平成20年9月29日
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議長、事務局長、ご列席の皆様、
日本政府を代表して、議長閣下が国際原子力機関第52回総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。また、レソト、オマーン、パプアニューギニアの加盟を歓迎します。
議長、
IAEAは、人類の平和と繁栄にとって最も重要な国際機関の一つであり、我が国は、発足当初からの理事国及び原子力平和的利用のモデル国として、多大な貢献を行ってきました。日本が有する知見は、IAEA技術協力を通じて多くの途上国と共有されています。また、我が国は、非核三原則を堅持するとともに、先端的保障措置技術のIAEAとの共有を通じて、保障措置の強化・発展に大きく貢献しています。
IAEAは、エルバラダイ事務局長のリーダーシップの下、国際社会から一層高い信頼と評価を得てきております。我が国は、同事務局長に対し、心から敬意を表します。我が国は、IAEAの更なる発展・強化のために、一層の貢献を果たしたいと考え、次期IAEA事務局長選挙に天野之弥ウィーン代表部大使を擁立することを決定しました。原子力分野及び不拡散での豊富な実績と優れた能力を有している天野之弥大使は、2005-2006年のIAEA理事会議長を務めたほか、2007年NPT第1回準備委員会で議長を務め、2010年の運用検討会議に向けたプロセスを成功裡に開始することに貢献しました。天野之弥大使は、IAEA事務局長に最も相応しい人材です。我が国は、同大使の下でIAEAが一層発展するであろうことを確信しつつ、全ての加盟国に対して同候補への支持を呼びかけます。
議長、
原子力発電は、エネルギーの安定供給と地球温暖化対策に貢献する最も有効な手段の一つであり、近年、原子力発電の導入・拡大を企図する国が増加し、原子力ルネッサンスの様相を呈しております。
原子力発電を適切に導入・拡大するためには、核不拡散/保障措置、原子力安全及び核セキュリティの「3つのS」を確保することが必要であり、この為IAEAの役割が一層重要になっています。我が国は、この「3S」の重要性に関する意識を国際的に高め、また、関連する基盤整備を国際的に支援するため、「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ」を提唱し、本年7月に行われた北海道洞爺湖サミットにおいて同イニシアティブを立ち上げました。これを受け、我が国は、早速本年8月にベトナム(ハノイ)において、IAEAとの共催で3S地域セミナーを開催し、成果を挙げました。
さらに、我が国は、原子力発電を導入しようとする国に対する支援を拡大していきます。その一例として、我が国は、IAEAが原子力発電の導入を検討する国に国際的な専門家グループを派遣し、3Sの整備、人材育成、法令整備等を支援するため、今年度より、IAEAへの特別拠出を開始しました。
我が国は、地球温暖化対策への取組み強化の観点から、原子力発電をクリーン開発メカニズム(CDM)の対象とすることを検討すべきとの考えであり、国連作業部会における提案等の活動を進めております。
我が国は新たな原子力技術・制度の開発に貢献するため、GIF、GNEP、INPRO、ITERといった国際的な枠組みにも積極的に参画し、平和利用や不拡散に資する第4世代原子炉や中小型炉の開発に関わる国際協力を進めます。また、高速増殖炉にかかる研究開発の拠点として、「もんじゅ」を整備してまいります。
核燃料供給保証構想については、これが原子力の平和的利用の権利を制約するものではないかとの見方もあり、さらなる議論が必要です。我が国は、このような見方も十分踏まえ、多くの国に幅広く受け入れられる実効的な枠組み作りを目指して、第50回IAEA総会において、「IAEA核燃料供給登録システム」を提案しました。これは、各国が有する濃縮、転換、燃料加工、ウラン在庫、備蓄等の供給能力をIAEAに登録し、供給面での不安の解消と市場の混乱の予防を目指す制度をIAEAに創設せんとするもので、私自身が行ったこの提案は、核燃料市場の透明性向上に資し、原子力エネルギーを享受しようと考えるすべてのIAEA加盟国にとって有益であると考えます。我が国は、この提案を深めるため、核燃料市場の透明性に関するセミナーを本年度中に開催します。
議長、
我が国は、IAEA技術協力を重視しており、これまで技術協力基金を満額支払うと共に、医療、工業等の放射線利用の分野において、技術的・人的貢献を行っています。
また、我が国は、RCA(アジア・太平洋原子力地域協力協定)の締約国として、アジア太平洋地域の開発途上国を対象とした原子力科学技術に関する共同の研究、開発及び訓練に貢献しております。明年4月、我が国はRCAの議長国として、政府代表者会合を東京でホストする予定です。
さらに、我が国は、FNCA(アジア原子力協力フォーラム)を通じてもアジア地域における原子力の平和的利用の拡大に尽力してきています。
議長、
唯一の被爆国として、我が国は、引き続き、粘り強く世界に核廃絶を訴えていく決意です。2010年のNPT運用検討会議は、特に重要なマイルストーンです。我が国が、本年7月、豪州と共同で立ち上げた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が来月第一回会合を開催し、始動しますが、私は同会議に向けて有意義かつ現実的な提言を行い、運用検討会議が大きな成果を生み出すことを強く期待しています。
我が国は、原子力の平和的利用を開始して以来、透明性の確保を徹底し、国際社会から高い信頼を得ていることに加え、既に統合保障措置に移行しています。本年8月、再処理施設等が対象のものとしては、最も効率的なサイト統合保障措置が世界で初めて開始されました。
追加議定書の普遍化は、IAEA保障措置強化のための最も現実的かつ効果的な方途であると考えます。我が国は、アジア不拡散協議(ASTOP)やIAEAセミナーの開催を通じて、引き続き、追加議定書の普遍化に向けて積極的に活動していきます。
また、我が国は、IAEAによる独立した分析能力の向上を重視し、IAEA保障措置分析所の機能強化のために特別拠出を実施しました。
リビアによる大量破壊兵器開発計画の廃棄の決断は、国際社会の平和と安定に貢献する先例として高く評価されます。2004年以来のIAEAの活動について包括的に記述した事務局長報告及び2004年3月以降初めてのリビアの保障措置協定履行の進捗に関する決議で述べられているように、我が国は、リビアのIAEAへの積極的な協力を歓迎します。我々は、他国が見習うことのできるモデルとなれるよう、リビアに対してできる限りの協力を行うべきです。
インドに対する民生用の原子力協力により、NPTを基礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制が弱まることがあってはなりません。我が国は、唯一の被爆国として、インドが、国際的な核不拡散体制の維持・強化のために更なる行動をとるよう求めます。また、インドに対し、非核兵器国としてのNPTへの早期加入、CTBTの早期署名・批准等を引き続き求めていきます。
北朝鮮の核開発問題は、我が国のみならず、東アジア及び国際社会全体の平和と安全に対する脅威であり、NPT体制への重大な挑戦です。六者会合に関しては、北朝鮮は、検証の具体的枠組みに合意しないのみならず、寧辺の核施設の無能力化作業を中断し、IAEAに封印・監視機器を除去させるなど、原状復旧に向けた活動を行っており、懸念される事態となっています。我が国としては、引き続き、拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を実現するとの方針であり、六者会合を通じた核問題の平和的解決に引き続き積極的に取り組んでまいります。
イランは遺憾ながら、国際社会の要求に反して、ウラン濃縮関連活動を継続・拡大しています。イランは、国際社会の疑念を払拭し、その信頼を得るため、IAEAに完全に協力し、IAEA理事会及び国連安保理決議の要求に真摯に従わなければなりません。我が国は、問題の平和的・外交的解決に向けて、引き続き国際社会と一致して行動してまいります。
議長、
原子力の平和的利用を推進するためには、安全確保が大前提です。新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所への影響については、地震発生後、原子炉の基本的な安全機能は維持されましたが、安全性につき、現在、専門家からなる委員会等に諮りながら厳格に確認をしています。このような原発の耐震安全性に関する経験を共有するため、本年6月、我が国がホストとなりIAEA国際ワークショップを柏崎刈羽地域で開催しました。これらの取組みに関し、新たな特別拠出を行い、国際耐震安全センターを積極的に支援します。
原子力の平和的利用には、放射性物質の安全な輸送が不可欠です。我が国は、「航行の自由」の原則の下、国際基準に従い、最大限慎重な措置を講じた上、輸送を行っていきます。また、引き続き、輸送国と沿岸国との信頼醸成のための対話も積極的に継続していきます。
我が国は、IAEA核セキュリティ基金への拠出を通じ、主にアジア地域の核セキュリティ向上のための支援を実施し、また、核セキュリティに関するガイドライン策定作業にも積極的に参加しています。
議長、
世界各国国民の福祉向上のためにIAEAが果たすべき使命は益々重大になっています。我が国は、IAEAがその重要な使命を達成するよう、国際社会の先頭に立ち、我が国の知見と経験を生かしてIAEAに一層貢献していきます。その為にも、次期事務局長候補者である天野之弥大使に対するご支援を再度お願いし、演説を終わります。
御清聴有難うございました。