本日は、第1回日本・ニュージーランド・パートナーシップフォーラムが開催されましたことをお喜び申し上げます。本年は、我が国がニュージーランドと通商協定を締結して50年という記念すべき節目にあたります。本日、この場にそうそうたる皆様が列席されていますが、このことは、両国の関係が如何に良好に発展してきたかの証であります。
日本とニュージーランドは、共通の基本的価値を有するアジア太平洋の友邦であり、共に先進国の一員として、協力関係を築いてきていますが、両国の協力関係を更に発展させていくためには、各界から更なるアイデアを頂くことが必要です。2005年にクラーク首相が来日された際の共同プレスステートメントでは、日本とニュージーランドは「現在の両国関係を前向きに新たな視野で見直し、また、この関係を強化する種々の方途を検討する」こととしております。まさにこうした方途を探るための場が本日のフォーラムで提供されるものと考えますが、私の方からも、皆様の議論に資するため、最初に、いくつかの協力の可能性の分野を提示してみたいと思います。
まず、二国間ビジネスの分野では、日本政府としても、民間の活動を円滑化するための取組を行ってきています。例えば、現在、コンプライアンスが優良であると認定された事業者に対して、税関手続に関する優遇扱いを与える制度に合意したほか、知的財産権分野では、知的財産権保護を含む共通の利益保護のための活動を進めています。さらに、投資に関して言うと、我が国からニュージーランドへの直接投資残高は、2006年末で、約10億米ドルにのぼりますが、ニュージーランドから我が国への直接投資残高は、同じく2006年末で300万米ドル程度にとどまっています。日本への投資に関する制度をより透明性の高いものに変え、対日投資を倍増していくことは、私が施政方針演説の中で述べたとおりであり、ニュージーランドからも多くの投資を期待しております。皆様からも、我が国への投資促進のアイデアがあれば、是非提起していただきたいと思います。
グローバルな課題の中でも、二国間で協力できる分野があると思います。その一つが、気候変動問題です。本年7月に開催される北海道洞爺湖サミットに向け、気候変動問題は、我が国の重要な政策課題の一つと位置づけられています。我が国は昨年、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出の半減を呼びかける、「クールアース50」を提案しましたが、さらに、本年1月、この構想を現実的な行動に導く手段として、「クールアース推進構想」を提示しました。この中で、私は、温室効果ガスのピークアウトと温室効果ガス排出半減の必要性に言及し、主要排出国とともに、国別総量目標を掲げて今後の温室効果ガスの排出削減に取り組む決意を表明しました。そして、公平な目標を策定する手法として、積み上げ方式によるセクター別アプローチを提案しました。私は、こうした考えに基づいて、すべての主要経済国が、より責任ある形で参加する、実効性のある枠組みづくりを目指しており、その実現のためにニュージーランドと協力していきたいと思います。また、二国間でも協力の可能性を追求していきたいと思います。本年3月、我が国で開催した、日本・ニュージーランド環境ワークショップでは、再生可能エネルギー、電気自動車、農業及び森林における排出といったテーマを含む、気候変動に関する幅広い意見交換が行われました。これは、両国の産業界及び研究界における協力の可能性を探求する良い機会を提供するものであり、両国の科学技術分野における二国間関係の拡大にも寄与しうるものです。今後のフォローアップを通じて、より緊密な協力のための方途が検討されることを望みます。
観光も一つの有望な分野です。我が国から各国への海外旅行者が年間1800万人近くに達するのに比べ、我が国を訪れる外国人旅行者はその半分以下の840万人程度です。我が国からニュージーランドへは、年間15万人程の観光客が訪れますが、ニュージーランドから我が国へは3万5千人程度です。日本政府としては、海外から我が国への観光客の増加を目的とした政策を実施しておりますが、我が国の持つ伝統と現代の両面性、食文化などの我が国の多様な魅力が、ニュージーランドの方々にもっと注目して頂けるよう、皆様のお知恵も拝借できれば幸いです。
さらに、人物交流も進められており、経済交流の基盤となっております。ニュージーランドは毎年約3万人の学生が日本語を学習する、日本語熱の高い国として知られています。我が国は、JETプログラムを通じて、これまで2000人以上の青年を受け入れています。また、1985年より開始されたワーキングホリデー査証制度は、我が国からニュージーランドへの若年層の交流を促進しており、これまでに5万件以上の査証が日本青年に対して発給されました。さらに本年、我が国は、ニュージーランドの経済界を中心とした若手社会人を50名程、我が国に招くこととし、この6月に来日することとなっています。特に、ご列席の日本側企業におかれては、この50名の受け入れに際しご協力をいただき、感謝申し上げます。こうした交流の参加者が、次の我が国とニュージーランドの関係を担う原動力となり、両国の相互理解が促進されていくことを期待しています。
我が国とニュージーランドのこうした協力の基礎となるのは、無論、両国が民主主義や自由、市場経済といった基本的価値を共有するということもありますが、国民レベルでの親近感にも裏打ちされています。両国は北半球と南半球に分かれ、季節こそ逆ですが、同じような温暖な気候に恵まれた太平洋の島国であり、地震や温泉といった共通項もあります。日本とニュージーランドのつながりは、むしろ自然なものであると言う方がふさわしいかもしれません。
しかしそれだけでなく、日本とニュージーランドは、ともに国際社会の安定と繁栄のため、実務的な協力を進めています。例えば、インド洋における海上自衛隊による補給支援活動の対象には、ニュージーランドの艦船が含まれています。1月の補給支援特別措置法の成立後、改めてニュージーランドはインド洋にフリゲート艦の派遣を決定し、5月上旬、我が国からの第1回目の給油支援を実施しました。また、ニュージーランド軍はアフガニスタン本土にも部隊を派遣し、復興支援の一翼を担っています。ニュージーランドはその持てる力を最大限発揮して、国際社会への貢献を積極的に行う意思と能力を備えており、またそれを実践しています。
ご承知のとおり、アジア太平洋には様々な規模と機能を有する地域協力枠組みが存在します。その中でも、2005年の東アジア首脳会議の発足に際しては、我が国はニュージーランドの参加を歓迎し、これが認められたところですが、これはニュージーランドの東アジア地域協力への貢献を期待してのことと考えていただいて結構かと思います。
ニュージーランドは、1893年に世界初の女性参政権を認めた国としても知られております。80年代には、それまでの高度福祉国家から転換を図るべく、大規模な規制改革が断行されております。その経験は、我が国の改革にも資するものとして、多くの議員団がニュージーランドを訪れました。国際場裡でも、例えばニュージーランドは国際連合の原加盟国として、国連平和維持活動への参加等、多岐に亘り活発な活動を行っています。アジアにおける地域協力を進めていくためには、アジア的な配慮だけではなく、必要なときに必要なことをなす、ニュージーランドの柔軟性と機動性を有する行動力が必要とされていると思います。このような観点からも、我が国との協力を通じ、ニュージーランドの持つ潜在力を、最大限生かしていくことが求められているのだと思います。
我が国とニュージーランドの協力の基礎となるのは、官民をあげた取組です。本日の会議に両国の政財界の多数のリーダーの方々が参加されていることは、両国の関係強化に向けた推進力の期待を高めるものであります。本日のフォーラムの議論を通じ、今後の二国間関係に有益な提言が出てくることを期待し、フォーラムのご成功を祈念しつつ、私のメッセージとさせていただきます。
平成20年5月15日
内閣総理大臣
福田 康夫