平成21年7月10日
35回目を迎えたサミット(主要国首脳会議)は、7月8日(水曜日)~10日(金曜日)までイタリア・ラクイラにて開催された。サミットは、8日のワーキング・ランチより開始し、以下の議事日程にしたがって議論が行われ、10日午後、ベルルスコーニ伊首相による議長記者会見をもって閉幕した。
8日 G8会合
(1)ワーキング・ランチ: 世界経済
(2)午後: 地球規模課題(環境・気候変動、開発・アフリカ)
(3)ワーキング・ディナー: 政治問題
9日 拡大会合及び主要経済国フォーラム(MEF)首脳会合
(1)午前: 新興5か国及びエジプトとの拡大会合(注1)
(2)ワーキング・ランチ: 新興5か国及びエジプトとの拡大会合(注2)
(3)午後: 貿易に関する拡大会合(貿易)(注3)
MEF首脳会合(注4)
(注1) G8、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ、エジプト
(注2) 注1に加え、国連、世銀、IMF、OECD、WTO、IEA、ILO
(注3) G8、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、南アフリカ、WTO
(注4) G8、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、南アフリカ、デンマーク、国連
10日 拡大会合
(1)朝食会: アフリカ諸国との会合(注5)
(2)午前: 食料安全保障に関する拡大会合(注6)
(注5) G8、アンゴラ、アルジェリア、エジプト、エチオピア(NEPAD運営委員会議長国)、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、リビア(AU議長国)、AU委員長
(注6) G8、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、アンゴラ、アルジェリア、エジプト、エチオピア、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、リビア、オランダ、スペイン、トルコ、AU委員長、国連、世銀、IMF、OECD、IEA、WFP、FAO、IFAD
7月8日、世界経済、環境・気候変動、開発・アフリカ及び政治問題を主要議題として、G8首脳による議論が行われた。
目下の経済・金融危機を受け、ロンドン・サミットの合意及び各国の政策についてそれぞれの経済状況を踏まえ評価・点検することを目的とし、世界経済の現状評価及び今後の展望と課題、保護主義への対抗などについて議論があった。麻生総理より、1)過去最大規模の景気対策の実施及び中長期的な財政健全化の取組、2)持続的な成長の確保のためのグローバル・インバランスの是正の必要性、すなわち米国の過剰消費の抑制及び黒字国、特に中国の内需主導型成長への転換が必要であることを主張した。
議論の結果、各国の努力により、世界経済には安定化を示す明るい兆候が見られるものの、依然として不確実性はあるとの認識で一致し、9月のピッツバーグ・サミットに向けて引き続き協力していくことで合意した。
また、先進国が率先して保護主義を防ぐ決意を示す必要があるとの点で一致し、ドーハ・ラウンドの早期妥結でも合意した。加えて、原油市場の安定に向けた取組の重要性も確認された。
本年12月のCOP15に向けて、G8として共同歩調をとりつつ今後の交渉に政治的後押しを与えるという観点から議論が行われた。
(イ)緩和
世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの目標を再確認するとともに、この一部として、先進国全体として、50年までに80%又はそれ以上削減するとの目標を支持した。同様に、主要新興経済国は、特定の年までに、対策をとらないシナリオから全体として大幅に排出量を削減するため、数量化可能な行動をとる必要があることで一致した。また、首脳宣言において、中期・長期双方の目標につき、基準年を1990年に限定せず、柔軟性を確保した文言となったことは、我が国の主張が欧州側に受け入れられたという意味で意義深い。総理より、2020年までに2005年比15%削減という中期目標達成のため、低炭素革命を成し遂げていくとの我が国の決意を説明した。さらに、この数値は、省エネなどの努力を積み上げて算定した、いわば「真水」の削減量であり、今後エネルギー効率を更に33%効率改善する必要がある、極めて野心的な目標であることを説明した。
(ロ)資金・技術
クリーン・エネルギー技術を含めた技術開発と研究の重要性、官民双方の資金源を動員する形での資金メカニズムのあり方、排出量削減のための市場の役割、途上国の緩和・適応支援等について議論がなされ、COP15での合意に向けて、各国が協力して取り組んでいくことで一致した。
総理からは、太陽光発電、二酸化炭素を地中に埋め戻す炭素回収・貯留(CCS)技術等、我が国が率先して取り組んでいる革新的技術開発について、いくつかのG8諸国においても研究開発への拠出について前向きな動きがみられることを歓迎する旨述べた。
(イ)各国首脳から現下の金融・経済危機が与える影響を踏まえ、G8の責任は増しており、引き続き指導力を発揮していくことが重要であるとの認識が示された。また、各種のG8コミットメントの説明責任(accountability)に関する洞爺湖での合意を更に推し進め、具体的な方策を検討する作業部会を設置することで合意した。
(ロ)総理からは、アフリカの成長を確保することの重要性を強調する中で、日本の対アジア援助がアジア諸国の自律的発展を促したことを紹介しつつ、人材育成が国力の基礎であることを強調した。
(ハ)水・衛生、保健、教育といったMDGs各分野についても、各国から取組を強化する必要性についての認識で一致した。総理からは、特に保健に関し、個別の疾病への対応に加えての保健システム全体の強化を訴えるとともに、政策に反映できる人材の育成が不可欠であることを強調した。
(ニ)食料問題については、総理より、我が国が従来より重視している分野であり、米国が生産能力向上につきリーダーシップを発揮していることを歓迎するとしつつ、農業への国際的投資に関し、収奪を排し、透明性を確保し、もって責任ある国際的農業投資を促進するための指針作りを考える必要があると述べ、支持を得た。多くの首脳からも、食料安全保障の死活的重要性を強調する発言がなされた。
(イ)イラン:イラン大統領選挙後の情勢について、各国より強い遺憾を表明。核開発について、外交的解決策にコミット。他方、対話の窓は限られており、G8が連帯してイランに対し安保理決議等の遵守を引き続き求めることで一致した。
(ロ)北朝鮮:麻生総理より、北朝鮮による弾道ミサイル発射及び核実験は容認できず、北朝鮮の核保有は絶対に認めないとの国際社会の姿勢を明確に示すべきことを強調した。これに対し、各国よりも同趣旨の発言を行い、宣言では最も強い表現で北朝鮮を非難し、安保理決議1874の完全履行に各国が取り組むことの重要性を確認。また、拉致問題についても麻生総理より取り上げ、各国よりの支持の下、首脳宣言に盛り込まれた。
(ハ)軍縮・不拡散: 7月6日の米露首脳会談で戦略兵器削減の大枠に合意したことを歓迎した。麻生総理より、北朝鮮やイランをめぐる厳しい国際環境を改善するためにも、国際的な核軍縮・不拡散体制の強化が重要である旨指摘。CTBTの早期発効に向けた努力や、カットオフ条約の交渉早期開始への支持等、核兵器のない世界のための状況をつくることについて、コミットメントを確認した。
(ニ)中東和平: 二国間解決を支持。暴力やテロの拒否及び入植活動の停止を含むロードマップ上の義務の遵守をすべての当事者に要請すべきこと、また、対パレスチナ支援に取り組むことで一致した。
(ホ)アフガニスタン・パキスタン: 地域協力の重要性を指摘しつつ、G8として支援継続を確認。アフガニスタンに関し、旧タリバン勢力との和解努力が進められていることを歓迎しつつ、G8としても支持していく旨を確認。パキスタンに関し、武装勢力に対する掃討作戦により生じた国内避難民(IDP)支援のために連携することで一致した。
世界経済、環境・気候変動及び開発・アフリカに関する「G8首脳宣言」、「G8首脳宣言(政治問題)」、「テロ対策に関するG8宣言」及び「不拡散に関するラクイラ声明」が発出された。
7月9日には新興5か国及びエジプトとの会合、貿易に関する拡大会合及び主要経済国フォーラム(MEF)首脳会合、3日目の10日にはアフリカ諸国との拡大会合及び食料安全保障に関する拡大会合がそれぞれ開かれた。
(イ)持続的な経済成長、気候変動、開発を始めとする地球規模課題については、相互に密接に関連しているとの認識に基づき、議論を行った。
(ロ)新興国からは、14か国で地球規模の問題を議論することはより代表性が高く効果的、また広範なフォーマットで対話することも重要である旨強調された。また、IMF等国際金融機関の資金増強や改革を進めるべきであり、現下の危機が脆弱な途上国及びミレニアム開発目標の達成に影響を与えないよう、先進国側が引き続き支援のコミットメントを果たすことが重要との意見があった。また、気候変動問題に関し、次期枠組み交渉において歴史的責任に基づいた責任を負うこと及び一人当たり排出量に基づく行動とすべき点を強調する声もあった。
(ハ)G8側からは、G8の有用性を否定する公言はなかったが、G8が新興国と共に行動していく必要性が増大しているとの認識が共有され、現在の多様な課題に対応していくために複数の枠組みが必要との認識を示した意見も示された。グローバル・インバランスの是正や責任ある開発原則等我が国が従来から主張していた点について、G8が指導力を発揮する形で、新興経済国との間で問題意識が共有され、新興経済国との間で初めて共同宣言が発出された。
(イ)現在の世界貿易を巡る現状として、更なる貿易抑制的・歪曲的な動きが見られるとして、保護主義的な流れに対する警戒感が示された。かかる状況において断固として保護主義を拒否すべきであるとの認識が共有された。また、WTOドーハ・ラウンドの早期妥結、貿易金融への大規模な資金供給等ロンドン・サミットにおける合意の着実な実施が重要であることが強調された。
(ロ)ドーハ・ラウンド交渉については、これまでの進展を基礎として、2010年までの妥結を目指し交渉を鋭意進めることが合意された。
MEF首脳会合では、年末のCOP15の成功に向けて、有意義で活発な議論が行われ、気候変動問題について首脳レベルで議論を行うという、MEFの本来の趣旨にかなった会合となった。
この会合で採択された首脳宣言においては、2050年までの世界全体の排出削減の半減目標に合意することまでは合意できなかったが、目標を設定するために、今からコペンハーゲンのCOP15までの間にMEF参加国の間で協力して取り組んでいくことが決まったこと、さらにその際、その削減目標が「相当の量」(substantially)であることに、MEFに参加している主要経済途上国を含めて合意したことは有意義。昨年の洞爺湖からの前進であり、年末のCOP15に向けて、首脳として力強い、政治的な方向性を示した。
金融・経済危機のアフリカへの影響につき、アフリカ側より、ODA増大に関するG8によるこれまでのコミットメントの確実な実施、4月のロンドン・サミットの決定事項の早期実施等の要望が行われた。また、アフリカが気候変動問題に対処するため、G8による支援の期待が表明された。さらに、アフリカの平和と安全保障のための取組についても議論がなされた。終了後、水と衛生についてのアフリカにおけるアクセス拡大等への取組に合意した声明が発出された。
(イ)各国より、食料価格は高値かつ不安定な状況が続いており、食料安全保障確保のため更なる行動を取る必要がある共通認識が示され、特に、最も脆弱なアフリカへの支援の重要性が指摘された。かかる観点からも、国際社会の取組みを統合・強化するため、食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップの早期実現が訴えられた。
(ロ)総理よりは、2010-12年の3年間で、インフラを含む農業関連分野において少なくとも30億ドルの支援を行う用意があることを表明し、国際農業投資に関連し行動原則等を議論するプラットフォーム(協議体)の設置を提案した。
(ハ)持続可能な農業開発のための支援が強調され、3年間で200億ドルの資金を動員するという目標が示された。被援助国側としても、オーナーシップを持って腐敗の撲滅等ガバナンス強化に努めることが不可欠であるとの指摘があった。
(ニ)食料価格に関しては、市場安定確保に向けた取組が重要であり、市場における投機的な動きを警戒し、透明性を有し開放的な市場を構築する必要があるとの意見が多くみられた。
(ホ)議論の結果、食料安全保障に関する共同声明が採択された。
首脳会合の議論の内容をとりまとめた「議長総括」において、2010年にカナダ・ムスコカでG8サミットを開催することを歓迎する旨が盛り込まれた。