スリランカとのご縁
伊澤宗之さんがスリランカの公邸料理人になったのは必ずしも偶然ではありません。伊澤さんとスリランカとのご縁は,実は奥様の和子さんが先でした。和子さんは9年ほど前,アレルギーで悩まされていました。西洋医学ではうまく治らず,万策尽きたと思ったときに知ったのがアユールベーダ。最後の望みと年に2,3カ月ずつ3年間に亘ってアユールベーダ本場のスリランカに通い,すっかり治癒したそうです。
スリランカは,サーフィンのメッカとしても有名です。アユールベーダ治療中の和子さんに会いに,その頃夢中だったサーフボードを担いでやって来たというのが,伊澤さんのスリランカとの最初の出会いです。蕎麦懐石の料理人として日本で活躍していた伊澤さんが,スリランカに旅行者として来てみて驚いたのが,なかなか本場の日本食に出会えないこと。日本食は本来もっと繊細なもので,その良さが現地の人に十分伝わっていないのは残念だという思いがずっと伊澤さんの心に残っていました。
それから7年。スリランカの公邸料理人が募集されていることを知った伊澤さんは,一も二もなく赴任を希望しました。昨年10月,仕事に全ての情熱をかけるため,サーフボードを置いてスリランカにやってきた伊澤さん。昔,伊澤さんが和子さんを訪ね初めてやってきた思い出のスリランカに,今は和子さんが伊澤さんを訪ねてきています。
国交樹立60周年の節目を迎えて
着任直後の12月には天皇誕生日レセプションで240人のお客様をもてなし,翌年3月には日本食プロモーションのため蕎麦寿司の実演を行うなど,息つく暇もありません。
2012年は日本・スリランカ国交樹立60周年で,大使館では当地の関係機関と協力し数々の周年事業を実施すると共に,要人往来,人物交流が例年にも増して多い年です。
外部のケータリングを活用しながら,それでも一人で200人以上のお客様への食事の采配をふるうのは大変なことです。着席形式で30名のお客様に一皿ずつ懐石料理を供することもあります。一人で大変ではないですか,と聞くと,伊澤さんは,設宴やレセプションは一人ではなく,大使館のみなさんや,公邸のスリランカ人スタッフとチームでやっているので大丈夫です,と笑います。
スリランカの食材
スリランカで日本食の食材を探すことは容易ではありません。スリランカは,海に囲まれていますが,熱帯の国です。魚の扱いはまだまだで,近所の市場で刺身にできる鮮度の魚を手に入れるのは至難の技です。伊澤さんは,モラトゥワとニゴンボというコロンボからそれぞれ小一時間の漁港に,自分の目で探しに行きます。
植生も日本とはずいぶん違いますが,そこはプロです。ジャックフルーツをゆり根がわりに使い,茶碗蒸しを作るなど,スリランカ食材を活かしたユニークな工夫も忘れません。そうして出来上る料理は,さすがに懐石一筋15年,直前まで老舗の副料理長を務めていた技の冴えで繊細な和食そのものと当地の評判を呼んでいます。
ところで,スリランカでは,アジの顔つきをしているのにサバのような味がする魚と,サバの顔つきをしているのに,ぜいごがあってアジのような味がする魚がとれます。これらの魚の正体をご存知の方は,是非大使館まで情報をお寄せください。
在スリランカ大使館広報文化班 浜田清彦