平和構築

平成27年8月12日
(左:インターン生 吉野眞代,右 田邉宙大さん)

 インタビュアー:
 国際平和協力室インターン 吉野眞代(よしのまよ)
 津田塾大学国際関係学科4年
 (注:インタビュー実施日は平成27年8月3日)

1 平和構築人材育成事業に応募された理由を教えてください。

 2008年から2009年にかけてイギリスの大学院で平和学を勉強していたときから,平和構築人材育成事業を知っていました。大学院卒業後も,平和構築についてまだ自分の中でより深く学びたいという気持ちもあったため,当事業を通じて国際機関で働けるという環境に魅力を感じつつも,すぐに応募には至りませんでした。
 しかし,2013年に国際NGO ADRA Japanの職員として南スーダンに駐在した際,現地で多くの事業修了生に出会ったことがきっかけになり,研修に参加し国際機関で働くということが自分の中で現実味を帯びてきて,応募を決心しました。

2 同事業の国内研修の感想を教えてください。

 良かったところが,私の中で大きく分けて3つあります。まずは,平和構築を理論立てて勉強できたことです。平和構築の陥りがちな失敗の一つとして,一方的にこちらが良いことをしていると思ってしまうことです。しかし,実際に現場に入ってみると,意外に自分たちのしていることが良くない効果を生んでいることもあります。例えば,物資を配布する際に,一方の民族だけに配布してしまうと,片方の民族から文句がでるといったセンシティブな問題が起きたりすることがあります。そのようなことを,”do no harm”とか”conflict sensitivity” といい,ただ援助するのではなく,平和構築のインパクトを最大化して,ネガティブなインパクトをできる限り最小化することの重要性を知ることができました。
 次に,他のアジア諸国の研修員と交流するという外交的な側面です。日本の文化を知ってもらうことができた事に加え,ディスカッションを通じて相手国の文化を知ることができました。
 そして,最後に,同期の研修員たちとネットワークを構築できた事があります。平和構築という業界はとても狭く,みんながしのぎを削り合わなくてはいけないため,皆お互いにライバルでもあると思います。しかし,この事業を通じて,限りなく仲間に近いライバルに出会うことができました。彼らとは,様々な情報や価値観を共有し,お互いを励まし合える関係になりました。

3 平和構築人材育成事業に参加する以前にラオスやタイなどの様々な場で平和構築活動を経験されていますが,実務経験は国内研修の学びにどのような影響を及ぼしましたか?

 研修に参加する以前に,平和構築の現場でプロジェクトの立ち上げやそのマネジメントに携わっていました。実際,国内研修の最後の方にプラクティカルな演習がありましたが,実務経験があったからこそ素早い対応ができたと思います。例えば,実際にプロジェクトを立ち上げる演習をした際,予算を考え,このような国でどのような活動が,そして何が必要なのか考える機会がありました。そのとき,スタッフが何人必要で,どのくらいの資材やどのようなトレーニングが必要であるのか,プロジェクトの実施によってこういう効果が出るのではないかということをすぐに組み立てることができました。

4 海外研修先である国際連合開発計画(UNDP)東ティモール事務所での活動内容を教えてください。

 国内研修後は, UNDPへ災害危機管理の専門家として派遣されました。国連は人の出入りが激しく,派遣直後に事業のプロジェクトマネジャーが不在となる中,カウンターパートである社会連帯省と協力して,災害時にどのようにスムーズに連絡をとるか,またウェブ上で情報をいかに拡散するかなどの業務を行いました。また,東ティモールの公用言語のひとつであるテトゥン語の基礎を学ぶ機会がありました。テトゥン語で話すことで,現地の人との距離が縮まり,コミュニケーションがより円滑になったので,できるだけ現地の言葉で話すことを心がけました。
 さらに,災害危機管理の事業とは別に、UNDPの平和構築事業もプログラムオフィサーとして担当させてもらいました。どのようなところに紛争が起こる要素が内在しているのかを事前に調査し,紛争の再発防止のための国づくりに努める事業であり,この事業には日本政府からの無償資金協力もあったため,在東ティモール日本大使館とUNDPを繋ぐ役割も担いました。

5 国連とNGOの両者での実務経験をお持ちですが,平和構築活動において両者がどのように相乗効果をもたらしているのかを教えてください。

 NGOはコミュニティーレベルのアプローチがメインになります。村にNGO自身がアプローチして,村人たちの組織をつくったり,直接トレーニングしたり,何かを配布したりという活動を通して,コミュニティーからボトムアップの平和構築活動をしています。
 一方,国連は主に政府に働きかけます。それぞれの省庁などと協力して活動することで,行政全体のキャパシティが向上します。例えば,警察を訓練することで,しっかりとパトロールが行われ,犯罪者をきちんと逮捕できるようになる。日本では当たり前の感覚ですが、途上国ではそうでないことが多々あり、このようなガバナンスの向上によって人々の生活が安定します。これがトップダウンの平和構築です。
 アプローチの仕方は違いますが,NGOの活動も国連の活動も人々の生活の安定に繋がっています。

6 平和構築人材育成事業への参加はご自身のキャリア構築にどのような影響を及ぼしましたか?

 国際機関で勤務できたことには大きな影響を受けました。国際機関では上司とフランクな関係で話す文化があり,上司や年配のスタッフとも一人の人間として気さくに話せることが,私には新しい経験でした。また,文化や人種の違う人とも,積極的にコミュニケーションがとれることがとても楽しかったです。そのような経験から,インターナショナルな感覚を身につけたい,国際機関で今後も働きたいと思うようになりました。
 また,国連における人材の流動性の高さを垣間見たことは勉強になりました。友達になってもすぐに次の仕事に移ってしまうし,また今度は自分が移っていったり。そのような流動性の高さも国際機関で働くことの宿命だと実感するとともに,国際機関で継続的に働く事への覚悟を固めることができました。

7 災害危機管理家という立場から平和構築に携わっていらっしゃいますが,震災から復興する日本だからこそできる平和への貢献があれば教えてください。

 災害危機管理という同じ分野でも,日本と途上国では大きな違いがあります。日本では,緊急避難パッケージや避難場所が当然のようにあり,その同じ対処法を簡単に他の人に教えることができると思っていました。しかし,実際,東ティモールのような国では難しい側面がありました。なぜなら,災害に備えると言っても,東ティモールは実際に自然災害の被害に遭ったケースや種類が日本ほど多くなく,災害に備える必要性を喫緊の課題として感じているわけではないからです。つまり,日本と途上国の災害危機管理にはギャップがあって,たとえノウハウを伝えることができても,実践してもらうことは難しいという現実があります。
 自然災害を多く経験している日本だからできる貢献としては,被災者の気持ちが分かるという点があると思います。知り合いや身近な人が東日本大震災や阪神淡路大震災の被災者であったりして,災害で多くを失った人の気持ちが分かるということが大きい。私もパキスタンとタイで支援物資を配る際に,できる限り現地の人の気持ちになって,現地目線で考えようと心がけました。

8 今後のキャリアプランについて教えてください。

 もともと,平和構築の中でも,貧困削減に関心がありましたが,災害危機管理家としてUNDP東ティモール事務所に派遣されたことで,災害に対する関心が高まってきたと思います。今は内閣府国際平和協力本部事務局国際平和協力研究員として国際平和協力分野における災害危機管理に関する研究を進めています。将来にわたっては災害危機管理分野の知見を更に高めつつも,ひとつの専門性にこだわりすぎずに関連する分野についても積極的に勉強していきたいと思っています。

9 平和構築人材育成事業への参加を考えている方にメッセージをお願いします。

(写真)

 平和構築人材育成事業の参加者の中には,民間企業で長年勤めていた方もたくさんいました。民間で働いていた方にとっては,この事業への参加は今までのキャリアを一気に変えるものになります。しかし、一歩踏み出すことによって,もしかしたら民間企業に戻らなくなる可能性もあります。
 また,平和構築の職種は良くも悪くも安全や治安、仕事の継続性の面で高いリスクがつきものです。実際,一,二年単位で役職が変わっていくことが多いですが,みんなそれを覚悟してこの業界に飛び込んできています。私の好きな漫画の中で,このような言葉があります。「叶うにしろ,叶わないにしろ,夢を持つということは現実と戦う覚悟をすることだと思う。」そのような覚悟を持っている人はこの事業にどんどん参加してもらって,平和構築が日本主導で前に進んでいったらいいなと思います。


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