寄稿・インタビュー
ユーロアクティブ紙(ベルギー)への岸田総理大臣寄稿(令和5年7月13日)
「日EU協力強化の好機」
この2年間で、国際情勢は劇的に変化した。ロシアによるウクライナ侵略は、欧州だけの問題ではない。これは国連憲章に規定された国家主権の問題であり、法の支配に基づく国際秩序の問題である。そして、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分である。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれないーー私はこのメッセージを繰り返し国際社会に伝えてきた。
我々は同時に、気候変動、エネルギー・食糧危機、経済安全保障の実現といった数多くの重大かつ差し迫った課題にも直面している。この未曾有の時期に、日本とEUは共に立ち、これらのグローバルな課題に対処していかなければならない。本日の日EU首脳協議は、我々の結束と協力を示す絶好の機会となるだろう。
複雑で厳しい国際環境において、安全保障分野における日EU関係の強化には戦略的な意義がある。特に、インド太平洋地域において、EUが関与を強めていることは心強い。インド太平洋では力や威圧による一方的な現状変更の試みが続いており、また不透明な形での核戦力の増強も見られる。私は、日EU間の外相レベルでの戦略的対話を立ち上げられることを嬉しく思う。
日本とEUは、経済的強靱性と経済安全保障において核心的な利益を共有している。5月に私が主催したG7広島サミットにおいて、初となる独立した形での「経済的強靱性と経済安全保障に関する首脳声明」を発出した。先月発表された欧州経済安全保障戦略は、国際協力の重要性を強調している。私は、i)非市場的政策及び慣行や経済的威圧への対応、ii)重要鉱物やその他の主要製品のサプライチェーンの強靭化、iii)重要・新興技術の保護など、経済安全保障の分野におけるEUとの協力を更に強化したいと考えている。
日本とEUの経済的結びつきは強い。日EU間の貿易額は新型コロナウイルス感染症以前の水準まで回復している。この関連で、もしEUが東日本大震災を受けて導入した日本産食品の輸入規制の撤廃を決定すれば、被災地の人々にとって大きな励みとなるであろう。2019年の持続可能な連結性と質の高いインフラに関する日EUパートナーシップは、日EU間の経済関係における重要な節目となった。この度、日EU間の協力プロジェクトが特定され、協力リストが公表されたことを歓迎する。いわゆる「グローバル・サウス」を含む国際的なパートナーとの関係の観点から、質の高いインフラの整備を通じて連結性を向上させるために日本とEUが協力することは重要である。本パートナーシップに基づき、今後もEUと協力していきたい。
日EU間の協力はこれだけではない。我々はまた、幅広いデジタル分野の課題における協力を推進するため、昨年の日EU首脳協議において日EUデジタルパートナーシップを立ち上げた。私は、デジタルパートナーシップの下で7月3日に開催された閣僚会合と、半導体、HPC、量子技術、5G/Beyond 5G、DFFT、デジタル貿易原則、強靱なデジタル接続に関する共同宣言、また、プラットフォーム規制、データガバナンス及びサイバーセキュリティの分野でも建設的な対話の推進を歓迎する。環境・エネルギー分野に関し、日本とEUは、ネット・ゼロ・エミッションの達成という共通の目標の下、エネルギー効率、水素、電池サプライチェーン及び重要鉱物について更に協力することの重要性を共有している。特に、水素技術、製品及びその活用を推進する上で主導的な立場にある日本とEUは、引き続き協力を深め、国際的な水素市場をともに作り上げていくことが重要であると考える。そのために、我々は、強靱かつ透明性のあるグローバル・サプライチェーンを確立するべく、水素事業、資金調達及び研究開発に関する協力を強化し、政策対話を増やしていく。また最近では、日本とEUは宇宙分野における衛星データ交換にまで協力を拡大している。
2011年3月の東日本大震災は、多くの犠牲者を出した大災害であった。この悲劇的な災害に際して、日本政府と日本国民は国際社会の協力のもと、復旧と復興を着実に進めてきた。福島と東北地方の復興を成し遂げるためには、ALPS処理水の海洋放出も重要となる。日本はALPS処理水について、G7の支持するIAEAのレビューを受けつつ、科学的根拠に基づく高い透明性のある対応を行うなど、人の健康や海洋環境に悪影響がないことを確保すべく取り組んでいる。7月4日に発表されたIAEA包括報告書は、ALPS処理水の海洋放出に対する取組と関連の活動は、関連する国際安全基準に合致しており、放出は人や環境に対し、無視できるほどの放射線影響となると結論づけている。
EUは基本的価値を共有する重要なパートナーであり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持するため、日本はEUと緊密に協力していく。本日の日EU首脳協議は、日本とEUの緊密なパートナーシップを更に強化し、今後の協力分野を拡大するための新たな機会となるであろう。