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日タイ修好120周年
知ってる?タイと日本

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日本で活躍するタイ人インタビュー

デーン・ジュンラパン(イーグル京和)さん

 イーグル京和というリングネームでボクサーとして活躍し、現在、世界ボクシング評議会(WBC)ミニマム級チャンピオンであるデーン・ジュンラパンさんにお話を伺いました。

 デーンさんはタイ北部ピチット県の出身。電気がないくらい家が貧しかったため、義務教育が終わった12歳のときに家族を養うためバンコクへ上京しました。ボクシングに興味を持ったのは9歳のときにタイ人ボクサーで世界的に有名なカオサイ・ギャラクシーの試合をテレビで観たのがきっかけで、実際にボクシングを始めたのは16歳のときです。17歳でデビュー戦を迎えたアマチュア時代の戦歴は34戦30勝(25KO)4敗。2000年4月にムエタイ修行のためタイ在留中だった真玉橋(まだんばし)貴子さんとジムで出会い、同年12月に結婚しました。2001年4月に来日した当時はボクシングで生計をたてようと思っていたわけではなく何か別の仕事を探す予定でしたが、日本語がわからなかったためまずは家で日本語の勉強をしていました。気分転換と日本人との交流のために近所のボクシングジムへ通うようになり、試合経験があったため勧められて試合にも出場したところ、見事1ラウンドでKO勝利!その後も試合を重ね、周りの人々に支えられながら“たった一度のチャンス”と思って挑んだ2004年1月の世界タイトル戦で念願の世界チャンピオンの座を獲得しました。またチャンピオンになった2004年に母国タイで国際エイズ会議が開催されたこともあって、エイズの現状に大変ショックを受け、何か力になれないかと日本エイズストップ基金協力委員となりました。タイの母校で子どもたちにエイズの話をしたり、故郷に救急車を贈ったり、日本でも募金活動に協力したりと熱心に活動しています。

 リングネームの“イーグル”には、鷲のような動体視力をもち、力強く勝利を掴みたいという思いが込められています。難しいパンチや素晴らしいコンビネーション等、困難な事を乗り越えたときの喜びはボクシングの大きなやりがいであり、芸術的なボクシングに近づけたと感じるときにはとても嬉しいのだそうです。デーンさんはタイ人ですが、日本の人々に助けられて世界チャンピオンになれたという気持ちからも試合では“日本とタイの代表”として戦っており、トランクスにはタイと日本の国旗が入っています。世界チャンピオンになると世代や国籍を問わず様々な人から注目され、人に影響を与える機会も多くなるので、礼儀等には特に気をつけたいし、有名だからこそできる両国社会の役に立つことをして恩返しをしたいと考えています。デーンさんは日本語での受け答えもある程度できるのですが、万が一適当でない言葉遣いをしてしまって相手に失礼となっては困ると考えて極力通訳の人を介して話をするようにしているところや、背筋を伸ばしてやりとりする姿勢にも礼儀を大切にしたいという真摯な気持ちが自ずと表れています。

 日本に来てまず驚いたことは、テレビや冷蔵庫、クーラーといった電化製品のある生活が一般的であることだったそうです。デーンさんの家は電気がないためオイルランプを使っていたというくらい貧しく、船で川を渡るお金が無くて泳いで渡っていました。
 タイでは貧乏と死とは隣り合わせだそうです。実際にデーンさん自身も20歳のときにお母さんを病院へ連れて行けずに病名もわからないまま亡くしています。またデーンさんは現在9人兄弟ですが、本当は15人兄弟だったところ6人は貧しさのために幼い頃亡くなったそうです。最近はタイも都市部では仕事優先の生活が一般的になりそこから社会問題も生じていますが、地方では依然家族同士の結びつきが強く、家族を大切にするデーンさんは現在でもタイにいる家族を扶養しているそうです。
 また、タイと日本は共に仏教国と考えられていますが、タイと日本の日常生活における人々と仏教との関わり方の違いにも驚いたそうです。例えば、タイでは出来る範囲で良いことをして徳を積みましょうという教えが浸透しており、街角ではタンブン(功徳)の光景がよく見られますし、人々がお坊さんに悩み事を相談したり、雑談を交わすことはごく日常的なこととなっています。しかし日本では人々と仏教との間にある程度距離があり、そういった光景を見かけることがないのでとても驚いたとのことです。
 来日当初から日タイ間の違いに戸惑ったデーンさんですが、日本の料理は香辛料がふんだんに使われているタイ料理と比べて辛くないし、刺激も少ないため体にやさしそうだという印象を受けたとのことです。そして今では来日前よりも内臓の調子がよくなったように感じるそうです。基本的には体のために納豆や魚など何でも食べますが、色々なスープが楽しめるのでラーメンが大好きということです。また、手頃な値段で24時間食べられる牛丼もよく食べるそうですが、ボクシングの選手は減量のため食事制限をしているというイメージが強いので、牛丼を24時間いつでも食べられたら困ることもあるのではないかと心配になりました。

 さて、小さい頃からお寺が身近な存在にある環境で育ってきたデーンさんにとって、仏教はとても大切です。お経や法話を聞くのが好きで自分でもお経を唱えますし、首からは仏教のお守りを大事にさげています。そのうちの1つは徳の高い僧達を象ったお守りで、古くに作られた物ほど良いのだそうです。お守りをつけていると心が落ち着くし、心の眼が開き目には見えないものも見えてくるように感じるそうです。「人間の心は日々移り変わるもので、時には正しいところから離れてしまい良くない気持ちや考えが浮かんでくることもありますが、お経を聞いたりして仏教のことを思い出し心を常に正しいところに戻すようにしています。仏教のことを頭に浮かべればすぐに戻すことが出来ます。」とデーンさんは言います。
 タイでは男性は一生のうち一度は出家するのが一般的ですが、デーンさんはまだしたことがなく、そのことがとても心に懸かっていて話をするだけでも鳥肌が立ってくる程だそうです。出家をする際には親戚の人々に連絡をして、食事を振る舞ったりみんなでお布施をしたりするしきたりがありますが、若い頃にはそれを行う経済的余裕がありませんでしたし、現在は時間的余裕がありません。将来的に出家は必ずしたいと考えているのですが、親戚の人に知らせずに出家をすることもできないわけではないものの、礼を失することになるのでやはりきちんと親戚の人にもお知らせをしてから行いたいとのことです。
 タイに浸透する仏教の習慣の教えのとおり、良いことをすると最終的には自分に返ってくるとデーンさんは考えています。デーンさんは救急車を故郷に寄贈しましたが、その時にはスポンサーや日本とタイ両国のたくさんの人の力を借り、多くの出会いがありました。2006年6月の日本の天皇・皇后両陛下タイ御訪問の際には直接お言葉を頂くという機会に恵まれましたが、それはこのときの善行や出会いがあったからこそなのだと信じています。日本では希薄になってしまったといわれる家族愛や近隣愛の必要性や大切さを訴え、これからもボクシングを通して2つの国の社会と人々のためになること、役に立つことで行いお返しをしていきたいというのがデーンさんの願いです。

(写真)笑顔の爽やかなチャンピオン
笑顔の爽やかなチャンピオン

2006年8月
インタビュー:大森、水野(事務局)

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