欧州連合(EU)
欧州連合(EU)
概況
一般事情
1 欧州連合(EU:European Union)の概要
欧州連合条約に基づく、経済通貨同盟、共通外交・安全保障政策、警察・刑事司法協力等のより幅広い分野での協力を進めている政治・経済統合体。
経済・通貨同盟については、国家主権の一部を委譲。域外に対する統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場を形成している。その他の分野についても、加盟国の権限を前提としつつ、最大限EUとしての共通の立場を取ることで、政治的にも「一つの声」で発言している。
2 加盟国(27か国)
アイルランド イタリア エストニア オーストリア オランダ キプロス ギリシャ クロアチア スウェーデン スペイン スロバキア スロベニア チェコ デンマーク ドイツ(加盟時西ドイツ) ハンガリー フィンランド フランス ブルガリア ベルギー ポーランド ポルトガル マルタ ラトビア リトアニア ルーマニア ルクセンブルク(英国は2020年1月31日を以てEUを離脱)
3 総面積
412万平方キロメートル(Eurostat)(日本の約11倍)
4 総人口(2023年)
4億4, 838万人(Eurostat)(日本の約3.6倍)
5 略史
年月 | 略史 |
---|---|
1952年 | 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立(パリ条約発効)。原加盟国:フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク |
1958年 | 欧州経済共同体(EEC)、欧州原子力共同体(EURATOM)設立(ローマ条約発効) |
1967年 | 3共同体の主要機関統合 |
1968年 | 関税同盟完成 |
1973年 | 英国、アイルランド、デンマーク加盟 |
1979年 | 欧州議会初の直接選挙実施、欧州通貨制度(EMS)導入 |
1981年 | ギリシャ加盟 |
1986年 | スペイン、ポルトガル加盟 |
1987年 | 「単一欧州議定書」発効 |
1992年末 | 域内市場統合完成 |
1993年11月 | マーストリヒト条約発効 |
1994年1月 | 欧州経済領域(EEA)発足 |
1995年1月 | オーストリア、スウェーデン、フィンランド加盟 |
1999年1月 | 経済通貨同盟第3段階への移行(ユーロの導入) |
1999年5月 | アムステルダム条約発効 |
2002年1月 | ユーロ紙幣・硬貨の流通開始 |
2002年7月 | ECSC条約の失効、ECSC解消 |
2003年2月 | ニース条約発効 |
2004年5月 | 中東欧等10か国が加盟 |
2007年1月 | ブルガリア、ルーマニア加盟 |
2009年12月 | リスボン条約発効 |
2013年7月 | クロアチア加盟 |
2020年1月 | 英国、EUを離脱 |
経済
1 GDP(出典:IMF World Economic Outlook Database,Oct. 2023)
18兆3,511億ドル(2023年)
2 一人当たりGDP(出典:World Bank, World Development Indicators))
37,433ドル(2022年)
3 主要経済指標
2023年 | 2024年 見通し |
2025年 見通し |
|
---|---|---|---|
実質GDP成長率 | 0.5% | 0.9% | 1.7% |
インフレ率 | 6.3% | 3.0% | 2.5% |
(出典:欧州委員会2024年冬の経済見通し)
2023年 | 2024年 見通し |
2025年 見通し |
|
---|---|---|---|
失業率 | 6.0% | 6.0% | 5.9% |
財政収支(対GDP比) | -3.2% | -2.8% | -2.7% |
(出典:欧州委員会2023年秋の経済見通し)
4 貿易総額(EU27か国)(出典:Eurostat)
- (1)輸出
- 2兆5,721億ユーロ(2022年、EU域外)
- (2)輸入
- 3兆67億ユーロ(2022年、EU域外)
5 主要貿易相手国(2022年)(出典:Eurostat)
- (1)輸出
- 米国(19.8%)、英国(12.8%)、中国(9.0%)、スイス(7.3%)、トルコ(3.9%)、日本(2.8%)、ノルウェー(2.6%)、韓国(2.3%)、ロシア(2.1%)
- (2)輸入
- 中国(20.9%)、米国(11.9%)、英国(7.2%)、ロシア(6.7%)、ノルウェー(5.4%)、スイス(4.8%)、トルコ(3.3%)、韓国(2.4%)、日本(2.3%)
6 通貨
1999年1月にEU加盟国中11か国で単一通貨ユーロを導入(ユーロ貨幣の流通は2002年1月から)。2001年1月にギリシャ、2007年1月にスロベニア、2008年1月にマルタ、キプロス、2009年1月よりスロバキア、2011年1月よりエストニア、2014年1月よりラトビア、2015年1月よりリトアニア、2023年1月にクロアチアが加わり、参加国は20か国に拡大。
7 為替レート(出典:欧州中央銀行)
1ユーロ=154.32円(2023年2月14日~2024年2月14日の平均)
8 財政
予算額(2021~2027年)約2,018億ユーロ
9 経済概況
ユーロ圏の実質GDP成長率は、2022年の3.4%(実績)に対し、2023年は0.6%、2024年は1.2%の予測。
EUについては2022年の3.4%(実績)に対し、2023年は0.6%、2024年は1.3%の予測。
欧州経済は、2023年の成長鈍化に続き、2024年も従前の予想を下回って弱い成長となる見通し。23年は家計の購買力低下、強い金融引締め、財政支援の一部撤廃及び外需の落ち込みで経済成長が抑制。2024年の経済活動は次第に加速すると予想されている。インフレ率の低下が続き、実質賃金が上昇、堅調な労働市場が消費の回復を支えると見られている。貸出条件の緩和により投資が増加し、貿易の正常化が見込まれている。成長ペースは2024年後半時点で安定し、2025年末まで続くと見られている。
(2024年2月、欧州委員会の経済見通しを基に作成)
日本・EU関係
1 外交関係
- 1959年
- 駐ベルギー大使を3共同体日本政府代表に任命。
- 1974年
- 駐日欧州共同体委員会代表部設置(2009年に駐日欧州連合代表部に名称変更)。
- 1975年
- 欧州共同体日本政府代表部開設(1996年に欧州連合日本政府代表部に名称変更)。
2 政治関係
1991年7月の「日本・EC共同宣言」(ハーグ)に基づき多方面にわたる密接な協力関係を構築。1991年以来「日EU定期首脳協議」(EU側より議長国首脳及び欧州委員会委員長が出席。リスボン条約発効(2009年12月)以降は、EU側は欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が出席)を原則年1回の頻度で開催(前回2023年7月、ブリュッセル)。
3 経済関係
(1)対日貿易
- (ア)貿易額(2023年、財務省・貿易統計)
- 日本の輸出 10兆3,741億円
- 日本の輸入 11兆2,938億円
- (イ)対日貿易主要品目(2023年、財務省・貿易統計)
- 日本の輸出 自動車、自動車の部分品、科学光学機器、建設用・鉱山用機械、原動機、有機化合物
- 日本の輸入 医薬品、自動車、科学光学機器、有機化合物、バッグ類
(2)直接投資
- フロー、2022年、財務省
- 日本の対外直接投資(日本からEU) 3兆7,608億円
- 日本の対内直接投資(EUから日本) 2,207億円
- (ストック、2022年末時点、財務省)
- 日本の対外直接投資(日本からEU) 40兆8,282億円
- 日本の対内直接投資(EUから日本) 5兆6,065億円
4 文化関係
日EUの文脈でのセミナー等の知的交流のほか市民交流・文化交流の促進を目的とした様々な交流事業が実施されている。2015年6月、俳句を通じた交流強化のため、ファン=ロンパイ元欧州理事会議長に「日EU俳句交流大使」を委嘱した(委嘱期間2年間、2023年6月に更新)。
5 要人往来
年月 | 要人名 |
---|---|
1991年7月 | 第1回日EC定期首脳協議(海部総理大臣、ハーグ) |
1992年7月 | 第2回日EC定期首脳協議(宮沢総理大臣、ロンドン) |
1993年1月 | 渡辺副総理欧州委員会訪問 |
1994年5月 | 羽田総理大臣欧州委員会訪問 |
1995年6月 | 第4回日EU定期首脳協議(村山総理大臣、パリ) |
1997年6月 | 第6回日EU定期首脳協議(橋本総理大臣、ハーグ) |
1999年6月 | 第8回日EU定期首脳協議(小渕総理大臣、ボン) |
2000年5月 | 森総理大臣・プローディ欧州委員会委員長会談(ローマ) |
2001年12月 | 第10回日EU定期首脳協議(小泉総理大臣、ブリュッセル) |
2003年5月 | 第12回日EU定期首脳協議(小泉総理大臣、アテネ) |
2005年5月 | 第14回日EU定期首脳協議(小泉総理大臣、ルクセンブルク) |
2006年5月 | 麻生外務大臣・バローゾ欧州委員会委員長表敬(ブリュッセル) |
2007年1月 | 安倍総理大臣・バローゾ欧州委員会委員長会談(ブリュッセル) |
2007年6月 | 第16回日EU定期首脳協議(安倍総理大臣、ベルリン) |
2009年5月 | 第18回日EU定期首脳協議(麻生総理大臣、プラハ) |
2011年5月 | 松本外務大臣・バローゾ欧州委員会委員長表敬(ブリュッセル) 第20回日EU定期首脳協議(菅総理大臣、ブリュッセル) |
2014年5月 | 第22回日EU定期首脳協議(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2014年6月 | 日EU首脳会談(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2015年1月 | 日EU外相会談(岸田外務大臣、ブリュッセル) |
2016年5月 | 日EU首脳会談(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2017年3月 | 日EU首脳会談(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2017年7月 | 第24回日EU定期首脳協議(安倍総理大臣、岸田外務大臣、ブリュッセル) |
2018年4月 | 日EU外相会談(河野外務大臣、ブリュッセル) |
2018年10月 | 日EU首脳会談(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2019年4月 | 第26回日EU定期首脳協議(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2019年9月 | 欧州連結性フォーラム(安倍総理大臣、ブリュッセル) |
2019年12月 | 日EU外相ワーキングランチ(茂木外務大臣、マドリード) |
2021年5月 | 日EU外相会談(茂木外務大臣、ロンドン) |
2022年2月 | 日EU外相会談(林外務大臣、ドイツ) |
2022年3月 | フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との会談(岸田総理大臣、ブリュッセル) ミシェル欧州理事会議長との会談(岸田総理大臣、ブリュッセル) |
2022年4月 | 日EU外相ワーキングランチ(林外務大臣、マドリード) |
2022年6月 | ミシェル欧州理事会議長との会談(岸田総理大臣、エルマウ) フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との会談(岸田総理大臣、エルマウ) |
2023年4月 | 日EU外相ワーキングランチ、日 EU・EPA 合同委員会第4回会合(林外務大臣、ブリュッセル) |
2023年5月 | スウェーデン・EU共催「インド太平洋閣僚会合」(林外務大臣、ストックホルム) |
2023年7月 | 第29回日EU定期首脳協議(岸田総理大臣、ブリュッセル) |
2023年12月 | ミシェル欧州理事会議長との懇談(岸田総理大臣、ドバイ) フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との会談(岸田総理大臣、ドバイ) |
年月 | 要人名 |
---|---|
1993年7月 | クリストファーセン欧州委員会副委員長(欧州委員会委員長代行)訪日、第3回日・EC定期首脳協議 |
1993年10月 | ヴァン・ミールト欧州委員会副委員長訪日 |
1993年11月 | ブリタン欧州委員会副委員長訪日 |
1995年6月・9月 | ブリタン欧州委員会副委員長訪日 |
1996年4月・5月 | ブリタン欧州委員会副委員長訪日 |
1996年9-10月 | ブルートン・アイルランド首相、サンテール欧州委員会委員長訪日、第5回日EU定期首脳協議 |
1996年12月 | ヘンシュ欧州議会議長訪日 |
1997年9月 | ブリタン欧州委員会副委員長訪日(ASEM経済閣僚会議) |
1998年1月 | ブレア英首相、サンテール欧州委員会委員長訪日、第7回日EU定期首脳協議 |
1998年10月 | ブリタン委員会副委員長他訪日(日・EU閣僚会議) |
2000年7月 | シラク仏大統領、プローディ欧州委員会委員長来日、第9回日EU定期首脳協議 |
2002年4月 | プローディ欧州委員会委員長来日(公式実務訪問賓客) |
2002年7月 | ラスムセン・デンマーク首相、プローディ欧州委員会委員長訪日、第11回日EU定期首脳協議 |
2004年6月 | アハーン・アイルランド首相、プローディ欧州委員会委員長訪日、第13回日EU定期首脳協議 |
2006年4月 | シュッセル・オーストリア首相、バローゾ欧州委員会委員長訪日、第15回日EU定期首脳協議 |
2008年2月 | ぺテリング欧州議会議長訪日 |
2008年4月 | ヤンシャ・スロベニア首相、バローゾ欧州委員会委員長訪日、第17回日EU定期首脳協議 |
2008年7月 | バローゾ欧州委員会委員長訪日、北海道洞爺湖サミット |
2010年4月 | ファン=ロンパイ欧州理事会議長、バローゾ欧州委員会委員長、アシュトン外務・安全保障政策上級代表、第19回日EU定期首脳協議 |
2011年11月 | アシュトン外務・安全保障政策上級代表訪日 |
2013年10月 | アシュトン外務・安全保障政策上級代表訪日 |
2013年11月 | ファン=ロンパイ欧州理事会議長、バローゾ欧州委員会委員長訪日、第21回日EU定期首脳協議 |
2015年5月 | トゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長、モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表、マルムストローム貿易担当欧州委員訪日、第23回日EU定期首脳協議 |
2016年4月 | モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表訪日(G7広島外相会合) |
2016年5月 | トゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長訪日(G7伊勢志摩サミット) |
2017年6月・7月 | マルムストローム貿易担当欧州委員訪日(日EU・EPA交渉) |
2018年7月 | トゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長訪日(第25回日EU定期首脳協議) |
2018年10月 | カタイネン欧州委員会副委員長訪日(日EUハイレベル産業・貿易・経済対話) |
2019年4月 | マルムストローム貿易担当欧州委員訪日(日EU・EPA第1回合同委員会) |
2019年6月 | トゥスク欧州理事会議長、ユンカー欧州委員会委員長訪日(G20大阪サミット) |
2019年10月 | モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表訪日(即位の礼) |
2022年5月 | 第28回日EU定期首脳協議 |
2022年9月 | ミシェル欧州理事会議長訪日(故安倍晋三国葬儀、岸田総理大臣・ミシェル欧州理事会議長会談) |
2023年5月 | ミシェル欧州理事会理事長、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長訪日(G7広島サミット) |
2023年10月 | ドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長兼貿易担当欧州委員訪日( G7貿易大臣会合、日EUハイレベル経済対話) |
2023年11月 | ボレル外務・安全保障政策上級代表訪日(G7外相会合) |
年月 | 会議名 |
---|---|
2020年5月 | 日EU首脳協議 |
2021年1月 | EU外務理事会(茂木外務大臣) |
2021年2月 | 日EU・EPA合同委員会第2回会合(茂木外務大臣) |
2021年5月 | 第27回日EU定期首脳協議 |
2022年2月 | フランス・EU共催「インド太平洋閣僚会議」(林外務大臣) |
2022年3月 | 日EU・EPA合同委員会第3回会合(林外務大臣) |
2022年10月 | 日EUハイレベル経済対話(林外務大臣) |
2023年6月 | 日EUハイレベル経済対話(林外務大臣) |
6 日本・EU間の条約・取極
- 1974年
- 欧州共同体委員会の代表部設置・特権免除協定
- 1989年
- 欧州原子力共同体との制御核融合協力協定
- 2002年
- 相互承認に関する日本国と欧州共同体との間の協定(MRA)
- 2003年
- 反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定
- 2006年
- 原子力の平和的利用に関する協力のための日本国政府と欧州原子力共同体との間の協定
- 2007年
- 日・欧州原子力共同体核融合エネルギー協定
- 2008年
- 税関に係る事項における協力及び相互行政支援に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定
- 2011年
- 刑事に関する共助に関する日本国と欧州連合との間の協定
- 2011年
- 日EC科学技術協力協定
- 2019年
- 日EU経済連携協定(EPA)及び戦略的パートナーシップ協定(SPA)
- 2021年
- 日・EU航空安全協定
政策
1 経済統合
(1)関税同盟と共通農業政策(CAP)
経済統合の柱。加盟国間の貿易に対する関税・数量制限を撤廃し、域外に対する共通関税率と共通通商政策を適用。農業分野における関税同盟と共同市場をを形成するため、加盟国の農業政策を統一化することを目的として、1962年から共通農業政策(CAP)を導入。直接支払い等を中心とする価格・所得政策(第1の柱)と農村振興政策(第2の柱)により構成されている。これまで、生産高とリンクした直接支払いから、生産要素と切り離し(デカップリング)、過去の受領額に応じた単一直接支払いの導入(2003年)や環境・気候変動課題への対応をより重視した制度への見直し(2013年)などが実施された。
2023年1月から施行された新CAPでは、より公平で環境に配慮した、実績に基づき、欧州の農業従事者の持続可能な未来を確保し、小規模農業従事者に対象を絞った支援を提供し、EU加盟国が地域の状況に適応した対策を講じるための柔軟性を高めている。
(2)域内市場統合の完成
域内市場統合白書(1985年)と単一欧州議定書(1987年)に基づき、人・モノ・サービス・資本の移動が自由な単一市場を完成させるため、1992年末までに物理的・技術的・財政的障害の除去を目的とした約280項目の自由化・共通化のためのEU法令を採択。2000年に発出されたリスボン戦略に呼応し、残るサービスの自由移動の障害を除去するためのサービス指令が2006年12月欧州理事会で採択。
(3)経済通貨同盟(EMU)
加盟国間の外国為替相場の変動率を一定の幅に抑えるため1979年より実施されていた欧州通貨制度(EMS)をさらに一歩進め、各通貨間の相場の固定と単一通貨の導入を行ったもの。欧州連合条約に盛り込まれた手続に従い、1994年に後の欧州中央銀行(ECB)の前身である欧州通貨機構(EMI)を設立、各国の経済・財政政策の収斂を図り、物価の変動率や財政赤字のGDPに対する比率等に関する基準を満たした11か国が1999年1月1日より単一通貨ユーロを導入した。ユーロ貨幣の流通が開始されたのは2002年1月1日。2001年1月にギリシャ、2007年1月にスロベニア、2008年1月にマルタ、キプロス、2009年1月にスロバキア、2011年1月にエストニア、2014年1月にラトビア、2015年1月からリトアニア、2023年1月からクロアチアがユーロを導入し、現在、ユーロ圏は20か国。
2 政治統合
1993年に発効した欧州連合条約(マーストリヒト条約)に将来の防衛分野での協力も視野に入れた共通外交・安全保障政策(CFSP)、加盟国国民に共通の市民としての基本的な権利(地方自治体選挙権等)を認める欧州市民権の導入、司法・内務分野の協力等が盛り込まれた。これに基づき、主要な国際問題に関する共通の行動や、移民、国境管理、テロ・麻薬対策などに関する協力を行っている。特に、1999年のアムステルダム条約発効以降、CFSPが強化され、安全保障分野についても、これまでに文民・軍事両面で30を超える危機管理ミッション(ESDP。ただしリスボン条約の発効によりCSDPに改名)がアフリカ、中東、アジア等に幅広く派遣され、国際社会の平和と安定に貢献している。また、2009年のリスボン条約発効により外務・安全保障政策上級代表ポストが創設された。2010年7月に欧州対外活動庁(EEAS)の設置が決定され、2011年1月に正式発足した。
3 警察・刑事司法協力
従来から政府間協力の枠組みで実施されてきた司法・内務分野における協力がマーストリヒト条約においてEUの活動に取り入れられ、1999年のアムステルダム条約発効に伴い警察・刑事司法協力と改称された。2001年9月11日の米国における同時多発テロ発生以降、同分野での協力が急速に進展している。
なお、リスボン条約発効により3本柱構造が廃止されたが、警察・刑事司法協力に関する政策分野についての政府間協議は一部で残ることとなっている。
4 EU拡大
- 1958年(EC)原加盟国:
- ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク
- 1973年(EC)第1次拡大:
- 英国、アイルランド、デンマーク
- 1981年(EC)第2次拡大:
- ギリシャ
- 1986年(EC)第3次拡大:
- スペイン、ポルトガル
- 1995年(EU)第4次拡大:
- オーストリア、スウェーデン、フィンランド
- 2004年(EU)第5次拡大:
- ポーランド、チェコ、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタ、キプロス、スロバキア、スロベニア
- 2007年(EU)第6次拡大:
- ブルガリア、ルーマニア
- 2013年(EU)第7次拡大:
- クロアチア
- 2020年1月31日:
- 英国のEU離脱
5 EUの機構改革
2004年及び2007年の拡大の結果、加盟国が27か国になったEUをより効率的・機能的にするため、EU関連条約の見直しが行われ、2007年12月に開かれた欧州理事会にて「リスボン条約」が署名され2009年12月1日に発効した。同条約の発効により、常任の欧州理事会議長の任命、EU外務・安全保障政策上級代表の任命、欧州対外活動庁の創設等機構改革及び共通外交・安全保障政策実施体制の強化、欧州議会・各国議会の権限強化等が行われた。
主要機関
1 欧州理事会(政治レベルの最高協議機関)
EU各国首脳、欧州理事会議長及び欧州委員会委員長により構成(通常年4回開催)。欧州連合の発展に必要な原動力を与え一般的政治指針を策定する。共通外交・安全保障政策の共通戦略を決定。
- 欧州理事会議長シャルル・ミシェル氏(Mr. Charles Michel、元ベルギー首相)(任期2年半、2022年6月に再任。)
2 EU理事会(決定機関)
EU各国の閣僚級代表により構成されるEUの主たる決定機関(外務理事会、総務理事会、経済・財政理事会等分野毎に開催される)。外務理事会の議長はジョセップ・ボレル・フォンテジェス(Mr. Josep Borrell Fontelles、前スペイン外相)外務・安全保障政策上級代表。それ以外のEU理事会の議長は半年交代の輪番制議長国閣僚(2024年前半ベルギー、2024年後半ハンガリー、2025年前半ポーランド、2025年後半デンマーク)。
3 欧州委員会(執行機関)
加盟国の合意に基づき欧州議会の承認を受けた委員で構成(各国1名の計27名、任期5年)。省庁に相当する「総局」に分かれ、政策、法案を提案、EU諸規則の適用を監督、理事会決定等を執行。
- 欧州委員会委員長 ウァズラ・フォン・デア・ライエン氏(Dr. Ursula von der Leyen、元ドイツ国防相)
- 上級副委員長兼貿易担当欧州委員 ヴァルディス・ドムブロウスキス氏(Mr. Valdis Dombrovskis、ラトビア元首相)他
4 欧州対外活動庁(執行機関)
リスボン条約に基づき2011年1月に正式発足した、EU版外務省。欧州対外活動庁採用の職員、欧州委員会、EU理事会事務局、加盟国政府関係者から構成される。
- 外務・安全保障政策上級代表 ジョセップ・ボレル・フォンテジェス氏(欧州委員会副委員長を兼務)
5 欧州議会(諮問・共同決定機関)
諮問的機関から出発し次第に権限を強化、立法における理事会との共同決定権、EU予算の承認権、新任欧州委員会の一括承認権等を有する。定員は705名(2024年6月まで)、比例代表制(定員は各国の人口に配慮し配分、各国国内選挙法に基づき実施)により選出(前回選挙:2019年5月)。
- 議長 ロベルタ・メッツォラ氏(Ms. Roberta Metsola、3期目)
6 欧州連合司法裁判所
欧州連合司法裁判所(CJEU)
EU法の解釈等を行うEUの裁判所。ルクセンブルクに所在。司法裁判所及び一般裁判所で構成される。司法裁判所は各加盟国から1名の裁判官及び11名の法務官、一般裁判所は各加盟国から2名の裁判官から構成される(それぞれ任期6年)。司法裁判所は、一般裁判所の判決等の控訴に加え、先行判決(加盟国の国内裁判所の事件でEU法上の問題が含まれる場合に、EU法の解釈を諮問できる制度)、加盟国によるEU法上の義務の不履行等について管轄権を有する。
7 その他
欧州中央銀行(本部:フランクフルト)、欧州会計検査院(本部:ルクセンブルク)、経済社会評議会(本部:ブリュッセル)、地域評議会(本部:ブリュッセル)、欧州原子力共同体(本部:ブリュッセル)、欧州投資銀行(本部:ルクセンブルク)等が存在。