外務本省

日本外交文書
昭和期II第二部第五巻

 本巻は、昭和11年の対欧米・国際関係外務省記録を編年方式により編纂、刊行したものです。『日本外交文書』は、本巻を加えて明治期以来通算199冊となりました。(A5判、本文730頁、日付索引47頁、総ページ数777頁、採録文書総数391文書)

本巻の概要

一 外交政策一般
二 国際連盟との諸問題
三 欧州政況
 1. 一般問題
 2. 伊エ紛争
 3. スペイン内乱
四 諸外国との外交関係
 1. 日米外交関係
 2. 日英外交関係
 3. 日ソ外交関係
 4. その他諸国との外交関係
五 諸外国との通商問題
 1. オーストラリアとの通商問題(通商擁護法発動問題を含む)
 2. 米国との通商問題
 3. その他諸国との通商問題
日付索引

一 外交政策一般

 本項目では、昭和11年における日本外交の基本的姿勢を明らかにし得る文書を採録しています。
 具体的には、広田弘毅および有田八郎両外務大臣による議会演説や、これに関する文書、および同年に勃発した2・26事件に外務省がどのように対処したかを明らかにする情報部作成「二月二十六日事件ノ善後措置」などを採録しています。(6文書)

二 国際連盟との諸問題

 本項目では、非連盟国となっても、平和的、人道的および技術的事業について国際連盟との協力を継続した日本と連盟との間の諸問題に関する文書を採録しています。
 具体的には、前年(昭和10年)に日本が行った非連盟国の通商均等待遇保持声明の連盟理事会での取扱い、昭和11年の連盟総会決議に基づき設置された原料品問題調査委員会への我が方参加要請とこれに対する対処、常設国際司法裁判所裁判官選挙への非連盟国の参加、連盟への協力金および常設国際司法裁判所への分担金支払いなどの諸問題に関する文書を採録しています。(24文書)

三 欧州政況

 本項目では、昭和11年における欧州情勢に関し、日本が直接関与したわけではないものの、日本外交への間接的な影響が認められる諸問題について次の小項目を設定し、日本側の対応振りを明らかにし得る文書を採録しています。

1. 一般問題

 昭和11年における欧州政局全般を分析した報告を中心に、同年欧州で起こった諸問題のうち日本側が特に関心を寄せたドイツのロカルノ条約廃棄問題、独伊議定書の調印、仏ソ相互援助条約をめぐるフランス側との交渉、モントルー海峡制度条約問題、英ソ接近問題などに関する文書を採録しています。(47文書)

2. 伊エ紛争

 昭和10年に勃発した伊エ紛争は、翌11年にイタリアによるエチオピア併合という形で終結しました。本小項目では、邦人保護およびエチオピアにおける権益保持をめぐってエチオピアないしはイタリア側と交渉した関係文書を中心に、日本政府の同紛争に対する関心を示す文書を採録しています。(36文書)

3. スペイン内乱

 昭和11年に勃発したスペイン内乱に対して、日本と友好関係を深めつつあったドイツおよびイタリアが積極的に介入してゆく中、微妙な立場に置かれた日本のスペイン内乱への対応振りを明らかにする文書を採録しています。
 具体的には、フランコ政権承認問題、居留民保護問題、日独防共協定締結による対日感情悪化問題などに関する文書を採録しています。(23文書)

四 諸外国との外交関係

1. 日米外交関係

 昭和11年における日米関係の主要懸案は通商問題でしたが、同問題関連文書は大項目「五 諸外国との通商問題」で採録することとし、本小項目ではそれ以外の日米間の外交関係を示す文書を中心に採録しています。
 具体的には、斎藤博駐米大使による米国対外政策全般を観察した報告書、米国の中立法延長問題、在米領事会議の開催、ローズベルト大統領が提唱した特別汎米会議の開催問題、米国移民法の「条約商人」条項の解釈をめぐる日米間のやり取りなどを採録しています。(16文書)

2. 日英外交関係

 本小項目では、昭和11年6月に着任した吉田茂駐英大使による日英国交調整に向けた動きを示す文書を中心に採録しています。
 具体的には、吉田の英国国内情勢分析、信任状奉呈の際に英国国王に手交した天皇からの親書、イーデン外相ら英国首脳との交渉、バーンビーら英国産業界との会談、日英関係における日独防共協定の影響、貿易・為替面からみた日英協調の重要性を訴える文書などを採録しています。また、日英外交関係における皇室外交の重要性に鑑み、翌年のジョージ6世戴冠式への秩父宮出席に関する文書も併せて採録しています。(20文書)

3. 日ソ外交関係

 本小項目においては、日独防共協定締結の影響で失敗に終わった日ソ漁業条約改定交渉、試掘権延長問題につきようやく決着した北樺太石油会社関係、軍事衝突などが度々起こった満ソ国境をめぐる諸事件など、昭和11年に日ソ間に起こった諸問題に関する文書を採録しています。(37文書)

4. その他諸国との外交関係

 本小項目では、上記の米、英、ソ三国以外の諸国と日本との外交関係に関する文書を採録しています。(51文書)

《日独関係》
 日独防共協定締結問題については、主要な外務省記録は消失していますが、日独間に「漠然たる約束」を結ぶことにつきドイツ側の意向を探るべしとの訓電と、イギリスとの間にも諸重要問題を協議するための協定を結ぶことを条件に対独交渉に入る旨を記した文書(外務省と陸軍省との間で了解したもの)を採録しています。また、旧植民地領回復要求に関するドイツ側の説明と、ドイツの対ソ政策についての武者小路公共駐独大使による観測も採録しています。

《日伊関係》
 イタリアによるエチオピア併合をふまえ、昭和11年1月に開設した在エチオピア公使館の在アジスアベバ総領事館への変更に向けた日伊交渉を中心に、イタリアの対日政策・対欧州政策に関する杉村陽太郎大使による観測、第12回オリンピック東京招致をめぐるイタリアとの交渉などに関する文書も併せて採録しています。

《日仏関係》
 仏ソ相互援助条約は極東には適用されないとの前政権の見解を踏襲し、日本との親善関係を重視するとのフランダン外相の発言や、日仏間の親善関係持続のための「日仏議員団」設立を伝えるマラン前国務大臣の発言に関する文書を採録しています。

《日・ブラジル関係》
 ブラジルにおける移民問題として、前巻(昭和期II第二部第四巻)からの継続問題である同国新憲法中の排日的移民条項改正交渉の経緯およびアマゾナス州への集団移住計画の交渉経緯を示す文書を採録しています。

《日・ペルー関係》
 ペルーにおける移民問題として、就業者割合や入国者数を制限する大統領令への抗議・改正に関する文書を採録しています。

《日・パラグアイ関係》
 パラグアイにおける移民問題として、同国を安定した移住地として移民送出を目指した交渉関係文書を採録しています。

《日・フィリピン関係》
 日本とフィリピンとの間において解決策が模索されたダバオ土地問題、ケソン大統領が議会に提出した外国人入国取締法案をめぐる問題を中心に、関連文書を採録しています。

五 諸外国との通商問題

1. オーストラリアとの通商問題(通商擁護法発動問題を含む)

 日本側が前年の対カナダに続き、オーストラリアに対しても通商擁護法を発動するに至った日豪間の通商問題に関する文書を採録しています。
 昭和10年から日豪間で行われていた通商条約締結交渉は、翌11年春のオーストラリア政府によるいわゆる「貿易転換政策」により難航し、5月にはオーストラリアが関税改正と輸入許可制を実施、日本政府はオーストラリアに対する通商擁護法の発動に踏み切りました。
 その後、8月下旬頃より交渉が再開され、織物輸出・羊毛輸入数量などをめぐる交渉は難航しましたが、同年末に至りようやく交渉が妥結し、在シドニー村井総領事とガレット豪通商条約担当相との間での書簡交換により事態が収拾されました。
 また、本件の背景にあると観測されていた豪州側の内情や英豪関係、豪州以外からの羊毛買付策などに関する文書も採録しています。(54文書)

2. 米国との通商問題

 昭和11年における日米間の通商案件および日米間の通商問題を大局的見地から検討した関係の文書を採録しています。
 通商案件としては、主としてフィリピン市場および本国市場への日本製綿布輸出をめぐる問題に関する交渉経緯を示す文書が中心です。また、日米間の通商問題をめぐる大局的な状況認識や日米間での意見交換を示す文書としては、「軍縮脱退後ノ日米関係調整」などの観点から大局的な判断が必要とされる旨の在米齋藤大使の意見具申、対中南米との通商問題との関係性、来栖大使の米国立ち寄りに際してのハル国務長官らとの会談要領などに関する文書を採録しています。(50文書)

3. その他諸国との通商問題

 オーストラリアおよびアメリカ以外の諸外国との通商関係諸問題に関する文書を採録しています。
 昭和11年には交渉がまとまらなかったものの、翌12年新たな協定が成立することとなる第二次日印会商(インドとの会商)および日緬会商(ビルマとの会商)、昭和11年に海運問題に関し協定が成立し、翌年には通商問題に関しても協定が成立することとなる日蘭会商(オランダとの会商)、および前年の訪伯経済使節団の答礼として、ブラジルより経済使節団が来日、日本側は同使節団を政府の賓客として扱い、本邦経済界との交流が図られた関係文書などを採録しています。(27文書)

このページのトップへ戻る
目次へ戻る