オーストリア共和国
オーストリア共和国(Republic of Austria)
基礎データ
一般事情
1 面積
約8.4万平方キロメートル(北海道とほぼ同じ)
2 人口
約908万人
3 首都
ウィーン(人口約197万人)
4 言語
ドイツ語
5 宗教
カトリック約55%、プロテスタント約4%、イスラム約8%
6 略史
年月 | 略史 |
---|---|
1270年 | ハプスブルク家ルドルフ公、オーストリア王権確立 |
1918年 | 第一次世界大戦敗北によりハプスブルク帝国崩壊、共和制開始 |
1938~1945年 | ナチス・ドイツによるオーストリア併合 |
1955年 | 連合国との国家条約締結により独立を回復。永世中立を宣言、国連加盟。 |
1995年1月 | EU加盟 |
政治体制・内政
1 政体
連邦共和制(9つの州から構成)
2 元首
アレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領
3 議会
二院制(国民議会(第1院)183議席、連邦参議院(第2院)61議席)。立法権については国民議会(第1院)が大きな権限を有する。
国民議会選挙(比例代表制・直接選挙、任期5年)は2019年9月29日に開催。連邦参議院議員は各州議会から各州の人口比に従い選出(各議員の任期は州議会任期に一致)。
政党名 | 議席数 |
---|---|
国民党 | 71 |
社会民主党 | 40 |
自由党 | 30 |
緑の党 | 26 |
NEOS | 15 |
無所属 | 1 |
合計 | 183 |
政党名 | 議席数 |
---|---|
国民党 | 24 |
社会民主党 | 19 |
自由党 | 11 |
緑の党 | 6 |
NEOS | 1 |
合計 | 61 |
(いずれも2023年12月現在)
4 政府
- (1)首相
- カール・ネーハマー(Mr. Karl NEHAMMER)(国民党)
- (2)欧州・国際担当大臣(外相)
- アレクサンダー・シャレンベルク(Mr. Alexander Schallenberg)(国民党)
5 内政
1980年代中頃から社会民主党(以下「社民党」)・国民党による大連立政権の下、首相は社民党、副首相は国民党から選出される期間が長く続いた。1999年、右翼的言動で国際的に注目を浴びたハイダー党首(故人)率いる自由党が国民議会(下院)選挙で躍進し、2000年から数年間国民党との連立政権に参加した。2007年以降は社民党・国民党による大連立に回帰し、2008年の国民議会選挙の結果、ファイマン社民党党首を首班とする政権が発足した。
2013年9月の選挙戦では汚職等による政治不信により、連立与党の社民党及び国民党はいずれも史上最低の得票率となった(ただし、過半数は維持)。自由党、緑の党は得票率を大きく伸ばした。12月13日、社民党と国民党が連立交渉に合意し、第二次ファイマン連立政権が誕生。
2015年に入り、シリア、イラク等からの難民が急増する中で、当初難民に対して寛容な姿勢を示してきたファイマン首相は、2016年に入り、難民申請者数の上限を設定する等、厳格な難民政策に転換した。こうした状況の中で、政府への批判が高まり、4月24日に実施された大統領選挙において、大連立政権が公認した候補がいずれも決選投票に進めないという歴史的な敗北を喫した。この結果を受けて、同首相は5月9日に電撃的に辞任し、5月18日にケルン首相(社民党)が誕生した。
また、5月22日に行われた大統領選挙の決選投票は、戦後オーストリア内政を主導してきた二大政党である社民党と国民党を欠く中で行われる史上初の選挙となった。結果は、緑の党が支持するファン・デア・ベレン候補が自由党公認のホーファー候補を僅差で破り当選した。しかし、6月8日、シュトラッヘ自由党党首は、同決選投票の票等に際して不正があったとして、郵便投票のやり直しを求めて憲法裁判所に異議申立てを行った。憲法裁判所は、郵便投票の開票に際して立会人不在のまま開票作業が行われた等の規則違反を認め、同決選投票を無効とし、オーストリア全土で決選投票をやり直しとする旨の判決を下した。12月4日に実施されたやり直し決選選挙では、親EUの立場を掲げたファン・デア・ベレン候補が勝利し、2017年1月26日に大統領に就任した。
2016年の大統領選挙における歴史的な敗北を受けて、ケルン首相(社民党)とミッタレーナー副首相兼経済大臣(国民党党首)は各種改革に乗り出すが、党内の反発を受けて頓挫。2017年5月15日、大連立政権を支持していたミッタレーナー国民党党首が電撃辞任し、クルツ外相が国民党党首に就任。与野党とも前倒し国民議会選挙を支持し、5年間の任期を全うせず、10月15日に前倒し選挙が実施された。
同選挙では、31歳のクルツ党首率いる国民党及び自由党が議席を伸ばし、国民党が第一党、社民党が第二党、自由党が第三党となった。12月18日に国民党と自由党による連立政権が成立し、クルツ首相が就任した。
2019年5月、シュトラッヘ副首相兼自由党党首が2017年の国民議会選挙前にロシアのオリガルヒの姪とされる人物と密会し、メディア操作や選挙後の待遇についてやりとりする様子が撮影されたビデオがスクープされたことを受け辞任。クルツ首相は自由党との連立を解消。自由党閣僚の交替を経て暫定内閣が発足するも、社民党が提出したクルツ内閣に対する内閣不信任決議案が賛成多数で可決。ビーアライン首相を中心とした暫定内閣が政権運営にあたる。
9月29日の国民議会選挙では、クルツ前首相率いる国民党が大幅に得票率を伸ばし第一党に。社民党は戦後最低の得票率を記録したが、第二党を維持。自由党は大幅に得票率を失った。緑の党は過去最高の得票率で国民議会に返り咲いた。2020年1月、国民党と緑の党の連立交渉が合意に至り、クルツ首相が首相に再任。2021年10月、経済・汚職警察庁がクルツ首相等に対する背任と贈収賄の容疑で国民党本部、首相府、財務省等に家宅捜索を実施。野党からの辞任要求が高まる中、連立パートナーの緑の党はクルツ首相との連立継続は困難としたことを受け、10月9日、クルツ首相は辞任を表明。10月11日、ファン・デア・ベレン大統領により、シャレンベルク首相とリントハルト外相が任命された。12月2日、クルツ元首相(国民党党首)の政界引退を受け、シャレンベルク首相は辞任を表明。同月6日、ファン・デア・ベレン大統領により、ネーハマー内相が首相に、シャレンベルク前首相が外相に任命された。2022年10月9日、大統領選挙が実施され、ファン・デア・ベレン大統領が再選された。
外交・国防
1 概要
1995年以降、EU加盟国として、欧州統合を通じた地域の安定と繁栄に取り組むとともに、EU共通安全保障防衛政策(CSDP)への参画を基本に非EU諸国とも関係深化を図っている。EUの中では、地理的・歴史的につながりの深い西バルカン諸国のEU加盟に向けた動きを積極的に支援することなどで、独自性発揮に努めている。1955年の主権回復時に永世中立を宣言し国連に加盟したが、CSDPはオーストリア憲法の原則(戦争不参加等)に矛盾せず、中立政策と両立するとの立場。NATOには非加盟だが、協力関係(PfP枠組み文書に署名)にある。
2 国際機関
ウィーンは、ニューヨーク、ジュネーブに次ぐ「第三の国連都市」として、国際原子力機関(IAEA)や国連工業開発機関(UNIDO)等、国連諸機関の本部が置かれている他、欧州安全保障協力機構(OSCE)事務局や石油輸出国機構(OPEC)本部を有する国際都市。冷戦期には東西両陣営の接点として、ケネディ-フルシチョフ会談(1961年)等数々の国際交渉の舞台ともなった。
3 国際貢献
国連平和維持活動に積極的に取り組む(レバノンでのUNIFILには234名を派遣)他、コソボ支援(KFOR:323人)やボスニア支援(EUFOR:180人)やマリ支援(EUTMMLI:5人、MINUSA:2人)を行っている。また、人道支援及び災害援助分野においての国際貢献活動も積極的に行っている。(2020年6月現在)
4 国防予算等
- (1)国防予算:
- 約26.5億ユーロ(2022年:支出ベース)(出典:2022年オーストリア統計局)
- (2)兵役:
- 徴兵制(18歳以上の男子が対象。期間は6か月。なお、2013年、徴兵制の維持を問う国民アンケート(1月20日実施)の結果、今後も引き続き、徴兵制を維持することに決した。)
経済(出典:オーストリア統計局 2022年)
1 名目GDP総額
約4,472億ユーロ
2 1人当たりGDP(購買力平価)
49,400ユーロ
3 実質GDP成長率
4.8%
4 消費者物価上昇率
8.6%
5 失業率
4.8%
6 主要産業
機械、金属加工、観光、ガラス細工等
7 貿易
- 輸出
- 約1,947億ユーロ
- 輸入
- 約2,153億ユーロ
8 通貨
ユーロ(2002年1月より流通開始。)
9 財政
- 歳入
- 約2,219億ユーロ
- 歳出
- 約2,378億ユーロ
(出典:オーストリア財務省)
10 最近の経済概況
主要経済指標 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
実質GDP成長率(単位%) | 1.4 | -6.5 | 4.6 | 4.8 |
1人当たりGDP(単位:ユーロ) | 44,740 | 42,730 | 45,370 | 49,400 |
消費者物価上昇率(単位:%) | 1.5 | 1.4 | 2.8 | 8.6 |
失業率(単位:%) | 4.5 | 5.4 | 6.2 | 4.8 |
(出典:オーストリア統計局)
対EU貿易が全体の7割を占め、うちドイツの割合が最大。オーストリアの銀行は従来、東欧諸国向けの融資を積極的に行ってきており、融資残高のシェア(国別)では最大規模。
二国間関係
1 二国間関係全般
伝統的に友好的な関係。1869年に修好通商航海条約を締結して外交関係を樹立(当時はオーストリア=ハンガリー二重帝国)。また、1955年のオーストリアの永世中立国の宣言に対して我が国は最初に承認を行った。
1990年の日オーストリア外相会談での合意に基づき「将来の課題のための日・オーストリア委員会」が設けられ、今まで25回の会合と2回の委員長間のオンライン会談を実施(2012年から現行名称に変更)。同委員会は、日オーストリア間に存在する唯一の官民フォーラムとして、隔年ごとに日本とオーストリアで交互に開催され、政治・経済・外交・社会分野等の様々なテーマを取り上げ活発な議論が行われている。直近では、2023年12月に山梨県甲府で開催。同委員会の委員長は、日本側は2015年~2023年まで佐藤義雄住友生命特別顧問(前経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長)が務めた後、2024年から山口静一ヤマハ株式会社常務取締役、オーストリア側委員長はヴォルフガング・マツァール・ウィーン大学教授が務めている。
2019年、日本オーストリア友好150周年を迎えた。
2 経済関係(財務省統計)
(1)対日貿易
日本はオーストリアにとり、アジア第2位の貿易相手国である。
- 主要貿易品目
- 日本からオーストリア(輸出):一般機器、輸送用機器、電気機器(2022年)
- オーストリアから日本(輸入):輸送用機器、一般機械、電気機器(2022年)
対オーストリア輸出 | 対オーストリア輸入 | 収支 | |
---|---|---|---|
2015年 | 1,250 | 1,877 | -627 |
2016年 | 1,105 | 1,833 | -728 |
2017年 | 1,301 | 1,791 | -490 |
2018年 | 1,457 | 2,061 | -604 |
2019年 | 1,331 | 2,319 | -989 |
2020年 | 1,132 | 2,107 | -974 |
2021年 | 1,362 | 2,476 | -1,114 |
2022年 | 1,773 | 3,006 | -1,233 |
(出典:財務省貿易統計)
(2)投資
2022年の対オーストリア直接投資(ストック)は38.6億ユーロ、対日直接投資は2.8億ユーロ。
(出典:オーストリア中央銀行)
3 文化関係
音楽分野での交流が活発なことが特徴であり、ウィーン市立音楽芸術大学等において多くの日本人留学生が音楽を学ぶ他、著名な日本人音楽家がオーストリアを拠点として活動している。また、世界的に有名なウィーン少年合唱団やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は定期的に日本公演を実施している。
近年は、漫画等の日本のポップカルチャーの影響を受けた学生が日本語を学習し始めるケースが多い。オーストリアで唯一日本学科を有するウィーン大学日本学科には毎年約200名(副専攻を含む)の学生が入学している。一方で、日本の伝統文化や武道等に関心を持つオーストリア人も少なくなく、また、寿司や抹茶、ラーメン等の日本食もブームとなっている。
4 東日本大震災支援
オーストリアからは、総額100万ユーロ(約1億1,500万円)にのぼる義捐金の他、EUを通じ、毛布2万枚、水の容器450個の物資支援を受けた。また、首都ウィーンでは、多数のチャリティイベントが行われた。
5 在留邦人数
3,236人(2022年10月1日現在)
6 在日当該国人数
在日オーストリア人:729人(2022年12月統計:法務省入国管理統計)(除、短期滞在者)
7 要人往来
年月 | 要人名 |
---|---|
1959年 | 岸総理大臣 |
1979年 | 金子科学技術庁長官 |
1980年 | 中川科学技術庁長官 |
1983年 | 安田科学技術庁長官 |
1985年 | 安倍外務大臣、竹内科学技術庁長官 |
1988年 | 高鳥総務庁長官、伊藤科学技術庁長官 |
1989年 | 宮崎科学技術庁長官、江藤運輸大臣、土屋参院議長、安井衆院副議長、中山外務大臣 |
1990年 | 中山外務大臣、山本農林水産大臣、保利文部大臣 |
1993年 | 江田科学技術庁長官 |
1994年 | 憲仁親王同妃両殿下 田中科学技術庁長官、高円宮同妃両殿下 |
1994年 | 憲仁親王同妃両殿下 |
1995年 | 正仁親王同妃両殿下(非公式) |
1996年 | 池田外務大臣、土井衆議院議長 |
1997年 | 豊田経団連会長、藤本農林水産大臣 |
1999年 | 高村外務大臣、高村政府代表、斎藤参議院議長、玉沢農林水産大臣 |
2001年 | 綿貫衆議院議長 |
2002年 | 遠山文部科学大臣、天皇皇后両陛下 |
2003年 | 川口外務大臣 |
2004年 | 承子女王殿下 |
2006年 | 眞子内親王殿下(ホームステイ) |
2009年 | 秋篠宮同妃両殿下 |
2010年 | 小沢環境大臣 |
2011年 | 彬子女王殿下 |
2013年 | 小野寺防衛大臣 |
2014年 | 伊吹衆議院議長 |
2015年 | 石破地方創生大臣 |
2017年 | 岸田外務大臣 |
2018年 | 河野外務大臣(2月及び7月) |
2019年 | 佳子内親王殿下(9月) |
2021年 | 山東参議院議長(9月) |
2023年 | 岡田国際博覧会担当大臣(5月) 高木外務大臣政務官(6月) |
年月 | 要人名 |
---|---|
1959年 | ラープ首相 |
1968年 | クラウス首相 |
1980年 | パール外相 |
1982年 | ザルヒヤー蔵相 |
1985年 | フィッシャー科学研究相、ラツィーナ運輸・国有企業相、シュテーガー副首相 |
1986年 | ヤンコヴィッチ外相 |
1988年 | グラッツ下院議長、シャンベック上院議長 |
1989年 | モック副首相兼外相(大喪の礼)、リーグラー副首相及びモック外相(IDU)、フラニツキー首相、シュッセル経済相 |
1990年 | ワルトハイム大統領(即位の礼) |
1991年 | フィッシュラー農林相 |
1992年 | モック外相、ブセック副首相 |
1993年 | シュッセル経済相 |
1995年 | ハーゼルバッハ上院議長、シュミット・リベラルフォーラム党首 |
1997年 | ファルンライトナー経済相 |
1997年 | シャンベック上院議長 |
1998年 | リープシャー経済相 |
1999年 | クレスティル大統領(国賓)、ファルンライトナー経済相 |
2000年 | パイヤー上院議長、モルテラー農林・環境・水利相 |
2001年 | グラッサー蔵相、フェレーロ=ヴァルトナー外相 |
2002年 | フェレーロ=ヴァルトナー外相 |
2004年 | バルテンシュタイン経済労働相 |
2005年 | バルテンシュタイン経済労働相 |
2006年 | シュッセル首相 |
2009年 | シュピンデルエッガー外相 プラマー下院議長一行(衆議院招待) ベルラコヴィッチ農林・環境・水資源相 フィッシャー大統領夫妻(公式実務訪問賓客)、シュミート教育・芸術・文化相、 ブレス交通・革新・技術相、ミッターレーナー経済・家族・青少年相、ハーン科学・研究相 |
2014年 | ラインホルト・ロパトカ国民党院内総務 |
2015年 | ルプレヒター農林・環境・水資源相、カルマシン家族青年相 |
2016年 | オーストリア・日本友好議員連盟(団長:クリスト国民議会議員)、 ブラントシュテッター法務相 |
2018年 | トット連邦参議院議長 |
2019年 | クルツ首相(2月)、クナイスル外相(3月)、ファン・デア・ベレン大統領(10月) |
2022年 | コッハー労働・経済相、ブルンナー財務相及びプラスニク墺政府大阪・関西万博担当代表(10月) |
2023年 | オーストリア・日本友好議員連盟(団長:シェラク国民議会議員)(4月) カロリネ・エトシュタードラー首相府相(EU・憲法担当)(10月) |
8 二国間条約・取極
- オーストリアの永世中立の承認に関する取極(1955年)
- 査証・査証料免除取極(1958年)
- 租税条約(1961年)(2018年改正)
- 司法共助取極(1963年)
- オーストリアのある種の請求権解決に関する取極(1966年)
- 繊維製品の貿易に関する取極(1976年)
- 航空協定(1989年)
- ワーキングホリデー制度(2016年)
9 外交使節
- (1)駐オーストリア日本国大使 水内 龍太
- (2)駐日オーストリア大使 エリザベート・ベルタニョーリ