肥田 誠(ひだ・まこと)さんは今年32歳。2010年9月にカイロに着任して以来,昨年1月のエジプト革命の際も現地を離れることなく大活躍してきています。鮮度,種類ともに良質な食材の調達に日々苦労しながらも,常に創意と工夫を心がけることをモットーに,現地の食材を生かした料理の創作に取り組んでいます。
1 料理への飽くなき探求心
エジプトのスーパーや市場では新鮮な食材を調達するのはなかなか容易でありません。昨日までは店頭にあった商品が今日は売り切れてしまい,その後何カ月も入荷されないといったことが日常的で,年間を通じて安定して食材を手に入れるのは困難な状況にあります。特に生鮮食料品は傷んでいるものが多く,食材の選定には鋭い観察眼が必要です。
肥田公邸料理人は,2000年に料理の門を叩いてから,中華料理を中心に経験を積んできましたが,中華料理で培った旺盛な食への探求心を原動力として,日夜,あらゆる料理の研究に取り組んでいます。カイロには約130の他国の在外公館ありますが,肥田料理人は他国の公邸料理人との間で,食材の調達に関する情報の交換や,現地の素材を生かした調理方法について研究をしています。
2 公邸会食(エジプト人の皆様に喜ばれる料理を作ることをイメージ)
日本においてエジプト料理はあまりポピュラーでありませんが,これと同様に多くのエジプト人にとって日本料理はまだまだ馴染みが薄い料理です。しかしながら脂っこい食生活のため多くの人が生活習慣病に悩むエジプトでは,ヘルシーフードとしてのイメージが強い和食に興味を持っている人も多くいます。
奥田大使が主催する当国要人を招いた会食は肥田料理人にとっても真剣勝負の場です。あまり馴染みのない日本料理をエジプト人に喜んで食べてもらうため,日夜,心血を注いだ料理研究の成果を発揮し,エジプトの食材を使用した日本食を提供しています。
エジプトの食卓では欠かすことのできない食材のタヒーナ(ゴマのペースト)を和風にアレンジして作ったプリンに黒蜜ときな粉をかけたデザートや,茶わん蒸しにモロヘイヤのスープをかけた料理は,エジプトの人々にも大変喜ばれ,現地食材の和食との融合の可能性を強く感じさせました。
3 チャリティーバザーへの参加
カイロでは,アジア外交団夫人会が主催するチャリティーバザーが毎年開催され,肥田料理人は毎年積極的に参加し,和菓子,洋菓子,寿司などを提供しています。
昨年3月の東日本大震災はエジプト人の間でも大きな衝撃をもって受け止められ,4月にはカイロの国際交流基金で日本語を学ぶエジプト人有志の声により,東日本大震災からの復興への貢献としてバザーが開催されました。このエジプト人の思いやりに心を打たれた肥田料理人は,エジプト人への感謝の気持ちと被災者の皆様に食を通じた貢献をすべく,さくらもち,おはぎ,シフォンケーキ,焼き菓,助六寿司を提供し,バザー当日には販売にも参加しましたが,これらの料理はあっという間に完売しました。
当日はバザー会場近くのタハリール広場では大規模なデモがおこなわれ,路上に駐車していたバスが炎上するなど,緊迫した情勢であったにもかかわらず,多数のエジプト人が来場し,遠く離れた日本での震災にエジプト人も高い関心をもっていることが感じられ,この場面においても肥田料理人の食を通じた交流の見えない力が発揮されました。
日本大使館にて実施した第4回JENオープンサロン(注)では,寿司のデモンストレーションを披露し,寿司を握る度に来訪したエジプト人からは拍手喝采の大歓声で,その反響はとても大きく地元の新聞にも掲載されました。
(注)日本に関心を有するエジプト人とエジプトに関心を有する日本人に情報共有,ネットワーク促進,発信のプラットフォームを提供することを目的として,大使館が中心となって立ち上げたもの。日・エジプト双方向の文化交流促進を目指している。
4 このように,肥田料理人は,エジプト人が喜ぶ和食の追求を通じて,日本とエジプトの交流が促進され,より強固な関係になるよう幅広い方面で活躍を続けています。