2012年5月
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1975年以降,G8は,喫緊の世界的課題について議論し,断固たる行動をとってきました。世界の首脳は,成果を達成するとともに透明性と説明責任の理念にコミットしており,G8は,合意された行動とコミットメントの実施における進展を記録するため,毎年,説明責任報告書を公表してきました。
G8がますます取組を強めてきた課題の1つが,グローバルな経済開発の問題です。それは共有された人間性の発現であり,世界経済のますます緊密化する関係であり,低・中所得国のグローバルな経済的福祉への貢献です。ミレニアム開発目標(MDGs)は,世界のための明確な目標を示し,世界的な行動を奨励しましたが,2007年から2008年の世界的な食料価格危機とそれに続く経済危機は,開発の進展がいかにもろく,世界の貧困層の人々がいかに経済的ショックにぜい弱であるかを示しました。
2009年のG8サミットで打ち出されたラクイラ食料安全保障イニシアティブ(AFSI)は,低所得国が食料及び農業システムの脆弱性の拡大に備える際に必要となる規模と緊急性を伴う行動,また,飢餓と貧困を半減させるとの国際的な目標の達成に向けた,共有されたコミットメントを示しています。ラクイラの取組の多くは,世界的な規模であるものの,小規模農家の能力の強化及びショックに対してより強じん性のある食料システムの構築のためのアフリカ諸国の取組への支援に焦点を絞ってきました。
AFSIの下での3年間の資金プレッジの最終年となる2012年,本説明責任報告書は,AFSIに関連する3つの鍵となる分野,すなわち,食料安全保障,農業市場と貿易及び栄養に関する取組と行動に焦点を絞ります。世界的な保健の改善に向けた長期にわたるG8のコミットメント,また,栄養分野で特に母親と乳幼児に対して成果をあげるという点での保健の重要性に鑑みて,本報告書は保健分野に関するG8の取組と行動も含んでいます。
キャンプデービッド説明責任報告書は,ムスコカ・サミット及びドーヴィル・サミットの説明責任報告書の提言の上に築かれており,新たに2つのツール(第1に特定分野における進捗の指標を一覧化するための自己報告によるスコアカード,第2に途上国における農業開発及び食料安全保障分野のG8メンバーの活動及びG8の活動が各途上国の計画や優先度とどの程度調整されているかの全体像を示す)が追加されました。この報告書は,G8の取組を財政面から示すのみではなく,援助効果の原則を活用し,取組の影響を向上させるため,G8がどのようにアプローチしているかについても示しています。
世界的に厳しい財政状況にもかかわらず,G8には世界的な課題への対処にコミットする堅い決意があります。概して,G8は,食料安全保障と保健分野でG8首脳がこれまでに公約したコミットメントの実現及び開発援助のより広範囲な効果の向上の途上にあるといえます。世界経済の停滞に伴い援助額の伸びは鈍化しましたが,G8メンバーは,既にアフリカ諸国に向けた援助量増加のための各々の目標をおおむね達成しました。最新の改良された影響評価能力により,現地での女性や小規模農家を対象に含む成果が測定されつつあります。改良された影響評価は,G8及びそのパートナーが,その取組を評価・改善する際の助けとなります。
ラクイラ食料安全保障イニシアティブ(AFSI)の一部として,首脳は,農業及び食料安全保障分野の援助の増加にコミットするとともに,途上国のオーナーシップ,効果的な協調,適切な場合における多国間機関の活用の増加及び説明責任に特徴付けられる包括的なアプローチにコミットしています。ラクイラにおける220億ドルを超えるプレッジのうち約3分の1は「新たな」資金であった一方,G8メンバーは,農業及び食料安全保障分野への全ての支援においてラクイラのアプローチを適用できるよう取組を進めています。
G8は,ラクイラ・イニシアティブの下での資金プレッジの達成に向け,力強く前進しています。全てのG8メンバーは,ラクイラ・イニシアティブの資金プレッジを既に達成しているか,又は2012年末までに達成する途上にあります。G8メンバーの約半数は,それらの資金コミットメントの支出を迅速に進め,完全に支出を完了しました。しかしながら,G8,他のAFSIドナー,多国間開発機関,途上国自身による公的資金供与の顕著な増加にもかかわらず,国家農業投資計画が必要とする額の約半分が不足しています。幾つかの事例において,国家農業投資計画が必要とする投資を公的資金がより直接的に支援することは可能ですが,他方で,これら国家計画における民間セクターの投資は著しく不足しています。これは,国家農業投資計画において特定される優先分野に民間投資を積極的に呼び込むことが急務であることを示唆しています。
総じて,G8は,農業及び食料安全保障への支援において,採択されているラクイラアプローチに向けて,着実に前進してきました。G8は,途上国のオーナーシップ,科学技術への投資,食料・農業貿易及び多国間の関与促進のための指標において大きく進展し,現地での能力構築や包括的なアプローチの活用においても大きな進展がありました。G8は,このアプローチの一部として,女性に関してさらなる取組を行う必要があります。
健全に機能している市場は,小規模農家の収入を向上させるとともに,多様な機会を創出し,より安価で安定した食料価格に貢献することから,G8は,食料一次産品市場と貿易の強化を支持しています。健全な市場への投資は,農業及び食料分野におけて自立した民間セクターの活動に必要不可欠であり,G8は,包括的なアプローチの一部として,これらの市場の強化を更に支援していきます。
農業データの改善,「国家の食料安全保障の文脈における土地,漁業,森林に関する責任あるガバナンスのための任意のガイドライン」や「責任ある農業投資の原則」を導いたプロセスへの支援を通じて,G8とそのパートナーは,農業分野における民間投資,市場の強化,貿易の増加のためのより良い投資環境を整えつつあります。G8はまた,官民連携の重要な支持母体であることが明らかになりつつあるとともに,途上国が民間セクターを動員できるよう支援しています。
近年,栄養及び栄養が子どもと開発に与える影響の重要性,そしてそれらに対して緊急に行動することの必要性への世界的な認識が大きく高まってきました。これに対し,G8は,リーダーシップ,支援活動,行動を通じ,栄養の役割とその重要性を向上させ,栄養を農業及び食料安全保障のための支援に欠くことのできない部分として徐々に主流化しています。G8メンバーは,例えば栄養スケールアップ(SUN)運動のような栄養イニシアティブの発足において,世界レベル及び国レベルで重要な役割を果たしてきており,パートナー国における必要な栄養のニーズを満たすための包括的な一連の行動やツールに投資しています。2009年から2011年の間,G8は,栄養に特化した取組への資金供与を48%増加させ,2011年には4.39億ドルに達したことを報告しています。また同期間,G8は,栄養に配慮した取組への資金供与を46%増加させ,2011年には24.5億ドルに達したことも報告しました。これらの成果は,栄養改善の成果のための意識,支援,及びモメンタムを高めるためのG8のリーダーシップ及び行動を示すものであり,極めて重要です。しかし,開発途上国が栄養に関するミレニアム開発目標を達成するためには,更なる取組が必要です。
G8は,そのリーダーシップと既存の援助を通じ,途上国における保健及び保健システムの改善において有益な成果を生み出し続けています。G8メンバーは,パートナー国の計画と優先事項と保健プログラムを調整することを着実に進めており,援助効果の原則に導かれ,パートナー国と共に共通の成果と相互説明責任に向けて取り組んでいます。こうした取組の中核となってきたのが,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)を含む多国間主体の動員,パートナー国政府,民間セクター,市民社会,その他ドナーとのより強力なパートナーシップ及び疾病に特化した取組の調整にますます焦点を当てるG8の役割です。このような取組は,世界的な保健課題に対応するための保健サービスの提供におけるより持続的なアプローチに移行していく上で必要不可欠です。世界は,今やこのようなアプローチへの支援を続けることにより,数多くの疾病を根絶し,何百万人もの人々の生活を改善する機会を得たのです。
G8は,2012年までに,感染症と闘い,保健システムを改善させるために少なくとも600億ドルを供与すること,妊産婦,新生児,子どもの健康のために少なくとも50億ドルを追加的に供与すること,また,世界基金に対策資金を動員するというコミットメントの達成に向け着実に進展しています。これらを含め,他の保健関連のコミットメントを達成するため,G8は,世界的な行動の触媒となるとともに,こうしたイニシアティブが次の成果をもたらすことを確認しました。
2005年のグレンイーグルス・サミットにおいて,首脳は,国際的な援助の増加にコミットしました。これらのコミットメントの規模,対象,達成期限は異なります。全体として,これらのコミットメントの進展は一様ではありません。G8メンバーは,アフリカへの支援を倍増するコミットメントについてはおおむね達成しましたが,政府開発援助(ODA)目標を含む個々の国際援助目標については全てのG8メンバーが達成できたわけではありません。G8メンバーは,近年大幅にODAを増額しましたが,G8の5箇国によって設定された開発援助をGNI比0.7%まで増額するとの野心的なODA目標の進展は一様ではありません。
2011年,世界のODAの額は1335億ドルとなりましたが,過去10年間で初めて実質額が減少しました。またこの減少に伴い,G8のODA額は2010年と比べて実質額で約1%減少しました。将来に向けて,G8は,世界の最も貧しい人々や最も脆弱な人々のためのコミットメントを再確認しています。ODAは,貧困を削減し,MDGsを達成する上で必要不可欠なものであり,また,ODAの伸びが抑制的となる中で,援助効果と援助効果の原則の活用は,近い将来,より大きな開発成果を生み出す上で,より重要な役割を担うことになります。
援助効果向上に関するハイレベルフォーラムを通じ,国際社会は,途上国によるオーナーシップ,成果重視,包摂的な開発パートナーシップ,透明性と説明責任を含む一連の原則に合意しました。G8は,これらの原則を支持し,AFSIや妊婦,新生児及び子どもに関するムスコカ・イニシアティブなどのコミットメントにおいて具体化しています。
これらの原則を完全に実行するには時間がかかるものの,G8及び開発コミュニティは実行に向けて前進しています。途上国主導のプロセス及び計画への支援は,非常に重要になります。G8は,これまで保健分野における官民連携の構築を大きく進展させ,現在は,農業,栄養,食料安全保障の分野において,開発パートナー国と共に同じことを実現しようとしています。G8は,援助のアンタイド化に向けて実質的に進展しました。複数のG8メンバーは,援助の完全なアンタイド化,又はアンタイド化を進めるための明確な計画を有しており,大半のG8メンバーは,経済協力開発機構開発委員会(OECD-DAC)の加重平均であるアンタイド率86%を超えています。
農業及び食糧安全保障 | |
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持続的な農業開発のため,G8及びその他ドナーから220億ドルを動員 |
AFSIドナーは,AFSIプレッジ額220億ドルの99%にコミットし,44%を支出。全てのG8メンバーと大半のAFSIドナーは,2012年末までに目標を達成する見込み。 |
包括的アプローチに特徴付けられる行動,取り分け各国主導や多国間機関を活用したもの |
大半のG8メンバーは,そのプログラムのうち,少なくとも90%は途上国主導の計画と適合させる。 大半のG8メンバーは,食料安全保障に必要な短期,中期,長期の資金供与を少なくとも25%増加。 大半のG8メンバーは,AFSIの資金プレッジを実施する際,少なくとも3つの多国間メカニズムを活用。 |
保健 | |
妊産婦,新生児,子どもの健康のため,5年間で追加的に50億ドル以上を供与 |
基準となる予算上の年間目標及び今日までの進展によれば,G8は,同コミットメントを達成する見込み。 |
感染症対策及び保健システムの改善のため,2012年までに少なくとも600億ドルを供与 |
2008年から2010年の保健に係る二国間ODAの支出総額は,累計で370億ドルを超え,G8は,同コミットメントを達成する見込み。 |
世界エイズ・結核・マラリア対策基金への支援を動員 |
2002年から2011年における,欧州連合を含むG8による世界基金への拠出総額は170億ドルを超え,世界基金への拠出総額の78パーセントとなった。 |
世界ポリオ撲滅イニシアティブへの支援 |
2006年から2011年にかけて,欧州連合を含めたG8による世界基金への拠出総額は,約20億ドルとなった。 |
国際支援 | |
G8によるODAの増加 |
2004年から2011年にかけて,G8によるODAの支出額は,年間310億ドルに増加(暫定値,実質値)。G8によるODAは,OECD-DACの全ての二国間ドナーからのODAの約69パーセントとなった。 |
国際支援を増加するためのグレンイーグルズの国別コミットメント。コミットメントの規模,対象,達成期限は国ごとに異なる。 |
個々の目標を達成,又は個々の目標を上回ったG8メンバーもあれば,2015年までに達成する目標を再確認しつつ,2010年の目標に向け取組を続けるG8メンバーもある。 |
G8によるアフリカ向けODA |
G8メンバーは,個々の目標を達成した。2004年から2010年にかけて,アフリカ向け年間ODAは,117億ドル(53%増)まで増加した。 |