寄稿・インタビュー
日本とOECD
ジャパン・タイムズ紙(日本)への岸田総理大臣及び上川外務大臣寄稿
日本は自由で公正な世界のための取組を進める
岸田総理大臣寄稿
日本が経済協力開発機構(OECD)に加盟してから今年で60周年を迎えます。この重要な年に、日本がOECD加盟から3度目のOECD閣僚理事会(MCM)の議長国を務めることは、日本にとって大変光栄なことです。
我々が困難な時代を乗り越えるに当たり、気候変動、デジタル化に対する課題、法の支配に対する脅威といった複雑で相互に関連し合う問題に取り組み、強力で効果的な多国間主義に対する我々のコミットメントを再確認していくことが今まで以上に必要になっています。こうした背景を考慮して、日本は今年のMCMのテーマに「変化の流れの共創:持続可能で包摂的な成長に向けた客観的で高い信頼性に裏付けられたグローバルな議論の先導」を選びました。
日本は、議長国として、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序を促進するためのグローバルな議論を主導し、OECDが豊富なデータと根拠に基づく分析により政策立案に貢献することを活かしていきます。この点に関して、日本は、新興技術の課題への対処における国際的な取組をOECDが主導することに大きな期待を有しています。G7広島サミットでの成果に続き、デジタル分野、特に生成AIやDFFT(Data Free Flow with Trust)に焦点を当てた成果の実施を推進することが極めて重要です。
生成AIに関して、我々の目標は、「広島AIプロセス」の成果に基づいて高度なAIシステムの国際ガバナンスに関する議論を促進することです。こうした取組は、安全、安心で、信頼できるAIの推進に向けた更なる動きを作り出すことを目的としています。気候変動に関して、全ての国が多様な道筋の下でネット・ゼロの達成という共通の目標に向けて取り組むことが重要です。OECDの炭素緩和アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)は、データ及び情報のより良い共有、根拠に基づいた相互理解並びに包摂的な多国間対話を通して、世界的な排出削減の取組に貢献します。日本は、IFCMAの役割に関する初の閣僚対話をOECDと共催し、経済成長とエネルギー安全保障を同時に達成しつつ、2050年にネット・ゼロという共通の目標を達成することの重要性を強調します。
OECDの伝統的な使命が重要性を増していることも強調しなければなりません。自由で開かれた貿易及び投資は、世界的に安定した経済成長の基盤を形成します。多角的貿易体制を堅持・強化し、WTOの役割を補完するための議論が更に重要になってきています。我々は、共通の価値を有した加盟国が集い、共通の課題について自由に議論するOECDの構造を十分に活用できます。
これに伴い、昨年のG7サミットの議長国として得た経験を踏まえ、我々は経済的強靱性及び経済安全保障に関する協力を強化する重要性が増していることを強調します。これは経済的脆弱性を低減し、経済的威圧や非市場的政策及び慣行を含む悪意ある慣行に対抗することも意味します。重要・新興技術の保護、基幹インフラの安全性と強靱性の強化、デジタル領域における悪意ある慣行への対抗といった主要な関連問題への取組において協力することも重要です。OECDは、それぞれの国の関連する政策及び慣行の客観的な分析及び評価を行うのに適した立場にあり、加盟国のより良い政策決定に貢献しています。
しかし、OECDが設定したルール及び基準に加盟国のみが従うのでは、あまり意味がありません。これらのルールは世界の国々によって世界的に受け入れられることで、より強い影響力を持ちます。こうした中で、日本は大きな経済的潜在性を有するインド太平洋地域へのOECDによるアウトリーチを重視しています。OECDによるインドネシアの加盟審査開始の決定やタイのOECDへの加盟意図表明を含む最近の進展は励みとなるものです。この地域へのOECDのアウトリーチを更に強化するために、2014年のMCMにおいて日本が立ち上げたOECD東南アジア地域プログラム(SEARP)の10周年を記念し、OECDの東南アジアへの関与を更に促進していきます。
このことを念頭に置いて、2024年のMCMが共通の課題に対処し、解決策を模索するために貴重な機会を提供し、全ての人々に持続可能で豊かな未来への道を切り開くことを期待します。
東南アジアの繁栄になぜOECDが重要なのか
上川外務大臣寄稿
日本の経済協力開発機構(OECD)加盟60周年を迎える年に、日本がOECD閣僚理事会(MCM)の議長国を務めることは日本にとって大変光栄なことです。同会合には、ラオス(ASEAN議長国)、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム及びASEAN事務局が参加します。日本は、アジアからの最も古いメンバーとして、MCMでルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の強化を目指し、OECDがインド太平洋地域に関与することに主眼を置いています。
半世紀以上の間、OECDは貿易、資本移転の自由、国際課税やコーポレートガバナンスなどの分野におけるルール及びスタンダードの策定において極めて重要な役割を果たしてきました。しかし、特に新興の非加盟国がより大きな経済的影響力を行使する中、OECDは世界経済においてその関連性及び影響力を維持するために発展しなければならなりません。ルールは、主要なステークホルダーがその策定及び実施に積極的に関与して初めてその目的を果たします。今日、世界で最もダイナミックな成長センターである東南アジアの国々が、この文脈における主要なステークホルダーであることは明白です。
東南アジアもまた、OECDの同地域への関与の強化から恩恵を受けることができます。同地域は著しい経済発展を遂げる一方で、持続可能な開発のために対処しなければならない経済格差が残っています。したがって、資金提供戦略の見直しが不可欠です。今こそ、ますます限られつつある政府資金への過度な依存から脱却し、ダイナミックな民間投資を呼び込む方向に転換すべき時です。この流れの中で、民間投資を促し、政府資金への依存を減らすためには、OECDスタンダードを満たすことが世界の投資家にとって投資先を決定する重要な要素となっていることを認識することが重要です。教育から産業政策に至るまで多様な社会的・経済的課題について分析作業及び政策提案を行ってきたOECDの素晴らしい実績を踏まえれば、東南アジアにおけるOECDスタンダードの推進が、中所得国の罠を克服することに役立ち、持続可能な成長に対する適切な条件を確立するでしょう。
この点に関して、OECDと東南アジアとの関係において、今年は重大な進展が見られました。2月には、OECDはインドネシアの加盟審査開始を決定し、タイもOECDへの加盟意図を表明しました。
この重要な機会において、OECDと東南アジアの架け橋としての日本の強い立場が、世界の持続可能な成長のための環境を整えることになるでしょう。
日本はまた、議長国として、国連の東南アジアにおける持続可能な開発目標(SDGs)の達成を支援するために、ジェンダー平等や気候変動といった分野横断的なトピックもMCMのアジェンダに盛り込んでいきます。最も重要な点として、日本は、本年のMCMを、インド太平洋地域への関与を深めることにより、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序を更に強化する機会とします。