平成20年4月28日
議長、
まず、イェルチェンコ大使の議長就任に祝意を表する。貴議長の努力を最大限支持したい。昨年、天野議長の下で2010年運用検討プロセスが成功裏に開始したことは、我が国としても喜ばしいことであった。第一回準備委員会の結果に基づき、今次準備委においても、有能な貴議長の下で実質的事項について有意義な議論が行われることを期待する。
議長、
我が国は、唯一の被爆国としての立場から、核兵器のない安全な世界の一日も早い実現を強く希望する。また我が国は、安全保障環境を改善するために、核軍縮・不拡散体制の基礎であるNPTの維持・強化を極めて重視している。しかるに、現下のNPT体制は様々な深刻な挑戦に直面している。第一に、核軍縮については、核兵器国による新たな核軍縮措置についての発表やイニシアティブの表明がなされた。こうした動きは、現行NPT運用検討プロセスに良い影響をもたらすものとして歓迎される。このような措置を含む一層の核軍縮の前進はNPT体制の維持・強化のために必要不可欠である。第二に、北朝鮮やイランの核問題は、引き続きNPT締約国が高い優先順位をもって取り組まなければならない重大な問題である。第三に、増大するエネルギー需要が見込まれる中で、原子力の平和的利用と核不拡散の要請をどのように調和させていくかということも国際社会全体が取り組むべき重要な課題である。最後に、NPTの普遍性の向上のため、粘り強い努力が続けられなければならない。これらは非常に重大な挑戦であるが、NPT体制はこれを克服することにより、一層強化されると確信する。
かかる認識を踏まえ、我が国としては、今次第二回準備委員会においては、締約国間でNPT体制の意義・役割について相互理解が促進されるとともに、昨年採択された議題に基づき、既に指摘した諸課題について、実質的な議論が行われることを期待する。その結果、NPTが国際の平和と安全のために極めて重要かつ実効性のある役割を果たせることを国際社会に示し、NPTに対する信頼の維持・向上が図られることを期待する。
議長、
我が国はこうした考えから、今次準備委員会において特に以下の事項を重点的に取り上げる。
核不拡散とともに核軍縮を推進することは、NPT体制の強化につながる。具体的措置として喫緊の課題は、1)CTBTの早期発効とそれまでの間の関係国による核実験モラトリアム、及び 2)FMCT交渉の即時開始及び早期の妥結と、それまでの間の関係国による兵器用核分裂性物質生産モラトリアムである。かかる多数国間の法的拘束力のある措置は、核軍縮に向けた歩みを堅固なものとするものである。また、現在進行中の核兵器削減を歓迎しつつ、すべの核兵器国が核兵器の削減措置を透明な形で実施することの重要性を強調したい。また、かかる核軍縮措置における不可逆性及び検証可能性の原則の適用の重要性を指摘したい。詳細についてはクラスター1において議論することとしたいが、我が国は本年核軍縮に関する作業文書を提出したところ、締約国の注意を喚起する。
北朝鮮及びイランの核問題は、国際的な核不拡散体制に対する深刻な挑戦である。
2006年10月に北朝鮮が核実験実施声明を発表したことにも示されるように、北朝鮮の核問題は、NPT体制への重大な挑戦であり、北朝鮮のすべての核兵器及び既存の核計画の放棄は、北東アジアのみならず、国際社会の平和と安全のために不可欠である。我が国は六者会合を通じた北朝鮮の核問題の平和的・外交的解決に引き続き努める。北朝鮮が「第2段階」の措置として昨年末までに行うと約束したすべての核計画の「完全かつ正確な申告」を早期に行い、2005年9月の六者会合共同声明で合意された「すべての核兵器及び既存の核計画」の放棄に向けた着実な行動をとることを求める。また、北朝鮮が安保理決議第1718号の定める義務に早急を履行することを求める。
先日、米政府は北朝鮮によるシリアに対する秘密裏の核活動支援という核拡散懸念問題に関する発表を行った。国際社会として、我々が直面する挑戦について注視していかなければならない。
イランについては、度重なる国際社会の呼びかけにもかかわらず、イランがすべての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止を含む安保理決議等の要求事項に応じていないことは遺憾である。昨年8月にイランとIAEA事務局との間で合意に至った「未解決の問題」の解決に向けた作業計画の実施については一定の進捗がみられるが、イランの核活動が専ら平和的性格であるとの信頼が得られぬまま濃縮関連活動を継続・拡大していることは事態の一層の深刻化を招くものである。我が国は問題の平和的・外向的解決のため、イランが先月採択された国連安保理決議第1803号を含む累次の決議の要求事項に応じるよう粘り強く働きかけていく考えである。また、各国がこれらの決議に基づく措置を着実に実施していくことが重要である。
議長、
国際的な核不拡散体制を強化するためには、IAEA追加議定書の普遍化が最も現実的かつ効果的な方途であると考える。追加議定書の未締結国に対し、早期締結を呼びかける。また、我が国は、原子力の平和的利用は追加議定書を含む最高レベルの保障措置と合致した方法で促進されることが必須であると考える。そのためのアウトリーチ活動を、IAEA及び関心国とも協力して、一層活発にしていきたいと考える。
議長、
近年拡大するエネルギー需要や、地球温暖化防止の観点から、原子力エネルギーの果たす役割が改めて見直され、国際的に原子力の平和的利用の推進の機運が高まっている。
原子力発電の利用にあたっては、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの3Sを確保することが極めて重要である。この3Sの確保が原発導入のために必要な基盤を整備する上で不可欠な要素であるとの共通の認識を、国際社会が改めて確認することが一層重要となっている。3S確保の責任は原発導入を検討する当事国が一義的に追うべきものであるが、国際協力によって3Sの確保を支援することは有益である。従来よりIAEAは3S確保のための重要な諸活動を実施しており、我が国は引き続きIAEAを支援していく。特にテロリストなど非国家主体への核物質等の拡散防止を確保する核セキュリティの強化は国際社会として取り組まなければならない新たな課題である。我が国はIAEA核セキュリティ基金への拠出を通じて、核セキュリティ強化に努めており、本年2月に追加拠出を行ったところであり、引き続きかかる支援を行っていく。
議長、
NPTからの脱退は、異常な事態が締約国の至高の利益を危うくしている場合に条約上認められた権利ではあるが、国際の平和及び安全の観点からは起きてはならないことである。様々な論点があるのでここでは詳細には立ち入らないが、既に有益な議論の蓄積がある。我が国としても作業文書を提出したところ、今次準備委において更に建設的な議論が行われることを期待する。
我が国は、軍縮不拡散を進める上で、若者を含む市民社会において軍縮不拡散に関する認識がより広く共有されることが不可欠と考えており、軍縮不拡散教育を重視している。我が国は、NPTの役割に関する認識の深化、普及と、核兵器の破壊力と人体・環境への影響に関する知識や経験の普及の重要性を指摘したい。我が国はこの関連で作業文書を提出し、また、今次準備委員会開催期間中にUNIDIRと共催し、市民社会の協力も得て、軍縮不拡散教育に関するサイドイベントを実施する。
議長、
我が国は、今次準備委員会に3つの柱に関する作業文書、脱退に関する作業文書及び軍縮不拡散教育の作業文書を提出しており、今後のクラスター別の議論にも積極的に参加していく。今次準備委員会において率直な議論が行われることにより2010年のNPT運用検討会議に向けた良い基盤が生まれることを強く念願している。