中東
湾岸協力理事会(GCC)概要
一般事情
1 湾岸協力理事会(GCC)の概要
1980年にアンマンで開催されたアラブ・サミットでのジャービル・クウェート首長(当時)の提案を受け、翌1981年にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによって設立。本部(事務局)はサウジアラビアの首都リヤドに所在。正式名称は、「Cooperation Council for the Arab States of the Gulf(アラビア語:Majlis Al-Ta’aawni li Duwali Al khalyiji Al-‘arabiya)」であるが、Gulf Cooperation Council(GCC)という略称が用いられることが多い。
防衛・経済をはじめとするあらゆる分野における参加国間での調整、統合、連携を目的としている。
2 現議長国
オマーン(2023年12月頃まで)
3 現事務局長
ジャーセム・アル・ブダイウィ氏(H.E. Jasem Al-Budaiwi)(元クウェート駐米大使)
【2023年2月就任】
4 組織及び活動内容
- (1)最高理事会(首脳会議)(The Supreme Council)
- GCC加盟国の首脳によって構成され、会議は年1回(通常は12月)、議長国は原則アラビア語のアルファベット順に、各国持ち回りで開催される。最高理事会における議事の成立のためには、3分の2以上の国の出席が必要。各国が一票ずつ持ち、重要事項に関する決議は全会一致、手続事項に関する決議は多数決で成立する。
- (2)閣僚理事会(外相会議)(The Ministerial Council)
- 各国外相又は外相の代理を務める大臣によって構成される。同理事会は、あらゆる分野に関する政策提起や、最高理事会の準備・企画を担う。会議は、原則3か月毎に開催される。議事成立のための手続は、最高理事会と同様。
- (3)GCC事務局(The Secretariat-General)
- リヤドに所在し、GCC各国より派遣された事務局員によって構成される。
- (4)その他
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- (ア)外相会議以外にも、財政、国防をはじめとする閣僚レベルの会合が開催され、統一関税や防衛問題等各分野におけるGCC加盟国間協力のあり方についての協議が行われている。
- (イ)軍事面での協力として、サウジアラビア東部州ハフル・バーティンに「半島の盾」軍(85年10月、サウジアラビア軍の指揮の下、サウジアラビアの一個旅団、クウェートの二個大隊を中心とした約7,000人規模で設置。)の司令部が置かれている。ただし、湾岸戦争後にGCC諸国はそれぞれ米国や欧州諸国と個別に二国間安全保障協定を締結するようになり、「半島の盾」軍は名目的なものとなっている。また、2000年12月には共同防衛協定を締結し、集団安全保障の枠組みを確立するとともに、加盟国に兵力の提供を義務づけた。
- (ウ)イエメンからの加盟申請を受けており、これまで教育、社会、保健、スポーツ各委員会へのイエメンの参加を認めている。
基本データ
1 人口
5,640万人(2021年:GCC統計局発表値)
2 実質GDP
1.5兆ドル(2021年:GCC統計局発表値)
3 一人あたりGDP
29,700米ドル(2021年:GCC統計局発表値)
4 エネルギー資源
世界の原油埋蔵量の約3割を有し、原油生産量の約2割、天然ガス生産量の約1割を産出。
政策
1 概況
GCCは、経済をはじめとするあらゆる分野における域内の調整、統合、連携を目的としている。しかし、設立当時はイラン革命、ソ連のアフガニスタン侵攻、イラン・イラク戦争等の国際情勢の急激な変化があり、これに脅威を感じた湾岸アラブ6か国が、類似の王制・首長制国家の立場から相互の結束を強化してこれらの脅威に対処するために設立されたとみられている。そのため、設立当初は集団安全保障体制としての色合いが強かった。その後90年代の原油価格の低迷等を受け経済統合のための機関としての色合いが強くなったが、通貨統合交渉からのUAEとオマーンの離脱など各国の足並みが揃っていない。また、2017年にサウジアラビアを含む3か国がカタールと断交した。
2 最近の政治面での動向
- (1)いわゆる「アラブの春」を受けた動き
- イエメン問題解決のため仲介外交を実施。
- 2011年3月、バーレーンの治安維持のためGCC合同軍を派遣。
- 2022年3月、リヤドのGCC事務局において、イエメン・イエメン協議を開催。ホーシー派以外のイエメン紛争当事者約500名が参加し、イエメン紛争解決に向けた協議が行われた。
- (2)「統合」への動き
- 2011年12月の首脳会議にて、アブドッラー・サウジ国王は、湾岸諸国の安定と安全が脅かされているとした上で、湾岸諸国が「『協力(Cooperation)』の段階から『連合(Union within a single entity)』」の段階へ移行することを提案したが、その後具体的な進展はない。
- (3)加盟国間の関係
- 2014年3月、サウジアラビア、バーレーン、UAEの3か国はテロ支援等を理由にカタールから大使を引上げ。
- 2017年6月5日、同3か国はカタールと断交。
- 2021年1月、サウジアラビアのウラーで開催された第41回GCC首脳会議で、同3か国とカタールとの間で和解に合意。
3 経済統合に向けた動き
年月 | 主な出来事 |
---|---|
1981年5月 | GCC発足 |
1983年3月 | 統一経済協定発効(域内貿易の自由化) |
1991年 | GCC貿易相会議で関税同盟結成を議論 |
1992年 | GCC特許局(GCCPO)設立 |
1999年11月 | 対外統一関税の導入で合意 |
2000年12月 | 域内通貨統合で合意 |
2001年 | 統一経済協定改定 |
2001年12月 | GCC標準化機構(GSO)創設 |
2003年1月 | 対外統一関税導入開始(GCC関税同盟) |
2005年 | 通貨統合基準、経済指標目標値の決定 |
2008年1月 | 共同市場の発足(ヒト、モノ、カネの移動の自由化) |
2008年8月 | 通貨評議会の設立に合意 |
2009年5月 | GCC通貨銀行をリヤドに設置することが決定 |
2009年12月 | GCC通貨統合協定がサウジアラビア、クウェート、カタール及びバーレーンの4か国間で発効 |
2012年11月 | GCC内相会合でGCC治安協力協定改正案が合意 |
2015年1月 | 対外統一関税導入の完了 |
- (1)1981年の統一経済協定(Unified Economic Agreement)の締結、1983年の同協定発効による域内貿易の自由化実現以降は、大きな進展は見られなかった。しかし、1990年代半ばになり、経済のグローバル化や原油価格の低迷などの問題もあり、GCCの経済統合に向けた機運が高まった。
- (2)GCCは、2003年に統一関税(The GCC Customs Union)の導入を開始し、2015年に統一関税導入を完了したが、依然GCC各国による例外品目が設けられている。
- (3)2010年末までに統一通貨制度(The GCC Monetary Union)を導入することが検討されていたが、通貨統合を巡る各国の立場の温度差等により、現在に至るまで実現していない。(2009年12月、GCC通貨統合協定がサウジアラビア、クウェート、カタール及びバーレーンの4か国間で発効したが、うち3か国は自国通貨がドル完全ペッグ制であるのに対し、クウェートは複数通貨のバスケット制であることもあり、この4か国でも通貨統合は実現していない。)
- (4)2019年12月、サウジアラビアで開催された首脳会議の最終声明において、2025年までに経済、金融統合を完了させることを確認した。
我が国との関係
1 基礎データ
- (1)日本との貿易額(2022年:財務省貿易統計):
- 日本からGCCへの輸出額 約2兆3,752億円
- GCCから日本への輸入額 約15兆2,275億円
- (2)日系企業数:530社(2021年)
- (3)在留邦人数:5,817人(2022年)