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第4回国連改革に関するパブリックフォーラム(概要)

平成19年6月

 去る3月29日、三田共用会議所において、外務省と「国連改革を考えるNGO連絡会」との共催により、第4回国連改革に関するパブリックフォーラムが開催され、学生、一般市民を含め総勢約130名が参加した。今回は特に分科会を重視したプログラムにしたため、これらの参加者と外務省関係者の間で、これまでのフォーラムと比べても更に専門性の高い話し合いが行われた。(プログラム及び主な発表者、参加者は別添(PDF)PDF参照。)

1.開会挨拶

 フォーラム冒頭、開会挨拶を行った赤阪清隆国連広報局長(前OECD事務次長)からは、NGOがグローバルな問題の解決のために重要な役割を果たしており、NGOと外務省の協力が重要であること、また、国連改革に関しては、今後ともあらゆる分野での国連の有益性と効率性の向上に向けて、強力に推進されていくべきことが強調された。

 同じく開会挨拶を行った上村英明氏(国連改革を考えるNGO連絡会/市民外交センター)からは、本フォーラムの目的は、日本政府とNGOがそれぞれの役割を生かしながら一緒になって、日本外交のミッション、ビジョンを話し合う場を作ることであるということが述べられ、国際情勢が多少変化してもビジョンというものはぶれないものであると強調された。

2.各分科会要約

【開発】

 開発分科会では、開発・人道支援・環境分野において国連をより効果的・効率的に機能させるための組織改革に関する提言である「開発・人道支援・環境の分野における国連システムの一貫性に関するハイレベル・パネル」による報告書と「環境と開発」の二つのテーマが話し合われた。

 まず、国連のシステムの一貫性を向上させることを目的としてアナン前国連事務総長が設置した「一貫性パネル」の報告書については、総論として改革の必要性を認識しつつ、既に質の高い活動をしている機関の活動が損なわれることがあってはならないこと、国連組織のアカウンタビリティを高めることは受け入れ国側の現地におけるガバナンスの問題への対処も視野に入れたものとすべきこと、一貫性向上のためのプロセスにおいては、多様なアクターが参加したボトムアップの政策形成が必要であることを確認した。特に、途上国の現場の声を反映させるようにするとともに、国連の活動にNGOをはじめとする多様なアクターが積極的に関与・参加することができるような改革を実現するため、日本も主張して包括的な議論を進めることが求められた。

 開発と環境については、環境問題が外務省と市民との共通の関心事であることが確認された。京都議定書の将来をはじめ、2013年からの活動の枠組みを構築する際の諸問題について話し合われた。特に2008年には、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)とG8サミットが日本で開催されるなど、日本の外交努力が試される時期でもあることから、市民側からは、G8ホスト国としての責任を果たすとともに、アジア内での気候変動対策でリーダーシップを発揮すべきとの意見が出された。また、日本全体の気候変動への危機感の薄さを心配する声を踏まえ、日本自身のエネルギー政策の見直しを含めて気候変動問題対策についての長期的なビジョンを国内はもとより世界に向かってメッセージとして発信し、国内の環境教育と途上国に対する人間の安全保障、環境の安全保障を基調にした綿密な計画に基づく援助を展開していくことの重要性が指摘された。そして、国連においては、リーダーシップを発揮して、南北の対立を克服するための積極的な国別交渉を進めることへの期待が表明された。日本が気候変動問題を単なる外交上のカードにしていないことを示す意味でも、政府とNGO・市民の緊密な提携のもとで、日本人の自然観、倫理観を世界に示すことの意義についても議論された。

【平和構築】

 平和構築分科会では、活動を開始したばかりの平和構築委員会と、日本が平和構築のなかで特に重要視している人材育成について、外務省側からの報告を受けつつ、市民側から紛争の現場での活動経験を提示して、様々な論点について議論された。

 平和構築委員会について、市民側から、重大な人権侵害防止に努力し、紛争当事者に受け入れ可能な名誉の回復や賠償を提案すべきとの指摘があった。その際に、被害者のリハビリに貢献するのみならず、その参加を得た平和構築をおこなうように、平和構築委員会において主張することが要求された。また、同委員会において日本は、ただ技術的な問題に関与するばかりでなく、平和構築のありかたそのものについて積極的に発言する知的貢献をする必要があり、その際には、人間の安全保障に基づく平和構築をすすめるべきであることが強調された。

 人材育成に関して、外務省から日本ならではの知見をもとにして人間の安全保障、法整備支援に力をいれており、独自の平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業の準備を進めているとの説明があった。市民側からは、この構想を支持しつつも、平和構築は社会経済問題であり、人権問題でもあることを認識すべきと主張した上で、法の支配の原則を国際刑事裁判所(ICC)によって裏付けるなどの制度設計を含む総合的な平和構築政策の枠組みのなかで人材育成が推進されるべきとの期待が表明された。また、NGOの現場経験を生かした教育が必要であることが強調された。平和構築支援は、あくまでも「現場の平和構築をいかに正当性ある形で進めるか」という枠組みのなかで推進されるべきであって、軍民協力など、対米協力の枠組みのなかで行われるべきではないことが確認された。例えば、地域復興チーム(PRT)による活動の中には、援助の「質」を低下させ、現場で活動するNGOのアイデンティティの崩壊につながるようなものもあり、それらを「平和構築」と混同すべきでないことが強調された。また、そうした現場の活動経験を踏まえ、「人道支援の政治化」という問題点に留意すべきであることが提起された。

【軍縮】

 軍縮分科会では、武器貿易条約(ATT)の問題と、核軍縮・不拡散体制の立て直し問題という二つの重要な問題について、外務省からの説明を受け、両問題についての市民の見解が提出された。

 ATT構想については、日本政府が人間の安全保障の観点に立って取り組んでいる姿勢をNGOは支持した。通常兵器に関しては、条約規制の対象となりうる、汎用性のある部品など細部の問題について、徹底的に検討する必要があるが、NGOとしては、通常兵器がいかに武力紛争を悪化させ、非戦闘員の死傷にもつながる可能性があるかを強調し、国内・国際世論を高めるために、政府とより密接に協力したい意向を表明した。

 核軍縮・核不拡散体制の立て直しについては、北朝鮮とイランの核問題等に見られる核兵器不拡散条約(NPT)体制の弱体化、包括的核実験禁止条約(CTBT)、宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)などについて外務省が説明をしたうえで、他の報告者からは次のような問題の指摘と要望とが出された。まず、日本は非核三原則を形骸化させることなく、国連において「地球的規模の公正さ」を基準にした外交努力をすべきで、その立場から米印原子力協定にも批判的な立場をとることが必要である。NPT問題の解決に向けては、まず核保有諸国の核兵器廃棄をもとめ、印パ、イスラエルにNPT加盟を迫る必要がある。また、現在も2000年のNPT合意がいきていることを確認したうえで、これを否定する米国にそのことを認めさせるべきである。さらには北東アジア非核化を進める必要がある。市民は、核軍縮議員ネットワーク(PNND)などを活性化することも合わせて、国際世論の喚起に努力を払う必要がある。

 なお、若い世代の核軍縮問題への関心を呼び起すのに、日本のポップ・カルチャー、たとえば漫画やアニメを活用する努力など、日本の市民が国際的に貢献する余地があることを確認した。

【人権】

 人権分科会では、人権外交と民主主義支援の問題と国連改革の結果生まれた人権理事会のあり方に関する最新の展開と課題への取り組み、特に普遍的定期的レビュー、特別手続(特別報告者、作業部会等)、専門家助言機関などの諸問題について、外務省の説明を受けて、市民側から次のような要望を出し、討議が行われた。

 まず、人権外交と民主主義支援については、9.11の同時多発テロ以来、「テロとの戦い」の名の下に世界各地で人権侵害が正当化されていること、たとえばフィリピンでは政治的殺害が多発していることについて市民側から深刻な懸念が表明された。これに答えて外務省側からは、国連における人権の主流化を踏まえ、人権外交・人権対話を強化しており、最近では自由・人権・法の支配などの普遍価値を重視する「価値の外交」という新機軸を打ち出したという説明があった。これに対し、市民側から人権外交・人権対話は歓迎するが、その定着には一貫性、透明性と説明責任を明確化し、ガイドラインなど一定の制度化および情報収集に関する制度の改善などが必要であるとの指摘がなされた。

 次に、人権理事会の展開と課題への取り組み、特に普遍的定期的レビューや特別手続については、NGO側から人権委員会において何十年もかけて確立した市民参加が切り落とされようとしていることに懸念が表明された。また、国別・テーマ別などの特別手続を存続させ、特別報告者などの独立性を制約しないこと、これまで専門家助言機関としての人権小委員会が大きな役割を果たしてきたこと、特に人権基準の設定作業などを高く評価し、人権理事会のもとでもこうした活動が続行できるようにすること、普遍的定期的レビューについては、そのプロセスにNGOや独立専門家の参加を保障すること、そして日本政府として人権理事会での改革論議について、重要な点についてのポジション・ペーパーを出すことを強く要望し、改革過程全体での積極的なイニシアティヴを期待することが表明された。

3.まとめの全体会合

 武者小路公秀・大阪経済法科大学特任教授の司会でまとめの全体会合が行われた。
 パネリストとして、木寺昌人・外務省総合外交政策局審議官、川崎哲・ピースボート共同代表、原ひろ子氏(女性と健康ネットワーク)が出席した。

 木寺審議官からは、各分科会についてのコメントが述べられた。開発分科会での環境の議論に関しては、来年開催予定のTICAD IVやG8サミットも見据え、外務省として今後のアクションを考えねばならないと述べられた。平和構築分科会に関しては、平和構築の人材育成に関し、寺子屋構想が紹介された。軍縮分科会に関しては、武器貿易条約(ATT)の交渉は容易ではないが、日本としては武器輸出三原則を長い間実施してきている国として役割を果たしていきたいと述べられた。人権分科会に関しては、日本式の民主主義外交、人権外交に関連して、「自由と繁栄の弧」の概念が紹介された。

 川崎氏からは、軍縮の分科会の報告がなされた。また、本年1月に世界中からNGOが集まる「世界社会フォーラム」(ケニア、ナイロビ)に参加した際に、紛争や武器の拡散、貧困、債務の問題に関わっている多くのアフリカの人たちの声を聞くと、やはり日本の姿は何と言っても平和国家であると強調された。また2005年にパブリックフォーラムが開催されて以来、NGOとしては公正な多国間主義の重要性、二重基準の排除、非暴力の徹底、人権と人間の安全保障の実現を提言し続けていることが述べられた。

 原氏からは、毎年行われる国連本部での「女性の地位委員会」で去年から国連改革について、世界中から女性のNGOが非常に大きな関心をもって要望を出していることが紹介され、世界中のNGOの人権に関する意見が国連において人権問題を考える場でしっかり受け止められるような方向に日本政府が尽力すべきだと述べられた。また国連の組織の中で、女性の問題に対する注目が低いので改善すべきであると指摘された。

 最後に司会の武者小路氏より、NGOは人類の利益と国益をつなぐ仕事をしており、特に人間の安全保障、開かれた多国間主義という日本外交の原則に関しては、外務省とNGOの間に一つの意見の一致があると思うと述べられた。また外務省とNGOの話し合いのこの場が、日本が日本らしい外交、ただ国際社会に合わせるだけでなく、人間の安全保障、人権、非戦、その他の価値を実現するために有益な対話の場になりつづけることを期待するとの言及でまとめの挨拶がしめくくられた。

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