北大西洋条約機構(NATO)
NATOワルシャワ首脳会合
(7月8日~9日,於:ワルシャワ)
平成28年7月11日
7月8日~9日,ポーランドにおいて開催されたNATOワルシャワ首脳会合の概要以下のとおり。
- (ポイント)
- 東方のNATO同盟国における軍事プレゼンス強化。
(エストニア,ラトビア,リトアニア及びポーランドに多国籍大隊を2017年より展開。ルーマニアにおいて多国籍旅団を創設)。 - サイバー,情報部門(インテリジェンス)の強化。軍事予算の拡大を再確認。
- イラクへの防衛能力構築支援,対ISIL有志連合への支援(情報提供)に関し合意。
- オーシャンシールド作戦(海賊対処)は本年で終了。地中海におけるアクティブエンデバー作戦(対テロ)を危機管理任務である(即ちNATO域内防衛ではない)シーガーディアン作戦に移行。
- 対ハイブリッド戦及び海洋安全保障等の重要分野におけるNATO・EU協力を次のステップに進めるため,戦略的パートナーシップに係る共同宣言に署名。
- ロシアとの対話及び情報交換を通じ,緊張を緩和し,予見性の向上を図るため,大使級のNATOロシア理事会を7月13日にNATO本部で開催することを決定。
- アフガニスタン支援として,2016年以降も確固たる支援任務(RSM)を継続。アフガニスタン治安部隊に対する財政支援につき,2020年まで継続。
1 同盟の抑止及び防衛に対する更なる努力
(1)東方のNATO同盟国における軍事プレゼンスの強化
- ア エストニア,ラトビア,リトアニア及びポーランドにおける強固かつ多国籍な大隊の展開に合意。加がラトビア,独がリトアニア,英がエストニア,米がポーランドにおいてリード国となる。2017年に展開予定。
- イ ルーマニアにおいて多国籍旅団を創設することに合意。
(2)サイバー防衛
- ア サイバー防衛を集団安全保障の一部と認めることを再確認。サイバー空間を陸海空と並ぶ作戦領域と認定。
- イ NATO・EUの同分野でのより一層の協力を支援。NATO加盟各国のネットワーク及びインフラのサイバー防衛能力を強化することに合意。
(3)情報部門(インテリジェンス)の強化
NATO本部における情報部門を再構築し,情報・安全保障に係る事務総長補ポストを創設。
(4)軍事予算の拡大
- ア 加盟各国の軍事費を国内総生産(GDP)比2%と定めた目標値に達するよう、増額する重要性を再確認した。
- イ 2015年の軍事支出は若干拡大し,これまでの中で初めて増加を記録した。本年,欧州及び加の軍事支出は,3%,80億米ドル相当増加する見込み。
(5)対イラク支援
イラクに対する防衛能力構築支援を通じた長期的なパートナーシップを再確認。イラク国内においてイラク兵士への訓練を実施する旨合意。
(6)対ISIL
対ISIL有志連合に対し,NATOのAWACSを通じた情報提供を行う旨合意。
(7)海洋安全保障
オーシャンシールド作戦(海賊対処)は本年で終了するも,海上状況認識を維持するとともに、国際的な海賊対処主体との密接な関係を維持する旨合意。地中海における北大西洋条約第5条任務である対テロ作戦としてのアクティブエンデバー作戦を、あらゆる海洋安全保障作戦を実施し得る危機管理任務である(即ちNATO域内防衛ではない)シーガーディアン作戦に移行する旨合意。
(8)弾道ミサイル防衛
NATO弾道ミサイル防衛システムの初動能力(Initial Operational Capability)を公表。(NATOの指揮・統制の下,スペインに駐留する米国艦船,トルコのレーダー及びルーマニアの迎撃施設を運用)。
2 NATO・EU協力
- (1)対ハイブリッド戦及び海洋安全保障等の重要分野におけるNATO・EU協力を次のステップに進めるため,戦略的パートナーシップに係る共同宣言に署名。以下を喫緊の課題として,本年12月までに具体的なオプションを提示する。
- ア 対ハイブリッド戦能力の強化のため,戦略コミュニケーションや演習での協力。
- イ 相互運用可能な防衛能力の深化。防衛産業,研究機関等の協力を促進。
- ウ サイバー安全保障分野での協力拡大
- エ 東方と南方のパートナー国に対し,海洋安全保障の強化を含めた防衛及び安全保障に係る能力を構築し,相互補完的な支援を実施。
- (2)地中海において不法移民を取り締まるEUのソフィア作戦(Operation Sophia)を補完するため,NATOの役割(情報収集・共有,監視,後方支援等)について合意。
3 NATOウクライナ関係とNATOロシア関係
(1)NATOウクライナ関係
NATO・ウクライナ委員会において,NATO加盟国首脳とウクライナ政府首脳は,ウクライナの防衛・治安分野に対する包括支援パッケージを承認。
(2)NATOロシア関係
- ア ロシアとの対立を求めも、脅威を与えようとも望んでいないが妥協はできない。ロシアとNATOとの関係とパートナーシップは、ロシアが国際法に沿っていることを示す、明確で建設的な行動の変更があるかに依る。それまでは通常の関係(business as usual)には戻ることはできない。(注:プレス会合では、最大の隣国であり,国連安保理常任理事国として欧州及びその周辺地域における安全保障上の課題に対して重要な役割を担っているロシアとの建設的な対話を維持することに努める旨確認したと言及)。
- イ ロシアとの対話及び情報交換を通じ,緊張を緩和し,予見性の向上を図るため,大使級のNATOロシア理事会を7月13日にNATO本部で開催することを決定。
4 アフガニスタンに係る会合
- (1)アフガニスタンに係る首脳会合には日本を含む47か国・機関が出席。
- (2)本会合の成果として「アフガニスタンに係る宣言」が発出された。主要な決定事項は以下のとおり。
- ア 警察等を含むアフガニスタン治安部隊に対する訓練や指導について,2016年以降も確固たる支援任務(RSM)を継続。
- イ アフガニスタン治安部隊に対する各国からの財政支援につき,2020年まで継続。
- ウ 政治対話及び実務協力を通じて,永続的パートナーシップの強化及び促進を再確認。
- (3)「アフガニスタンに係る会合」における我が国代表の発言(PDF)
5 相互運用性フォーマット会合(国防相級)
- (1)パートナーとの連携を維持・強化するために,NATO加盟国と日本を含む25パートナー国との国防相級の相互運用性フォーマット会合が開催された。
- (2)NATOとパートナー国が,将来の危機管理に共に備えるためのロードマップを承認。また,安定化のためのプロジェクトにおけるNATOとパートナー国の将来の協力について議論。
- (3)「相互運用性フォーマット会合(国防相級)」における我が国代表の発言(PDF)
6 その他
(1)NATOジョージア委員会
外相級のNATOジョージア委員会において,共同声明が発出され,主に,(1)欧州大西洋安全保障へのジョージアの貢献に対する謝意、(2)ジョージアの領土保全及び主権に対するNATOの全面的支援の再確認,(3)ジョージアのNATO加盟に向けたNATOの支援の再確認等が表明。
(2)次回首脳会議
2017年にNATO首脳会合をブリュッセルの新しいNATO本部で開催予定。