アジア

世界地図アジア | 北米 | 中南米 | 欧州(NIS諸国を含む) | 大洋州 | 中東 | アフリカ

日メコン交流年2009

メコンのお正月

 メコン5か国のうち、カンボジア(お正月はカンボジアの言葉で、チョール・チュナム・トメイ)、ラオス(同、ピーマイラオ)、ミャンマー(同、ティンジャン)、タイ(同、ソンクラーン)の4か国は、1年のうちでもっとも暑さの厳しくなる4月の中旬にお正月を迎えます。農民は農作業から解放され、一息できる時期です。人々は、旧年の汚れを落とし、新年の幸せを祈って、誰かれかまわず、水をかけ合います。

 メコン5か国のうち唯一ベトナムは旧暦の正月「テト」を祝いますが、通常は1月下旬から2月上旬にテト元旦を迎えます。テト前の年末は、テトの風物詩である花市が立ち、年末年始の買い出しや帰省ラッシュで慌ただしくなりますが、テト元旦となると一気に静かになり、親戚や友人を訪ね合って正月料理を囲みます。テトを彩るのは、北部でバインチュン、南部ではバインテトと呼ばれる正月独特のちまきと、北部ではピンクの桃の花、南部では黄色の梅の花で、届いた年賀カードはこの桃や梅の木の枝に飾ります。お年玉をあげる習慣もあり、七福神の絵など鮮やかな赤色のお年玉袋に入れて、年長から年下のみならず、年下から年長へも渡します。
 各家庭で新年最初に迎える客人により、その年の吉凶を占う「ソンダット」という風習があり、その年に縁起が良いとされる生まれ年の人は、早くから新年訪問の「予約」が入ります。

 カンボジアにも日本と同様に十二支があるのですが、1月1日ではなく、カンボジア新年(4月中旬)をもって干支が改まります。
 カンボジアでは、人々は寺院に行き、仏塔をかたどった砂山(プノム・クサイッチュ)を作って祝福を受けます。
 正月の三日間は夜になると村民たちが寺や学校などの広場に集まり、男女が交互に並んで日本の盆踊りのように円陣を作って踊り明かします。
 地方によっては互いに水をかけ合い、老若男女、貧富を問わず、新しい年への入りを祝して喜び、まもなく到来する雨期の豊かな降雨を願います。

 ラオスでは、4月14日~16日、三日間にわたってお祝いします。水かけ祭としてよく知られています。この時期ラオスは1年のうちで最も暑く、日中は気温が40度近くまで上がるのですが、人々にとっては一番楽しい時期です。
 人々は寺に集まり、安置されている仏像を取り出して洗い清めます。これは新年を迎えるにあたり、旧年中の悪い出来事を洗い流す意味があります。仏像のほか、村の長老や両親など敬愛すべき人に対しても水をかけますが、これは旧年中にあったかもしれぬ失礼な言動を詫び、年頭にあたって教えを乞うために行うのだといわれています。水かけの習慣については、ラオスの神話の中で、知恵比べに負けて首を切られた神様が、7人の娘達に向かって「自分の首が乾くと世に災いが起こるだろう」と予言したことから、一年で一番暑いお正月に水をかけ合う習慣ができたという説もあります。
 旧王都ルアンパバーンでは、お坊さんの他に、コンテストで選ばれた美女7人が、神様の首を手に聖なる動物に乗って街中をパレードします。このパレードには、日本の「なまはげ」に似たラオスの創造神プーニュとニャーニュが参加します。プーニュとニャーニュのお面と衣装はルアンパバーンの寺院に大切に保管され、年に一度だけ姿をみせます。ラオスのお正月は、仏教と土着の信仰が結びついた行事です。しかし、今日ではこのような意味合いは幾分薄れ、誰でもかまわず賑やかに楽しむための水かけとなっています。
 また、人々は寺の境内やメコン川の川原に出かけて、砂で小さな仏塔を作り、また、市場へ行って生きたカニ、魚、小鳥などの小動物を買って、メコン河に放してやることで、功徳を積み、来世の幸せを願うのです。

 ミャンマー人は大のお祭り好きです。中でも最も賑やかなのが、ミャンマー歴の年末の三日間(一年中で最も暑い4月中旬)に行われる、水かけ祭り「ティンジャン」です。事務所も学校もティンジャンの始まる前日から休日になるので、実際は四日間の祭りと同じです。
 水のかけ方にはさまざまな方法があり、彫刻の飾りのついたきれいな銀製の水鉢に入れた水を榊の木の葉の束につけて、来訪者の肩などに優しくかけるかけ方、あるいは大きなかめからボウルで水をすくい上げて背中や首などにかけるかけ方、はては長いホースで直接水を噴きつけるような激しいかけ方まであります。
 どんなかけ方をしても、水をかけるのはすべて相手に対する祝福、善意、尊敬のしるしと受け止められます。
 水祭りの期間には、年輩者は功徳を施し、祈りを捧げ、瞑想を行い、僧侶にお布施を捧げたりします。その期間には、自分の買っていた魚や牛を放すひともいるといいます。

 タイの旧正月を祝う水かけ祭りは、バラモン陰暦の元旦にあたる日をはさんで三連休になります。新暦の4月13日~15日にあたります。普段は人と車で混雑するバンコクも、この時ばかりは閑散となります。
 元来、陰暦五月の満月の日は、乾期から雨期へ移行する日とされてきました。仏像や僧侶に水をかけ、砂の仏塔を建てることで三宝帰依(仏法僧に一切をまかせた信心のこと)を表現し、功徳を積む機会でした。また長老たちに水をかけて、長寿を願いました。現在でも、子孫たちが集まり、皆で祖父母の手足に少し水をかけ、黄色いターメリックを肌に擦り込んで健康を願います。年配者の方は、そんな子孫達の手首に綿糸を巻くことで、彼らの健康や出稼ぎの無事を願うのです。
 4月は一年で一番暑い月なので、お互いに水を掛け合うことは、無礼講として一種の娯楽となり、健在では信仰より観光やお祭りとして有名です。とりわけ、チェンマイの水かけ祭りは国内外から多くの観光客を集めています。
 農村からみると、この時期は長かった乾期が終わり、雨を待つ時であり、雨が降り始めると、田植えの準備に取りかかることができます。水かけ祭りは、農耕サイクルの始まりを告げるものなのです。

(以下を参考にしました)

 綾部恒雄、林行夫編著『タイを知るための60章』明石書店(2004)
 石井米雄監修、石井米雄・吉川利治編『タイの事典』同朋舎出版(1993)
 石井米雄監修、桜井由躬雄・桃木至朗編『ベトナムの事典』同朋舎(1999)
 今川幸雄著『眞蝋風土記』KDDクリエイティブ(1997)
 上田広美・岡田知子編著『カンボジアを知るための60章』明石書店(2006)
 大貫美佐子著『アジア!イチャリバ、チョーデー アジアからの手紙』
 光村教育図書株式会社(2001)
 冨田健次著『ベトナム語はじめの一歩まえ』DHC(2001)
 富田竹二郎編『タイ日大辞典』日本タイクラブ(1997)
 佐久間平喜著『ビルマに暮らして―閉ざされた国の人々と生活―』勁草書房(1994)
 田島高志著『ミャンマーが見えてくる 再建への姿とパゴダ文化』
 サイマル出版会(2002)
 山田均著『タイ』(「世界の食文化5」)農文協(2003)
 ラオス文化研究所編『ラオス概説』めこん(2003)
 『ワールドガイド・タイ』JTBパブリッシング(2007)

このページのトップへ戻る
前のページへ戻る | 目次へ戻る