寄稿・インタビュー
コソボ現地メディアへの上川外務大臣寄稿(令和6年7月19日)
日本とコソボの関係
このたび、外交関係開設15周年の年に、日本の外務大臣として初めてコソボを訪問することができ、大変嬉しく思います。
コソボ紛争の困難を経て2008年2月に宣言されたコソボの独立について、日本は、同年3月、欧米主要国とともにいち早く承認し、2009年2月、両国は外交関係を開設しました。以来、日本は、JICAを通じたODA等により、一貫してコソボの国造りを支援してきました。また、2018年1月、安倍総理(当時)が南東欧諸国を訪問した際、EU加盟を目指す西バルカン諸国に対する経済社会改革の支援と西バルカン地域内の協力促進を目的とした「西バルカン協力イニシアティブ」を発表し、対話や開発協力をこれまで以上に強化する方針を示しました。その下で、防災、中小企業振興等、西バルカン地域の共通課題に関して日本の知見を共有し、西バルカンの人々に寄り添いつつ地域協力を推進してきました。
経済や文化などの多面的な関係の発展
二国間関係の節目となる本年は、日本大使館主催による様々な文化行事が開催予定です。また、コソボ郵便局が、15周年を記念した記念切手を2月に発行、9月にはコソボフィルハーモニー交響楽団による記念演奏会が開催予定と承知しています。
両国の関係は、経済や文化など多面的に進展しています。
地域の平和と安定のためには、経済の発展が欠かせません。コソボでは、日本企業が食品分野でコソボを拠点に欧州向けの事業を展開するなど、具体的な活動も進んでいます。さらに、来年は大阪・関西万博が開催され、コソボ政府からも参加表明を頂いております。万博成功への機運を高められるよう準備を加速させ、両国の協力を深める好機にしたいと考えています。万博への参加を契機にコソボの魅力が広まり、新たな投資の成功例が続くことを期待しています。日本政府は、コソボとの経済関係を強化することで同国経済の発展に貢献し、それがひいては西バルカン地域の平和と安定の礎となっていくとの強い思いの下、日系企業の西バルカン地域への進出を引き続き支援していきます。
スポーツでは、コソボでは柔道が盛んであり、遡ればリオ五輪2016で女子52キロ級のマイリンダ・ケルメンディ選手が金メダル、東京五輪2020では柔道女子48キロ級でディストリア・クラスニチ選手が、57キロ級でノラ・ジャコバ選手が金メダルを獲得するなど、コソボ選手の活躍が日本でも話題となりました。今夏はパリ五輪が開催されますが、柔道を始めとするスポーツを通じた二国間交流の活性化にも期待しています。
音楽も両国の交流の象徴となっています。2014年、日本はコソボフィルハーモニー交響楽団に対する楽器の供与を実施しました。同フィルハーモニーでは、バルカン地域を中心に活動する日本人指揮者の柳澤寿男氏が2007年から首席指揮者に就任しています。同氏は旧ユーゴ各地の出身者からなるバルカン室内管弦楽団を設立し、音楽を通じて民族共栄を目指す公演も行っており、このような活動が西バルカン地域の平和と発展に寄与することを期待しています。
日本の対西バルカン外交
かつて分断に苦しんだこの地域の融和と社会経済改革を支援することで、コソボ及びこの地域の平和と安定に貢献する。これが、我が国が一貫して推進してきた「西バルカン協力イニシアティブ」の精神です。国際秩序が厳しい挑戦に晒される今、日本の外務大臣としてかつて悲惨な紛争に見舞われた西バルカン地域に足を運び、平和の尊さについて地域の皆様と率直に議論することは、意義があるものと考えます。
特に、昨年5月のG7広島サミット・コミュニケにも明記したように、コソボ・セルビア間の関係正常化対話の進展は、両国にとって「欧州への道」に向けた前進の鍵であり、それぞれの義務を関係者が適切かつ誠実に履行していくことが重要であり、コソボ政府のリーダーシップに強く期待しています。日本は、セルビアにも同様の対話促進を行っており、可能な限り支援していきたいと考えています。
WPSの重要性
今回の訪問では私がライフワークとして取り組む女性・平和・安全保障(WPS)についても取り上げたいと考えています。
日本は主要外交政策の一つとして、2000年に安保理で決議された女性・平和・安全保障(WPS)を推進しています。これは、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に参画することで、より持続可能な平和の実現に近づくことができるという考えに基づく政策です。
コソボはオスマニ大統領、ゲルヴァラ外相など、多くの女性閣僚が活躍しており、女性の政治参画が進んでいる国の一つです。また、今回の訪問中、ヤヒヤガ元大統領と意見交換を行う予定です。ヤヒヤガ元大統領は、私も2016年から日本のアンバサダーを務めるWPLから2017年にTrailblazer Awardを受賞され、退任後も基金を設立し、女性・子ども支援事業を積極的に展開されています。バルカン地域、そして国際社会におけるWPSの視点を踏まえた持続可能な平和の具現化に向け、コソボとの連携を一層強化していきます。
今回の訪問を機に、着実に深化してきた日コソボ二国間友好・協力関係を再確認するとともに、今後の一層の発展・強化の契機にしたいと考えています。