アジア

平成27年6月22日

 2015年6月20日,アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナーが日本の東京で開催された。本セミナーは,2014年11月の東アジア首脳会議において安倍総理が提案したものであり,安倍総理は,「積極的平和主義」の一環として,アジアの平和と民主主義に対し,日本としてコミットメントを継続していくことを強調した。明石康スリランカ平和構築及び復旧・復興担当日本政府代表が本セミナーの議長を務め,これらの分野に深い見識と豊かな経験を有する多くの著名な方々が参加した。

 本セミナーは,岸田文雄外務大臣による「アジアと共に歩む平和国家」と題する基調演説で開始された。岸田大臣は,平和構築に関する日本の哲学及びアプローチ並びに過去70年間,日本が平和国家としてアジアの多くの地域で行ってきた取組を説明した。岸田大臣は,広島出身の政治家として戦争と平和に特別な思いがある旨述べ,「日本は,アジアの平和構築,国民和解,民主化への貢献を,『岸田外交』の新たな柱に据える」と表明した。参加者は,岸田大臣の演説を心から歓迎し,この目的を達成するための日本の更なる貢献に期待を表明した。

 次に,本セミナーはスピーチ・セッションに移り,多様な経歴や経験を有する著名な方々が,東ティモール,スリランカ,ミンダナオ及びミャンマーにおける和平及び民主化の過程や国連平和活動に関するハイレベル・パネルの活動を含む各々の経験,見識,教訓,成功事例を余すことなく聴衆と共有した。続く対話セッションにおいては,パネリストが,平和構築,国民和解及び民主化に関するそれぞれの見解を述べ,他のパネリストや聴衆と自由な意見交換を行った。

 午後は平和構築や民主化のより特定された側面に焦点を当てた3つのパネル・ディスカッション,すなわち,「平和の定着と経済社会開発」,「多様性の中の調和・穏健主義」及び「平和構築と女性・子供」が同時並行で行われた。

 会議を通じて,参加者は,紛争終結後のアジアの多くの国々が,国内外において困難があるものの,過去数十年にわたり,平和,経済開発,国民和解及び民主化において相乗効果を伴った発展を遂げたことを強調し評価した。また,参加者は,民主化を遂げたばかりの国の全てではないにせよ多くが,国際社会と市民社会の支援を得て,多くのステークホルダーが政治的な議論に参加する多元的な政治制度の維持に成功したことを指摘した。また,参加者は,過激主義の台頭や新たな課題がある中で,国際社会が平和の構築,国民和解の促進,民主的な制度の達成に向けた取組への支援を継続する必要性につき見解を共有した。

 この文脈において,参加者は主に以下の見解を確認した。

  • 紛争終結後の平和構築は,多くのセクターにおいて取組が求められる多元的な課題である。平和構築,国民和解,経済復興,そして最終的な民主化は包括的かつ相互に強化される方法で促進される必要がある。
  • 各々の紛争の性質や背景はそれぞれ独特であるので,平和構築,国民和解及び民主化の各々の過程は独自である。そのような独自性を考慮に入れる必要があるが,様々な言語,文化,宗教を有するアジアには,それが特に当てはまる。多様性に対する寛容は,平和,国民和解及び民主化に不可欠な要素である。
  • 平和構築の取組は人々の心をとらえることなしには成功しない。現地の一般の市民,女性及び子供の恐怖を最小限化するために,少年兵や女性戦闘員を含む元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰の取組を通じて,暴力の水準を低下させなければならない。
  • 全ての関係者を関与させる努力が必要である。国民和解を促進する上で,包摂性が鍵となる。
  • 穏健派は民主制の主要な担い手となり得るので,紛争終結後のコミュニティにおける穏健派のエンパワーメントは有効である。
  • 経済開発と民主化の間には線形的な相関関係はないが,地域社会に基礎を置いた包摂的な経済開発の促進,基礎的インフラの提供及び中間層の育成は,多くのアジア諸国における民主制の構築と定着にとって重要な前提条件であった。インフラ開発によって支えられた経済復旧とその後の開発は,目に見える平和の配当を地域住民に提供し,平和を定着させるのに役立つため,平和にも貢献する。
  • 基本的人権の保護と促進は,戦争で荒廃した国において民主化を成功裏に達成する上で不可欠な要素である。
  • 公務員,警察及び軍人といった国家組織に属している人々は政治的に中立である必要がある。
  • 過去の不正の調査は,罪に問われないという伝統に終止符を打ち,人権を保護・促進する観点から重要である。他方,実際には,国民和解の促進は極めて複雑であり,時間,忍耐及び政治的成熟が求められる。
  • 訓練と教育は極めて重要。人材育成への投資によって,人々は困難に対する強靭性を高め,自分たちの運命を切り開く力をつけることができる。このため「人間の安全保障」政策の重要な目標を達成することが可能となる。
  • 紛争後の平和構築,国民和解及び民主化の全ての過程において男女平等と女性の包含・エンパワーメントを追求することは,極めて重要。子供と若者も平和構築の過程に含まれ,社会的・経済的,身体的・心理的な回復に必要な支援が提供されるべきである。
  • 援助関係者や平和構築の担い手もまた,平和と民主主義について十分訓練され精通している必要である。
  • 国連及びASEAN等の地域機関は,平和,国民和解及び民主化に向けた多くの段階において,これまでも,そして今後も重要な役割を担っていく。

 参加者は,本セミナーの成果が東アジア首脳会議の首脳を含め,幅広く共有されることを希望する旨表明した。


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