APEC(アジア太平洋経済協力、Asia Pacific Economic Cooperation)
アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想にかかる日本の取組
1 背景
2004年にAPECビジネス諮問委員会(ABAC)が、APECの首脳にFTAAP構想を提言したことに始まるFTAAPにかかる取組は、その後2010年の横浜におけるAPEC首脳会議で「FTAAPへの道筋」が採択され、本格化した。また、2012年には、FTAAP実現に向けた能力構築として、CBNI(地域経済統合能力構築イニシアティヴ)枠組行動計画が立ち上げられた。これらを踏まえ、2015~2016年に「FTAAP実現に関連する課題にかかる共同戦略的研究」が実施され、そのうち、提言部分が2016年APEC首脳会議において、「FTAAPに関するリマ宣言」(首脳宣言附属書)として採択された。リマ宣言においてAPECは、(1)FTAAP実現に向けた関連事項のインキュベーターとして鍵となる役割を果たすこと、(2)引き続き次世代貿易投資課題(NGeTI)(注)を特定し、これに対処すべきこと、また、(3)能力構築を支援する作業計画に着手すること、及びその分野(関税、非関税措置、サービス、投資、原産地規則等)が規定された。以上の背景を踏まえ我が国は、CBNI枠組行動計画の一環で、2017年からこれまで3回に亘り、APECプロジェクトとして、競争政策にかかる能力構築のためのワークショップを開催している。
- (注)次世代貿易投資課題は、「FTAAP実現に関連する課題にかかる共同戦略的研究」において以下のとおり整理されている。
- (1)次世代貿易投資課題:イノベーション政策、グローバル・サプライチェーン、中小・小規模企業、RTAs/FTAsの透明性、製造業関連サービス
- (2)潜在的次世代貿易投資課題:デジタル貿易、環境、労働、食料安全保障、貿易円滑化、知的財産、競争政策、政府調達、腐敗対策等。
2 これまでに行われたワークショップ
(1)「競争章に関するFTA交渉技術ワークショップ(FTAAP Capacity Building Workshop on FTA Negotiation Skills on competition under the 2nd REI CBNI )」(2017年8月、於:ダナン、ベトナム)
国際機関の専門家や研究者の他、タイ、フィリピン、日本の貿易協定交渉担当者を招き、「競争政策」をテーマとする半日間のワークショップを開催。
同ワークショップでは、競争的な市場環境、消費者利益の確保、経済資源の効率的な配分等の実現のため、必要な国有企業と民間企業との公平な競争条件(level playing field)の確保を促進する国有企業の規律等につき、議論を展開した。
(2)「経済連携協定における競争章に関するワークショップ(FTAAP Capacity Building Workshop on Competition Policy under the 3rd REI CBNI)」(2018年8月、於:ポートモレスビー、パプア・ニューギニア)
実務者及び研究者を招き、1日のワークショップを開催。公平な競争条件(Level Playing Field)を確保する観点から競争政策およびFTA/EPAにおける競争章の現状や課題を議論。また、我が国によるアジア各国に対する競争法整備の支援事業を紹介した。加えて、将来的な指針ともなり得る、競争章に必要不可欠な「望ましい要素(desirable elements)」について議論を行った結果、競争章に「望ましい要素」(「目的」、「基本原則(「反競争的行為に対する取組」、「無差別待遇」、「手続きの公正な実施」)」、「技術協力」)及び「選択的な要素(optional elements)」(「私訴に係る権利」、「通報」、「執行協力」、「執行調整」、「情報の秘密性」、「競争当局間の協議(定例会合を含む。)」、「紛争解決の不適用」、「国有企業の規律」、「消費者の保護」、「国家援助及び補助金に関する規律」)につき認識が共有された。
(3)「競争政策に係るアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)能力構築:経済連携協定における好事例の共有(FTAAP Capacity Building Workshop on Competition Policy under the 3rd REI CBNI: Sharing Good Examples of FTAs/EPAs) 」(2019年8月、於:プエルト・バラス、チリ)
2018年に開催したワークショップにおいて、認識が共有された、FTAs/EPAsの競争章において「望ましい要素(desirable elements)」と「選択的な要素(optional elements)」について、特に規制の側面からの好事例を紹介し、共通認識の深化を図るとともに、FTAs/EPAsの政策決定者及び交渉官の能力構築を支援すること目的とした1日のワークショップを開催。
我が国からは、APECエコノミーによって締結されたFTAs/EPAsの競争章の大部分には「望ましい要素」が含まれていることを述べた上で、反競争的行為に対する競争法による規制の具体的な取組や、技術協力に係る受益国・供与国双方からの利点を紹介した。また、「選択的な要素」の一部、特に「競争当局間の協議」、「執行協力」、「執行調整」なども多くのFTAs/EPAsの競争章でカバーされていることを述べた上で、その具体的な規制当局の協力形態等の例を紹介し、両要素の重要性は広く認識されていると言えることを明らかにした。
質が高く包括的なFTAs/EPAsが経済に与える影響に関し、右を良い規制事例や国際的な規制の協力を促進する媒体と位置付け、包括的な規制条項を含む競争章は貿易フローの最大化に影響を与えることが指摘された。他方、否定的な側面として、競争当局間の協力が一貫性を欠く場合の民間セクターへの負の影響が指摘された。
(4)「ビジネスの観点から見たFTA/EPAにおける競争関連規定に関するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)政策対話(CTI-EC:FTAAP Policy Dialogue on Competition related provisions in FTAs/EPAs from a Business Perspective)」(2020年9月、テレビ会議)
APEC21エコノミー全てから、100名を超える参加者(内16名(約15%)がAPECビジネス諮問委員会(ABAC)からの参加者を得て、活発な議論が行われた。政策対話に先立ち競争政策関連規定に関するABACへのサーベイを実施したところ、競争政策や関連規定は、競争法違反をなくし、公平な競争案件(Level Playing Field)を担保するためなどに重要であると考える一方、実際のビジネス活動に際して活用したかどうかは不明との回答が多かった。
政策対話においては、ABAC地域統合部会にて作成されたRoyal Road大学(カナダ)ユアン・ナバロ教授著「FTAAP:競争政策」をもとに、近年締結された質の高い包括的なFTA・EPAを例に競争章に加え国有企業、投資、中小企業章などを概観したのち、補助金及び国有企業のあり方に関する研究・取組、消費者保護、ジェンダー、SMEなど包摂性の観点からの議論、また、新型コロナウイルス感染症を受けてFTAの競争政策が果たしうる役割に関して議論を行った。
(5)「サプライチェーンの強靱化に向けた投資政策の果たしうる役割
(Toward building resilient supply chains –a possible role of investment policy)」(2021年5月、テレビ会議)
学術界、経済界、国際機関及び政府関係者の約70名の出席を得て、二国間投資協定(BIT)及びFTA/EPAにおける投資関連条項のグッド・プラクティス、課題及び近年導入された投資政策措置に関するストック・テーキングを行い、分析を実施した。出席者からは、高い水準の投資ルールを目指すべきであり、多国籍企業だけでなく、中小企業にも適切な市場アクセスと利用可能な紛争解決制度を提供する必要があること、ビジネス環境を整え、産業界、投資家(特に中小企業を含む)、弁護士などを含む様々なステークホルダー間の対話を促進するために、エコノミー間の協力を推進する必要があること等が指摘された。