21世紀を迎え、グローバル化が進行する中で、国内紛争の国際化、感染症の拡大、難民問題、突然の経済危機、貧困問題の深刻化等、人々を脅かす脅威も相互に関連する形で多様化しています。このような状況においては、国家がその国境と国民を守るという「国家の安全保障」の考え方だけでは対応できない脅威の事例が顕著になってきました。
人間の安全保障は、国家の安全保障を補完する概念であり、人間一人ひとりに着目し、人々が恐怖と欠乏から解放され、尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目的とするものです。
人間の安全保障を実現するための具体的なアプローチとして、日本は、1)脅威からの「保護」と、脅威に対する自らの選択・行動を可能とする「能力強化」のアプローチ、2)多様な脅威に対する包括的・分野横断的なアプローチ、3)国家・国際機関・NGO・市民社会等を巻き込む参加型アプローチ、4)トップダウンとボトムアップのアプローチをとることを提唱しています。
日本政府は、人間の安全保障の概念普及及び現場での実践に努めています。
概念普及に向けた取組としては、日本政府は人間の安全保障の関心国の拡大を目的として、2006年に「人間の安全保障フレンズ」を立ち上げ、これまで計6回の会合の開催を主導しました。また、二国間や多国間会議での議論やそれらの会議の結果作成される文書の中で、人間の安全保障に関する記述を設けるべく努めています。
この他、人間の安全保障に関するシンポジウムを2000年以降ほぼ毎年開催しています。これらの活動を通じて、国際社会における人間の安全保障の理念の普及に積極的に取り組んでいます。
現場において人間の安全保障を実現するために、日本政府は2003年に改訂したODA大綱で人間の安全保障の視点に立った支援を援助政策の基本方針と位置付け、これに基づく中期政策において示された具体的な援助アプローチに従い、二国間援助及び国際機関経由の援助を通じて、人間の安全保障の推進に取り組んでいます。
また、1999年には、国連に人間の安全保障基金を設置し、これまで119の国・地域で190件以上のプロジェクトを支援してきています。
2000年9月ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットに参加した国連加盟国の首脳達は、国連ミレニアム宣言を採択しました。このミレニアム宣言は、平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどに包括的に言及し、21世紀の国連の役割についての方向性を提示しました。そして、この国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)です。
MDGsは、2015年までに達成すべき目標として、以下の8つの目標を掲げています。1つ1つの目標の下に、より具体的な目標なども設定されています。
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
日本政府は、従来、MDGs達成への貢献を開発協力の重要な目標と位置付けています。ODA大綱では、MDGsの一つである貧困削減を重点課題としており、これに基づく中期政策において「MDGsを始めとする開発課題への取組を進めることは国際社会が直ちに協調して対応を強化すべき問題」と明記しています。
MDGs達成に向けた中間の年となった2008年には、日本政府はアフリカ開発会議(TICAD IV)や北海道洞爺湖サミットを開催し、国際社会のMDGs達成に向けた取組の更なる強化を目指して指導力を発揮しました。今後も、金融・経済危機のなかにあってもMDGs達成に向けた取組を後退させないとの決意の下で、各分野・地域における取組を推進していきます。