
対米外交に関する月刊誌の記事について
平成19年4月
月刊誌「選択」3月号は、「危うい安倍『対米自立』外交」と題する匿名記事を掲載しております。同記事は多くの事実誤認、誤解を含んだものであり、率直に言って、その一つ一つにつきコメントする価値があるものとは思えません。ただ、同記事が谷内外務事務次官の「発言」なるものを引用し、安倍総理が「離米」外交を志向し、「米国からの自立をめざす」外交を展開しており、そのシナリオは同次官が書き、実施に移していると報じている点は看過し得ないところでありますので、この点に絞って誤解を正しておきたいと思います。
- 記事は、「谷内次官は、今後の対アジア外交について、『中国とは戦略的互恵関係を保っていく。アジアの安定は、日本、中国、ロシア、それにインドによって築いていくことになろう』と都内で開かれたセミナーで語っている。」とした上で、「谷内次官が『米国抜きのアジア』を語った真意はどこにあるのか」と考察を続けていますが、同次官が、いかなる場においても、そのような発言を行った事実はありません。それどころか、同次官としては、日米同盟は我が国外交の基盤であり、アジアの安定と繁栄を確保する上でも日米同盟が前提となることについて、講演等の場でも、必ず強調しているところです。
- また、同記事は、「谷内次官は2月中旬、外務省の局長級幹部との会合でこう言い放った。『NAC(北大西洋理事会)での首相演説は、各国に非常に評価された。日本は今後、NATOのディファクトメンバー(事実上の加盟国)になるだろう』 出席した幹部の一人は『今後、日本外交の軸足を米国以外に移すとの宣言のようだった』と驚きを隠さない。」と記述していますが、これも不正確、不適切な記述と言わざるを得ません。同記事がいう「局長級幹部との会合」がいつの機会を指すのか不明ですが、同次官は、講演等においても、国際情勢の変化を受けてNATOが冷戦時の対東側軍事同盟としての性格を変化させ、最近では、平和構築活動や災害支援などの分野にまで活動を広げてきている事実に言及しつつ、日本としても協力できる分野が増えてきており、個人的には、日本は、10年以内には、そういったNATOのディファクトメンバー(事実上の加盟国)になるくらいの気持ちで協力を強化していくべきと考えているとの趣旨を述べたことはありますが、同時に、これは日米同盟と相互補完的である旨説明しています。また、その際、ともにNATOのメンバーでありながら強固な同盟関係を保っている米英両国の例に言及しています。
- 同記事は、以上のように谷内次官の発言についての不正確な引用・解釈の上に日米関係に関する考察を行っており、そのことについては、「選択」発行人、編集長に対して同次官から1時間近くの時間をかけて直接説明もし、また、外務省報道官組織より同誌編集部に度々説明したにもかかわらず、その説明の内容がその後の紙面にまったく反映されていないことは、「正確な情報」を標榜している同誌の対応として極めて遺憾です。
- なお、谷内次官は、講演等において、安倍政権の外交課題を、1)アジア外交の再構築、2)日米関係の維持・強化、3)外交の地平の拡大=自由と繁栄の孤の形成、に整理して説明することがありますが、2)は、1)や3)を実施する上でも当然の前提と位置づけています。