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平成17年8月
(1)大統領選結果
(2)総論
(3)外交
(4)日米関係
(5)内政・経済政策
(1)社会保障制度改革
(2)その他主要法案の動向
(3)最高裁判事承認問題
(4)ローヴ大統領次席補佐官を巡る疑惑
(5)安全保障・テロ対策
(1)中東
(イ)イラク
(ロ)中東和平
(ハ)イラン
(二)中東地域の民主化
(2)欧州・ロシア
(イ)欧州
(ロ)ロシア
(3)アジア
(イ)北朝鮮
(ロ)中国
(ハ)台湾
(1)2001年9月11日に発生した同時多発テロを受け、対テロ対策及び国土防衛が第一の政策課題となり、アフガニスタンのタリバーンに対する攻撃を始めとするテロとの闘いが推進された。米国内では、対テロ法(PATRIOT Act)の成立、米国本土の安全確保を一元的に担当する国土安全保障省の創設などの措置がとられた。
(2)2003年3月19日、対イラク軍事行動が開始され、圧倒的な軍事力の差を持って首都バクダッドを制圧した。同5月1日、主要な戦闘の終結を宣言、12月13日、フセイン前大統領が拘束された。2004年6月28日、イラク暫定政権への主権移譲が行われた。米国は2005年1月30日のイラク国民議会選挙を含む政治プロセスを一貫して支持してきた。
(3)内政面でのブッシュ政権第一期目の主たる成果は、減税及び教育改革。教育改革法は、識字率に基準を設け、定期的に基礎学力テストを実施して達成度を把握し、成果のあがらない公教育機関に子女を通わせる保護者に、私立校への編入の選択肢を与えるもの。
(4)ブッシュ大統領の支持率は、9.11事件直後には90%、イラク攻撃開戦後には70%に達したが、緩やかに低減し、二期目の就任時には51%であった。最近では不支持率が支持率を上回っている。
(1)(大統領選挙結果)2004年11月2日に行われた大統領選挙では、最後にオハイオ州の帰趨が決め手となり、ブッシュ大統領が31州で勝利し、選挙人286人を獲得(対するケリー候補は、19州およびワシントンDCで勝利し、選挙人252人を獲得)。ブッシュ大統領が選挙人の過半数を得、得票数ではケリー候補に330万票の差をつけて再選された。投票率は60%に迫る高いものとなった。
(2)(総論)2005年1月20日、2期目のブッシュ政権が正式発足した。ブッシュ大統領は、同日の就任演説および、同年2月2日の一般教書演説において、国内外で自由と民主主義を推進するとのビジョンを、テロの過激思想に対抗する根本理念として打ち出した。第一期から掲げてきた政策目標に大きな変更はなく、同盟国や友好国との協調により重点を置く姿勢を示している。
(3)(外交)基本的には、第一期目からの最重要課題であるテロとの闘い、イラク政策を同盟国と協調しつつ継続し、イラクにおける警察・軍隊の訓練をはじめ、可能な限り早期にイラクの安定と民主主義を実現するための支援を行っていく姿勢を明確にしている。中東和平プロセスへコミットしつつ、中東諸国の自主的な民主化を引き続き支援している。北朝鮮に対しては、六者会合を継続し、イランに対しては、核兵器開発を阻止していく方針を確認している。世界における米軍再編も引き続き推進されると考えられる。中国とは、価値観の差を認識しつつ、建設的な関係を構築していく方針を取っている。
(4)(日米関係)日米関係は、極めて良好であり、小泉総理とブッシュ大統領の緊密な信頼関係の下、両国関係を強化している。第二期ブッシュ政権においても、「世界の中の日米同盟」との考え方に従い、世界が直面する諸課題に対し、日本との緊密な協力関係を維持していくものと考えられる。
(5)(内政・経済政策)ブッシュ大統領は、2005年2月2日の一般教書演説において、社会保障制度(公的年金制度)改革を内政面の最重要課題と位置づけた。その他の国内制度改革として、財政改革、訴訟制度改革、教育改革、ヘルスケア改革、税制改革、移民制度改革等を提唱した。
(1)(社会保障制度改革)ブッシュ大統領は、社会保障制度(公的年金制度)について、高齢化の進む中で現行制度を維持すれば財政的に破綻することが予想されるとし、個人に資金の運用を認める個人勘定口座導入に焦点を当てた制度改革の必要性を訴えてきた。連邦議会における審議は膠着していたが、下院共和党は夏季休会明けにも審議を加速させる意向を示しており、今後の動向が注目される。
(2)(その他主要法案の動向)7月末の夏季休会入りを前に、議会で党派対立が続いていた主要法案(中米自由貿易協定(AFTA)国内実施法案、包括エネルギー法案、高速道路法案)が立て続けに承認され、成立した。これはブッシュ政権に取り大きな成果と言われている。
(3)(最高裁判事承認問題)司法面では、7月に、ブッシュ大統領は、辞意を表明したオコナー連邦最高裁判事の後任に保守派とされるジョン・ロバーツ連邦高裁判事を指名。保守・リベラルが拮抗する連邦最高裁において、ロバーツ判事の上院における承認審議は注目を集めている。
(4)(ローヴ大統領次席補佐官を巡る疑惑)2003年に元駐ガボン大使の妻がCIA工作員であったことが実名入りで報じられた事件に関し、本年6月、機密情報であるCIA工作員の実名を漏洩した政府高官が誰であるかについて法廷での証言を拒否したタイム誌及びニューヨーク・タイムズ紙記者が法廷侮辱罪に問われ、当初は取材源の秘匿を含む報道の自由との関係で論議を呼んだが、その後、カール・ローヴ大統領次席補佐官が情報源の一人であったことが明らかとなり、同補佐官の本件への関与、その違法性の有無に焦点が移っている。
(5)(安全保障・テロ対策)2002年7月16日発表の「国土安全保障戦略」および2002年9月20日発表の「国家安全保障戦略」が基本政策とされる。これを補完するものとして「テロと闘うための国家戦略」およびその一部を実施に移すための「サイバー防護戦略」「重要インフラ防護戦略」が2003年2月14日に発表された。国土安全保障省は2003年1月24日に設置され、それまで22の政府機関に分散していた任務を統括し、職員規模は全米で約18万人に及ぶ。
(1)要旨
イラクの政治プロセス進展、復興・治安回復、ロードマップに沿った中東和平の推進、レバノン等を含む中東地域の民主化を大きな課題として取り組んでいる。またアフガニスタンの復興支援についても、長期的問題として取り組んでいる。
イランの核兵器の追求を強く批判する一方、これまでのところ英・仏・独三カ国による外交努力を見守ってきている。
北朝鮮については引き続き六者会合の枠組みを通じた核問題の平和的解決を追求。
中国に対しては、国際社会で建設的な役割を果たすよう働き掛けることが米国の国益に資するとの考えであり、中台関係については現状維持を基本的立場として中台双方に対話への働きかけを行っている。
(2)各論
(イ)イラク:1月末の国民議会選挙の成功と4月末の移行政府発足はブッシュ政権にとり大きな自信。本年の一般教書演説でも、関係国・機関との連携を強調し、今後、年末までの新政府成立をはじめとする政治プロセスの進展、治安の改善等に向けた取り組みを強化していく趣。軍の撤退期限は、テロリストを利するのみとして明らかにせず。警察や軍隊といった治安組織の訓練を通じ、イラク政府の能力強化に努力。
(ロ)中東和平:アラファト議長の死去を受け、新たな機会が訪れたとし、ロードマップのプロセス再開を関係国に呼びかけ。中東和平プロセスへのコミットメントは、同問題を重視する欧州諸国との関係改善努力の一環との側面もあり。3億5千万ドルの対パレスチナ支援を発表(一般教書演説)。特にパレスチナ自治政府の治安改革に係る支援調整をリードしていく決意を表明(3月1日パレスチナ自治政府支援のためのロンドン会合等)。4月11日の米イスラエル首脳会談では、イスラエルによる入植地に関する「ロードマップ」上の責務の履行で一致。5月26日の米パレスチナ首脳会談では、米はアッバース大統領によるテロ否定を賞賛した上で、ガザ撤退成功のために5000万ドルの直接支援を表明。1949年の停戦合意ラインの変更は相互合意に基づくべきとの立場を確認。また、ガザ撤退を8月中旬に控え、ライス国務長官は6月18~19日に続いて7月22~23日にイスラエル及びパレスチナ自治区を訪問。
(ハ)イラン:核兵器を追求していること、中東和平を破壊するようなテロ活動を支援していることを強く批判(含む一般教書演説)。核問題については、イランと交渉を行っている英・仏・独を支援するための措置を発表しているが、同交渉には一貫して懐疑的。
(ニ)中東地域の民主化:2月~4月のサウジアラビア地方選挙の実施などの前向きな動きがあり、米国は評価。また、4月には米国の圧力もあって、シリア軍のレバノンからの撤去が行われ、また5~6月にはレバノン国会総選挙が行われた他、ムバラク大統領就任から23年経つエジプトの大統領選挙制度の改正が行われた。米国は、中東民主化を引き続き推進していく方針であり、拡大中東・北アフリカ構想(BMENA)等のG8での枠組みを利用。
(ホ)欧州:2月にライス国務長官とブッシュ大統領が訪欧。ブッシュ大統領は、NATO首脳会合で、イラク治安部隊への訓練支援を含めた対イラク支援に関する合意を取り付け、又、欧州各国の首脳と中東和平についても協力していくことで一致。6月にはEUとの共催でイラク支援国際会議を開催。
EUの対中武器禁輸解除については、アジアの安全保障への戦略的影響への懸念から、解除に強く反対。
ブッシュ大統領は、5月6日から10日にかけて、ラトビア(リトアニア、エストニア大統領とも会談)、オランダ(欧州勝利の日記念)、ロシア(第二次世界大戦戦勝60周年記念式典参加)、グルジア(民主化、改革、平和的問題解決を支持)訪問。
6月20日、米・EU首脳協議を米国で実施。米・EUがパートナーであることを確認し、地域情勢やテロとの闘いについても意見交換。7月にはブッシュ大統領はデンマーク、英国(G8サミット)を訪問。
(ヘ)ロシア:ブッシュ大統領は2月訪欧の際、スロバキアでプーチン大統領と会談。会談では、両首脳の二期目においても米露間の建設的関係を維持することを確認する一方、米国内で懸念が大きくなっているロシアの民主主義の問題についても取り上げた。米国は、不拡散、テロとの闘い、エネルギー協力などの分野でロシアとの協力関係を維持。5月8日の米ロ首脳会談(於:モスクワ郊外ロシア大統領別邸)では、ロシアのWTO加盟問題、中東情勢、テロとの闘い、国連改革問題、北朝鮮問題、ロシアの国内情勢等が話し合われた。
(ト)韓国:在韓米軍再編(一部削減を含む)、龍山基地移転、防衛費分担特別協定等の主要懸案が妥結し、米韓同盟が一層強固に発展しているとの認識を、6月10日に行われた米韓首脳会談においても確認。米国は、北朝鮮核問題での連携(下記(チ))に加え、南北間の和解と協力の発展を歓迎し支持するとの立場。
(チ)北朝鮮:六者会合の枠組を通じた核問題の平和的解決を追求。第4回六者会合(7月26日-8月7日)に先立ち、ニューヨークで米朝の接触を行い、ライス国務長官が「北朝鮮は主権国家である」旨述べる等、六者会合の再開に向けた雰囲気の醸成に努めた。第4回六者会合に際しては、ライス長官は、今次会合においては前進を得る必要があり、六者会合の枠組において北朝鮮が核計画の廃棄に合意するという政策目標に集中する旨発言。米国は、連日米朝接触に応じるなど、具体的成果の達成に向け積極的姿勢で協議に参加した。今次六者会合につき、国務省エレリ副報道官は、「交渉は継続中であるが、(中略)我々は北京で良い前進をすることが出来た(8月11日プレス・ブリーフ)」と発言。
(リ)中国:この地域で影響力を増大している中国が国際社会で建設的な役割を果たすよう働きかけることが米国の国益に資するとの考え。WTOルールに則った経済体制の整備、北朝鮮の核問題を巡る六者会合を通じた役割を重視。
協力的かつ建設的な関係を構築しつつある一方で、価値観において大きな差異があることも認識。今年7月に発表された米国防省による「中国の軍事力に関する年次報告書」においては、米国は平和で繁栄した中国の台頭を歓迎する一方で、中国軍は近代化を継続しており、長期的にこの傾向が続けばこの地域に展開する他の近代的な軍事力にとり、脅威となり得ると指摘(2000年より本報告書が発表されて以来、「脅威」という表現を用いたのは初めて)。
(ヌ)台湾:3月14日に成立した中国の「反国家分裂法」は、中台関係の緊張を高めるとして米国は警戒。連戦国民党主席及び宋楚瑜親民党主席の訪中については歓迎しつつ、台湾当局との間の対話が重要との立場。ブッシュ政権は、中台のいずれを問わず現状の一方的な変更には反対の立場。