中東
中東和平についての日本の立場
1 基本的立場
2023年10月7日に発生したハマス等のパレスチナ武装勢力によるイスラエルに対するテロ攻撃とそれに伴うイスラエルによるガザ地区における軍事作戦をめぐる情勢の悪化を背景として、イスラエル・パレスチナ問題が激化した。我が国は、中東和平交渉の前進は、中東地域全体の緊張を大きく緩和し、中東地域がもつ地域的繁栄の潜在力を最大限高めるものと確信し、早期に、公正で永続的且つ包括的な和平が実現することを期待する。
我が国は、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する「二国家解決」を一貫して支持している。我が国は、イスラエル及びパレスチナ自治政府双方に対して、「二国家解決」を可能な限り早期に実現するため、互いの信頼関係の構築に努め、和平交渉再開に資さない一方的行為を最大限自制し、直接交渉の前進を図るべく一層努力するよう呼びかけている。
イスラエル・パレスチナ間の紛争は、関連する安保理諸決議、マドリード会議での諸原則、ロードマップ、当事者による過去の合意及びアラブ和平イニシアティブに基づいて、交渉によってのみ解決されるべきものであり、暴力は固く拒絶されなければならないことを強調している。
上記の認識に立ち、我が国は、関係者との政治対話、当事者間の信頼醸成、パレスチナ人への経済的支援の3本柱を通じて、「二国家解決」の実現に積極的に貢献していく。特に、「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」及び「平和と繁栄の回廊」構想といった我が国独自のイニシアティブを引き続き推進していく。
我が国は、国際社会が中東和平を強力に後押しすべきと考えており、この観点から、米国及び中東諸国による和平努力を高く評価している。我が国は、イスラエル・パレスチナ間の問題解決がイスラエル・アラブ諸国全体との関係改善につながり得るとの考えから、アラブ和平イニシアティブを支持しており、イスラエルが同イニシアティブを誠実に検討すること、及びアラブ側が呼応する形で同イニシアティブを実施するための具体的なステップをとることを改めて呼びかける。我が国は、中東和平に関する多国間協議が開始される場合には、これに参加する用意がある。
2 中東和平に関する現状と立場
我が国は、イスラエル及びパレスチナ自治政府間の直接交渉が長らく中断されていることを深く懸念するとともに、双方に対し交渉の再開を強く要請している。
我が国は、最終的な解決を予断するような一方的な変更は、いずれの当事者によるものであっても、承認できないとの立場に立っている。我が国は、最終的地位を含む問題は直接交渉によって解決されるべきと考えつつ、東エルサレムを含むヨルダン川西岸におけるイスラエルの入植活動は国際法違反であり、即時かつ完全に凍結されるべきとの立場を再確認し、改めて、イスラエルに対して、入植活動の完全凍結を求めている。
我が国は、パレスチナ人の独立に向けた悲願を理解しており、「二国家解決」の実現を支持している。この考えに立ち、我が国は2012年、パレスチナに非加盟オブザーバー国家の地位を付与する国連総会決議に対し賛成票を投じた。同様に、我が国は2024年、パレスチナの国連正式加盟に係る安保理決議案及びパレスチナへの新たな権利付与等に係る国連総会決議に対して賛成票を投じた。これにより、パレスチナは国際社会に大きな責任を有することになったと理解している。パレスチナに対し、中東和平の実現に向け、責任ある統治の体制を構築するよう一層努力することを強く求めるとともに、交渉再開に否定的な影響をもたらす可能性のある、交渉によらない一方的な行動には慎重な対応を求めている。
我が国は、「二国家解決」にあたり、(1)その境界は、交渉を通じ、相互に合意された領域の交換を伴いつつ1967年の境界を基礎として、自立可能なパレスチナ国家と、安全かつ承認された国境を有するイスラエルが平和裡に共存を実現する形で、画定されるべきであるとの考えを支持している。このような「二国家解決」を通じ、パレスチナ人は、独立国家樹立の権利を実現し、イスラエルは顕著に改善された安全保障環境を享受し、両者は相互の繁栄のための全面的協力を開始できる。
(2)エルサレムの最終的地位については、将来の二国家の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。我が国としては、イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる一方的行為も決して是認しないことを強調し、入植活動の継続と拡大及びパレスチナ人の住居破壊等、東エルサレムの現状変更の試みについて深い憂慮を表明している。
(3)難民問題は、最終的地位問題の重要な一つの要素として、当事者間の交渉により公正に解決されるべきであると考えている。
我が国は、ガザ地区が依然として厳しい人道状況下にあることを深く懸念している。ガザ問題の解決は、中東和平交渉再開と中東全体の安定化につながるものとなるべきである。ハマス等のパレスチナ武装勢力とイスラエルとの間での武力衝突と暴力の繰り返しに終止符を打つため、イスラエルとパレスチナ双方の安全を保証する国際的な安定化メカニズム構築の努力を伴う持続可能な停戦・人質解放合意が成立し、長期的にはパレスチナ自治政府がハマスなきガザにおける実効的な統治を確立できることが不可欠である。
3 パレスチナ支援(支援に関する資料(PDF)
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我が国は、オスロ合意以降、中東和平達成に資する環境作りのため、パレスチナ支援に力を入れてきており、1993年以降の対パレスチナ支援の累計は26億ドルに達する。また、我が国は、2023年10月以降のガザ地区における深刻な人道危機を深く懸念しており、ガザ地区を含むパレスチナの人々に対し、約2億4,000万ドル規模の人道支援や物資の供与を実施中。
我が国は、外交・支援の両面から役割を果たすことにより、ガザ地区及びヨルダン川西岸地区に居住するパレスチナ人の困難を緩和し、パレスチナの経済発展に協力すると同時に、自立可能なパレスチナ国家建設のための「制度づくり・人づくり」を支援していく決意である。
特に、我が国は、パレスチナ自治政府、イスラエル及びヨルダンとの4者協力の下、投資誘致及び雇用創出を通じた地域協力のためのビジネスモデルの確立を目指す「平和と繁栄の回廊」構想を推進している。右構想の旗艦事業「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」が段階的に整備されており、完成に向け努力を継続する。この関連で、イスラエルによるヨルダン川西岸地区における移動・アクセス制限が緩和され、パレスチナ経済の発展に寄与することを期待する。
また、我が国は、パレスチナ難民の経済・社会生活を向上させる国際的取組に貢献するため、中東地域全域におけるパレスチナ難民への支援において必要不可欠な役割を果たしているUNRWAを通じ、パレスチナ難民支援に引き続き努力していきたい。

