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平成24年11月8日
御列席の皆様,
本日,日本政府を代表し,バリ民主主義フォーラムに参加できることを光栄に思います。
インドネシアは,政治的,経済的な困難を乗り越えて,短期間で民主主義制度を確立しました。ひと度民主化を成し遂げ,安定と繁栄を手にしてからは,地域,世界の平和と安定のために積極的に取り組んでいます。日本が,インドネシアと共にアフガニスタンに対するコミュニティ開発支援に取り組んでいるのはその一例です。
インドネシアが,バリ民主主義フォーラムを開催し,国際社会に民主主義の拡大と深化のための機会を提供していることを高く評価します。日本は,選挙訪問プログラムやワークショップの実施等を通じ,バリ民主主義フォーラムの発展に貢献してきました。日本は,今後もこのフォーラムを支持していく所存であり,この機会を借りて,このフォーラムの傘下にある平和民主主義研究所(IPD)がエジプトの民主化の経験と教訓を共有するためのワークショップを開催する経費として,約50万米ドルの協力を行うことを表明します。
御列席の皆様,
今回のテーマであるグローバル・ガバナンスとは,国際社会の平和と繁栄を確保するために各国が国際的なルール・規範に基づき,それぞれの政策を調整し,協調した行動・協力関係を形成していくプロセス,あるいは機構を指すものといえます。このグローバル・ガバナンスが新たな国際的課題に適切に対処し,平和志向で相互信頼を国家間関係の土台とする21世紀の新しい考え方(mindset)の下で大きな役割を果たしていくためには,合意されたルールにのっとって問題を解決するという現代国家としての責任ある姿勢が重要です。また,予見可能性,効率性及び正統性を備えていることが求められ,そのためには,機構のメンバーシップも含めた改革への不断の努力が不可欠です。
そうした努力の一例として,インドネシアもメンバーとして貢献しているG20サミットの誕生が挙げられます。2008年に世界金融危機が深刻化したことを受け,先進国のみならず,新興国も国際的な政策協調に主体的に参加することの重要性が強く認識され,G20サミットが初めて開催されました。それ以後,G20は,世界経済の安定と成長のため,G8と共に大きな役割を果たし続けています。
また,グローバルな問題を解決する国際的な正統性が求められる機構の典型が国連安保理ですが,日本は,安保理改革なくして新しい時代のグローバル・ガバナンスの実現はないと考えています。冷戦終結後,しばらくの間,安保理は活動を活発化させ期待が高まりました。しかし,昨今,安保理が重要な問題につき,十分有効な対応を取れないケースが見られます。こうした中,安保理の代表性を向上させ,国際社会の声をよりバランスよく反映させていくことは,その実効性を確保していく上で不可欠です。日本は,安保理改革の早期実現に向けて,各国と協力していく所存です。
御列席の皆様,
これからのグローバル・ガバナンスの在り方を考える時,民主化の観点が重要であることは言うまでもありません。それは,民主化の進展により,各主体の意見がより正統性を持つと同時に,各主体間の協調・協力関係を形成することが容易になり,それがより良いグローバル・ガバナンスにつながるからです。また,逆に,より良いグローバル・ガバナンスは民主化の促進につながります。
日本は,このような観点から,民主化の後押しに重点を置く「人間の安全保障」を重視しています。個人の尊厳に基礎を置き,一人ひとりの能力を高める「人間の安全保障」の考え方は,グローバル・ガバナンスを規定する行動規範としても大いなる可能性を秘めていると確信しております。国際社会全体の協力が不可欠な国際的課題への取組において,グローバル・ガバナンスは重要な意味を持ちます。日本は,引き続きミレニアム開発目標(MDGs)達成や気候変動問題の解決に向けた新しい国際枠組みの構築に積極的に貢献します。さらに,日本は,2015年より先の国際開発目標(ポストMDGs)策定に向けたプロセスにも積極的に貢献していきます。
このように,民主化の進展は,より良いグローバル・ガバナンスにつながり,そのことが更に民主化を推進するという好循環を生み出します。グローバル・ガバナンスを補完するものとして,このような好循環を地域において実現する重要な役割を果たすのが,ASEAN等のリージョナル・ガバナンスです。
アジアにおいては,この10年の間に,インドネシアに続き,東ティモール,ブータン,ネパール,モルディブといった国々が民主化を果たしました。スリランカでも,国民和解と新たな国づくりが進んでおり,また,パキスタンにおいても,軍政を経て民主政権が復活しています。特に,昨年民政移管が行われたミャンマーでは,民主化,国民和解,経済改革に向けた真摯な取組が進んでいます。政治体制,経済発展段階,宗教,文化,伝統など,アジア各国が置かれた状況は多様であり,民主化のプロセスやスピードは自ずと異なってきます。
また,民主化は,各国が自発的に進展させていくこと,そして,国際社会がその努力を支援することが重要です。中でも,ミャンマーにおける着実かつ真摯な改革の流れは,国際社会が一体となって支援していくべきです。この文脈で,これまで地域の民主化に積極的に取り組んできたASEANが果たしてきた役割は大きく,日本は,これを高く評価します。同時に日本としても,先月,ミャンマーへの来年1月の延滞債務問題の解決と近い将来の新規円借款による支援の再開を表明し,国際社会による支援の流れを後押ししています。
御列席の皆様,
21世紀は,アジアの世紀です。世界の関心はアジアの高い経済成長に集まっていますが,ASEANの成功は,アジアがリージョナル・ガバナンスの推進に当たっても世界の模範になれることを示しているのではないでしょうか。
慰安婦問題についての言及がありましたが,この点についての我が国政府の立場は様々な場で明らかにしており,ここで詳しく繰り返しません。ただし,我が国は確立した法的立場を踏まえつつ,人道的観点から最大限の努力を行うなど,真摯に,誠実に向き合ってきたことは申し上げたいと思います。日本は,第二次世界大戦後,一貫して平和国家としての歩みを堅持し,アジア地域はもちろん国際社会の平和と繁栄に積極的に貢献してまいりました。日本は,引き続き民主主義の進展,そしてより良いグローバル・ガバナンスとリージョナル・ガバナンスの実現のため,バリ民主主義フォーラム等の機会も活用しながら,ASEANや地域の各国との積極的な協力を惜しまない所存です。
御清聴ありがとうございました。