中東

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イスラム世界との文明間対話セミナー第6回リヤド会合
(於:サウジアラビア・リヤド)
概要と評価

平成20年3月

1.参加者

日本及びイスラム諸国約30ヶ国(アラブ、アジア、アフリカ、欧州等)の政界・学術界を中心とした有識者約100名

2.日程

3月23日(日曜日)開会式
3月24日(月曜日)第1・2セッション/第1ワークショップ
3月25日(火曜日)第3・4セッション/第2ワークショップ/閉会式

3.概要

(1)「イスラム世界との文明間対話セミナー」は、2001年、河野外務大臣(当時)が湾岸諸国を訪問した際に提唱した「湾岸諸国との重層的関係に向けた新構想」(通称:河野イニシアティブ)の柱のひとつであり、2002年から2006年まで日本及び中東イスラム諸国において5回の会合が開催された。

(2)今次会合には、我が国からは板垣雄三東京大学名誉教授を始めとする有識者13名が、イスラム世界側からはアラブ諸国、アフリカ諸国等を中心とする約30ヶ国の主に宗教、思想、歴史等に知見を有す有識者約90名が参加した。

(3)本セミナーは従来、日本とイスラム世界の有識者が自由な個人の立場から意見交換を行うものであり、政策提言や合意文書作成を目的とするものではないとの共通認識に基づき開催されてきたが、今次会合ホスト国サウジアラビアの意向により、今回、有識者による提言の形式を取ったコミュニケを採択(骨子別添)。

(4)会合では、統一テーマ「文化と宗教の尊重」の下に全員参加形式の4セッション( 1)「グローバル化する世界の中の宗教」、2)「教育と宗教の尊重」、3)「マスメディアと宗教の尊重」、4)「様々な社会の間での人類普遍の価値共有」)及び2ワークショップ( 1)「若い心と未来のパートナーシップ」、2)「イスラム世界との文明間対話の組織化へ向けて」)が設けられ、日本側及びイスラム世界側から各セッションにおいて基調講演と補足コメントが行われ、右に基づく議論が行われた。また、開会式においてはサウジアラビア(外務担当国務大臣他2名)、日本(宇野外務大臣政務官)から開会挨拶を行った。最後に、閉会式においてサウジアラビア(トルキー外務次官)、日本(板垣雄三東京大学名誉教授)から閉会挨拶を行い、今次会合の成果文書として「有識者による提言(コミュニケ)」が採択された。

4.評価

(1)サウジ国王のイニシアティブ:今回特筆されるのは、極めて異例なことであったがアブドッラー国王がセミナー参加者全員を国王私邸に招き、その席で、三大啓示宗教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教)間の対話、文明間の対話推進のイニシアティブを打ち上げたことである。国王は、昨年11月バチカンを訪問してローマ法王と会見し、宗教間の対話の推進に強い関心を有しており、国王の関心に今回の対話セミナーがうまく重なったといえる。現地報道によれば、国王は、2年前から宗教間対話の構想をしたため、国内のイスラム法学者の同意をとりつけ、今回の発表に至ったとのことである。これを裏付けるかのように、カトリックの総本山バチカンとイスラム教の二大聖地を擁するサウジが国交樹立に向け急速に動き始めたことが内外のメディアに報じられている。

(2)日本外交のプレゼンス:サウジ国王のイニシアティブは世界のメディアが注目するニュースとなったが、このきっかけを作ったのが、河野洋平衆議院議長が外務大臣当時に提唱して板垣東大名誉教授を議長として開始され、今回第6回会合を開催した日本とイスラム世界の文明間対話である。河野議長のイニシアティブが宇野政務官の冒頭挨拶やコミュニケに盛り込まれたこと、参加者の代表として、宇野政務官が、日本とイスラム世界の相互理解の重要性と文明間対話の継続を国王に対して直接伝達し、これについても広く報道されたことは日本外交にとっても大きな意味があった。宇野政務官が出席した文明間対話冒頭の挨拶もテレビ中継され、日本の存在感を示すことができた。

(3)参加者所属国の国際的拡がり:当初バーレーンで第1回会合が開催された時は、参加者の所属国は13ヵ国であった。今回は、サウジが国王の意向をうけ、国の威信をかけて参加者を募ったため全体として約30ヵ国から約100名が参加した。イスラム側参加者の所属国は従来、中東アラブ諸国、イラン、一部アジア諸国であったが、今回は、中東ではイランに加え、トルコ、南アジアからはパキスタン、インドさらには、欧州からはロシア、英、仏、ボスニア、中央アジアからはカザフスタン、アフリカからは、ブルキナファソ、セネガル、チャドが参加し、参加者所属国の地域的な拡がりが特徴としてあげられる。

(4)保守的なサウジにあっての男女混合の対話:今回のセミナーには、テレビ放映された開会式を含め、サウジ側からも女性の有識者が参加した。一方、日本側からも、青山温子・名古屋大学大学院医学系研究科教授(ジェンダー問題をはじめ中東の保健開発分野にも詳しい)が教育と宗教のセッションで、具体的な科学データを用いたプレゼンテーションを行い、また、桜井啓子早稲田大学教授(比較社会学、イラン地域研究専門家)は、学生交流ワークショップのモデレーターを務め、それぞれ、日本の女性有識者のプレゼンスを強力に参加者に訴えることができた。非常に保守的なサウジ社会にあって、このような男女がともに議論に参加する対話セミナーが実施されたこと自体、サウジの民主化に向けての変化の兆しととらえることができる。

(5)若者の対話セミナー参加:今回の新たな試みとして「青年の相互理解とパートナーシップ」、「対話の組織化」に焦点をあてた2つのワークショップが開催された。青年の交流WSについては、日本側からは、10倍以上の応募の中から選抜された4名の学生とサウジ人留学生が参加し、先方は女子学生を含むサウジ人学生が参加し活発な意見交換が実施された。また、双方の有識者も参加した。対話を限られた有識者だけでなく、世代を超えて拡大していくためにも有意義であったと考えられる。

(6)組織化ワークショップと有識者からのメッセージ(コミュニケの発出):今回のセミナーにおいては、具体的な成果を打ち出すべきとのホスト国サウジの強い意向もあり、初めて対話の組織化に向けてのワークショップが催され、これまでの対話セミナーの歴史の中で初めてコミュニケが発出された。なお、コミュニケには、バーレーンが日本とともに本件対話の推進に貢献してきたことが盛り込まれた。

【参考】コミュニケ骨子(2008年3月25日発表)

(前文)

(提言)

1)対話セミナーの継続

2)NGOの対話活性化への貢献

3)男女を問わない青年の対話セミナーへの参加

4)対話の概念と宗教の尊重の文化を発展させるための報道機関の役割の重要性

5)人間的価値を強化するための研究推進に向けてより多くの研究者の参加を呼びかけるための教育・研究機関、大学の役割の確認

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