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最近の米国情勢

平成17年12月

1. ブッシュ政権の軌跡

2. 第二期ブッシュ政権の政策

(1)大統領選結果

(2)総論

(3)外交

(4)日米関係

(5)内政・経済政策

3. 米国情勢概観:内政

(1)社会保障制度改革

(2)その他主要法案の動向

(3)最高裁判事承認問題

(4)ローヴ大統領次席補佐官を巡る疑惑

(5)安全保障・テロ対策

4.米国情勢概観:外交

(1)中東

(イ)イラク

(ロ)中東和平

(ハ)イラン

(二)中東地域の民主化

(2)欧州・ロシア

(イ)欧州

(ロ)ロシア

(3)アジア

(イ)北朝鮮

(ロ)中国

(ハ)台湾


1. ブッシュ政権の軌跡

(1)2001年9月11日に発生した同時多発テロを受け、対テロ対策及び国土防衛が第一の政策課題となり、アフガニスタンのタリバーンに対する攻撃を始めとするテロとの闘いが推進された。米国内では、対テロ法(PATRIOT Act)の成立、米国本土の安全確保を一元的に担当する国土安全保障省の創設などの措置がとられた。

(2)2003年3月20日、対イラク軍事行動が開始され、圧倒的な軍事力の差を持って首都バクダッドを制圧した。同5月1日、主要な戦闘の終結を宣言、12月13日、フセイン前大統領が拘束された。2004年6月28日、イラク暫定政権への主権移譲が行われた。米国は2005年1月30日のイラク国民議会選挙を含む政治プロセスを一貫して支持してきた。

(3)内政面でのブッシュ政権第一期目の主たる成果は、減税及び教育改革。教育改革法は、識字率に基準を設け、定期的に基礎学力テストを実施して達成度を把握し、成果のあがらない公教育機関に子女を通わせる保護者に、私立校への編入の選択肢を与えるもの。

(4)ブッシュ大統領の支持率は、9.11事件直後には90%、イラク攻撃開始後には70%に達したが、緩やかに低減し、二期目の就任時には51%であった。最近では不支持率が支持率を上回っており、2005年9月以降に行われた世論調査では、40%の大台を割り込むものも多くなっている。

2. 第二期ブッシュ政権の政策

(1)(大統領選挙結果)2004年11月2日に行われた大統領選挙では、ブッシュ大統領が31州で勝利し、選挙人286人を獲得(対するケリー候補は、19州およびワシントンDCで勝利し、選挙人252人を獲得)。ブッシュ大統領が選挙人の過半数を得、得票数ではケリー候補に330万票の差をつけて再選された。投票率は60%に迫る高いものとなった。

(2)(総論)2005年1月20日、2期目のブッシュ政権が正式発足した。ブッシュ大統領は、同日の就任演説および、同年2月2日の一般教書演説において、国内外で自由と民主主義を推進するとのビジョンを、テロの過激思想に対抗する根本理念として打ち出した。第一期から掲げてきた政策目標に大きな変更はなく、同盟国や友好国との協調により重点を置く姿勢を示している。

(外交)基本的には、第一期目からの最重要課題であるテロとの闘い、イラク政策を同盟国と協調しつつ継続し、イラクにおける警察・軍隊の訓練をはじめ、可能な限り早期にイラクの安定と民主主義を実現するための支援を行っていく姿勢を明確にしている。中東和平プロセスへコミットしつつ、中東諸国の自主的な民主化を引き続き支援している。北朝鮮に対しては、六者会合を継続し、イランに対しては、核兵器開発を阻止していく方針を確認している。世界における米軍再編も引き続き推進されると考えられる。中国とは、人権・民主化問題での価値観の差を認識しつつ、引き続き建設的な協力関係を構築していくとの方針。

(3)(日米関係)日米関係は、極めて良好であり、小泉総理とブッシュ大統領の緊密な信頼関係の下、両国関係を強化している。第二期ブッシュ政権においても、2005年11月の京都における首脳会談でも確認された「世界の中の日米同盟」との考え方に従い、世界が直面する諸課題に対し、日本との緊密な協力関係を維持していくものと考えられる。

(4)(内政・経済政策)ブッシュ大統領は、2005年2月2日の一般教書演説において、社会保障制度(公的年金制度)改革を内政面の最重要課題と位置づけた。その他の国内制度改革として、財政改革、訴訟制度改革、教育改革、ヘルスケア改革、税制改革、移民制度改革等を提唱した。

3. 米国情勢概観:内政

(1)(最高裁判事承認問題)ブッシュ大統領は、9月に死去したレンキンスト連邦最高裁首席判事の後任として、ジョン・ロバーツ連邦高裁判事を指名し、9月29日に上院がこれを承認。また、辞意を表明していた中道派のオコナー連邦最高裁判事の後任として、ハリエット・マイヤーズ大統領顧問を指名したが、判事の経験がなく、同女史の立場が不明であったことから、「強固な保守派」の指名を求めていた一部の保守層が強く反発し、同指名は撤回され、10月31日、保守派とされるサミュエル・アリート連邦高裁判事が改めて指名された。本件指名は、現在、保守、リベラルの勢力がほぼ拮抗している最高裁の今後の方向性に直接影響を及ぼすとみられており、年明けから開始される上院での承認審議が注目されている。

(2)(ハリケーン復興)8月末に襲来しメキシコ湾岸諸州に大きな被害をもたらしたハリケーン「カトリーナ」の災害に対し、政府の事前準備不足や対応の遅れなどに被災者や民主党関係者から批判が噴出。大統領は、その後のハリケーン「リタ」及び「ウィルマ」への対応や被災地の復興支援に関し、連邦政府が責任をもって対応する姿勢をアピールし信頼回復に努めているものの、財政赤字削減の要請もある中で、厳しい政策運営を迫られている。

(3)(CIA秘密工作員を巡る情報漏洩事件)2003年に元駐ガボン大使の妻がCIA工作員であったことが実名入りで報じられた事件に関し、機密情報であるCIA工作員の身元情報を記者に漏洩した政府関係者が誰であったかについて捜査が続けられてきた。本件は当初、法廷での証言を拒否した記者が法廷侮辱罪に問われるなど、取材源の秘匿を含む報道の自由との関係で論議を呼んだが、その後10月には、ルイス・リビー副大統領首席補佐官が偽証罪で起訴され、その後も捜査は継続しており、カール・ローブ大統領補佐官ほかブッシュ政権高官の関与の有無が焦点となっている。リビー被告が初公判で無罪を主張する一方で、別の情報提供者の存在も報じられ、公判及び捜査の行方と本件が国民の政権支持率にどのような影響を与えるかに関心が集まっている。

(4)(安全保障・テロ対策)2002年7月16日発表の「国土安全保障戦略」および2002年9月20日発表の「国家安全保障戦略」が基本政策とされる。これを補完するものとして「テロと闘うための国家戦略」およびその一部を実施に移すための「サイバー防護戦略」「重要インフラ防護戦略」が2003年2月14日に発表された。国土安全保障省は2003年1月24日に設置され、それまで22の政府機関に分散していた任務を統括し、職員規模は全米で約18万人に及ぶ。

4.米国情勢概観:外交

(1)要旨

 イラクの政治プロセス進展、復興・治安回復、ロードマップに沿った中東和平の推進、レバノン等を含む中東地域の民主化を大きな課題として取り組んでいる。またアフガニスタンの復興支援についても、長期的問題として取り組んでいる。

 イランが核兵器を追求しているとして強く批判する一方、これまでのところ英・仏・独三カ国による外交努力を見守ってきている。

 北朝鮮については引き続き六者会合の枠組みを通じた核問題の平和的解決を追求。するとともに、北朝鮮による拡散活動や不法活動に対する取組を強化。北朝鮮をめぐる人権問題にも関心を有しており、8月にレフコヴィッツ北朝鮮人権担当特使を任命。

 中国に対しては、国際社会で建設的な役割を果たすよう働き掛けることが米国の国益に資するとの考えであり、中台関係については現状維持を求め、中台いずれによる現状を変更しようとする一方的な動きも反対するとの立場をとっている。

(2)各論

(イ)イラク:12月の国民議会選挙の成功はブッシュ政権にとり大きな自信。11月から12月にかけて数回行われた演説で、ブッシュ大統領は、「イラクにおける勝利に向けた国家戦略」を発表し、政治プロセスの支援、イラクにおける治安状況の改善及び経済復興に向けた米国の取組み姿勢を示すとともに、全体として成果がでてきていることを強調。完全なる勝利に向けて任務完了まで必要なだけの期間、米軍はイラクに駐留する旨、改めて述べた。

(ロ)中東和平:アラファト議長の死去を受け、新たな機会が訪れたとし、ロードマップのプロセス再開を関係国に呼びかけ。「ロードマップ」へのコミットメントを再確認。5月26日の米パレスチナ首脳会談では、米はガザ撤退成功のために5000万ドルの直接支援を表明、10月20日にも米パレスチナ首脳会談が行われた。また、ライス国務長官は6月18~19日、7月22~23日及び11月14~16日にイスラエル及びパレスチナ自治区を訪問。11月15日発表された「異動と出入域に関する合意」形成のための仲介努力を行った。

(ハ) イラン:核兵器の追求及び中東和平を破壊するようなテロ活動への支援を理由に強く批判(含む一般教書演説)。核問題については、2005年8月にウラン濃縮関連活動を再開したイランを非難し、安保理報告を求める一方、イランとの交渉再開を目指す英・仏・独を支持。また、ウラン転換活動の結果、生成される六フッ化ウランをロシアで凝縮した後、イランに戻すとの露提案を見守る姿勢。

(ニ)中東地域の民主化:2月~4月のサウジアラビア地方選挙の実施などの前向きな動きがあり、米国は評価。また、4月には米国の圧力もあって、シリア軍のレバノンからの撤去が行われ、また5~6月にはレバノン国会総選挙が行われた他、ムバラク大統領就任から23年経つエジプトの大統領選挙制度の改正が行われた。米国は、中東民主化を引き続き推進していく方針であり、拡大中東・北アフリカ構想(BMENA)等のG8での枠組みを利用。

(ホ)欧州:2月にライス国務長官とブッシュ大統領が訪欧。ブッシュ大統領は、NATO首脳会合で、イラク治安部隊への訓練支援を含めた対イラク支援に関する合意を取り付け、又、欧州各国の首脳と中東和平についても協力していくことで一致。

 ブッシュ大統領は、5月6日~10日、ラトビア(リトアニア、エストニア大統領とも会談)、オランダ(欧州勝利の日記念)、ロシア(第二次世界大戦終了60周年記念式典参加)、グルジア(民主化、改革、平和的問題解決を支持)を訪問。

 6月20日、米・EU首脳協議を米国で実施。米・EUがパートナーであることを確認し、地域情勢やテロとの闘いについても意見交換。6月22日、米・EU共催でイラク支援国際会議を開催。7月にはブッシュ大統領はデンマーク、英国(G8サミット)を訪問。

 EUの対中武器禁輸解除については、アジアの安全保障への戦略的影響への懸念から、米政府・議会とも解除に強く反対。

(ヘ)ロシア:米ロ首脳間では、本年も5回の首脳会談が開催されており、首脳レベルでの活発な接触が維持されている(2月(ブッシュ大統領訪欧の際、スロバキアにて)、5月(モスクワにおける第二次世界大戦終了60周年記念式典の際)、6月(グレンイーグルスG8首脳会合の際)、9月(国連総会時のワシントン立寄り)、11月(韓国におけるAPEC首脳会合の際))。米国は、イラン及び北朝鮮の核開発問題や不拡散、テロとの闘い、エネルギー協力等の分野でロシアとの協力関係を維持している。ただし、米国内で、ロシア議会で審議中のNGO規制法案が過度に規制的であるとの批判が存在するのをはじめとして、ロシアの民主化の後退への懸念の声も聞かれる。

(ト)韓国:在韓米軍再編(一部削減を含む)、龍山基地移転、防衛費分担特別協定等の主要懸案が妥結し、米韓同盟が一層強固に発展しているとの認識を、6月10日に行われた米韓首脳会談においても確認。11月17日に行われた米韓首脳会談において両国は「米韓同盟と朝鮮半島の平和に関する共同宣言」を採択、閣僚級の「同盟パートナーシップ関係のための戦略協議」の発足に合意した。米国は、北朝鮮核問題での連携(下記(チ))に加え、南北間の和解と協力の発展を歓迎し支持するとの立場。

(チ)北朝鮮:六者会合の枠組を通じた核問題の平和的解決を追求。第4回六者会合の際には、連日、米朝接触に応じるなど、具体的成果の達成に向け積極的姿勢で協議に参加。再開後の会合では1週間に亘る協議の末、北朝鮮に「すべての核兵器及び既存の核計画の放棄」を約束させることに成功。北朝鮮への軽水炉提供問題については、北朝鮮がすべての核計画の完全廃棄、NPT復帰、IAEA保障措置受け入れといった条件を満たせば、議論することを支持するとの立場。

 なお、米国は、北朝鮮による拡散活動、不法活動にも強い懸念を有しており、二国間、多国間の取組を通じた対抗策を実施している。また、北朝鮮の人権状況にも関心を有しており、北朝鮮人権法に基づき、8月にはレフコヴィッツ北朝鮮人権担当特使を任命した。

(リ)中国:この地域で影響力を増大している中国が、責任ある出資者(a responsible stakeholder)として国際社会で建設的な役割を果たすよう働きかけることが米国の国益に資するとの考え。WTOルールに則った経済体制の整備、テロとの闘いや北朝鮮の核問題を巡る六者会合を通じた中国の役割を重視。本年9月の胡錦濤国家主席訪米、同11月のブッシュ大統領訪中の際に行われた米中首脳会談では、米中関係の重要性について確認するとともに、建設的協力関係の更なる発展について一致した。

 また、他方、価値観において大きな差異があることも認識。今年7月に発表された米国防省による「中国の軍事力に関する年次報告書」においては、米国は平和で繁栄した中国の台頭を歓迎する一方で、中国軍は近代化を継続しており、長期的にこの傾向が続けばこの地域に展開する他の近代的な軍事力にとり、脅威となり得ると指摘。

(ヌ)台湾:3月14日に成立した中国の「反国家分裂法」は、中台関係の緊張を高めるとして米国は警戒。連戦国民党主席及び宋楚瑜親民党主席の訪中については歓迎しつつ、台湾当局との間の対話が重要との立場。中台関係については現状維持を求め、中台いずれによる現状を変更しようとする一方的な動きも反対するとの立場。

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