寄稿・インタビュー

令和6年7月18日

日本とセルビアの関係

 今回、日本の外務大臣として5年ぶりにセルビアを訪問します。私自身は、2019年10月第141回列国議会同盟(IPU)会議出席のために、セルビアを訪れましたが、今回、外務大臣としてこの美しいセルビアの地を再訪する機会を得られて嬉しく思います。今回の訪問を契機に、二国間の具体的な協力をさらに積み上げていきたいと考えています。
 日本とセルビアの友好の歴史は、1882年に明治天皇とオブレノビッチ・セルビア国王親王が親書を交わしたことに始まり、2022年には友好関係140周年を迎えました。その間、お互いに困難な時期もありましたが、日本とセルビアは様々な分野で助け合ってきました。旧ユーゴ紛争後、日本はJICA等を通じて、ベオグラード市で「黄色いバス」に象徴される対セルビア支援を行い、2011年、東日本が大地震と津波の被害に見舞われた際には、日本はセルビアから多くの義援金をいただきました。また、2014年にセルビアで洪水被害が発生した際には日本から援助物資を供与しました。
 特に2018年に故安倍元総理がセルビアを訪問した際に「西バルカン協力イニシアティブ」を打ち出したことをきっかけに、両国間のハイレベルの往来が活発になり、経済関係も強化されるなど、二国間関係は新たな段階に入りつつあります。

日本の対西バルカン外交

 かつて分断に苦しんだこの地域の融和と社会経済改革を支援し、西バルカン地域の経済を発展させることによってこそ、セルビア及びこの地域の平和と安定に貢献できるという信念の下、我が国は「西バルカン協力イニシアティブ」を一貫して推進してきました。国際秩序が厳しい挑戦に晒される今、日本の外務大臣としてかつて悲惨な紛争に見舞われた西バルカン地域に足を運び、平和の尊さについて地域の皆様と率直に議論することは、意義があるものと考えます。
 日本は、EUの戦略的パートナーとして、西バルカン諸国のEU加盟を支持しています。この地域が力強く安定の道を歩んでいくためには、西バルカン地域の安定の鍵を握るセルビアの発展が不可欠です。その観点から、今日、西バルカン地域最初の訪問国としてセルビアを訪問できることを嬉しく思います。
 「西バルカン協力イニシアティブ」はセルビアを含む西バルカン諸国のEU加盟に向けた経済社会改革及び地域協力を支援することを2つの柱としています。これまで、日本は、在セルビア日本国大使館やJICAを通じて、民間セクター開発、気候変動対策、環境保全、保健、教育、社会福祉といった幅広い分野において、支援を実施してきました。発表から6年が経過し、セルビアにおいては憲法改正や脱炭素化に向けた取組が始まるなど、EU加盟に向けた経済社会改革が前進しています。また、本年4月、セルビアに対する初めての円借款案件「ニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置建設計画」の完工式が行われました。本件は石炭から再生可能エネルギーへの移行期にあるセルビアのグリーントランジションを促進するとともに西バルカン地域の発展への貢献という意味で重要と考えており、日本として西バルカン地域の脱炭素化に向けた努力を引き続き支援していきます。
 一方、コソボ北部における一連の緊張の高まりを懸念しています。EUが仲介する対話を通じたベオグラード・プリシュティナ間の関係正常化が重要であり、日本はその対話を支持しています。
 更に、ウクライナ侵略の長期化などに伴い、国際秩序が重大な挑戦に晒される中、国際情勢も大きく変化しています。先日スイスで行われた平和サミットでの共同声明にセルビアも加わるなど、国際的な連帯の中でウクライナへの財政支援を行っていることを日本は評価しています。域内協力の更なる強化は重要であり、今回の訪問においては西バルカン協力イニシアティブを通じた更なる二国間の協力について、ブチェビッチ首相やジューリッチ外相と協議する予定です。

経済関係の発展

 また、「西バルカン協力イニシアティブ」発表以降、日本企業の西バルカン地域への進出を促す取組を行ってきました。日本企業のセルビア進出が企業数及び投資額共に毎年着実に増加しています。特に2022年12月にはToyo Tire、2023年5月にニデックがセルビアに工場を開設したことに続き、本年3月にはJFE商事が新工場の建設を開始するなど、自動車関連の分野における大型投資が相次いでいます。
 日本からの投資はEUとの経済統合、民間セクターの更なる改革の推進とともに、改革を支える人材を育成することにつながります。ブチッチ大統領から、上記JFE商事の新工場起工式の場で、日本企業の企業倫理及び文化を評価する旨発言いただいたことをとても光栄に思っています。本年6月上旬には、モミロビッチ通商大臣、ベゴビッチ科学・技術開発・イノベーション大臣、メサロビッチ経済大臣率いる経済代表団が訪日し、日本政府、日本の経済団体、日本企業等と更なる経済分野での協力の可能性につき意見交換が行われました。日本は、セルビア政府と協力して、日本企業による更なる投資を通じてセルビアのEU加盟を支援するとともに、引き続き、「経済の安定こそ地域の平和と安定の礎」との考えに基づき、セルビアを含む西バルカン諸国の経済関係強化に邁進していきたいと考えています。

WPSの重要性

 日本は主要外交政策の一つとして、2000年に安保理で決議された女性・平和・安全保障(WPS)を推進しています。これは、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に参画することで、より持続可能な平和の実現に近づくことができるという考えに基づく政策です。セルビアは国会議員の38%が女性であり、女性の政治参画が進んでいる国の一つです。私は、今回の訪問中、マツラ・ジェンダー平等・対女性暴力防止・女性の経済的・政治的エンパワーメント担当大臣と意見交換を行う予定です。バルカン地域、そして国際社会におけるWPSの視点を踏まえた持続可能な平和の具現化に向け、セルビアとの連携を一層強化していきます。

 今回は短い訪問にはなりますが、ブチェビッチ首相及びジューリッチ外相始め、セルビアの皆さまにお会いできますこと、楽しみにしております。また、これまで両国の間で築かれてきた良好な関係を基礎とし、私の訪問を機に、日本とセルビアとの関係が更に発展することを願っています。

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