(国際平和協力室に配属されたインターンは、PKOに関する調査・分析、報告書の作成に加えて国際平和協力業務関係の広報活動(インタビュー)を行います。本年8月に開催されたセミナー「平和構築を担う人材とは」における麻生外相の講演、及び2002年12月に発表された官房長官の懇談会「国際平和協力懇談会」の報告書においても、国際平和協力における人材の養成、キャリアパスの確立が提言されており、本件インターン受け入れもこれらの提言の趣旨を踏まえたものです。)
インタビュアー:村田直樹
(以下、敬称略)
村田:本日はお忙しい中ご足労頂きありがとうございます。まず鳴海さんに、UNMIL(国連リベリア派遣団)に参加された経緯についてお伺いしたいと思います。
鳴海:2004年10月にUNV(国連ボランティア)のリクルート・ミッションが日本に来たのですが、そのときにCV(履歴書)を送ったことが参加の直接のきっかけです。その後当局との調整があり、最終的に派遣先がリベリアになりました。
ちなみに、選挙支援のバックグラウンドがあったかというと、特にありませんでした。このように選挙の経験がない人物が支援活動に参加できた理由として、国連の中に1990年のカンボジア総選挙支援以来世界各地で繰り広げられた選挙支援活動のノウハウが蓄積され、それらがパッケージ化・パターン化されているということが挙げられます。それに則った活動を行えば、選挙支援の素人が参加しても滞りなく選挙ができあがる仕組みになっているのだ、と私たちも経験者から事前に話を伺っていました。実際に自分で選挙支援に参加してみると、そういった意見に賛同できる部分もありましたし、既に多くの経験を積んでいる人たちと全くの素人である自分との違いを思い知らされる場面もありました。
元国連リベリア派遣団(UNMIL)選挙支援員 鳴海亜紀子氏
村田:続きまして、保苅さんには、コンゴ(民)における選挙監視団の派遣の経緯をお伺いしたいと思います。個人的に志願されたというような背景はあったのでしょうか。
保苅:私の場合は、担当業務の一環としてコンゴ(民)への選挙監視団の派遣に携わり、その中で隊員として派遣を志望しました。
通常、政府による選挙監視団の派遣は、外務省の業務の一環としての派遣か、国際平和協力法に基づく国際平和協力業務としての派遣のどちらかになります。今回のコンゴ(民)における選挙監視団の派遣は後者に該当し、私も内閣府国際平和協力本部事務局の職員として選挙監視団の派遣の準備、そして実際の派遣に参加したということになります。
内閣府国際平和協力本部事務局 保苅俊行主査
村田:選挙支援要員の具体的な業務内容について教えて下さい。
鳴海:私が参加したリベリアの選挙では、リベリアの選挙管理委員会(NEC)が選挙を実施し、UNMILの中の選挙部門がそれを支援する、という役割分担がなされました。基本的に、各選挙区にUNMILに所属する選挙支援要員(Electoral Support Officer, ESO)とNECに所属する現地の選挙要員(Electoral Supervisor, ES)がそれぞれ1名ずつ配置されます。そして、NECとUNMILが協議し決定した事項に基づいて、その2人が当該選挙区のマネジメントを行うのです。私は44の選挙区を担当し、カウンターパートであるESや、私の担当地区のセキュリティを担当したガーナ軍と話し合いながら有権者登録や物資の配送などに関してマネジメントを行いました。
村田:「支援」と「実施」の線引きはどのように行われていたのですか。
鳴海:NECとUNMILでそれぞれ実施と支援を担当するといってもあくまで建前上の話で、実質的にはUNMILが選挙を主導した、と言っても過言ではないと思います。UNMILからの国際スタッフが選挙プロセスに参加する意義として、選挙に透明性と説明責任を付与するということが挙げられます。例えば、私が担当した選挙区でも、ESに選挙スタッフの募集を任せてしまうと自分の親族や友人で固めようとすることが起こり得ます。ESOが派遣されることによってはじめて公正性が保たれるのです
リベリアにおける選挙支援活動(左:有権者登録の様子 右:開票風景)
村田:次に、選挙監視についてお伺いしたいと思います。
保苅:選挙監視の重要な意義の一つに、中立的な立場に立って監視を行い、自由・公正な選挙の実施を支援するということがあります。紛争後の選挙の場合には、選挙結果が確定した後になって、選挙に落選した勢力が「この選挙は不正であり、無効だ!」と主張し、選挙のみならず国民和解のプロセスそのものを混乱させかねないこともあります。
鳴海:リベリアでもそういう声はありました。
保苅:全当事者が選挙結果を受け入れ、政府や議会を立ち上げ、国づくりを進めていくためにも、選挙プロセスの信頼性・透明性の確保は非常に重要な意味合いをもっています。
また、今回コンゴ(民)の選挙監視活動に従事して個人的に強く感じたのは、選挙監視員が現場に立ち会うことによって、現地の投票所職員の士気が著しく高まるということです。例えば、首都キンシャサの国民議会の議席数は58だったのですが、そこへ約3000名の候補者が立候補しました。国民の識字率が低いため、投票用紙に候補者の名前の他に顔写真も載せなければならないということもあって、投票用紙はポスターサイズの用紙を6枚綴りにした巨大なものになっていました。この投票用紙の扱いが大変で、特に投票所職員による開票作業は大変な時間と手間がかかるものとなりました。職員達は、朝からほとんど食事も取らず、また、劣悪なインフラ状況により照明も無い中で、深夜に至るまで、忍耐強く、また真剣に開票作業に取り組んでいました。疲労がたまって現場で倒れ込んでしまうような職員もいるほどでした。このような現場においては、そこに選挙監視団として一緒にいてあげること自体が重要だと感じました。選挙監視員ですので開票作業そのものをお手伝いすることはできないのですが、遠い国から来た我々が、彼らと同じ時間と空間を共有することによって彼らを元気づけることができたと思います。これは私にとってとても新鮮な体験でした。
コンゴ(民)における選挙監視活動(左:監視活動の様子 右:開票作業の様子)
村田:日本政府として今回のような選挙について協力するに際し、例えば選挙監視の他にも様々な協力のあり方があると思いますが、今回選挙監視という形で協力を行った背景にはどのような議論があったのですか。
保苅:国際平和協力法により、わが国の要員を派遣する場合には、同法で定める要件を満たしている必要があります。国際的な選挙にわが国が協力するには、国際機関による要請等が必要となります。今回は選挙監視についての要請があり、それに応えたわけです。
仮に、監視以外の選挙支援について、国連からの要請があり具体的なニーズが存在すれば派遣も考えられるのですが、最近の国連を見ても、例えば選挙に係る行政事務について、特定の国に職員の派遣を要請するということはあまり行っていないようです。
鳴海:日本がテクニカルな側面で優れていることは間違いないとは思いますが、それを紛争後の選挙という厳しい環境の下で実践できるかというと疑問が残ります。実際、既にそういった経験のある人を国連職員の中から引っ張ってくるケースが多いようです。
村田:どんなときに「やってよかった」と思われましたか。
鳴海:私は選挙本部の指示通りに粛々と作業をしていたのですが、全ての選挙プロセスを終え、離任するときに、カウンターパートに「亜紀子には仕事のやり方を教わった」と言われたことが大変印象深いですね。「仕事」というものの捉え方は文化や性格によって様々だと思いますが、「日本人の仕事のやり方」を伝えることで、彼らにある種のキャパシティ・ビルディングを施せたということは非常に嬉しかったです。
保苅:コンゴ(民)は、音楽では先進国だとは思いますが、国づくりが始まったばかりであり、紛争後の社会に多く見られるように、治安や安全の観点からも外国人が気軽に訪ねることはまだ難しい状況です。そういった中で、遠く日本からよくやってきてくれたということで市民から温かく迎えられ、そして平和を願い、真剣に国づくりに取り組んでいる多くの人たちに会い、更に自分たちの存在によって彼らを元気づけたり応援したりすることができたと感じられたことはとても貴重な経験でした。
また、小規模な監視団でも外交的な効果はあるということも感じました。日本からの監視団ということで、現地メディアを始め、各国の派遣団からも大いに注目されました。
村田:最後に、これから平和構築の分野にかかわっていこうという方に向けてメッセージをお願いします。
鳴海:国際公務員といっても、なかなか全員が全員「リベリアのために」という理念のもとに活動しているわけではありません。そういった中で、日本人として国際公務員を目指すのであれば、これは私の信条でもあるのですが、“想像力と思いやり”をもって仕事をして欲しいと思います。こういうことをすると相手がどんな気持ちになるか、ということを想像すれば、自然と思いやりの心は芽生えるのではないかと思います。あと、英語が必要不可欠なのは言うまでもありませんが、他言語も話せるに越したことはありませんね。外で何が起きているのかしっかりアンテナを張ることも欠かさないで欲しいと思います。
鳴海氏:リベリアの選挙要員らと
保苅:将来、選挙監視団を派遣する場合、国際平和協力本部事務局から、公募で民間の方々の参加を募る場合もあります。公募が行われる場合、紛争後の平和構築の現場で国際平和協力に参加したいという意欲のある方で、気候や生活環境の厳しい地域での勤務をいとわず、また、他のメンバーとのチームワークや協調性のある方の参加を是非お待ちしています。
日本から外国に出て仕事をする場合には、相手国の文化・伝統を尊重し理解しようとすることがまず重要だと思いますが、他方で、日本の文化や事情・制度について説明を求められたりすることもたくさんあります。こういった場合、私の経験では、相手に判りやすく的確に話ができることによって信頼関係が深まるといったことが多くありました。外国の事情や外国語を学ぶと同時に、自分たちや日本について知るための努力も忘れてはならないと常々感じています。
村田:本日はありがとうございました。
〔インタビューを終えて〕
明るい雰囲気の中、インタビューというよりむしろ議論と呼ぶにふさわしい一席になりました。一口に選挙監視団ないしPKOを派遣するといっても、その過程では実に様々な手続きを経ることが必要となります。今回はその政治的・実務的プロセスを、政府・非政府双方の視点からお話を聞くことによって、より明確に把握することができました。また、一連の議論を通じて、「誰のために」「何をすべきか」、そして「何ができるか」という視点を持つことの大切さを感じました。(村田)