国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)派遣要員へのインタビュー
- インタビュアー:
- 国際平和協力室インターン 濱谷倫衣(はまや みちえ)
京都外国語大学フランス語学科3年
※インタビュー実施日は平成22年9月21日(火曜日)
「何のためにPKO活動に参加するのか?」今回、私は最も素朴であろうこの疑問に焦点をあてたいと思います。PKO、国連平和維持活動、どちらも我々日本人には馴染みのある言葉なのではないでしょうか。しかし、実際には法律上の制約等から、現在設立されている19の国連PKO等(116カ国、約10万名)のうち、日本が要員を派遣しているのは4つ(約400名)と、その数は決して多くはないこと、また、これら要員の活動の内容や意義については、十分には知られているとは言えないのではないでしょうか。そこで今回は、国連ハイチ安定化ミッションに派遣された陸上自衛隊の酒井学3等陸佐へのインタビューを通して、現地での日本の部隊の活動の様子と、その意義について紹介したいと思います。
- (参考)国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)
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- 2004年6月1日設立。
- 安全かつ安定的な環境の確保、政治プロセスの支援、ハイチ政府等の人権擁護の取り組み支援・人道的状況の監視及び報告等を主な任務とする。
- 安全保障理事会は2010年1月12日に首都ポルトープランスを中心に発生した大地震を受け、緊急の復興・復旧・安定化努力の支援のため、要員の増員を決定。
- 国連からの支援要請を受け、日本政府は2月5日の閣議において自衛隊の派遣を決定。(現在、約350名の三次隊要員が現地で活動している。)
(注) 酒井学3等陸佐は、1月にMINUSTAHに関する国際平和協力業務の準備に係る調査チームの一員としてハイチに派遣。自衛隊の派遣が2月5日に閣議決定され、一次隊派遣後は一次隊に編入されMINUSTAH施設部隊として活動。
- 陸上自衛隊 酒井学3等陸佐
- インターン生 濱谷倫衣
(京都外国語大学フランス語学科3年)
1.ハイチでの活動
- Q.酒井3佐は、先遣隊(調査チーム)として一番初めに現地に派遣されたということですが、具体的にはどのような業務にあたられたのか教えてください。
- 先遣隊としては、一次隊受け入れのための国連等との連絡調整から、宿営地を始めとする活動の基盤作り、治安に関する情報収集などといった日本の部隊の立ち上げ業務に携わりました。
- Q.立ち上げ業務においては、どのような苦労や困難がありましたか?
- 地震により事務総長特別代表をはじめとする多くの国連職員が亡くなり、また、国連の建物も破壊されていたために、MINUSTAH自身が十分に機能していなかったことです。新しく派遣されてくる各国の部隊を受け入れるための窓口もなく、宿営地や治安状況に関する情報を集めるのが大変でした。
瓦礫撤去作業の様子
- Q.派遣時の現地の状況や、人々の生活の様子はいかがでしたか?
- 地震が起きてから2週間ほど経っていたため、想像していたような遺体の山などはなく、瓦礫の山の横で人々が店を出したり、仕事をしたりしていました。また、特に治安が悪いと感じることはなかったのですが、「南国のリゾート」というハイチに対するイメージともまた違い、やはり、元々裕福な国ではないのだなと実感しました。
- Q.現地での活動中、他国の要員や現地住民との交流などはありましたか?
- 震災以前からMINUSTAHで活動をしていたブラジル軍や他の部隊と宿営地が近かったため、これらの部隊とは日々交流していました。また、任務の中でも、例えば作業中の日本の部隊を他国部隊に警備してもらったり、他国部隊の作業を日本の部隊が手伝ったりとお互いに助け合っていました。その他、韓国軍とも共同作業にあたりました。現地の住民の方とは、日本隊の宿営地の仕事をしていただいたり、文化交流として、孤児院を訪ねたりといった関わりがありました。
日韓が共同して作業
アルゼンチン部隊との親睦サッカー
孤児院での文化交流の様子
2.自衛隊派遣の評価と意義
- Q.国連PKOにおける日本の活動は、これまで各方面から高い評価を得てきました。今回のハイチへの派遣はどのような評価を受けているのでしょうか。
また、酒井3佐はハイチの他に、ネパールやイラクでの活動経験もあるとお聞きしていますが、それらの経験も踏まえ、日本の活動のどのような点が評価されているとお考えですか?
- 今回も、国連やハイチ政府から高い評価をされたと聞いています。
日本人は、よく、規律や約束をきちんと守ると言われます。これは我々からすると当たり前のように感じますが、様々な国の部隊と一緒に活動をしていると、時間にルーズな態度に戸惑うこともあり、こうした日本人の規律や約束を守る姿勢が、日本の評価を高めている一因ではないかと感じました。
また、日本人のもつ「職人気質」のようなものも、日本の活動が高く評価される要因ではないでしょうか。日本人は、一つ一つの作業を丁寧にこなすだけでなく、求められている以上の仕事をします。例えば、道路を直す際、ただ地面を平らにして、その時だけ車が走れるようになればいいと考えるのではなく、ちょっとやそっとでは壊れないよう路肩を補強し、砂のうを積み上げ、現地の人の目線に立って何年も使えるように工夫する精神は、日本人だからこそではないかと思います。
これらの点に加え、今回のハイチへの派遣では、国連からの要請を受けてから、実際に現地に展開するまでのスピードの速さも高く評価されたようです。
- Q.現地の方々の反応はどうでしたか?
- 日本の部隊の展開は、現地の人々にも喜ばれていたと思います。
一般に、PKOが設立され、要員が派遣されるということは、現地の消費の増大につながります。過剰に人がやってくることで現地の社会生活を圧迫してはいけませんが、PKO要員が展開し、現地で生活することで、水や食べ物、その他の必需品の消費が増え、経済的な効果が生まれます。また、現地の住民を労働力として雇うことで、雇用の創出にも貢献しています。
その他に、もちろん、瓦礫の撤去や道路の整備といった活動により、道路の安全性や交通の利便性が改善されるという効果もあります。
- Q.最後に、現在日本は4つの国連ミッションに約390名の要員を派遣していますが、この数字についてどうお考えでしょうか。また、日本がPKO活動に参加する意義を、どのようにお考えでしょうか。
- 4つのミッションに約390名という数字は、国際的な視点で見ると、多くはないと思います。日本は、PKOを始めとする国連の取組に対して多額の財政的貢献をしていますが、その一方で人的貢献が少ないことがたびたび指摘されてきました。現地に行った者としては、やはり現場で汗を流してこそ評価されるという面があると感じてきたため、日本はもっと積極的に人的貢献を行う必要があると考えています。日本の貢献が評価されるということは、国際社会での日本の発言力の向上にもつながります。また、PKO活動に参加する機会が増えるほど、そこから得た知識や情報、経験が蓄積され、それを次の活動に活かすことができるという正の連鎖が生まれるのではないでしょうか。
どうもありがとうございました。
<インタビューを終えて>
国際貢献の手段が多様化し、より多くの国が参加・協力する必要性が高まっている今、私たち国民に求められているのは、国際社会のニーズを理解し、ちゃんと対応をすることだと思います。今回、様々な国際貢献の現場で勤務されてきた酒井さんにお話を伺い、PKOによって当事国の発展に貢献出来るだけでなく、その国が発展することで将来的に自分の国にも役立つことがあるのだと教わりました。また、PKOは日本が国際社会で重要な役割を果たすための大切な手段でもあるのだと感じるようにもなりました。今後は、今まで以上に、PKOを始めとする様々な国際貢献に注目していきたいと思います。(濱谷)