平和構築

東ティモール選挙監視団員へのインタビュー
―東ティモールのオーナーシップと日本のパートナーシップ―

収録日:平成19年9月14日(金曜日)
インタビュアー:
国際平和協力室インターン 小浜一哲(こはまかずあき)
早稲田大学政治経済学部3年
 日本の国際平和協力法は、「国際連合平和維持活動」、「人道的な国際救援活動」及び「国際的な選挙監視活動」のために国際平和協力業務等を実施すると定めています。同法による選挙監視要員派遣により、「国際的な選挙監視活動」という言葉自体は、徐々に国民の間に浸透しつつあると思います。しかし、現場での具体的な活動内容になると、必ずしも国民の間で知られているとは限りません。
 そこで今回は、東ティモールで2007年の4月、5月及び6月に行われた大統領選挙、同決選投票及び国民議会選挙に日本の選挙監視団として派遣された内閣府国際平和協力本部事務局 三浦淳係長、同事務局国際平和協力研究員 香川めぐみさん、NPO法人ピース ウィンズ・ジャパン海外事業部職員 牛田眞也子さん、NPO法人日本国際ボランティアセンター職員 鈴木まりさんの4名の方に、お話を伺いました。(小浜)

(参考)国際平和協力室に配属されたインターンは、PKOに関する調査・分析、報告書の作成に加えて国際平和協力業務関係の広報活動(インタビュー)を行います。昨年12月の東アジア首脳会議(EAS)における日本と東アジア地域協力の一環として総理よりの説明、本年8月のインドネシアでの総理政策スピーチ「日本とASEAN」及び2002年12月に発表された官房長官の懇談会「国際平和協力懇談会」の報告書においても、国際平和協力における人材の養成、キャリアパスの確立が提言されており、本件インターン受け入れもこれらの提言の趣旨を踏まえたものです。

(写真)インタビュアー:小浜一哲

インタビュアー:小浜一哲

(以下、敬称略)

東ティモール選挙監視団への参加には、どのようないきさつがあったのですか?

牛田:内閣府の方からピース ウィンズに声をかけて頂いたのがきっかけです。2004年4月にインドネシア総選挙監視団に参加した経験があったこと、そして職場で東ティモールを担当していたことから、今回の選挙監視要員の一人に選ばれました。インドネシア語が出来るということも選ばれた理由の一つにあったと思います。

鈴木:同じく所属団体の日本国際ボランティアセンター(JVC)に内閣府からお話がありました。JVCも平和構築関連活動を行っており、東ティモールでは現在は活動していませんが、2000年前後に短期の調査に入り、今回の選挙関連でも情報共有のための無料英字新聞を出している現地のNGOにスタッフを派遣し、援助支援の効果について調査を実施しました。個人としては、93年のカンボジアの選挙に国連ボランティア(UNV)として参加し、その後、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、パキスタンなどにも行きました。カンボジアでの経験を活かした国連PKOや、復興過程が進む東ティモールへの関心もあり、参加しました。

香川:私は担当業務の一環として、東ティモール選挙監視団の派遣元に携わっているということが一番の理由です。今回から選挙監視団が使用した新しい評価表を起案し、その作成にも関与したので、現場でどのように使われるのか実際に見てみたいという気持ちが強くありました。また、これまでの経験として、コンゴの大統領選挙に選挙監視員として参加したり、更には、国連事務総長特別代表(SRSG)の命を受け、東ティモールのトランジショナル・ジャスティスの調査を行った中央大学の横田教授に同行して、同大学法学部の授業の一環として実施された東ティモール国連事務所(UNOTIL)における海外研修プログラムで同国を訪問した経験がありました。東ティモールにはこのような特別な思い入れがあったので今回の選挙監視団に参加しました。

(写真)左:ピース ウィンズ・ジャパン海外事業部職員 牛田眞也子さん、中央:日本国際ボランティアセンター職員 鈴木まりさん、右:内閣府国際平和協力本部事務所国際平和協力研究員 香川めぐみさん

(左:ピース ウィンズ・ジャパン海外事業部職員 牛田眞也子さん、
中央:日本国際ボランティアセンター職員 鈴木まりさん、
右:内閣府国際平和協力本部事務所国際平和協力研究員 香川めぐみさん)

三浦:私も香川さんと同じく、監視団の派遣元の内閣府職員としての立場にあったことが参加に至った大きな理由です。私は物資協力係長として、昨年のコンゴ選挙監視の際には装備品担当として輸送に関する業務などを国内で行っていました。その中で、装備品がどのように使用されるのか実際に現地で見て、今後の業務に活かして欲しいという内閣府の内部の声がありましたので、参加するに至りました。

(写真)中央:内閣府国際平和協力事務局 三浦淳係長

(中央:内閣府国際平和協力事務局 三浦淳係長)

まず選挙監視の具体的な業務について教えてください。

鈴木:今回の一連の選挙は東ティモールの独立後、東ティモール政府が主導して実施する初めての選挙です。選挙監視員の役割は、選挙プロセスが東ティモールの選挙法に則って、自由かつ公平に実施されているのかを監視することです。外国人が監視を行うことで、不正に対する抑止力も働きます。

香川:具体的には、投票日の前日までに投票所の確認、安全性の確保、国内・国際選挙監視団との意見交換、選挙管理委員会や国連、大使館等からの情報収集、及び、ルート確認などを行います。国民議会選挙の際は、事前のルート確認の際に、選挙当日に通過する道路にセキュリティ上の問題が見つかり、監視場所を変更しました。そして、投票日当日は投票所で投票に立会い、監視を行います。

(写真)投票用紙を受け取る風景 右:現地の選挙実施員、左:投票者

(投票用紙を受け取る風景 右:現地の選挙実施員、左:投票者)

監視に際して、不正などを発見した時には、選挙監視団としてどのような対応ができるのでしょうか?

香川:私たち監視団には“行動規範Code Of Conduct”というものがあります。これは選挙監視員がこれ以上踏み込んではいけないということを定めたルールです。たとえば、投票を終えたという印をインクでつける「指チェック」がなされていない人を見つけた場合でも、現地の選挙実施員に対して、監視員が「ちゃんとチェックしなさい。」と命令することはできません。必ず、「これは、チェックしなくてもいいものなのですか。」という質問の形で確認し、選挙実施員が自発的に気づくことを促さなければならないのです。

鈴木:同じことが、有権者登録など、投票前の選挙プロセスについても言えます。
 仮に、何かの理由で有権者登録を断られている人がいたら、監視員としては、登録所職員に対して「これは選挙法に則っているのですか」と質問はできますが、「有権者登録をさせなさい」と命ずることは出来ません。

三浦:もし、選挙が公平に行われていなかったと思われる場合でも、その場で即座に選挙監視団が何か命ずると言うことはありません。選挙監視の意味は、国際監視員が立ちあったことにより、選挙が公正に行われたものであると東ティモールが国際社会に対してアピールすることにあります。つまり、日本の選挙監視団としては、公平か否かの判断は下しますが、それをどう受け取るかは東ティモール次第なのです。よくその意味で、選挙監視団は「善意の第三者」と表現されたりします。

(写真)投票後に二重投票を防ぐために行われる指チェックを行う風景

(投票後に二重投票を防ぐために行われる指チェックを行う風景)

では、日本選挙監視団の判断としては、今回の選挙については公平に行われたものであると判断しているのでしょうか?

香川:選挙監視団は細かい技術点を除けば、おおむね、自由かつ公平、平和裡に行われたと判断する所感を発表しています。

三浦:同時に考えなければならなのは、投票日直近の行動だけでなく、もっと準備段階や投票後の政権成立を含む長い期間で選挙監視を捉えて評価していくことも大事だという視点です。

長い期間で選挙監視を捉えて評価していくとなると、より長期の監視ということも考えられると思いますが、まだ日本の選挙監視は概ね2、3週間程度となっています。このような事情の背景にはどのようなことがあるのでしょうか?

三浦:前の質問への答えにも関連しますが、選挙監視が準備段階を含むのか、あるいは投票後の政権成立時までをも含むのか、という議論に繋がるものだと思います。それに加えてやはり安全確保の問題、及び選挙監視に対する国民理解というものが絡んでくる問題だといえます。それらを現実的に勘案して、概ね2、3週間という期間で選挙監視活動を行っており、その前後1週間に先発・残留組を付す程度が現実的だと言えます。

香川:これは当面の日本の課題であると思います。
 準備段階や投票後の政権成立を含む長い期間で選挙監視を捉え、長期間派遣する必要性も考えていかなければならないと考えています。特にEUはこの分野で進んでいます。

鈴木:先ほど有権者登録についてお話しましたが、本来であれば選挙プロセスの全期間の監視が必要であり、報告書にも長期の派遣が望ましい点を書かせて頂きました。NGOでは、例えばカンボジアの例ですが、カンボジアに関わる団体や法律家など個人のネットワークであるカンボジア市民フォーラムが、選挙監視を行う現地NGOの要請・協力で、準備段階や政権成立に至るまで随時監視活動を行い、その情報を現地大使館とも共有しています。

牛田:今回初めてNGOが参加したことにより、以前から東ティモールも支援してきたNGOから政府に対して情報提供できるという強みが生まれました。その意味において、短期間の監視ではありますが、NGOが参加したことによって、補えている部分が多々あったと思います。

情報提供・共有ということが、官・民一体となって取り組むことの一番の強みだということでしょうか?

三浦:牛田さんも仰っていましたが、今回の選挙監視団の特徴は、学者、NGO及び政府職員がメンバーとなった、言わばオールジャパンであったということです。学者は東ティモールの政治・歴史に関する知見を持ち、NGOは地方の住民の声を聞き、政府職員は政治家や政府関係者とコンタクトを取り、三者の立場で情報を共有できるという強みがあります。

牛田:東ティモールの歴史、文化、社会、経済、及び政治的背景に詳しい学者もメンバーに含めることによって包括的な判断をしていくことが重要と考えます。

香川:技術的な話をすると、様々な立場から参加した監視員の意見を的確に反映すべく、今回から評価表を改訂しました。これまではそれぞれ可否を数十項目に細分化された項目について、チェックしていくといったシステマティックな評価表でした。今回は、あえて投票前準備・投票状況・閉所状況・開票状況の大まかな4つのカテゴリに分類し、各人がコメントを自由に記入し評価したのです。

この派遣の中で印象に残っていることは何でしょうか?

牛田:若い人たちの政治への関心の高さです。NGOで現場支援をしていると、なかなか進展がみられないことに支援する側として焦りを感じ、今後の東ティモールについて心配する場面が多々あります。しかし、今回の選挙監視に参加してみて、普段の支援の現場では感じられない若い人たちの政治への関心の高さを知り、驚かされました。また若い人だけでなく、独立闘争で戦った40代の人たちが、アジアの中で東ティモールをどう位置づけるか真剣に考えている姿も垣間見ることができました。選挙監視に参加したことにより、普段の現場支援では見られない部分を見ることができたことが印象的でした。

鈴木:アシスタントを始め、投票所スタッフの皆さんから、国づくりに関わっていくのだという熱い思いを感じたことがとても印象に残っています。また、彼らと一緒に活動できたことを嬉しく思っています。一方で、東ティモールの状況は鏡を見るように跳ね返ってきて、高い投票率にしても、何を以て票を入れる相手を選ぶかという教育にしても、日本はどうであるのかと考えさせられました。

香川:政治とは何か、ということを深く考えさせられました。投票日当日は投票開始時間前から、投票を待つ人で長い列ができていました。選挙、政治というものは東ティモールの人々にとって生きる手段であるということを強く感じました。

(写真)開場前に投票を待つ人で出来た長い列

(開場前に投票を待つ人で出来た長い列)

三浦:私は三次にわたる選挙監視全てに参加したので、非常に東ティモールという国に対して親近感が沸きました。地方に行くと、稲作風景が広がっていて日本の原風景に似たような感じを受けました。ほとんどの人がポジティブで、悲観している人が見当らないのです。そう考えた時、発展とは何かという風な根本的な問いを投げかけられているような気がしました。この国では、自分の生活を変えたい、と80%の人が選挙に行っています。いつかよくなると信じている熱気を感じて、日本人が学ぶべきことが多くあると感じました。また、私自身に子どもがいることもあって、子どもの未来などについて個人的に強く考えさせられました。

(写真)日本の選挙監視団員と東ティモールの子どもたち

(日本の選挙監視団員と東ティモールの子どもたち)

最後に、これから平和構築分野での活躍を目指す若者へのメッセージをお願いします。

香川:選挙はその国の人々が平和になったと実感する最初のステップであると考えさせられました。国民全員が投票してこの国を作っていくという、民主主義の投票によってこの国を動かしているという熱意が強く感じられました。その意味で、その熱意を感じられ、実際に現場を体験することができる選挙監視は平和構築分野への入り口として一番いいのではないかと思います。また、業務はマニュアルに基づいて実施されているので初めてでも分かりやすく、実施し易いものであり、特に若い人は平和構築分野で活躍したいという自分自身の気持ちは本物であるかどうか確かめる意味でもお勧めだと思います。

鈴木:事例や理論をちょっと離れて、私は個人のレベルで3つのメッセージがあります。まず、頭だけでなく、自分にとっての平和とは何であるかと考え、味わうこと。次に、日本での当事者意識をもつこと。日本社会において地に足をついているからこそ、他の国での平和構築に役立てるのだと思います。最後に、平和構築も地域開発も、現地の人との共同作業であり、結局は人とのつながりです。現地の人たちから一緒に仕事をしたい、一緒に歩いて欲しいと思われるような人間性を磨き、関心を深めていってほしいと思います。

牛田:私からは初心を大事にして欲しいということです。平和構築分野は常に現場というわけではなく、実務的な仕事も多くあります。時々、自分自身も何のためにこの分野に入ったのか自問自答することがあります。そんなときに、自分がどうして平和構築分野に関心を抱いたのか、そのきっかけを思い出せば、自分を見失わずに頑張っていけると思いますし、私自身頑張っていけています。

三浦:この分野は間口が広くて、底がないと思います。まず、何をしたらいいのかというとこから始まると思います。自分が何をやりたいのか、ひとつ強い関心を抱くことが大事だと思います。そして、鈴木さんもおっしゃったように、この分野はいつでもチームプレーなので、人とのつながりを大事にして欲しいと思います。

ありがとうございました。

(写真)

〔インタビューを終えて〕

 非常に明るく陽気な雰囲気の中、予定時間をオーバーしてしまう程、皆さんから沢山のお話を聞かせていただくことができました。そして、官・民一体となったオールジャパン選挙監視団の強みについて理解することができました。
 今回の東ティモールの一連の選挙は、初めて東ティモール国民が主導して行った選挙でありました。その中で皆さんが80%という高い投票率に言及し、国民自身の投票によって国をつくっていくという意識の高さ、熱意について語っていたのがとても印象的でした。選挙監視は平和構築分野への入り口としてお勧めされていたので、是非とも私も参加したいと強く思いました。(小浜)

このページのトップへ戻る
目次へ戻る