平成20年12月10日
バリ島ヌサドゥア
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ユドヨノ大統領、ハッサン外務大臣、並びに本日御出席の各国の代表団の皆様、
本日は、バリ民主主義フォーラムを立ち上げる会合の開催に日本政府を代表して祝意を申し上げます。皆様の前でスピーチさせていただくことは、大変光栄であります。
バリ民主主義フォーラムは、開かれたフォーラムとして、アジア太平洋地域において民主主義という普遍的価値の普及を目指しています。インドネシアは、これまでの政治的、経済的困難を乗り越えて、今日の安定と繁栄を達成されました。その自らの経験を踏まえてこのフォーラムを主催されることは大変意義深いものです。我が国は、インドネシアのこのイニシアティブを高く評価し、支援致します。
このフォーラムは、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済等の普遍的価値の定着を重視する我が国の方針とも軌を一にしています。
特に、アジア地域において、このような普遍的価値を基礎として繁栄と安定を実現することは重要です。我が国は従来からアジア地域の自由、民主主義の定着を支援してきました。
今後、そのような支援を行う上でこのフォーラムを十分に活用してまいります。このフォーラムが目的として掲げる民主主義の促進には継続的かつ粘り強い取組みが重要です。このフォーラムが息の長い活動を続けていくことを強く希望し、また、そのために貢献を行っていく覚悟であります。
民主主義とは、自由に表明された人々の意思に基づく普遍的な価値であると考えます。民主主義の目的は国民の幸福及び福祉の向上にありますが、民主主義の基盤を強化することは、国民の幸福及び福祉の向上に必要な国家の安定と発展につながり、人権を促進することになります。
アジア諸国は、民族構成や文化面で多様な社会状況にある中で、近年の経済発展に伴って、市民社会の成熟とともに、民主的プロセスによって指導者を選出する国が増加してきたことは喜ばしいことです。今後も民主主義が着実に伸張していくことを期待しています。このような好ましい動きを更に促進する原動力として、バリ民主主義フォーラムが大きな貢献をすることを期待しています。
民主主義の促進のためには、これまで民主的選挙の実施が重視され、選挙監視活動が実施されてきました。同時に、法の支配、グッドガバナンス、人権、独立したメディアや司法、市民社会などの民主的諸制度の構築も重要と考えます。同時に民主主義の枠組を機能させるためには、諸制度を担う人材の育成や、行政・司法の透明性確保、腐敗根絶等の民主的な国家運営の文化の定着も重要な課題と思われます。
民主主義とは、一言で言えば、国家の行政権を司る指導者が国民によって、国民の意思を体して選出されるというプロセスであります。その基盤となるものは公正な選挙制度であり、そのため国民が選挙を通じてその意思を自由に体現することを可能とする政党制度、さらに選挙で選出された議員が活躍する議会の権能が保障されていることが重要です。
さらに、これらの一連の民主主義の諸制度を最終的に保障するものとして、行政権、立法権とは独立した公正な司法制度の確立も重要な要素です。
もっとも、選挙制度や議会制度といっても、一律な制度である必要はなく、あくまでもその国の事情にあった制度であるべきと考えます。また、一度出来上がった制度であっても、試行錯誤の段階で様々な形に修正されていくことも一般に行われていることです。現在の制度がベストであるかどうかは、常に国民が考えて、よりよい制度にしていく努力が求められます。
民主主義の確立のために、世界の歴史が払ってきた代償は大きなものがあります。我々が民主主義を守り育てなければならない理由もここにあります。我が国においても、第二次世界大戦の悲惨な体験を経て、我が国は戦後、経済的繁栄と民主主義の確立を通じて、国民が平和と幸福を実現する豊かな社会を築いてきました。まさに、日本の豊かさの背景には、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済などの「普遍的価値」を培ってきたことが挙げられます。
さらに、我が国は、人権や民主主義といった普遍的な価値を受容しつつ、我が国の歴史・文化等の背景を踏まえて、我が国自身の内的な発展としてこれらの価値を取り入れてきました。このような我が国の経験を、他国による取組みへの協力に活かしてまいります。
麻生総理は、先の国連総会や国会の演説において、若い民主主義諸国を支援していく方針を示しました。日本は、民主化や市場経済化を進める国々との対話を強化するとともに、各国の発展段階に応じ、基礎生活分野、インフラ整備、民主化・市場経済化支援、法制度整備支援等を引き続き推進していく方針です。
これまでの取り組みを少し具体的に紹介すると、例えば、インドシナ諸国等で、民法・民事訴訟法などの法案起草・改正や法曹人材の育成への支援を実施してきました。また、行政能力向上、警察支援、選挙支援、メディア支援、市民社会の強化、女性の政治的参加の拡大などの分野でも協力を実施しています。
今後、バリ民主主義フォーラムの下で開催される予定のワークショップへも我が国から専門家、研究者を参加させ、積極的に議論に加わっていきたいと思います。このような議論を通じて、日本としてさらにどのような貢献ができるのかを考えていきたいと思います。
なお、民主主義が安定的に発展するためには、各国の経済、民政の安定が不可欠であることは歴史の教えるところです。その意味で、現下の国際金融危機に対し、各国が一致協力して対処することは、世界の民主主義を守るためにも重要です。我が国は先のG20首脳会議やAPECにおいて、既にいくつかの具体的貢献策を表明しました。今後、東アジア首脳会議やASEAN+3首脳会議に向けて、アジアが「開かれた成長センター」として、世界経済に貢献できるよう、アジア各国とともに具体的協力を進めたいと考えております。
最後に、民主主義を発展させるためには、中長期的視点から、当該国のグッドガバナンスの向上が不可欠です。例えば、各国行政能力の向上や行政の効率化、汚職腐敗の防止、財政の健全化、持続可能な開発の推進、人権や民主主義に対する国民の意識の向上・啓発、市民社会の形成といったトータルなシステムとして総合的に検討していくことも必要になってくると思います。
民主主義の定着には、粘り強い取組みが重要ですが、このフォーラムにおける対話と議論を通じて、アジア地域における各国の相互理解と協力がさらに強化されていくことを期待し、私のスピーチとさせていただきたいと思います。御清聴、ありがとうございました。