平成20年11月13日
(英文はこちら)
議長、ご列席の皆様
麻生日本国総理大臣に代わり、日本政府を代表してご挨拶いたします。
二聖モスクの守護者アブドッラー・ビン・アブドルアジーズ・アール・サウード・サウジアラビア国王陛下の力強いイニシアティブにより、ここに宗教間・文明間対話特別会合が開催される運びとなったことを日本政府として高く評価します。本年6月のメッカにおけるムスリム対話会議、7月のマドリードにおける世界宗教対話国際会議の成果を日本政府としても重要視しています。
私は、1999年1月日本国外務大臣として、ラマッラーにおいて、「21世紀に向けた日本と中東との新しい架け橋」という政策スピーチを行いました。その際、「戦争と紛争の世紀」であった20世紀を教訓として、21世紀は「平和と繁栄の世紀」として新しい世代に引き継ぐべきであると表明しました。その後の10年を眺めると、残念ながら中東地域並びに世界の各地で緊張と大きな混乱が繰り返されています。こうした混乱や紛争には様々な要因があり、その解決に向けては国連やその他の枠組みで様々な努力が重ねられてきました。紛争の解決には当事者や国際社会の政治的な決意が前提ですが、手段としては力の要素ではなく、対話の要素が今後重要性を増すことになるのではないでしょうか。個人の民族、文化、宗教等の特性を尊重して互いの存在を認め合うことなしに対立の解決を図ることはできないからです。
また、グローバル化が世界の秩序に与える影響も考慮する必要があります。物流や情報通信技術の急速な進歩によりもたらされたグローバル化は、世界の人々の生活を便利にし、多くの人々がその恩恵を実感・享受していることは事実です。しかし一方で、これまで分離されていた様々なアイデンティティを有する集団の垣根が取り払われた結果、当然の帰結として、既存の権威と秩序は揺るぎ、新たに安定したシステムが構築されるまでの間、部分的にせよ摩擦と緊張が繰り返されることは避けることはできません。
私たちは、グローバル化がもたらす恩恵を極大化し、負の側面を極小化するために知恵を働かせることが求められています。アイデンティティの危機にさらされている人々は脆弱であり、一部の過激なグループや組織が民族間・宗教間の対立を煽れば、人々は昨日まで平和裡に共存してきた隣人に対してさえ、容易に疑心を抱き、不信と憎悪に支配されかねません。私たちは文化や思想の多様性をマイナスの要因としてとらえるのではなく、社会に創造力と活力をもたらすプラスの要因と認識し、許容性の高い社会づくりを目指すべきであり、政治のリーダーシップがますます問われるところです。
最近の世界規模の問題に対処するにあたっては、全ての国々や地域が危機感を共有しながら、小異を超えて冷静に人類共通の利益を見据えて断固とした、かつ勇気ある取り組みを共同して行うことがますます重要になっています。現在我々は未曾有の金融危機に直面しています。しかし、現代は80年近く前の大恐慌から第二次世界大戦へと転がり落ちていった暗黒の時代と異なり、金融不安の負の連鎖を断ち切り危機を克服するためには、世界の国々が政策を協調しなければならないことを知っています。
気候変動にしても、G8諸国は、先の北海道洞爺湖サミットで、2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を少なくとも50%削減するという長期目標で認識を一致させました。これも、温室効果ガスの排出を半減しなければ地球温暖化はますます進み、その結果、人類及び生態系にとって甚大な被害を惹起する可能性があることを認識しているからです。ミレニアム開発目標の達成にしても然りです。我々は、世界各地で発生する災害や紛争や食糧価格の高騰が、まず貧困にあえぐ弱者を直撃することを知っています。社会的弱者を放置することは、社会を不安定化させ、改革の進行を困難にします。そのような観点から、我が国は、ODAやその他のあらゆるツールを駆使して、中東における「平和と繁栄の回廊」構想に代表される地域の安定と繁栄に向けての試みを支援するとともに、個人のエンパワーメントの重要性を認識し、教育支援や人材育成や女性の自立支援等、人々が将来に希望を見いだせるような協力を行ってきました。
私たちは、アイデンティティの違いにもかかわらず、人類には文化や宗教や民族の異なる人々が平和的に共存してきた長い歴史があることも知っています。諸宗教の共生・共存は、長らく中東・イスラム社会の原則でありました。アジアでは、インドでも、中国でも、東南アジアでも、そして日本でも、諸宗教が共存・共生してきました。我が国は、古代以来、土着の文化伝統の中に中国やインドの文明の成果を、そして近代にあっては欧米で育まれてきた自由や民主主義といった普遍的な価値を含めた西洋文化の成果を積極的に取り込んできました。このように我が国は文明交流の恩恵を得て、今日の姿を形作ってきた歴史があります。かかる我が国独自の経験を踏まえ我が国は、宗教間・文明間の対話に積極的に貢献していく考えです。このような考えから、近年我が国は、イスラム諸国と協力してイスラム世界との文明間対話をも重ねてきています。我が国としては、このような対話の推進に引き続きコミットしていく考えです。
アブドッラー国王のイニシアティブとそれを支える全ての人々の信念と勇気に改めて敬意を表するとともに、今次会合が、人類の団結と共存に向けての力強い共同行動を再確認する重要な機会となることを強く祈念します。
ありがとうございました。