寄稿・インタビュー
アイリッシュ・タイムズ紙(アイルランド)への岸田外務大臣寄稿
(2017年1月10日付)
「日本とEUの協定は自由貿易について明確なシグナルを送るだろう」
(日アイルランド外交関係樹立60周年)
<冒頭>
本年,日本とアイルランドは,1957年3月5日に外交関係を樹立してから60周年を迎える。この記念すべき年の始めにアイルランドを訪問し,昨9日の記念式典においてフラナガン外相と共にこれを祝福でき大変嬉しく思う。これほど長きにわたり,日本とアイルランドが着実に友好関係を深めてきたことをアイルランドの皆様は御存知だろうか。二国間関係の基礎は人と人との交流にある。外交関係樹立60周年の本年,各地で様々な記念事業が開催される。この機会により多くのアイルランドの方々に日本に直接触れ,日本を訪れていただきたい。
<自由貿易>
日本とアイルランドは,共に世界の自由貿易体制に立脚して今日の繁栄を成し遂げた。世界で保護主義的な動きが広がる中,自由貿易体制を促進・強化する必要性は,かつてないほど大きい。日本は,アイルランドと共に,自由主義の重要性について世界に発信していきたい。特に日EU・EPAの可能な限り早期の大枠合意の実現は,日本とEUが世界において引き続き自由貿易体制の旗振り役を担い続けるという力強いメッセージとなろう。
昨年,英国が国民投票を通じてEU離脱を選択したことは,世界を揺るがせた出来事の一つであった。欧州には多数の日系企業が進出しており,我が国も英国のEU離脱動向を注視している。英国と国境を接し,密接な経済関係にあるアイルランドとは,英国及びEUにおける企業の円滑な経済活動のためにも,また,英国のEU離脱プロセスの予見可能性を高めるためにも,連携していきたい。
<イノベーション,日アイルランド経済関係>
優れた事業環境を誇るアイルランドへ進出する日本企業も近年増加している。現在,医薬品,航空機リース,金融分野を中心に約80社の日本企業が進出し,投資残高は16億ユーロに達する。アイルランドが得意とする医療機器・医薬品産業等はまさに日本が重視する「イノベーション」の本丸であり,両国民間企業や研究機関間での協力が期待できる分野。経済面でも「イノベーション」を通じた更なる協力強化を進めていきたい。
<平和と安定>
平和というテーマについては,苦難の歴史を乗り越えて地域における和解を実現したアイルランドは,国連中心主義を掲げ,NPT成立につながる国連総会決議を主導したほか,国連PKO創設以来,アイルランド人が世界の平和のために汗を流さなかった日はないとまで言われている。
昨年日本は,4月にG7外相を,5月にオバマ大統領を広島平和記念公園にお迎えし,「核兵器のない世界」に向けた歴史的一歩を踏み出した。また,12月には私は安倍総理と共に真珠湾で慰霊を行い,二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない,との未来に向けた決意を示した。
日本とアイルランドは国際社会の平和と安定のためにも連携を深めていくことができるだろう。
<結語>
本年,アイルランドで開催される女子ラグビーワールドカップに,日本女子代表「サクラフィフティーン」の出場が決まった。6月には日本で両国男子代表によるテストマッチが行われる。2019年にはラグビーワールドカップが日本で開催され,2023年にはアイルランドが開催候補国として立候補している。
ラグビーの世界で勝敗の鍵を握るのはスクラムの成否。国際社会の課題への対応においても,各国がスクラムのような強固な協力関係を築くことができるかが重要である点は同じである。外交関係60周年を迎える本年,日本とアイルランドでしっかりとスクラムを組んで,国際社会の平和と安定のため,一歩ずつ前進していきたい。