大洋州

第3回 田中美奈子×パラオ共和国

平成30年5月2日

 5月18日~19日にかけて,福島県いわき市において「第8回太平洋・島サミット(PALM8)」が開催され,太平洋島嶼国・地域の首脳が訪日します。
 PALM8開催に合わせ,太平洋の国々や開催地である福島県とご縁のある著名人の方々にインタビューを行い,島での思い出や日本と島嶼国の絆について語っていただきました(6回連載の予定)。聞き手と記事作成は,隔月刊誌『外交』編集部です。
 第3回の今回は,パラオの名誉親善大使を務める女優の田中美奈子さんに,パラオとの関わりについて,お話を伺いました。

【第3回インタビュー】

田中美奈子×パラオ共和国 島嶼国の目線から「グローバル化」を考える

(写真1)たなか みなこ 女優

たなか みなこ 女優
 千葉県生まれ。1984年「ミスマガジン」準グランプリで芸能界入り。数々のTVドラマ,映画,CM,ファッション誌などで活躍。バブル期にはボディ・コンシャスなファッションで注目を集めたが,本人はいたって自然派。パラオには1990年に写真集の撮影以来,何度も訪れている。2016年よりパラオ名誉親善大使。



  • (写真2)パラオの写真(本人提供)
    パラオの写真(本人提供)

パラオ名誉親善大使ということですが,どのようなお仕事ですか。

田中 パラオと日本の親善につながることであれば,いろいろな場所に出かけます。2月には日本財団がパラオに巡視船の寄贈と乗員の人材育成などの支援を行う記念式典に,パラオ側来賓として参加しました。マツタロウ駐日パラオ大使と一緒に大使館にゲストをお招きしたり,横浜ベイマリーナのオープンヨットレースの表彰式でパラオ旅行のプレゼンターとして登壇したり。10月の独立記念日に行われる現地の式典にも参加します。

そもそも,パラオに初めて行かれたのは,いつ頃ですか。

田中 デビューして間もなく,写真集の撮影で訪問したのが最初でした。かれこれ30年近く前ですね。どこか海のきれいなところで撮影場所を探していたときに,当時のスタイリストさんが強く薦めてくれたので,「それじゃあ行ってみようか」と。

行ってみて,いかがでしたか。

田中 瞬時にはまりました(笑)。

何にはまったのですか。

田中 それはもう,手つかずの大自然です。きれいな海,白い砂浜,聞こえるのは波音と鳥の鳴き声だけ。私にとっては,本当に理想的な場所でした。

ちょっと意外な感じがします。

田中 よく言われます。私はどうしても「ボディコン」や「六本木」のイメージが強いみたいで……(笑)。でも実際は逆で,ラフな格好で,自然の中で過ごすほうがずっと好きですね。設備の整ったホテルでなくていいし,ブランドショップもなくていいです。

すみません,誤解していました。

田中 いえいえ,お気になさらずに(笑)。パラオでは,何といっても海の美しさに衝撃を受けました。水深や海底の地形によって色が変わる「七色の海」。膝くらいの水深の浅瀬にも魚が泳いでいて,海に潜ればカラフルなサンゴが待っている。さらに沖に出れば,イルカたちは,ボートと並走して泳いでくれる。
 海の透明度は70メートルといわれていて,スピードボートの上からでも海底が見えるんです。どこまで深いのか,怖くなるくらいでした。仕事で海のきれいな場所にもたくさん行きましたが,ここまできれいな海に出会ったことはありません。

それで,リピーターになったんですね。

田中 そうなんです。それにパラオの人たちはとてもフレンドリーで,食べ物もおいしい。マグロ,カニ,シャコガイ,ロブスターなど海の恵みが豊富です。10日ほどの滞在でしたが,すっかり心を奪われました。
 それからは,映画の撮影や雑誌の仕事など,大きなイベントが終わると,スタッフや友人を連れて毎年のようにパラオに行きました。出産してからはしばらく間が空きましたが,下の子が小学生になったのを機に,今度は家族で出かけています。家族も気に入ってくれて,もう第二の故郷ですね。

環境と観光の両立をめざして

(写真3)パラオの写真(本人提供) パラオの写真(本人提供)

ずっと関わってこられて,パラオが変わったところはありますか。

田中 まず何より,人気のリゾートになりましたよね。30年近く前に私が初めて行ったときは直行便もなくて,グアム経由で一日がかりで行ったことを覚えています。その後直行便やチャーター便が運航されてアクセスが良くなり,認知度が格段に高まったと思います。ホテルもたくさんでき,快適度も増しました。多くの人がパラオの魅力に触れてくれたことを,とても嬉しく思っています。
 ただ,「ありのままの自然」は少し後退したかもしれませんね。子どもたちを連れて久しぶりに訪れたとき,以前と比べると海の透明度や色鮮やかさが失われている気がしました。その点はレメンゲサウ大統領にも率直に申し上げました。

え,大統領と話せるんですか??

田中 そうなんです。実は最初の写真集撮影のとき,現地でコーディネートしてくれたガイド役のお兄さんが「パパだよ」と紹介してくれたのが,当時のエピソン大統領でした(笑)。縁あっていまでも仲良くさせていただいて,光栄なことに,現在のレメンゲサウ大統領にも彼の紹介で会わせていただきました。

大統領は何かお返事になりましたか。

田中 大統領は環境保護についても専門的な知識をお持ちで,重要な問題だと認識されていました。「いま手を打たなければ,この美しい自然を後世に残せない」とおっしゃられましたし,その自然こそがパラオの魅力であり,発展の基礎となることを理解されていると思います。

それがきっかけで親善大使に?

田中 「仕事でも何度もパラオを紹介していただき,貢献してくれている。すでに大使です。」とおっしゃってくださいました。

日本とパラオは歴史的にもつながりがありますね。

田中 日本が委任統治していた時代があるので,ご年配の方は日本語を話せる方もいらっしゃいますし,日本語が変形してパラオ語になっている言葉も少なくないです。乾杯のときは「ツカレナオース!」(疲れ治す)って言うんですよね(笑)。名前もそうで,日本人からすると少し不思議な感じですけど,現在の駐日大使はラストネームが「マツタロウ」さんです。
 私が第二次大戦の激戦地ペリリュー島にも足を運んだときは,島民の皆さんが温かく迎えてくださいました。とても親日的な国だと思います。2015年に天皇皇后両陛下が戦没者慰霊のために訪問された際も,大きな歓迎で迎えられたと聞きました。

パラオの自然と歴史から,世界を考える。

(写真4)パラオの写真(本人提供) パラオの写真(本人提供)

間もなく第8回太平洋・島サミットが開催されます。これからの日本とパラオの関係に何を期待しますか。

田中 目先のことでいえば,医療などについてより充実した支援があればいいですね。現地の方の健康増進はもちろん,観光客もいま以上に安心して足を運べるはずです。特にお子さんがいる場合は,心強いのではないでしょうか。
 それと,子どもたちが現地に出かけ,パラオの自然,文化・芸術,歴史に触れられるような機会をつくれればと思います。日本の子どもたちって,すこし窮屈だと思いませんか。勉強は大切だし,ゲームも悪いとは思いませんが,自然の中で遊ぶことや人と関係をつくっていくことも,大切な「勉強」です。美しい大自然を体験して初めて,この自然を守りたいと思うだろうし,穏やかで信頼の強い共同体を知ることで,それを維持する大切さを感じるはずです。
 グローバル化が叫ばれる現在ですが,ともすれば英語ができることとか物質的な豊かさの追求と同義になりやすい状況の中で,パラオには別の「グローバル」な価値があると思います。どちらがよいということではなく,どちらも知ってほしい。どちらか片方では本当のグローバルではないですよね。今回の太平洋・島サミットが,そういうことを考える一つのきっかけになってほしいと期待しています。


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