日は平成27年8月20日
1 大学時代の専門と、平和構築分野に関心を持たれたきっかけを教えてください。
大学では法学を専攻しており、学生時代は、旧ユーゴやコソヴォ紛争、ルワンダ内戦といった民族紛争が多く発生していた時期とちょうど重なっており、そのようなニュースに触れるうち、平和構築を学びたいという思いが芽生えました。
そのため、大学卒業後はアメリカのワシントンD.C.の大学院に進学し、紛争解決や平和構築について、複合的に学んでいました。
2 事業参加前は民間企業にお勤めだったそうですが、どのようなお仕事を担当していましたか。
大学院卒業後は、ニューヨークの法律事務所に勤務し、移民法に携わる仕事をしていました。こちらでは、クライアント・リレーションズ・マネージャーという立場で顧客対応や移民の方にビザ取得に関するアドバイスを行っていました。
法律事務所で3年半勤務した後、人事コンサルティング会社に2年半勤め、こちらでは雇用主と被雇用者のマッチング業務を担当していました。人材的な配置を考えることや、労使関係の改善、給与の交渉を主な業務として担当していました。法律の知識に加えて、前職で培ったビザに関する知識が生きたように思います。
その後は、日系企業のニューヨーク支社にて1年数ヶ月勤務し、企業の社会貢献活動(CSR)とデザイナーなどのクリエイター、そしてNGOなどの開発団体に関わる複合プロジェクトの立案・コーディネーション業務を担当していました。世界中の企業やNGOやクリエイターが協働できてより効率的に地球規模の課題を解決することができるよう、複合的なプラットフォームを構築し、それぞれのニーズがマッチしていけるようなコミュニティーの開発に関わっていました。
3 平和構築人材育成事業に応募した理由を教えてください。
大学院を卒業してから平和構築に関心を持ち続けながら、関連分野に応募を続けていましたが、なかなか機会を得られませんでした。国連やNGOでのキャリアを追求するためのきっかけにもなると思い、本事業に応募しました。
4 本コースの国内研修6週間についての感想を教えてください。また、本コースで学んだ内容について、現在でも活きていると感じるものはありますか。
国内研修では、平和構築理論を学ぶ座学と、ロールプレイングを中心とするシミュレーションを行いました。シミュレーションでは、例えば、ある一つの国の開発プロジェクトをモデルとして、ドナーの資金をどのように各団体や機関に分配するか、といったことを考えました。また、インタラクティブな形で、現場で起きていることを現実的に学ぶことができました。また、自分と相手の考えが異なる際に、どのように乗り越えていくのかといったコミュニケーションの細かい部分も学べました。私が知らなかったことばかりを学べたので、研修内容はすごく新鮮に感じました。
5 UNHCRコソヴォ事務所、UNV東京事務所及びUNRWAレバノン事務所では、それぞれどのようなお仕事を担当していましたか。
上記でも触れましたが、UNHCRコソヴォ事務所には海外実務研修で6ヶ月間派遣されました。現地ではアソシエイト・プロテクション・オフィサーとして、難民の権利保護を担当していました。様々な理由で自分の家に戻れない国内避難民がコソヴォには多数存在しており、そのような国内避難民の現状と、避難民が本来なら享受できるはずの「居住の権利」に関する調査を行っていました。
UNV東京事務所では、平和構築人材育成事業本コースの海外実務研修における派遣先を決めるための、研修員とUNVポストのマッチング業務をしていました。UNVのポストへ本人のアサインメントを決めるときには、前提として現場からの要請が第一です。現場から要請があれば、ドイツのボンにあるUNV本部の了承を得て、初めて、研修員1人1人にポストを紹介することができます。
その後、少しの間を経て、UNRWAレバノン事務所でUNVの評価担当官として勤務しました。具体的には、保健、社会福祉、教育、ジェンダー、若者支援、難民の権利保護といった、それぞれの分野にもともとあるモニタリングの評価指標を用い、順調に進んでいる点、停滞もしくは悪化している点から、最終目標に対しての進捗状況をまず分析します。そのモニタリング期間の後に現場における意見を含めて総括しながら、様々な評価レポート提出するという業務です。モニタリングは現場の情報を集め、分析する必要があるので、専門分野に関する知識よりも人間関係の構築が意外と重要になってきます。そのことから、医療や教育といった自身の専門分野以外でも、観察力や分析力の専門性が必要であると感じました。UNRWAレバノン事務所で、UNVとして2年の任期を終えた後、コンサルタントとして雇用延長され、最終的に3年数ヶ月勤務しました。
6 フィールドでの経験が長い手島さんですが、フィールド勤務にあたってやりがいのあったこと、大変だったことなど、ご経験があればお聞かせください。
すぐに即戦力として勤務できることは、フィールドならではのやりがいです。例えば、UNHCRコソヴォ事務所で勤務した経験は、私にとって初めての途上国で、国連勤務を経験するという、初めてのことだらけでした。しかし、現場では人材が圧倒的に足りていなかったため、現地に到着してすぐに、国内避難民の権利を調べるという重要な仕事を任されました。情報は与えられるものの、どこから手をつけて良いか分からず、大変苦労しながらも短期間で報告書をまとめあげました。
そうして作成した報告書を、私の上司が、他の調整会議やクラスター会議の中でも調査結果の資料として発表し、「詳しいことは彼に聞くように」と私を紹介してくれました。その結果、欧州安全保障協力機構(OSCE)といった国際機関とやりとりをしたり、調整会議を別途設定したりと、重要な仕事を多く担当することができました。
しかし、仕事を投げられるだけ投げられて、成果物を出しても全く反応がない、というのも良くある話で、私もその後国連では何度か経験しました。初めてのアサインメント、初めてのプロジェクトでは、やりがいを感じられ、良かったと感じます。
7 現職のNGOでは、どのようなお仕事を担当されていますか。
UNRWAレバノン事務所で勤務している際、現在所属している「パレスチナ子どものキャンペーン(CCP Japan)」の現地担当の方とお会いし、お話を伺う機会があり、それをきっかけとして就職しました。現在は、エルサレム事務所の現地代表をしており、現地事務所の運営や現在進行しているプロジェクトの管理を行っています。また、CCP Japanは日本国内で多くのイベントを開催しているため、国内での報告会、有識者とのパネルディスカッションや支援者との交流などに赴き、日本各地で積極的に発信活動を行っています。
8 手島さんが現在活動を行われている、ガザ地区の情勢はどのようになっていますか。
表面上は特に大きな武力衝突が起こっているわけではありませんが、様々な問題によりガザ地区は不安定な情勢が続いています。一番大きいのは複雑化した政治的な問題です。ヨルダン川西岸や、イスラエルなど外部的な要因に伴って、ガザ情勢はすぐに変化します。例えば、またイスラエル国内では行政拘留者が多く存在し、その拘留者の解放を求めるデモはよく起きていますが、それが大規模な暴動にいつ発展してもおかしくない状況にあります。イスラエルでは、未だに行政拘留を認める法律が存在し、何千人ものパレスチナ人が逮捕・拘束され、そのうち正当な理由がなく、また裁判を受ける権利もまったく認められていないパレスチナ人が300人以上政治犯として拘留されていると言われています。中には、不当に逮捕されたことへの抗議として、ハンガー・ストライキを行い、命の危険に晒されている人々が存在します。もし、彼らが亡くなってしまうといった不幸なことが起これば、大規模な暴力事件に発展する可能性があります。
現在、2014年の大規模な戦争の被害に加えてガザ地区は未だに封鎖され続けていることもあり、内部の経済は壊滅状態となっています。去年8月の終戦直後から人々の困難な生活は全く変わらず、厳しい状況が未だに続いています。
9 UNRWAレバノン事務所での勤務後、日本のNGOに転職した理由があればお聞かせください。また、NGOと国際機関とで、平和構築へのアプローチにはどのような違いがあるとお考えですか。
国連では、ある意味大きな組織の一部として勤務します。そのため、既に決められたことや、期待されたことをいかにこなすか、という業務が主になると思います。
例えば、UNRWAレバノンではパレスチナ難民の個別ケースに対応しきれない、といった問題に直面しました。レバノンのパレスチナ難民は保険適用がないため、病気になったり、出産したりする際は、治療費を個人が負担しなければいけません。その治療費はパレスチナ難民にとっては高額です。例えば通常分娩には新生児一人につき日本円で5万円以上で、帝王切開などの手術になると施術費だけで80万円の費用がかかり、経済的に困窮しているパレスチナ難民は支払うことが出来ず、UNRWAが病院治療費を負担しています。しかし、すべての疾病に対しての負担が可能ではなく、特に高度医療に関しては難民の治療費を少ししか負担することは出来ませんでした。また緊急性が高い治療においても、予め決められている要件に合わず対象外となってしまう難民たちを大勢見てきました。
他方、NGOであれば、規模は大きくないかも知れませんが、必要な支援ごとに自分でプロジェクトを立ち上げることができます。自分で一から作り上げていくことができるので、自分が現場で感じたり、調査したりするニーズにより直接応えられるような支援を事業として計画・立案することができます。実際に勤務する中でも、NGOならではの自分で支援活動を作っていける楽しみや、喜びを感じています。
10 今後のキャリア・プランについてお聞かせください。
当面はCCP Japanにて、現在のところ一部しかできていない活動で長期的支援が必要なものがいくつかあり、対象者と地理的なターゲットの広がりを、進めていきたいと思っています。しかし、家族が日本にいるという個人的な事情もあり、将来的には自分で団体を立ち上げることができればと思います。また、NGOに限らず、資金調達の面からも、活動の幅を広げた営利団体で国際支援を行う、という選択肢もあると考えています。
11 平和構築分野でキャリア構築を志している方々に、アドバイスやメッセージをお願い致します。
これは平和構築に限らず、一般的なキャリア構築にも言えることかもしれませんが、自分がどこで活きるのか、ということを考え、キャリアの選択をすることが必要かなと思います。自分のやりたいことだけを見つめていては、自分がどのような場所でどういう風に活躍できるのか、ということはなかなか見えてきません。国連でもNGOでも、自分の特性を一番活かすような選択をした方がいいのではないかと思います。
また、国連やNGOでの雇用形態は短期契約が主となり、一般的な民間企業とは雇用の安定性といった面で少し異なりますが、それをあまり恐れてはいけないかなと。若いなら若いときで気にせずに、自分の特性を常に考えてキャリア構築をしていくと、結果的に上手くいくように思います。