平成23年1月
平成22年12月2日(木曜日),外務省において,平成22年度第2回「外務省セミナー『学生と語る』」を開催いたしました。
全体講演のおよび分科会の内容について,アンケートにご協力をいただいた参加者の感想を引用しつつ,紹介します。
『学生と語る』開催趣旨の説明に続き,学生を主対象とした外務省主催事業『外交講座』『国際問題討論会』の他,外務省ホームページ掲載コーナー『わかる!国際情勢』も紹介し,加えて ,一昨年の事業仕分けの結果を踏まえ今年度から創刊された外交専門論壇誌『外交』第1刊から第4刊の概略を案内しました。
冒頭,自分が外務省入省を志す一学生であった時には外務省員の仕事に対し誤ったイメージを抱いていたと打ち明け,学生の皆さんには「外務省での仕事」への正しいイメージを少しでも持って頂きたいと述べつつ,今日の講演では「日々の外務省での仕事ではどういうことを考えているのか」「どういう視点で相手国を見ているのか」等のポイントを主に採り上げたい,自分が担当しているロシアに対する具体的な政策等については質疑応答の中で適宜お答えしたい,と,今回の講演の構成について説明しました。
まず,学生時代に外務省入省を志した動機の一つに,日米貿易摩擦を巡る橋本通産相(当時)とカンター通商代表(当時)との緊迫した協議のイメージがあったことを紹介し,入省前は,「外交交渉とは目の前の交渉相手を論破することを通じ自国利益を押し通すものである」というイメージを持っていたが,入省後に種々の交渉現場に関わってからは「交渉の場で交渉相手を論破すること自体が目的なのではなく,相手国政府の立場やその背景にある国内事情・国民感情,交渉相手が置かれている状況等を十分踏まえて交渉を進め,国益を追求していく」ことこそが外交交渉の要諦であることを認識していった,と述べました。
そして,外交交渉においては「現場」と「東京」の双方が重要であり,交渉を成功させるためには交渉現場のみならず,日本国内の種々の利害関係を調整する本省の役割も非常に大きいことを説明しました。換言すれば,外務省職員には「現場=外交官」と「東京=外務官僚」の二つの立場があり,現場には現場の,東京には東京の,各々の役割と緊迫感が存在し,いずれも「外交の最前線」と呼び得る,と指摘しました。
次に,外交交渉を進める際に,外務省は日本国内の利害や感情と無関係に交渉を進められるはずがなく,その時々の国内事情,政治事情を踏まえて交渉に臨むことになる,したがって,理論的にあり得るオプションがすべて政策オプションになるわけではなく,外務省が現実的に取り得るオプションは,実は限定されている場合がある,と政策立案に当たっての現実を話しました。そして,相手国においても同様の事情があることを指摘し,外交官にとっては相手のそうした事情を適切に把握することも交渉を成功させるために重要だと明言しました。
その後,日本が国際社会においてどのような位置付けにあるのか,日本をめぐる国際環境がどのようなものであるかを正確に把握することもまた重要 であると指摘し、日本と他国との経済・軍事規模比較,日本の地政学的位置,日米同盟や米韓同盟の役割,台頭する中国・インドの存在等に触れました。
現在関わっているロシアについては,ロシア外交が米国の一極支配に対峙する概念である世界の多極化の実現を自らの利益と捉えていることを指摘した上で,ロシアは,国家利益を追求していく上で,「経済の近代化」や「アジア太平洋地域への統合」を目指していると説明しました。そして,「経済の近代化」の実現のためにも,また,「アジア太平洋地域への統合」の実現のためにも,ロシアは日本との協力を期待していると見られることを明らかにしました。ロシアは,現在,中国と良好な関係を構築しているが,日本とも協力を強化したいと思っている,他方で,日露が真の友人となるためには「北方領土問題」の解決が必要である旨を指摘しました。
さらに,対ロシア政策を企画・立案していくためには,ロシアにおける意志決定システムや政府内外の力学についても可能な限り知っておく必要があるとし,現在のロシアにおいては,重要政策についてはメドヴェージェフ大統領とプーチン首相の両者が相談しながら意志決定をし国家運営をしていると見られる旨を説明しました。その上で,メドヴェージェフ大統領が有する法的権限やプーチン首相が有する実質的権限の源についても説明しました。
こうした説明の後,外務省員にとって重要なことには,国際社会における日本の位置づけを正しく理解すること,相手国の関心や政策目標をきちんと理解すること,相手国における意思決定システム(誰が権限を持っているか)を適切に把握することが含まれる旨を指摘しました。そして,自分は入省前は交渉の現場がすべてだと思っていたが,実際は,前述の諸点を踏まえて本省(東京)で適切な方針を企画・立案することもまた重要である旨を指摘し,外務省員には「外務官僚」と「外交官」の二つの役割があると説明し,講演を締め括りました。
冒頭,外務省入省前に何を考え何故外務省を選んだのか,入省後はどういう思いで業務を行い具体的にどういう仕事を経験してきたのか,その上で現在どういうことを考えているのか,等をお話しした上で皆さんからの御質問をお受けしたいと思う,と本日の講 演の流れを説明した上で,「本日の体験談を通じて伝えたいこと」として,5つのポイン トを挙げました。一点目として「外務省の魅力」から切り出し,それを象徴する言葉として,外交政策(Foreign Policy)と外交(Diplomacy)との違いを強調しました。前者は「外交に関する政策の企画・立案」,後者は「外交の遂行」であり,前者には「構想力・発想力・企画立案能力」が,後者には「人間力・説得力」が求められるため,幅広い業務の中で広範な能力が問われる魅力的な職場であると思う旨紹介しました。二点目の「外務省の果たすべき任務」については,構想力と人間力を通じ,日本国民の皆様及び我々の子孫が世界の中で自己実現を行うための環境整備を行うことだと考える,と述べました。三点目からは学生の皆さんへのメッセージであるとして,三点目に「選択の本質は捨象にある」と思う旨,学生時代に自分はやりたいことが沢山あったが,何よりも外交への興味・熱意は絶対に捨てられない思いであったため外交の仕事を選んだ,学生の皆様も絶対に手放せない思いを大切にして貰いたい旨呼びかけました。四点目は「原体験・感受性を大切に」とし,「そもそも自分の手放せない思いが何か分からない」という場合もあり得るが,その場合には,自身がこれまでの人生で培ってきた原体験を再度探ってみる,または,原体験が見つからなければ自分の感受性(=価値観、常識)に主軸を置いて学生生活を過ごしてみることが大事だと思う旨述べました。五点目の「尊敬する人を大切に」では,「尊敬する」「面白い」と思える人々との出会いと繋がりを通じて色々な事を学び,自分の人間力を向上させ,人生をより豊かにすることが出来ると思うと結びました。
講演の中では,自らの入省前の考えや入省後の歩みについて触れる中で,入省3年目からのフランスでの在外語学研修において,フランス社会で日本文化が非常に浸透し愛されていることを実感したこと,また2年間の在外語学研修終了後の在フランス大使館(経済班)勤務においては,外交の現場で様々なことを体験するとともに,日仏通訳として,シラク元フランス共和国大統領,クシュネール同国外相(当時)及び出張先のジブチではゲレ・ジブチ大統領等と我が国要人の会談時での通訳を務めたこと,そして昨年1月のハイチ大地震の1週間後にはハイチに出張し,現場で我が国の対ハイチ支援に従事した経験等に言及しました。最後に,現在の職場(国際協力局国別開発協力第二課)での業務・経験について述べつつ,改めて外務省の業務の幅広さとスケールの大きさを紹介しました。
全体講演終了後,6つの会場に分かれて分科会が行われました。各分科会では,外務省員によるプレゼンテーション,質疑応答,参加者による討論等が行われました。
昨年12月に発表された新防衛大綱を引用しつつ,我が国を取り巻く安全保障環境の変化及びその変化に対する対応策,更には,政策全体の根底となる国家安全保障戦略のイメージ等につき,説明しました。
参加者からは,「日本の弾道ミサイル防衛システムは十分な抑止力を有しているのか」,「自衛隊の態勢が南西方面へとシフトすることによって,地域におけるパワーバランスに変化は生じるのか」といった点から突っ込んだ意見・質問が述べられ,安保リテラシーが不足していると指摘される日本社会において,若い層の間で安全保障に対する意識が高まっているのかもしれないと感じさせられました。
まず,外交政策に占めるODAの意義・役割,日本のODAの特徴,ODA政策の枠組み・実施体制,予算等の基本的な事項につき説明しました。
その後の質疑応答では,参加者より,我が国の援助の比較優位,被援助国の選定方法,主要国の中で何故日本のODA予算の減少が目立っているのかといった質問が熱心に出されました。また,人的貢献を充実していくためにどうしたら良いか,日系企業の海外進出を支援するためのODAの役割などについて興味深い意見も出されました。引き続き,ODA政策の企画立案を担当していると仮定して,予算制約の中で今後のODAの重点分野・地域をどうすべきかにつきディスカッションを実施し,更に熱心な討議が行われ,実務家的な観点からどのような企画を行うのか体験してもらうことができました。
アフリカについての現状認識やTICADプロセスを中心とする我が国の対アフリカ政策について説明した後,我が国はアフリカに対してどのような取り組みを行っていくべきかについて,全体を4つのグループに分け,課題毎に議論と発表を繰り返しながら検討を進めていきました。
豊富な資源を有するアフリカは日本にとってビジネスチャンスである一方,所得格差の是正など課題山積であり,日本の技術を活かしてウィン・ウィンの関係を構築すべき,との意見が多く出されました。その中で,大学間交流やマンガなどのソフトパワーの活用といった提案もなされました。更に,日本のプレゼンスを強化する必要性からアフリカに大使館を増設すべき,との指摘も複数ありました。
前半,地球環境問題への対応のために重要な役割を担う多国間環境条約につき,生物多様性条約,気候変動枠組条約,ワシントン条約(CITES)等を例に説明しました。特に,去る10月に名古屋市で行われた生物多様性条約COP10につき,現場の様子なども交えながら,主要な成果やその歴史的意義を説明しまし た。
後半では,多数国間環境条約における意思決定方式としてコンセンサス方式と多数決方式のどちらが望ましいかにつきディスカッションを行いました。
参加者からは,それぞれのメリット,デメリットにつき的確な指摘がなされ,活発な意見交換が行われました。また,地球環境問題について多岐にわたる質問が寄せられました。
2000年以降の世界の政治・経済情勢の変化の中,日本と欧州が,政治,経済,安全保障の面からどのような関係にあるのか,更に,欧州と東アジアの安全保障環境の関係,最近のEUの変化について説明しました。
また,経済面では近年のBRICs諸国の台頭及び2008年の経済危機の発生により,日本と欧州の置かれた国際環境の変化が政治面等にどのように影響するのかについて参加者と意見交換を行いました。その上で日本・EUの国際場裡での協力の現状と目的について説明しました。
質疑応答では,EUの拡大,歴史的経緯に関する質問やEUと東アジアの地域的展開の関係について質問がなされ,また欧州評議会と日本の関係,欧州市場への進出に関する政府の関与,国際場裏でのルール作りに関する日本・欧州協力の現状や必要性について質問がなされました。その他,現在のEUの経済状況の政治的な影響,日本・EU間の貿易関係等についても質疑がなされました。
分科会では,まず北朝鮮問題について行われてきた外交的取組の経緯や背景について説明しました。その際,北朝鮮問題は様々な要素が複雑に関連する難しい問題であるということを意識しながら,この問題を本当の意味で解決に導くためにどのようなアプローチをとるべきか,そのためにはどのようなハードルが想定されるのか,といった観点から議論を進めました。
分科会の後半では,仮定のケースを設定して参加者からの意見発表を求め,より具体的な形で北朝鮮問題の難しさを感じていただくよう試みました。
参加者からは活発に意見が発表され,問題解決に向けた取組みを実際に進める際の様々な論点について考えを深めていただくきっかけになったのではないかと思います。
分科会終了後に行われた懇親会には,参加者に加え,佐藤悟 外務報道官をはじめ基調講演・分科会講師,入省1年目の若手省員など50名近くの外務省員が参加し,参加学生と外務省員が熱心に語り合う姿が会場の随所に見られました。その模様の一部については下記の写真をご覧下さい。
今回の「外務省セミナー『学生と語る』」には180名を超える応募がありました。会場の都合により残念ながらご参加頂けなかった方々には深くお詫び申し上げます。
ご参加頂いた方々のアンケートでは,参加して良かったという感想のほか,分科会テーマや議論の進め方などについてさまざまなご意見,ご提案を頂戴しました。アンケートに寄せられた皆様からの貴重なコメントを参考に,本事業をさらに充実・発展させて参りたいと思います。
今回,本事業の広報活動にご協力いただきました各大学,大学院,予備校等の教育機関の教職員の皆様に厚く御礼申し上げます。