寄稿・インタビュー
コリエーレ・デッラ・セーラ紙(イタリア)ヘの岸田外務大臣寄稿
(2016年8月25日)
日伊国交150周年に際する岸田外務大臣寄稿
「平和と安定のための協力」
昨日イタリアにて発生した地震に関し,亡くなられた方々に哀悼を表するとともに,負傷された方々にお見舞い申し上げる。被災地の方々が,一日も早く元の生活に戻ることができるよう,心から祈念する。
幕末の1866年8月25日,日伊修好通商条約により日本とイタリアの外交関係が樹立された。それ以来,両国が友好関係を育み,本日150周年を迎えたことを外務大臣として大変喜ばしく思う。日本とイタリアは,地理的に遠く離れていても,日・イタリア両国国民にとって,お互いを引きつける要素に事欠かない。
良好な日伊関係の基礎には,両国の多くの共通点がある。南北に細長い国土と美しい自然,その恵みである食材を用いた食文化,そして,共に永い歴史の中で育まれた豊かな伝統と文化を誇る。本年,国交150周年を記念して日本で開催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」や,イタリアで開催中の「日本仏像展」等の数多くの文化行事が好評を博しているのも,優れた伝統と文化を愛でる素養を共有すればこそである。他にも,長寿国,資源小国,経済成長と財政再建に向けた取組の必要性等の課題も含め,両国の共通点は枚挙に暇がない。
こうした共通点を背景として,自由,民主主義,基本的人権,法の支配,市場経済といった基本的価値を共有するパートナーである日本とイタリアの関係は,近年ますます緊密である。両国を隔てる距離にもかかわらず,安倍総理は3回,レンツィ首相も2回,お互いの国を既に訪問した。ジェンティローニ外相と私の間での外相会談も3回を数える。中でも,本年3月に私がローマを訪問した際に,ジェンティローニ外相が用意してくれた150周年の「バースデーケーキ」に共に入刀したことは,心温まる思い出であり,また良好な日伊関係を象徴するものである。
経済面に目を向けても,両国は,職人気質なモノ作り精神を有し,伝統と最先端技術を上手く融合できる点で共通している。だからこそ,「Made in Japan」と「Made in Italy」は,それだけでブランド価値を有する国家ブランドとして世界で認知されているのだろう。
一方で,日本とイタリアが世界有数の経済大国であることを考えると,両国間の経済関係にはまだ発展の余地があろう。150年前,両国は互恵的な経済関係を追求して国交を開設し,その後両国間の交流が互いにとって利益となることを実感した。今日,その原点に立ち返って,両国の企業間の交流を更に発展させ,日伊産業協力を通じた第三国市場への共同進出を進める等,更なる経済関係強化の機運が生まれることを期待したい。
日伊関係においては,経済面に留まらず,近年政治・安全保障面での協力の重要性が増している。本年7月にバングラデシュで発生し,日本人とイタリア人の双方が犠牲となった痛ましいテロ事件は,国際社会の平和と安定の確保に取り組んで行く上での両国の連帯の重要性を再認識させた。本年,日本はG7議長国として,G7広島外相会合を始めとする閣僚会合やG7伊勢志摩サミットを開催した。明年は,イタリアがG7議長国を引き継ぐ。こうした中,世界の平和,安定及び繁栄のために,日本とイタリア両国が担う役割と責任は,ますます重要となる。基本的価値を共有し,国際社会の平和と安定に責任をもつ大国同士として,テロ対策を含む安全保障・防衛分野においても,イタリアとの協力を一層深化させていきたいと考えている。
その観点から,本年6月に日伊情報保護協定が発効したことは重要な一歩である。さらに,日本とイタリアの間では,防衛装備品・技術移転の分野でも潜在的な協力の可能性は大きいと私は考えている。先ほど述べたとおり,両国は,モノ作りで世界をリードする国同士である。そうした強みを有する日伊両国が,この分野でも協力することにより,新たに創造的な価値を生み出していくことができるのではないだろうか。
このように,安全保障・防衛分野での協力を着実に推進しつつ,日本政府として,イタリアと手を携えて,世界の平和と安定に一層の貢献を行っていく考えである。
このように,国交150周年を迎える今日に至るまで,日本とイタリアはあらゆる分野で重層的な関係を築き上げてきており,そして,その関係を更に強化する大きな可能性があることがお分かりいただけると思う。国交150周年の本年を契機として,両国間の協力と両国民の相互理解が促進され,二国間関係が更に発展するよう,私としても一層尽力していきたいと考えている。