平成17年11月
変化を続ける国際情勢の中で、日本は多くの外交課題に直面している。とりわけ、国民の安全と繁栄を確保する一方、国益と国際的な利益との調和を図り、新たな国際秩序の構築に主体的に参画することが一層重要となっている。また、最近のテロや大規模災害の事例から明らかなとおり、海外における邦人保護のニーズが更に高まっている。さらに、海外で活動する日本企業との連携を一層強化することが求められている。これらの課題に応えるためには、長期にわたり、日本の外交力、情報力を高めていくことが必須である。
日本の外交を推進する上で、その前線に位置する在外公館に勤務する職員には、従来以上に活発な業務の遂行が求められている。その一方で、テロや政治情勢の変化による治安・安全状況の悪化、大規模災害の発生等により、在外職員の勤務・生活環境は一層厳しさを増している。このような中で、海外での勤務と生活のための経費に充てられる在勤基本手当については、平成12年度以降の5年間に、平均で3割、公館長は4割と大きく削減された。その結果、多くの職員の海外勤務について相当の支障を来してきていることが危惧される。
我が国の外務省は、主要国と較べて格段に少ない人員で外交に携わっている。それだけに、なおさら、職員それぞれの能力を十分に発揮させなければならない。このような意味でも、在外職員の勤務・生活環境を改善すること、特に過酷な環境の中で勤務に励む在外職員を物心両面において支援することが不可欠となっている。このため、外務人事審議会は、従来から、在勤基本手当が、それぞれの在外職員が外交活動を円滑に推進するために必要となる経費を適正に反映した額となるよう勧告してきた。しかし、近年の大幅削減が行われた結果、現在の諸手当が必要な経費を反映していないことを懸念する。厳しい財政事情の下ではあるが、在勤手当がこのように大きく削減されたままでは、外交実施体制にとっても制約になりかねない。
外務人事審議会は、こうした認識に立ち、今後の在勤諸手当については、下記1.の基本的課題に対応していくこととし、特に平成18年度予算に関しては、下記2.の諸点を踏まえた改定を行うよう勧告する。
記
日本の外交力、情報力を強化するため、外交実施体制強化の一環として、在勤諸手当に関しては、以下の取り組みを行う。
(1)在勤基本手当は、在外職員が在外公館において勤務、生活するために必要となる基本的な経費に充当するために支給されるものであり、個々の在外職員の業務遂行能力に直接かかわるものである。このため、大きく削減された在勤基本手当の水準回復を図る。その際、外交が国民生活に直結する重要性を有することに対し、国民の理解を高める努力を一層行っていく。
(2)住居手当は、在外職員の住居家賃につき、一部は各自に自己負担させた上で、一定額を限度として実費支給するものである。職員の住居は、外交活動の拠点として、緊急時には職員が事務所等に迅速に参集でき、かつ、職員とその家族の安全が確保できるものでなければならず、また、内外の関係者を招き人脈形成を図ることも求められる。現在、世界各地において、テロ、災害時等を含む危機管理への要請がこれまでになく高まっていることを勘案し、現地事情を踏まえ、職員の適切な住居のための手当の確保に努めていく。
(3)在勤諸手当について、主要先進国や国際機関の在外職員及び世界に展開する日本企業駐在員等と客観的に比較し、改善に努める。
(4)最近の経費増の要因となっている安全対策強化や、在外職員の能力強化に要する費用等に一層配慮する。
(5)在勤基本手当に物価・為替変動を迅速かつ充分に反映させるための一貫性のあるルールを確立する。
(6)職員の能力及び業務実績を手当に反映させる仕組みを研究し、人材確保の視点にも配慮する。
(1)在勤基本手当
明年度の在勤基本手当の額が、少なくとも各勤務地における本年度の手当の実質的な購買力を維持したものとなるよう、物価及び為替相場の変動を完全に反映させた改定を行う。
(2)勤務環境の悪化への対応
在外公館の中には、治安や生活インフラが劣悪で基礎的な日常生活の維持にも困難が伴うような地に所在するものが少なくない。厳しい環境にある勤務地において勤務する職員については、身体的なリスクや精神的・経済的な負担を、在勤基本手当に適切に反映させることにより緩和し、職務と責任を全うできる環境を整える必要がある。そのため、各地の政治・経済情勢の変化、テロの脅威を含む治安の状況、生活インフラ等を考慮し、勤務環境が特に悪化している勤務地については、在勤基本手当を引き上げる。
(3)生命の危険が大きい勤務地への配慮
さらに、戦乱・テロ等により生命・身体への危険が特に大きい勤務地においては、配偶者の同伴が事実上不可能である。このような地での勤務を命ぜられた職員は、本人の意思に関わりなく世帯を分けた二重生活を強いられ、これに伴う経費増が重い負担となっている。このような勤務地については、これらの事情を勘案した形で在勤基本手当を設定し、負担増を軽減する措置を講ずる。
(4)在外職員住居の改善
上記1.(2)の考え方に基づき、緊急度の高い勤務地について限度額を引き上げること等により、適切な住居手当を確保する。
特に、治安や生活インフラが劣悪であり、外交団等が利用できる住居が高額なアフガニスタン等、家賃相場や為替事情のために現在の住居手当限度額では職員のための住居を賄うことが困難なセルビア・モンテネグロ、サンパウロ等について、住居手当限度額を引き上げる。