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パキスタン・イスラム共和国
大規模地震被害に対する緊急無償資金協力における
モニタリングの概要と評価結果について

平成18年7月27日

要旨

(1)昨年10月8日にパキスタン北部で発生した大規模地震被害に対し我が国はパキスタン政府に対し1,200万ドルの緊急無償資金協力を行いました。

(2)今回の支援は、特に被害の大きかったパキスタンアザド・ジャンム・カシミール(AJK)州及び北西辺境州被災者に対しテント、毛布、食料、医薬品等の物資を供与することを目的として実施したものです。支援物資は、震災発生直後から被災者に届けられ、本年4月には全ての物資の調達が完了し、被災住民へ配布されました。

(3)こうした我が国からの支援に対し、パキスタン政府より日本国民に対する感謝の手紙が届くなど、我が国の支援は高く評価されています。

(4)今回の支援においては、支援物資が確実に被災者に届いていることを確認するために、現地の第三者機関によるモニタリングを実施しました。
 深刻な被災状況の中、モニタリングを実施する上では様々な困難がありましたが、支援物資は迅速に納入され、現地のニーズにも合致し総体として効果的に実施されたと評価されました。

(5)外務省では、今回のモニタリングの結果について、今後の大規模災害に対する無償資金協力等がより効果的な支援となるよう、生かしていく考えです。

緊急無償資金協力の経緯:

日付 経緯
平成17年10月8日 大地震発生
(死者約73,000人以上、負傷者約80,000人以上、被災民約330万人が発生)
平成17年10月11日 緊急無償資金協力の実施決定
平成17年10月17日 パキスタン政府と口上書の交換
平成17年10月26日 本プロジェクトによる支援物資の第一回(ポリタンク5,000個)が現地に到着(その後、順次物資の調達・輸送)
平成18年1月 当初予定していた支援物資の約9割が現地到着
平成18年4月 全ての物資の調達・輸送が完了

(6)なお、我が国は、今回の大規模地震被害に対し、地震発生直後より、上記の緊急無償資金協力以外にも、国際緊急援助隊の派遣や、総額2億ドルに上る無償資金協力を行っています。現在も、被災地の人々に対し切れ目の無い支援を実施するために、40億円のノン・プロジェクト無償資金協力を活用した被災地の復興支援活動が続けられています。

モニタリングの概要と評価結果

1. 緊急無償資金協力におけるモニタリング

(1)今回の緊急無償資金協力の実施に際しては、支援物資が確実に被災者に届いていることを確認するとともに、支援の実施状況について対外的な説明責任を果たすためにモニタリングを実施しました。なお、今回の緊急無償資金協力では財団法人日本国際協力システム(JICS)がパキスタン政府の調達代理機関として支援物資の調達を担当しています。

(2)以下の内容は、調達代理機関であるJICSが、第三者機関に委託して実施したモニタリングに関する報告書を、外務省にてとりまとめたものです。

2. モニタリングの方法

 モニタリングはKhwaja Tanawwur & Co.(現地コンサルタント)が実施しました。

3. モニタリング概要

(1)モニタリング期間:2005年12月末から2006年4月末まで17週間

(2)モニタリング実施地域:アザド・ジャンム・カシミール(AJK)州及び北西辺境州

(3)モニタリング内容:

(イ)本件緊急無償で調達した支援物資の納入場所までのトレーシング

(ロ)支援物資の納入サイトから配布地域へのトレーシング

(ハ)配布地域における配布状況確認

(ニ)支援物資配布を行う軍関係者及び州政府関係者からのヒアリング

(ホ)支援物資受益者(被災民)からのヒアリング

(4)累計取材人数:19,277人(家族数:105,123人)

調達品目:
生活支援物資(テント、毛布、スリーピングマット、プラスチックシート、ポリタンク、貯水槽)、医療機材(医療消耗品を含む)、医薬品、食料(ビスケット、缶詰(豆、トウモロコシ、鶏、魚)、缶切り、米、レンズ豆、小麦粉、食料油、砂糖、茶)、建設機材(ブルドーザー、油圧ショベル)

4. モニタリング結果と評価

 本件緊急無償においては、現場のニーズに合致した支援物資選定、迅速な納入、及び(主にパキスタン政府による)被災地への確実な配布活動が実施されたことを考慮すると、総体として効果的に実施されたと評価されます。

 先方政府の要請から調達実施・納入までに一定の期間を要する一方で、被災地の状況は刻々と変化しました。支援物資の選定にあたっては先方政府からの要請に基づき、被災者のニーズの変化を捉えた柔軟な対応が必要です。本件緊急無償における支援物資の大半は被災者のニーズを的確に捉え、納入のタイミングも適切であったため被災民から多大な感謝の言葉が聞かれました。加えて、直接支援物資を受け取った被災者だけでなく、建設機械による道路の復旧整備や、医療関連物資の供給による医療機能の回復、貯水槽の設置による水供給等により、被災地における多くの住民が今回の援助による間接的利益を受けたと言う事ができます。

 モニタリング現場からの提言などは以下のとおりです。

(写真)モニタリングの実施(被災民インタビュー)
モニタリングの実施(被災民インタビュー)

(1)選定品目に関する諸点

(イ)テント及びスリーピングマットについて、高地における厳冬期の環境に対応できるよう、より厚めのものが良いとの声が聞かれました。

(ロ)被災者は缶詰食品にあまり馴染みがありませんでした。当初の品目選定時には魚の缶詰も食べられているという情報を得ていましたが、配布した結果、一部の地域では必ずしも嗜好に合わないことが判明しました。追加分として、一般食料(米、小麦粉、レンズ豆、食用油)、及び砂糖と茶を調達しましたが、復興が進み被災者の嗜好が変化したことにも合致し、被災者に好評でした。

(ハ)他ドナー・国際機関から医薬品の供給はあるものの、基本的な医療活動に必要なガーゼ、包帯、三角巾などの医療消耗品の供給は少なかったため、日本政府から医療消耗品を供給されたことに対する感謝の声は大きいものでした。

(ニ)その他、冬期に降雪の多い山間部では以下の物資が供給されれば尚効果的であったとの声が聞かれました。

  • ガスストーブ
  • シェルター用資材(トタン板等):テント生活からシェルター生活に切り替えたい被災民の多くからの要望

(2)支援物資の納入・配布に関する諸点について

(イ)納入サイト以降の被災者への支援物資配布はパキスタン側が担当しましたが、一部で世帯間・地域間格差(配給量の不均衡)が見られました。

(ロ)小麦粉について、現地在庫との重複が原因で保管期間が当初の見込みよりも長くなったものがありました。調達数量の決定には注意が必要です。

(ハ)医薬品・医療消耗品については、ニーズの高い市民病院等への納入は適切でした。ただし医療用ベッドについて、一時的な保管場所の整頓状況が必ずしも良好でなく、すぐには使用できない状態で保管されているケースがありました。エンドユーザの保存・使用場所(倉庫や病棟等の損壊状況)などは可能な限り慎重に調査すべきです。

(ニ)日本の援助を示す日章旗ラベルについては、外装に添付したために剥がれやすいケースや、外装から取り出すと支援物資と認識され難いケースが見られました。また、ブルドーザー、油圧ショベル等、今後長期間にわたって利用される機材については、より劣化や脱落等に強いラベリングを施す事が重要です。効果的なラベリング方法について検討する必要があります。

(ホ) 建設機械の供与に対する評価は非常に高く、我が国から供与された機械は有効活用されています。ただし、州政府の方針で市街地復旧のための瓦礫撤去でなく、山間部の道路補修現場を中心に配備されました。広報の観点からは市街地の瓦礫撤去現場にもバランスよく配備されると一層望ましかったと思われます。

(3)その他

 本件支援は資機材納入途中での現場ニーズにあわせた納入地変更のための業務調整が頻繁に必要となりました。被災地のニーズ変化や納入地変更に対応できる納入管理体制の構築は常に重要です。例えば被災地に簡易倉庫を建設し、同倉庫を基点に物資配布を行うなど、効率的な納入管理の実施方法を今後とも検討していくことが望まれます。

(写真)AJK州山間部の村の様子
AJK州山間部の村の様子

5. モニタリングの困難さ

 今回の地震は、未曾有な大規模地震であり、現地の交通網は分断され、被災地の行政も混乱をきたしました。そのため、モニタリングの実施において、下記の困難が伴ったことを付け加えます。

(1)被災地の詳細や被災者の分布が特定していく中で、当初想定していた物資の配布先が頻繁に変更になったため、物資のトレーシングに多大な労力が必要となりました。

(2)深刻な被災状況と混乱の中、支援物資輸送の中継地点に物資の数量に関する十分な記録が残っていることは稀であり、正確な配布数量の確認に時間を要しました。

(3)AJK州ジェーラム渓谷では冬期に土砂崩れが頻発するため、目的地までの交通路が遮断される地域が多数ありました。モニタリング対象地域に到達するためには遮断された交通路を避けて幅員が狭い未舗装の迂回路を走行せざるを得ず、多くの時間と困難を要しました。

(4)支援物資は車両でアクセスできない山岳地域の村々にも配布されており、配布確認のために徒歩で訪問することも多々ありました。

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