ブルネイ・ダルサラーム国

令和5年6月20日

1 内政

  • (1)マレー主義、イスラム国教、王政擁護」を掲げる立憲君主制(国王は世襲制)。1967年10月5日に即位したハサナル・ボルキア現国王(第29代スルタン)は、1984年の独立と同時に、首相、財務相及び内相を兼務し、現在も首相、財務経済相、国防相及び外相を兼務しており、政治権力を集中的に掌握している。また、スルタンである国王は宗教的権威でもある。
  • (2)国王は、1984年の独立直後に任命制の立法評議会を停止し、立法権も掌握してきたが、2004年9月、独立後初めて立法評議会を開いた。2006年3月から例年3月に立法評議会が開催されてきているが、予算審議等を行うにとどまっている。また、同評議会では、2004年9月に国王の機能と議会の構成等に関する憲法改正が行われ、同評議会の議員の一部を選挙で選出することが規定された(しかし、いまだ選挙関連法規が整備されておらず、選挙により選出された評議員はいない)。
  • (3)2005年5月には17年ぶりの大幅な内閣改造が行われ、ビラ皇太子が首相府上級相に就任した。2015年10月に行われた内閣改造では、国王自身が外務貿易相(当時)を兼任することとなり、更に国王の権限が増大した。2022年6月7日、内閣の任期(5年間)満了が近づく中、7度目となる内閣改造が行われ、国王と皇太子を除く12人の閣僚のうち、6人が大臣に初就任、またブルネイにおいて女性初の大臣が誕生した。
  • (4)豊富な石油・天然ガス収入により、一人当たりの国民の所得水準が高く、社会福祉も充実していること等を背景に、政治・経済情勢は安定している。
  • (5)2014年5月から段階的に導入されたシャリア刑法が、2019年4月3日に完全施行に至った。これに対して欧米諸国を中心とする国際社会の批判が集中すると、5月5日、国王自らテレビ放送を通じてスピーチを行い、死刑のモラトリアムを継続することや、拷問等禁止条約を批准することに言及した。

2 外交

  • (1)東南アジア諸国連合(ASEAN)の第6番目のメンバー(1984年加盟)であり、小国としての安全保障、近隣諸国との歴史的結び付き等の理由から、ASEANの結束の維持及び強化を外交政策の柱としている。国連、英連邦、イスラム諸国会議機構(OIC)、非同盟諸国会議等に加盟。アジア太平洋経済協力会議(APEC)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア欧州会合(ASEM)のメンバーでもある。直近では2021年にASEAN議長国を務めた。
  • (2)ブルネイ政府は大使館・総領事館及び国際機関への代表部として43公館(2023年時点)を設置。29か国がブルネイに大使館を設置。2005年8月、外務省が外務貿易省に改称され、産業一次資源省(現:一次資源観光省)の国際関係・貿易局管轄部分が移管された。さらに2018年9月には外務貿易省が担っていた貿易部分を財務省に移管し、外務貿易省を外務省に、財務省を財務経済省に名称変更する省庁改編が行われた。

3 国防

  • (1)ブルネイの国防は、ブルネイ国軍約7,200人(志願制。陸軍:約4,900人、海軍:約1,200人、空軍:約1,100人。)が担っている。
  • (2)また、日本、英国、米国、豪州、NZ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、パキスタン等と共同訓練を行ってきている。

4 経済

  • (1)豊富な石油・天然ガス生産により、安定した経済、高い所得水準を維持。また多額の海外資産を保有・運用してきている。
  • (2)他方、エネルギー資源への過度の依存から脱却すべく、数次にわたる「国家開発5か年計画」により経済の多様化を目指している。2008年1月、政府は長期的な国家ビジョンである「ワワサン・ブルネイ2035」、それを実現するための今後10年にわたる開発のための戦略と政策の枠組み「OSPD2007-2017」及び今後5年にわたる国家開発計画「RKN2007-2012」を発表。2018年から2023年までの第11回国家開発計画「RKN11」には35億ドルの予算が割り当てられている
  • (3)石油生産は、1929年にセリアで始まり、現在は主にブルネイ・シェル石油会社(ブルネイ政府50%、シェル石油50%の出資)が生産・販売に当たっている。天然ガスについては、ブルネイLNG社(ブルネイ政府50%、シェル石油25%、三菱商事25%の出資)が生産・販売に当たっている。2021年の原油生産量は1日当たり約10.6万バレル、天然ガスは約21.4万boe(石油換算バレル)(出典「Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2021」)。石油・天然ガス及び関連製品(鉱物燃料)は、ブルネイの輸出総額の約78.1%を占めている(出典「Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2021」)。
  • (4)2002年、ブルネイ政府は、外資の誘致による新たな産業の育成を目的としたブルネイ経済開発委員会(BEDB)を設立。また、経済多様化の観点から、ア 石油・天然ガスを単に生産・輸出するのではなく、石油・天然ガスを原料としてメタノールやアンモニアの製造等を行う石油「川下」産業の振興や、イ ムアラ島を巨大ハブ港湾として開発する事業計画等を策定してきている。

5 日本・ブルネイ関係

(1)外交関係の樹立

 日本はブルネイの独立後間もない1984年4月に外交関係を樹立。在ブルネイ日本大使館は1984年6月、在本邦ブルネイ大使館は1986年3月にそれぞれ開設された。2014年には、日・ブルネイ外交関係樹立30周年を迎え、良好な二国間関係を更に発展させた。2024年には日・ブルネイ外交関係樹立40周年を迎える。

(2)活発な要人往来等

 ボルキア国王は、国賓招聘(1984年)、大喪の礼出席(1989年2月)、APEC大阪会合出席(1995年11月)、日ASEAN特別首脳会議出席(2003年12月)、日・ブルネイ経済連携協定(EPA)署名(2007年6月)、APEC首脳会合出席(2010年11月)、日・ASEAN特別首脳会議出席(2013年12月)、即位の礼(2019年10月)等のため何度も訪日。岸田総理大臣とは2022年11月にカンボジアで行われたASEAN関連首脳会議の機会に立ち話を行った。

 日本からは、2013年10月にASEAN関連首脳会議出席のため、安倍総理大臣がブルネイを訪問したほか、皇族・王室間の交流も良好で、常陸宮同妃両殿下が1996年9月に皇族として初めてブルネイを御訪問、2004年9月に皇太子殿下(当時)がビラ皇太子の結婚式に御出席のためブルネイを御訪問している。

 閣僚級の往来も活発に行われており、近年では、2018年2月に河野外務大臣が、2019年5月には石井国土交通大臣がブルネイを訪問している。ブルネイからは、2022年以降だけでもスハイミ開発大臣、ハルビ首相府大臣、マサテジョ首相府エネルギー局副大臣、ラザック国防副大臣が訪日している。

 また林外務大臣は、2021年11月にエルワン第二外務大臣と電話会談、2022年8月にカンボジアで行われたASEAN関連外相会談の機会に外相会談を実施している。

(3)エネルギー分野を始めとする緊密な経済関係

  • ア 日本は、長年にわたりブルネイ最大の貿易相手国(2021年には輸出額全体の20.9%が対日輸出(出典「Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2021」)。ブルネイから日本への輸出のほとんどが石油・天然ガス(96.2%、(出典「Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2021」))。日本からブルネイへの主な輸出品目は、機械輸送機器、化学品。
  • イ ブルネイ・シェル石油会社は、1969年に日本への原油輸出を開始。また、1972年には、三菱商事が出資するブルネイ液化天然ガス会社(BLNG、ブルネイ政府50%、シェル石油25%、三菱商事25%の出資)が日本へのLNG輸出を開始、2022年には50周年を迎え、本邦にて記念式典が開催された。現在、ブルネイのLNGの輸出総額の約7割が日本向け(出典「Brunei Darussalam Statistical Yearbook 2021」)であり、ブルネイ産LNGは日本のLNG総輸入額の約3.8%(2022年財務省貿易統計)を占める(オーストラリア、マレーシア、ロシア、アメリカ合衆国、パプアニューギニア、カタール、インドネシアに次いで第8位)など、ブルネイは日本へのエネルギー資源の安定供給の面からも重要な国となっている。
  • ウ 日本企業はブルネイの経済多角化にも貢献している。日本企業が出資し、国際協力銀行(JBIC)が資金面で支援するメタノール事業は2010年5月に操業を開始。2019年にはNEDOの助成により天然ガス液化プラントのプロセスで発生するガスを利用した水素サプライチェーン実証事業が実施され、ブルネイで調達した水素が日本に輸送された。このほか日本企業によるサプリメント事業、油井管のねじ切り加工が行われている。ブルネイに進出している日系企業数は18社(2021年10月現在)。ブルネイ在留の邦人数は166人(2022年10月現在)。
  • エ 2007年6月、訪日したボルキア国王と安倍総理(当時)との間で日・ブルネイ経済連携協定(EPA)の署名が行われ、2008年7月31日に効力が発生した。また、日本とASEAN全体が締結している日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定は、2009年1月にブルネイとの間で効力が発生した。さらに、二重課税の回避や租税当局間の協力を定める租税協定は、2009年1月に署名され、同年12月に効力が発生した。また、ブルネイは、2023年5月に環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の批准を寄託者であるニュージーランドに通報したことから、その60日後となる2023年7月中旬に発効。

(4)防衛交流

 南シナ海に面し、南沙諸島へ近い良港(ムアラ港)を有するブルネイは、戦略的な要所であり、我が国との防衛交流を積極的に実施しており、各種交流、寄港、共同訓練などのプログラムが活発に行われている。2023年には3月に海上自衛隊護衛艦「すずつき」、4月に同護衛艦「きりさめ」、5月に同掃海母艦「うらが」及び同掃海艦「あわじ」がブルネイに寄港したほか、2022年11月には、国際観艦式のためブルネイ海軍艦艇が日本に初寄港した。
 2023年2月、日ブルネイ防衛協力・交流覚書が署名され、両国防衛当局次官級の「防衛政策対話」が新たに設置されるとともに、両国防衛当局間の関係を一層強化していくことで一致した。

(5)人物・文化及びその他の交流

  • ア 1986年6月、観光等を目的とした14日以内の滞在に関し、両国の査証取得を不要とする査免取極が発効。
  • イ 1993年11月、両国の間で定期航空路線を開設・運営することを目的とした航空協定を締結。1994年12月からロイヤル・ブルネイ航空が関西国際空港に週2便乗り入れていたが、1998年10月から運行を停止。2019年3月15日、ロイヤル・ブルネイ航空は、首都バンダル・スリ・ブガワンー成田間の直行便を就航させた。
  • ウ 2007年12月から始まった「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」及び2013年7月から始まった「JENESYS2.0」や内閣府「東南アジア青年の船」事業等を通して、将来の日・ブルネイ関係を担う青少年交流が行われている。バドミントンやサッカー、柔道や空手などの武道に代表されるスポーツ交流も盛ん。
  • エ 在ブルネイ日本大使館はブルネイ教育省及びブルネイ大学と連携し、「日本語能力試験」「日本語弁論大会」を毎年開催している。また、日本関連団体と連携して「日本文化祭」を毎年開催している。
  • オ 両国の良好な友好関係を反映し、東日本大震災の際には、ブルネイ政府による100万米ドルの義援金のほか、民間からも義援金372,458ブルネイ・ドル(2012年1月時点、約2,384万円)、寄せ書き等のメッセージが寄せられた。
  • カ 世界的大流行となったコロナ禍においては、2021年夏以降のブルネイにおける第二波感染対策への我が国による支援として、同年9月にアストラゼネカ社製ワクチン10万回分が、同10月にアジア欧州財団との連携によるN95マスク5万枚が供与された。
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