大洋州

​第4回 小野真弓×パプアニューギニア独立国

平成30年5月8日

 5月18日~19日にかけて,福島県いわき市において「第8回太平洋・島サミット(PALM8)」が開催され,太平洋島嶼国・地域の首脳が訪日します。
 PALM8開催に合わせ,太平洋の国々や開催地である福島県とご縁のある著名人の方々にインタビューを行い,島での思い出や日本と島嶼国の絆について語っていただきました(全6回連載の予定)。聞き手と記事作成は,隔月刊誌『外交』編集部です。
 第4回の今回は,パプアニューギニア親善大使を務められた経験のあるタレントで女優の小野真弓さんに,パプアニューギニアについてお話を伺いました。

【第4回インタビュー】

小野真弓×パプアニューギニア独立国 生命力がみなぎる場所

(写真1)おのまゆみ タレント・女優

おのまゆみ タレント・女優
 千葉県出身。1999年から芸能活動をはじめ,消費者金融のCMで女性社員役を演じ人気を博した。TVのバラエティ番組やドラマ,近年は舞台にも活動の場を広げている。2006年パプアニューギニア親善大使に就任。

神々しい自然に出会う

(写真2)パプアニューギニアの写真(本人提供) パプアニューギニアの写真(本人提供)

パプアニューギニアとは長いお付き合いですね。

小野 初めて訪れたのは2006年でした。世界中に出かけて行って,日本のお寿司を現地の食材でつくろうというテレビのバラエティ番組で,料理人の森野熊八さん,森公美子さんや原口あきまささん,金子貴俊さんなどと一緒にロケをしました。新鮮な魚は入手できるのですが,生で食べるのは一般的ではないので炙ってみたり,子どもたちがワサビに耐えられなくて吐き出しちゃったり,ハプニングもありましたが楽しいロケでした。

それがきっかけで親善大使に就任されたのですか。

小野 そうですね。ロケの際にニューギニア航空の方に,日本では,まだまだパプアニューギニアのすばらしさが十分に伝わっていないので,協力してほしいと声をかけていただきました。私自身,初訪問のときからはパプアニューギニアの魅力に取りつかれましたので,イベントなどで自分が現地で体験した感動をお伝えする機会ができたのは,嬉しかったです。

パプアニューギニアのどこに感動しましたか。

小野 たくさんの感動体験がありましたが,やはり自然の力,あるいは自然と共存して生きる人々の姿が,特に印象に残っています。
 ニューギニア島に上陸して最初に目に飛び込んでくるのは,やはり自然の素晴らしさです。日本では御神木と言われそうな古木や大木があちこちに生い茂り,その生命力は神々しいほどでした。海に行けば「どこから水なの?」と思うほど透明度の高い海のなかで,熱帯魚やサンゴが色鮮やかな姿で出迎えてくれます。自然本来の姿が持つ美しさ,力強さを強烈に感じました。

山間の小村で豚の丸焼きを食す

(写真3)パプアニューギニアの写真(本人提供) パプアニューギニアの写真(本人提供)

小野 そうそう,自然との関わりという点では,そこに住んでいる人たちの姿も忘れられません。

「姿」というのは,見た目ですか。人々の暮らしという意味ですか。

小野 その両方です。見た目というか,例えば子どもたちの身体能力がすごいんです。コゲ村という山間部の小さな村を訪れたときのことでした。子どもたちがたくさん集まってくれて,みんなかわいいんですよね。それで一緒に散歩しながら,ふと高いヤシの木を見上げて,「あ,あそこにヤシの実がある」って言ったんです。そうしたら一人の子が,するするするって木登りして,あっという間にその実を取ってくれました!何でもないことのように数メートルのヤシの木を駆けあがる姿には,本当に驚きました。それもその子だけがすごいのではなくて,みんなできるんですよね。

木登りなんて,日本では見かけなくなりました。

小野 そうですよね。昔は日本でも一般的な遊びだったんでしょうけど……。
 実は同じような経験がもう一つあります。ロケ中に村の人たちと親しくなって,最後はともに涙のお別れになしました。私たちはバスに乗り込んで,後ろ髪を引かれる思いで帰っていくと,しばらくしたらさっき手を振っていた子どもたちが麓のあたりにいるんです。私たちが山道をぐるぐる回りながら下りる間に,ところどころ切り立った崖もあるような山腹の「道なき道」を直線で駆け下りてきて,先回りして待っていてくれたのです。聞くところによると,子どものころから自然に鍛えられてるので,足の指が発達していて,足で掴む力が発達しているとのことでした。子供たちの気持ちも嬉しかったのですが,そういう姿を見ると,私たちの肉体がいかに「退化」しているか,考えさせられました。

人々の暮らしという点ではいかがでしょうか。

小野 これも同じくコゲ村で,食について思いを新たにする出来事がありました。滞在中に村長さんをはじめ皆さんがごちそうをふるまってくださいました。コゲ村でごちそうといえば豚の丸焼きです。手足を縛られ火に炙られる豚の姿は衝撃的で……。その迫力もさることながら,かわいそうになって涙してしまいました。村の人たちは不思議そうな顔をしていましたね。

食べられませんでしたか。

小野 いや,食べました。すごくおいしかった(笑)。そして,食べるとはこういうことだ,と思いました。
 肉を食べるということは,動物の命をいただくということです。本来それは罪深いことで,だからこそ感謝の気持ちとともにいただくことが大切なのでしょう。村の人たちは,無駄な殺生はしません。遠方から来た私たちを歓迎して,豚の丸焼きをつくってくれたのです。そのもてなしの気持ちと,動物の生命をいただくことへの感謝の気持ちは,私の心に強く残りました。

海と山と都市が共存する国

(写真4)パプアニューギニアの写真(本人提供) パプアニューギニアの写真(本人提供)

パプアニューギニアにはその後も何度かお出かけになっています。

小野 全部で3,4回は行きました。私が初めて行ったときは週1便だった直行便が,いまは週に2便になっています。週に2便あると,気軽に出かけやすいですよね。飛行時間も6時間台で,太平洋の島嶼国では圧倒的にアクセスがいいと思います。
 パプアニューギニアの魅力は,自然だけではありません。実はパプアニューギニアは人口800万人を誇る地域大国で,首都ポートモレスビーは素敵なリゾートホテルも立ち並ぶ「都会」です。海や山に加えて,都会の生活も楽しめるのは,この国の大きな魅力です。それに地方に出かけるにはツアーも豊富で,ダイビング好きの私は,北部のマダンという町に何度か足を運びました。
 食事はタロイモが主食ですが,肉,魚,野菜,穀物,さまざまな素材をヤシの葉で包んで蒸し焼きにしたり,ココナッツを使って調理したり。海老は特に美味しかった。あ,あと豚の丸焼きも(笑)。

太平洋・島サミットで何に期待しますか。

小野 いまポートモレスビーの話をしましたが,都会だけに貧富の差がみられる地域もないわけではないし,一部ですが治安の悪い場所もあります。さまざまな格差が緩和され,国全体がより豊かで安全になるための手助けを日本ができるとよいと思います。
 パプアニューギニアのポテンシャルは,観光にとどまらず,豊富な天然資源にもあります。日本が関わっている液化天然ガス(LNG)の事業もあるんですよね。このような大規模な資源開発や国内のインフラ整備についても,日本の役割は大きいと思います。ただ,開発やインフラ整備に対しては,格差の助長や環境破壊を心配する声もあります。ぜひ,日本の支援はそうではないんだ,というのを見せてほしい。多くの人が恩恵を享受でき,環境保全とも両立する,そういう日本らしいサポートが深まることを期待しています。
 最後に,今回のサミットは,私たちが島嶼国を知る,あるいは島嶼国から学ぶよい機会でもあると思います。現地では「日本はなんでもあっていいね」と何度も言われましたが,私に言わせれば,「いやいや,あなたのほうがいろいろ持っています」という気持ちです。日本とは違う「豊かさ」のある場所ですので,ぜひ多くの方にパプアニューギニアに足を運んでもらえると嬉しく思います。


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