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日・中南米経済関係再活性化のための提言
平成17年5月18日
中南米諸国駐在大使
小泉総理は、昨年9月サンパウロにおける対中南米外交に関する政策演説の中で、「日・中南米 新パートナーシップ構想」を打ち出した。この構想は、「協力」と「交流」の2つを柱とし、中南米との経済関係の再活性化、国際社会の諸課題への取組、相互理解・人物交流の促進を目指しており、この中でも経済関係の再活性化を最重要な柱としている。
現在、中南米諸国は80年代の債務問題による「失われた10年」を克服して概ね順調に成長し、日本は90年代以降の経済的停滞を経て景気回復の局面にある。また、中南米は5億人を超える大きな市場、豊富な天然資源、優秀な人材、活力ある日系人社会を有しており、同地域では地域統合、自由貿易協定の締結が進展し、マクロ経済も概ね安定していることから、中南米の経済は今後更に発展していくことが期待される。同地域には、欧米諸国はもとより、中国、韓国等多くのアジア諸国も注目しており、今後はこれらの国々による積極的な投資活動や経済連携の強化が予想される。
このような状況下、日本と中南米諸国は今後更に重要な貿易・投資のパートナーとなる可能性を十分に有していること、及び、中南米諸国は資源・エネルギー・食糧の重要な供給源であることを再認識するとともに、日本と中南米の経済関係の再活性化のための施策を積極的に講じていくことが喫緊の課題である。
中南米諸国に駐在する我々は、「新パートナーシップ構想」を積極的に推進し、日本と中南米の経済関係の再活性化を図るため、以下の提言を行う。
提言1:首脳レベルを含む対話の強化
<首脳会談>
- 今後予定されているルーラ・ブラジル大統領訪日(5月)、日本・中米首脳会談(8月)、ドゥアルテ・パラグアイ大統領訪日(時期調整中)、愛・地球博の際の要人訪日などの機会に、日本と中南米諸国との関係強化、特に経済関係活性化の方策について首脳レベルの協議を積極的に行う。
<二国間協議、地域統合体との協議>
- 二国間協議(日ブラジル政策協議、日メキシコ政策協議、日チリ政策協議、日キューバ政策対話等)、地域統合体との協議(日・メルコスール協議、日・アンデス協議、日・中米フォーラム、日カリコム協議等)等の場を活用し、経済関係の再活性化の方途につき取組を進める。
提言2:官民一体型のアプローチの強化
<「All Japan」>
- ビジネス関係強化において、特に日本企業の現地進出や資源開発等の開発型のビジネスにおいては官民の緊密な連携が重要であり、官民一体型のアプローチの一環としてJETRO、JBIC、JICA、NEXI等政府関連機関及び民間経済諸団体との連携による「All Japan」としての戦略的取組を強化する。
<資源開発>
- 日本への資源・エネルギー・食糧供給源の確保を念頭に、我が国がこれまで行ってきた中南米地域における資源開発関連投資の実績を踏まえ、民間資本による資源開発への積極的参画を促しかつ支援する。
<ミッション派遣>
- 中南米各国の産業構造、比較優位、問題点を分析し、これに基づいて開発・投資対象の絞り込みを行い、適宜、政府・民間ハイレベルを団長とする大型の貿易・投資ミッションの派遣を検討する。中小企業を含む中小国へのミッション派遣の可能性についても検討する。在外公館は、ミッション派遣が実現する際には、最大限の支援を行う。
<セミナー開催>
- 中南米各国の経済・財政状況やビジネスの可能性についてのセミナーを我が国(東京及び地方)で開催し、財界関係者・有識者の参加を得て、日本と中南米の経済関係活性化の方途につき議論し、その成果を積極的に広報する。
<物産展等>
- 物産展(FOODEX、中米物産展等)の活用や非伝統的輸入産品の発掘(JETROとの連携も含む)により、日本の中南米各国からの輸入を促進する。
<対話強化>
- 対中南米経済関係に関する国内、当該国における官民ハイレベル対話の設置を進める。その一環として、官民の参加する賢人会議(日伯、日チリ)を通じた対話を強化する。
提言3:経済関係活性化に資する枠組み(EPA等)作り
<日・メキシコEPA>
- 4月1日に発効した日・メキシコ経済連携協定(EPA)を活用し、日・メキシコ間のみならず、北米・中米における交易の拠点としてメキシコを位置付け、メキシコとの経済関係を強化する。また、同協定により設置されるビジネス環境整備委員会を活用し、官民が連携してメキシコに於けるビジネス環境の整備を進める。この委員会のノウハウは他の中南米諸国とのビジネス環境の整備においても活用することが出来る。
<日・チリEPA/FTA共同研究会>
- 日・チリEPA/FTA共同研究会の推進により、南米における重要拠点の一つであるチリとの経済連携強化の方策を検討する。
<メルコスール等他の国・地域との法的枠組み等>
- 中南米の他の国・地域、特にメルコスールについて、EPAを含む経済関係強化のための方策について鋭意研究する。その際、ビジネス環境を改善するため、ニーズに応じ、投資協定、租税条約、社会保障協定、相互承認協定等の法的枠組みを整備する可能性も検討する。
提言4:ビジネス機会拡大のための取組の強化
<インフラ整備への協力>
- プエブラ・パナマ計画(PPP)、南米地域インフラ統合計画(IIRSA)等の中南米地域の統合を見据えたインフラ整備に向けたイニシアティブを積極的に支援する。協力体制をより効果的なものにするため、広域協力や三角協力(南南協力)も推進する。
<ビジネス環境整備に資する経済・技術協力>
- 日本企業の中南米進出を支援するビジネス環境整備の観点から、以下の分野を含む経済・技術協力を実施する。
- 技術者の育成につながる理数分野の初等・中等教育
- 貿易・投資促進に資するマーケティング、検疫、貿易実務等
- 産業基盤強化に寄与する中小企業・裾野産業育成
<クリーン開発メカニズム(CDM)の活用>
- 環境保護と開発の両立に資するクリーン開発メカニズム(CDM)の活用を推進するため、相手国企業と日本企業とのマッチング支援、能力開発、資金協力など、JETRO、JICA、JBIC等と連携した支援を行う。
<在外公館の機能強化>
- 各在外公館における任国の経済情勢及びビジネス環境・企業活動に関する情報収集・分析・対外発信機能を強化する。また、在外公館においては、企業支援に積極的に取組む。
提言5:国際社会及び地域機関との連携強化
<国際機関等との連携>
- 中南米地域の発展に資するプロジェクトに対する支援に関し、国連、世銀、米州開発銀行(IDB)、中米経済統合銀行(CABEI)、アンデス開発公社(ADC)等の開発機関との連携を強化する。昨年日本がオブザーバー加入したラテンアメリカ統合連合(ALADI)において有意義な情報収集を行う。国連の「人間の安全保障基金」、世銀、IDBの日本特別基金の効果的な活用も視野に入れる。
<東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)の活用>
- 東アジア・ラテンアメリカ協力フォーラム(FEALAC)の場を活用し、日本と中南米諸国の経済関係強化を視野に入れつつ、両地域の経済関係緊密化に向けて積極的に取り組む。
<国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)への加盟の検討>
- 国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)への加盟を通じて、中南米の経済情勢に関するより効果的な情報収集、協力活動を行うことを検討する。