(1) 国連PKO(United Nations Peacekeeping Operations:略称UN PKO又は単にPKO)は、戦後の東西対立の中で、国連憲章が予定した安全保障理事会による国際の平和及び安全の維持(例:第7章に定める集団安全保障制度)が十全に機能しなかったため、国連が世界各地の紛争地域の平和の維持を図る手段として実際の慣行を通じて行われてきたものである。第二代国連事務総長ダグ・ハマーショルドが「憲章6章半」の措置と呼んだとおり、国連憲章上明文の規定はない。
(2) 国連PKOは、伝統的には、国連が紛争当事者間に立って、停戦や軍の撤退の監視等を行うことにより事態の沈静化や紛争の再発防止を図り、紛争当事者による対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。例えば、国連休戦監視機構(UNTSO)、国連インド・パキスタン軍事監視機構(UNMOGIP)、国連キプロス平和維持隊(UNFICYP)、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)は、こうした目的のために数十年間活動を続けている。
(3) 冷戦の終結以降、国際の平和及び安全の維持の分野における国連の役割が高まるとともに、国際社会が対応を迫られる紛争の多くが国家間の紛争から一国内における紛争又は国内紛争と国際紛争の混合型へと変わった結果、国連PKOの任務も多様化している。すなわち、停戦や軍の撤退等の監視といった伝統的な任務は引き続き重要であるが、これに加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)や治安部門改革(SSR)、選挙、人権、法の支配等の分野での支援、政治プロセスの促進、紛争下の文民の保護など多くの分野での活動が国連PKOの任務に加えられてきている。例えば、過去日本が参加した国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)や国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)のほか、本年2月から参加している国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)は、軍事部門に加え、文民警察、行政、選挙、復旧、人権及び難民帰還に関する任務を与えられている。
(4) また、国連PKOなどの平和及び安全の維持のための活動と、人道支援や復興開発支援の活動との間の協調・協力の重要性が認識されるようになっている(下記2.(3)(4)参照)。
(1) 冷戦の終結後、国際の平和と安全の維持の分野における国連の役割が高まり、PKOがそれまでになく多数設立されるようになった。1948年以降今日まで、合計63のPKOが設立され(そのうち49件が1988年以降に設立)、15のPKOが展開中である(2010年3月現在)。これらのPKOには、115か国から101,939人の軍事・警察要員が派遣されている(派遣人数は2010年3月末日付国連資料)。
(2) PKOは、1990年代に、カンボジアやモザンビークなどでめざましい成果を挙げたが、ソマリアや旧ユーゴスラヴィアでは大きな困難に直面し、ルワンダでは虐殺阻止に効果的な手が打てなかった。このような過去の教訓を踏まえ、かつ、多様化する任務に効果的に対応するため、2000年、アナン国連事務総長が設置した専門家パネルは報告(パネル委員長の名をとって「ブラヒミ報告」と称される)を発表し、約60の勧告を行った。そこでは、例えば、PKOの任務は現実に達成可能なものであるべきこと、また、活動に必要な要員や経費が認められることが重要であることが指摘された。
(3) また、より広い視点から、国際社会が直面する新たな課題については、「有識者によるハイレベル委員会」が将来の平和と安全への脅威に対処するための国連の在り方について包括的に報告し、これを踏まえて事務総長報告書(A/59/205)が発表された。これらの報告書をもとに、2005年9月に、国連世界首脳会合は、国連平和構築委員会の設立、文民警察の常設的初期展開能力の創設、AU等地域機関との協力、PKO要員による性的搾取・虐待問題への対処の重要性について合意した(A/60/1)。
(4) 2005年12月、前記「成果文書」を踏まえ、国連総会および安全保障理事会において、国連平和構築委員会の設立を決定する決議が採択された。本委員会は、安保理及び総会の諮問機関として、紛争状態の解決から復旧、復興、国づくりに至る一貫したアプローチを念頭に、紛争後の平和構築のための統合戦略を助言する。現在、同委員会は、ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ共和国の4カ国を対象として活動している。
日本は、2007年6月から1年半にわたり同委員会の議長国を務めた。
(5) 2007年2月、潘事務総長より、PKO数の増大及びマンデートの多様化に対応すべく、それまでのPKO局を分割すべきとの提案が出された。同年6月27日、総会は「PKO強化のための決議」をコンセンサスで採択した。これにより、従来のPKO局を、ミッションを運用するPKO局と、兵站(ロジスティクス)を担当するフィールド支援局に分割すると共に、国連本部体制の強化を図った。
(6) 2008年2月、国連PKO局は、国連PKOの計画立案・調整・実施に至る各段階におけるプラクティスや、その根拠として各種文書に記述されているものを改めて体系化・再整理し、一つの冊子にとりまとめて公表した(「国連平和維持活動:原則と指針」)。
(7) 2009年7月、国連PKO局及びフィールド支援局は、PKOの大規模化や出口戦略等に関する諸課題に対処するための両局によるPKO改革イニシアティブである「ニュー・ホライズン」プロセスの一環として、国連加盟国を含む関係者による議論を喚起するため、PKOをめぐる現状分析や国連事務局、安保理及び加盟国が取り組むべき課題を記した非公式文書を公表した(「A New Partnership Agenda: Charting the New Horizon for UN Peacekeeping」)。
(1) PKOの経費を支弁するため、国連の通常活動のための通常予算とは別にPKO予算が建てられる(但し、1940年代に設置され、従前より通常予算で手当されるUNTSO及びUNMOGIPを除く)。PKO予算は基本的に国連加盟国の分担金で賄われる。
PKOの設置・改廃は安保理によって決定されるが、PKO予算は安保理の決定を踏まえつつ国連総会が議決する。加盟国は、国連総会が決定するPKO予算及び分担率に従ってPKO経費を負担する。PKO予算に適用される分担率は通常予算に適用される分担率を基本としつつも、途上国に負担軽減を認める一方、国際の平和と安定に格別の責任を有する安保理常任理事国に加重負担を求めている。日本を始めとする常任理事国ではない先進国は、通常分担率と同じ分担率が適用される。
2010年、日本のPKO分担率は米国の27.1743%に次ぐ12.5300%であり、PKOの活動経費の約8分の1を負担する財政貢献を行っている。
(2) PKO予算は、通常7月から翌年6月までの単年予算となっている(通常予算は2か年予算)。ミッション毎に予算が編成される。
PKO予算の水準は、PKO活動の規模の変動に応じて短期間の間にも、大きく上下する。2001年には30億ドルを超えていたが、2002年、2003年は22億ドル台で推移した。2004年には、アフリカ等で大型ミッションが新設されたことから、50億ドルを超え、2008年には70億ドルを超えたが、2009年には約58億ドルとなっている。
(3) 近年の日本のPKO分担率及びPKO分担金額は以下のとおり。
年 | 分担率 | 分担金額 |
---|---|---|
2009年 | 16.624% | 9億5,275万ドル |
2008年 | 16.624% | 12億5,563万ドル |
2007年 | 16.624% | 11億5,631万ドル |