平成17年7月28日
於:外務省
(石川経済局長)15日に日本政府はOECD次期事務総長候補として竹内佐和子氏を推薦することを決定した。本来であれば先週のうちにこのような会見の機会を設けるべきであったが、早速パリを訪問され、夏期休暇に入る前の各国大使やOECD事務局関係者との意見交換、言うなれば面接をこなして頂いた。なお、竹内候補の略歴にあるフランス国立ポンゼショセ工科大学は、フランスにおける土木分野での最高学府である点補足する。竹内候補は同大学の国際経営大学院の創設に関わられ、副所長兼教授として人材育成等に取り組まれた。OECD本部のあるパリにおいても、高い権威を以て知られている研究教育機関である旨、紹介させていただく。
(竹内候補)15日に日本政府から次期事務総長候補として正式に推薦された。OECDは先進国を中心に国際社会が直面する経済、貿易、開発をはじめとする幅広い分野の問題に関し、政策協調、情報交換、標準化、ルール作り等を行う国際機関であるが、今般そのような重要な機関の責任あるポストの候補として推薦を受けたことを真摯に受け止めている。自分の他に5名が立候補しており、厳しい戦いになるが全力で取り組む。
先週はパリを訪問した。なぜ立候補したのか、自分の能力、特徴、ありうべきOECD改革のあり方等につき自分の考えを伝達することが主目的であった。また、現在のOECDの課題についても理解を深め、国際機関として相対的な競争力・比較優位または地位の低下が言われる中で、良く言えば、逆に今こそOECDの機能の差別化を図り、21世紀においてより大きな役割を果たしていくチャンスではないかとも感じた。OECDの特徴は、国際的な政策調整を行う点と、知的リーダーシップを発揮できる点にあり、先進諸国が抱える複雑な問題に対して提言を発信しうる立場にある点であろう。
今後は、10月初旬にヒアリングが行われ、その後内部的な模擬投票が行われる可能性もあると承知している。最終的には加盟国のコンセンサスで選出される。自分自身の能力とともに、日本の外交力、情報発信能力もまた大きな影響力を持っており、皆様メディアのご協力も得て、オール・ジャパンとして盛り上げていただきたく、ご支援をお願いしたい。
(記者)他国候補が政治家出身である中、何を訴え、どのように戦っていくか。
(竹内候補)自分の専門性の高さをアピールしたい。経済分野では財政・金融、技術の分野では先端技術が専門。OECDはマクロ経済のみならず、技術分野や高齢化問題、環境・エネルギーといった複合的な社会問題を取り扱う場であり、横断的な自分の専門性が活かせる。また、高齢化問題や環境・エネルギーは日本全体としての知的ストックも豊富であり、自分を介して日本全体としての考えを国際社会に発信することもできよう。
自分は20代の頃から国際機関でリーダーシップを発揮したいと考えていた。そのために、英語・仏語をほぼ完璧にマスターし、経済学と工学の両分野において博士号も取得した。日本と欧州でそれぞれ10年ずつキャリア形成に取り組み、文化横断的な経験も積んだ。このような経験を踏まえれば、今般の推薦は「突然声をかけられたから」というものではなく、ある意味でねらっていたポストであった、という感じもある。
(記者)そもそも20代の時に国際機関で活躍しようと思われた背景は何か。
(竹内候補)大学で国際法を学んでいたこともあり、当初は外交官を志望していた。世界の中における日本のありかたに常に関心があった。30代でフランスに留学した際に、日本の実力と国際社会における認識のギャップに驚いた。国際社会の中でいかに対日認識を高めることができるか、という問題意識が常にあった。
(記者)OECD改革について具体的な考え如何。
(竹内候補)OECDの前身であるOEECは第二次大戦後の欧州の経済復興を目的に設立された。その後、冷戦を経て東欧諸国が加盟し、現在に至っては30の加盟国中23カ国が欧州の国であり、地政学的に見ても欧州中心の機関となっている。翻って今日、金融・経済活動の規模やスピードという観点からは、アジア太平洋に中心が移っており、その中でOECDは欧州に偏った構成のままである。日本を中心とするアジアからの発信を強化することにより、OECDを真にグローバルな機関とすることが、OECDの存在感を高めることにつながるであろう。また、ルール設定・標準化という領域においても、具体的なテーマが出にくい、あるいは世界の現実を十分にとらえられていない、という見方がある。OECDが取り組むべき改革と、日本人である自分の問題意識とは重なっている部分もある。OECD自身は既にアウトリーチという形で非加盟国との協力活動を開始しているが、よりスピードを高め、グローバルな機関となることが改革の重要な柱の一つと考えている。
(記者)唯一の女性候補である点をどう見ているか。
(竹内候補)ジョンストン現事務総長が次期事務総長について、アジア出身であること及び女性であることが望ましい旨発言された経緯がある。OECDの中で女性の雇用が比較的少ないということもあるが、OECD自身が女性の雇用促進や福祉問題に取り組んでいる中で、社会の動きを女性ならではの感性で敏感にとらえることが期待されているのではないか、と自分なりに解釈している。優秀な日本人女性の多くが国際機関で活躍されているが、自分が候補となることで、日本人女性がさらに国際的な活躍の場を広げるようなインパクトも与えられればと思っている。当然、女性だという理由だけで選出されるとは思っていないし、アファーマティブ・アクションも一切不要だと申し上げている。
更に言えば年齢という点では、自分はこれから本格的なキャリアを積む段階にあり、新しいチャレンジに取り組もうという世代に属している。他の候補には60代の方もおり、政治的な経験を積んでいるがその分高齢というデメリットがある。過去の事務総長は5年間の任期を2期務めるのが通例となっているが、若さという点も考慮の一要素となるのではないか。その意味ではメキシコ、ポーランドの候補は自分と同じ50代前半である。
(記者)欧州以外から事務総長が選出されることの意義についてどう考えるか。
(竹内候補)欧州以外にもOECDがビジョンを広げるという意義がある。エネルギーや環境問題はアジアにおいて重要な問題となっている。なぜアジアかという点を明確にする必要があるが、それはアジアにおける経済取引の実態であり、経済の規模・スピード、またグローバルな経済に及ぼすインパクトの大きさ等が背景にある。過去の事務総長の出身国の変遷を見ても、次はアジアからというのは必至の流れではないか。アジア太平洋地域出身の候補としては自分の他に韓国、豪州からも立候補しており、アジアからの統一候補として票をまとめにくいのがネックであるが。
(記者)年齢について言及されたが、OECDを人間に例えれば何歳くらいか。
(竹内候補)一度ピークアウトしているという意味ではやはり50代であろうか。これまで蓄積した経験・知識を基にもう一度新たなチャレンジに立ち向かうか、そのまま老いてゆくのか、という岐路に立っているのではないか。その意味で自分も他人事ではないが、これまで十分な成果をあげている一方、更なる提案能力があるか、新しい提案を出しやすい環境か、といった点が課題である。OECDのツールはルール作り、ソフトローの提供といったものであるが、影響力を有するツールがソフトな手段に限られている中、いかに最も効率的に影響力を発揮していくかという点も課題。さらに、対外的なコミュニケーションを通じ、多くの関係者からOECDの活動は面白いと思われるよう関心を喚起すること、これを自分は「エンドユーザーを増やす」と表現しているが、各国政府のみならず、幅広い分野における提言についてビジネス関係者等も含め様々な人々に関心を持ってもらうことが大切である。
(記者)石川局長に伺うが、OECD事務総長ポストを日本人が占めることの政府としての意義如何。
(石川局長)冷戦終了後のグローバル化の進む国際社会において、OECDは、同じ考えをもつ国の集まりとして、欧州では東側へと拡大し、アジア太平洋地域においても韓国、メキシコと加盟国を増やし、民主主義と市場経済を拠り所とする国々の集合としての機関であり続けてきた。20世紀が民族国家の相克の時代であれば、21世紀は国境が薄れた世界における経済活動の深化である。この新しい時代における考え方、問題解決のための方途、そのための政策のすり合わせを行う場としてOECDは重要な意義を有している。OECDの活動は、各国政府が取り組んでいる政策課題と相対しているために独自性が見えにくいという側面もあるが、その発信能力は重要であり続ける。その考え方の発信の中核を日本が握るということは、グローバル化する時代の中で大きな意義を有している。無論、これは竹内候補個人としての立候補とは峻別されるものであるが、政府としても、物の考え方の発信の核としての役割を担われることに強い期待を抱いている。