平成24年9月
平成24年9月13日(木曜日),外務省において平成24年度第1回「外務省セミナー『学生と語る』」を開催いたしました。
全体講演および分科会の内容について,アンケートにご協力をいただいた参加者の感想を引用しつつ,紹介します。
「学生と語る」開催趣旨の説明に続き,外務省が発行するわが国唯一の外交専門論壇誌「外交」について紹介した。
初めに核燃料サイクルの基本知識について軽水炉を事例に説明。その中で濃縮設備,再処理設備が核不拡散の観点から重要であると語り,日本が,原発を保有する国・地域の中でNPT上の核兵器国(P5)以外で濃縮設備および再処理設備を保有する唯一の国であることの意義を,原子力協定を踏まえて詳説した。続いて核不拡散の国際的な動向について,NPTの作成,発効の背景を述べ,NPTで定義する「核兵器国」,さらに非核兵器国の核不拡散の義務・包括的保障措置の受け入れ,誠実な核軍縮交渉,原子力の平和的利用の「奪い得ない権利」などNPTの概要を解説した。さらにイラクの核問題を契機として1997年にモデル追加議定書が採択されたことに触れ,「拡大申告」と「補完的アクセス」を定める追加議定書によって核不拡散体制が強化されたと語った。
次に原子力安全の枠組みについてチェルノブイリ事故以降に作成された原子力安全4条約を中心に解説した。初めに,国境を越えて物理的な影響を生じさせ得る原子力事故を直ちに通報する義務を定めた原子力事故早期通報条約,事故時の援助提供を容易にするための国際的な枠組みを定めた原子力事故援助条約の事故2条約について解説。次に,原子力発電所およびバックエンドの施設の安全に関して,法令上の枠組みや規制機関の設立,さらに国別報告書の作成と伴う「ピア・レビュー」等を定めた原子力安全条約および使用済み燃料等安全条約について説明し,原子力安全の分野でも法的な枠組みが設定されたと語った。しかし核不拡散においては国際社会全体で責任を負い,強制力のある査察が行われているのに対し,原子力安全に関しては,原子力安全条約の前文に「原子力安全に関する責任は原子力施設について管轄権を有する国が負う」とあるとおり,施設を保有している国が責任を負うとの相違があることについて説明した。
次に核セキュリティについて,核物質防護の概念が発展してきたものとして,その変遷を踏まえて解説した。冷戦時代に発効した核物質防護条約については,国際輸送中の核物資に関する防護措置などを定めている一方で,国内に貯蔵する核物質は防護措置の対象から除外されているが,これは,国内における防護措置はその国が決めることで条約の規制対象とすべきではないという原則が貫かれたもので,「奪い得ない権利」を侵されたくないという考えが底流にあったと言及。次に冷戦終結から9・11までは,ソ連崩壊後に旧ソ連諸国の核兵器・核物資の管理,諸外国への不法移転等の問題が浮上し,このことに対する取組が行われるようになったと述べた。さらに,9・11以降は状況が大きく変わり,核テロの可能性はそれ自体国際安全保障の脅威として認識されるようになり,それを受けてIAEAは核セキュリティを,兵器の盗取や,妨害破壊行為など悪意を持った行為に対する予防,検知,対応としたいわゆる核テロ対策であるとして定義していると述べた。また,9.11以降の進展として,2005年の核テロ防止条約の採択と改正核物資防護条約の採択(ただし,未発効。)について解説した。
次に原子力ルネサンスと3Sイニシアチブについて解説。はじめに,2000年代における原油価格の急騰により,いずれ化石燃料が枯渇するとの懸念からエネルギー安全保障の要請が高まってきたこと,さらに地球温暖化問題にも配慮する必要があることから,原発を拡大する国,新規に導入を検討する国が増加したことについて数字を挙げて解説し,このことが「原子力ルネサンス」として広く知られることとなったと述べた。一方,原子力エネルギーの活用には核不拡散,原子力安全,核セキュリティを確保するための取組みが必要であるが,新規導入国はそのことに対する十分な認識を欠いていたため,これを受け国際社会において,原発を導入する上で必要な作業を整理して新規導入国に理解させるとともに,必要な基盤整備を支援すべきではないかとの問題意識が高まってきたと述べた。このような状況の下で,日本としては,G8サミット,各種国際フォーラムで原子力平和利用に当たって3S(safeguards,safety,security)の確保が必要であるとの意識啓蒙に努めると共に,北海道洞爺湖サミットにおいては,3Sコンセプトを首脳宣言に明記するとともに,3Sイニシアチブという文書を作成するプロセスを主導したと語った。さらに,日本としては,マルチのみならず二国間においても新規導入国に対する働きかけを行っていることについて,二国間原子力協定を通して解説した
続いて,3Sを推進してきた我が国において残念ながら東京電力福島第一原発事故が起きてしまったことは大きな衝撃であったと述べ,事故後は(1)事故に関わる情報を提供して教訓を国際社会で共有し(2)国際的な原子力安全強化への貢献の2点を発信してきたと解説した。昨年5月のドーヴィルサミットでは国際的な安全強化のための5提案さらに事故からの知見の共有と日・IAEA国際会議の開催を表明し,サミット以降も,IAEA,国連等の国際会議の場で報告書の提出やプレゼンなどで情報を共有するとともに,原子力支援IAEA登録制度(RANET)の拡充や原子力安全条約の運用強化を提案し,現在,日本の提案に沿った形で合意が形成され,拡充が進展中であると述べた。このように,日本は事故に関する情報発信と,原子力安全の国際的な強化に取り組んできたが,本年12月の原子力安全に関する福島閣僚会議は,このような流れを受けて開催されるものであり,昨年5月から目標としてきた福島会議を成功させることにより,日本の透明性をさらに高めるとともに国際的な原子力安全性を強化させ,さらに各国の閣僚が訪れることで福島再生の理解が深めることによって福島の復興に寄与するものと確信していると語った。
最後に,福島事故後の主要国の原子力政策について概観し,ドイツ,スイス,イタリアは脱原発に舵を切ったが,圧倒的に多数の国は福島事故後も原子力安全を強化しながら原子力発電を維持する意向を持っていると言及。また現在,世界では発電の約13.5%を生み出す約430基の原子力発電が稼働しているが,IAEAの見通しでは2030年には90基から350基の原子炉が増設されると分析していると紹介し,日本の外交政策は,このような状況を踏まえて策定される必要があると述べた。最後に,日本は,資源小国として厳しい査察を受けながら
原子力の平和利用を推進し,原子力先進国として世界で有数の原子力技術を保有するに至った国であり,その一方で,唯一核兵器が使用された国でもあり,また,福島事故を起こしてしまった国であるなど,原子力を取り巻くあらゆる状況を自らの課題として経験した唯一の国であることを説明し,そうであるならば,日本は国際社会における原子力の平和利用が核不拡散,原子力安全,核セ キュリティに照らして適切に実施されるように様々な政策手段を用いながら引き続き積極的に貢献していくことが求められている,と結んだ。
はじめに,入省後のキャリアパスについて紹介し,本省勤務~留学~大使館勤務という外務省のキャリアパスは自身の将来につながるステップアップだと強調した。続いて学生時代の体験を通して,後悔しない人生を送ること,何のために働くのかといったことを真剣に考えていたことを紹介。入省後は,本省で経験した勤務を紹介しつつ,外務省における業務を具体的かつ詳しく説明し,入省直後から外交の最前線に立って活躍することができると語った。また,自身のスペイン大使館勤務を通して外交交渉,通訳,領事,広報文化等の業務について具体例を挙げて説明し,在外における外交の最前線はアイデアと人間力が求められるとのメッセージを伝えた。最後に入省10年を振り返り,外交の仕事は迷うことのないやりがいのある仕事であると実感したと語り,是非とも学生時代を有意義に過ごし,外務省の門を叩いて欲しいと,講演を締めくくった。
全体講演終了後,6つの会場に分かれて分科会が開催され,各分科会では,外務省員によるプレゼンテーション,質疑応答,参加者によるディスカッション等活発な意見交換が行われた。
東アジアにおける地域協力についてアジア外交の重要性,ASEAN,ASEAN+3,EAS,日中韓等の既存の地域協力の枠組み等につき説明し,日本がこれらの多層的かつ開放的なネットワークを通じてどのような取組を行っているのか説明しました。特に,ゲーム理論の一つである「囚人のジレンマ」を一例に,参加者をゲームに参加させる形で,いかにアジア地域において関係各国が地域協力を目指すよう取り組んでいけるかにつき,参加者とともに議論を行いました。
参加者からは,東アジア地域協力に関し,現在の竹島や尖閣諸島をめぐる事態や歴史問題についての解決策や日本政府の取組ついての意見が出され,日本の領土保全・安全保障や国民へ説明,ASEANとの協力の重要性について活発な議論が行われました
冒頭なぜODAをやるのかという根本的な部分について議論を行いました。我が国の国益(日本企業の商業的利益も含む)の実現に直接的に資するやり方でODAを実施すべきという「国益派」とあくまで途上国の開発・経済成長やグローバルな諸課題の解決のために貢献すべきであるという「国際派」の双方の立場から積極的な意見が出されました。その後,ピークの97年と比較すると約半減しているODA予算の現状や国際比較,ODAの各スキームや実施体制,ODAを巡る課題とそれに対応するための改革の取組などについて説明を行い,学生の皆さんからは鋭い指摘や質問が出されましした。最後にODA予算を増額するために如何なるアプローチがありうるかという点についても短時間議論を行いました。
平和維持及び平和構築に関する現状や課題等について,国連平和維持活動(PKO)への日本の取組を中心に説明しました。その後,日本はなぜ平和構築の分野での貢献を行うのか,どのような日本の貢献があるべきなのか等について,参加者と共に議論を行いました。
参加者からは,世界の平和と安定が日本の国益につながる等の観点から,日本は積極的にPKO等への貢献を行うべきとの意見が多く出されました。さらに,警察を含めた文民の派遣も推進すべき,文民の保護も行うべき,PKOだけに固執せずにODAや予防外交を含め様々な取組を行うべき等の意見が出されました。一方で,危険な場所に派遣されることや自衛隊が国外で武器を使用しうるという観点から,PKOへの派遣には慎重であるべきとの意見も出されました。
欧州債務危機問題について,その発生と現在に至る経緯,ユーロ圏のはらむ構造的問題点,それを克服するための欧州諸国のこれまでの対応について説明しました。また,欧州債務危機を含む国際経済金融情勢についてのガバナンスの現状とその中で日本が果たしている役割についても紹介しました。
参加者からは,ギリシャ問題の今後の見通しや欧州内での路線対立の克服のための取り組みについて質問や意見が出されました。また,欧州債務危機問題以外にも,円高や少子高齢化,若年失業問題をはじめとする日本経済の見通しや政府の対策等,広くわが国の経済政策についても質問や意見が出されました。
最初に,中東・北アフリカ地域にある様々な課題を参加者が提起し,それらの課題から見える同地域の特徴について,社会・経済的側面から考察を深めていきました。
参加者からは,同地域の特徴として,人口増加や若年層の失業といった社会構造や複雑な民族・宗教といった点について指摘がありました。その後,イランの核問題を巡るイランと国際社会のやりとりについて俯瞰した後に,同問題を解決するために国際社会がとる「対話と圧力」のアプローチについて議論を行いました。議論の中では,イランの立場から,なぜイランは核を必要とするのかといった論点についても意見交換を行いました。
オゾン層保護と地球温暖化への対処に関する国際的な枠組みをそれぞれ概観し,オゾン層保護のモントリオール議定書のシステムを地球温暖化に当てはめることができるか,二つのグループに分かれて議論しました。また,環境条約の国際会議と国際交渉の仕組みについて紹介しました。
参加者からは,気候変動における因果関係の明確化の重要性が指摘されると共に,モントリオール議定書の良いところを取り入れていくことが重要との意見が出されました。また,オゾン層破壊と地球温暖化は原因や影響が異なっても長期的には全ての国が協力して真剣に取り組んでいかなければいけない課題であるとの認識が共有されました。
分科会終了後に行われた懇親会には,参加者に加え,横井裕外務報道官をはじめ全体会・分科会講師,入省1年目の省員など50名を超える外務省員が参加し,参加学生と外務省員が熱心に語り合う姿が会場の随所に見られました。 その模様の一部については下記の写真をご覧下さい。
今回の「外務省セミナー『学生と語る』」には定員を超える応募があり,会場の都合により残念ながらご参加頂けなかった方々には深くお詫び申し上げます。
ご参加頂いた方々のアンケートでは,参加して良かったという感想をはじめ分科会テーマ,議論の進め方などについて様々なご意見,ご提案をいただきました。アンケートに寄せられたご意見,ご提案を参考に本事業をさらに充実・発展させて参ります。
今回,本事業の広報活動にご協力いただきました各大学,大学院,予備校等の教育機関の教職員の皆様に厚く御礼申し上げます。