日本国総理大臣
福田康夫
平成20年5月30日
世界経済は様々な厳しい課題に直面しており、OECD諸国もこれらの課題への対応に専心しています。中でも、サブプライムローン問題や気候変動、石油・食料価格の高騰は、世界経済の先行きに陰を落とし、さらには貧困撲滅に向けた国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成も危ぶまれています。
こうした課題への取組みの最も重要なものが、日本で今年7月開催されるG8北海道洞爺湖サミットです。同サミットでは、世界経済問題、環境・気候変動問題、開発とアフリカ、そして政治問題などを議論します。
サブプライムローン問題や劇的な石油価格高騰を背景に、世界経済の減速は既に明らかです。新たな金融手法が開発される中で、効果的なリスク管理が欠如していたため、証券化によるリスクが瞬く間に世界中に拡散することとなりました。我々は、金融機関のリスク開示の推進や、信用格付けの役割の見直しなどの措置を通じ、国際金融システムの安定性を向上させる必要があります。日本はかつてバブル経済崩壊という苦い経験をしていますが、そこから金融市場混乱の解決に役立つ教訓が引き出せるかもしれません。それは、「迅速な対応」と、「信用収縮を未然に防ぐこと」の重要性です。この観点から、金融市場の混乱や石油価格の高騰についての原因を分析したり、中長期的な施策を検討するといった関係当局の努力を歓迎します。
世界経済のもう一つの懸念材料は食料価格の高騰であります。栄養失調や飢餓の脅威に晒されているのは最も弱い立場にいる人達に他なりません。今や食料価格の影響を受ける国は増える一方であり、場所によっては暴動も生じています。この問題への対応には、緊急人道支援と中長期的な社会経済開発を組み合わせた対応が必要です。言うまでもなく、国連ミレニアム開発目標(MDGs)達成の見通しが危うくなります。この問題は、北海道洞爺湖サミットにおいても、緊急を要する課題として議論されます。日本は、この4月に国連世界食糧計画(WFP)を通じ、1億ドルの緊急食料援助を供与することを決定しました。そして、そのうち6800万ドルは既に支払い済みです。
気候変動はG8洞爺湖サミットにおいて最も重要な議題です。昨年、日本は、「クールアース50イニシアチブ」を提案し、2050年までに温室効果ガスを半減することを呼びかけました。また私自身、今年1月の世界経済フォーラムで、ポスト京都議定書の枠組み、国際環境協力、イノベーションの3つの柱からなる「クールアース推進構想」を提案しました。
ポスト京都議定書の枠組みについては、私は国連に対し温室効果ガス排出のピークアウト(増加から減少への反転)及び半減のための戦略・手段の検討を要請しています。温室効果ガスの増加を食い止めるためには、すべての排出主体、特に主要排出国が参加するメカニズムの構築が必要不可欠です。
国際環境協力については、私は2020年までに全世界のエネルギー効率を30%向上させる目標を提案しました。また、温室効果ガスの削減と経済成長を同時に達成しようとする途上国を支援するため、「クールアース・パートナーシップ」と呼ぶ100億ドル規模の新たな資金メカニズムを構築します。
イノベーションについては、石炭発電所からのCO2排出をゼロにする技術や低コストで高効率な太陽光発電技術などの技術開発を加速化していきます。
OECDは世界で最も優秀かつ最大のシンクタンクです。広範な経済・社会問題に関する質の高い分析や政策オプションを提供することで定評があり、国際社会が直面する課題の解決に特筆すべき貢献ができると考えます。
さらに、OECDには長年にわたる素晴らしい分野横断的な分析の実績があります。気候変動問題は、単なる経済問題ではありません。技術の普及と開発にも関係する問題であり、また、人々の生活様式に大きく影響する問題でもあります。私は、OECDがCO2排出量削減のための様々な政策手段の長所と短所について、現実的でバランスのとれた分析を提供できると期待しています。
2008年のOECD閣僚理事会では、OECD加盟国拡大や非加盟国との関与強化、財政負担の改革についても議論すると理解しています。グローバリゼーションの時代において、我々が直面する上述のような課題にOECD諸国だけで効果的に対処することはもはや不可能です。この意味で、OECDがアウトリーチ活動や関与強化を通じて非加盟国との協力関係を一層強化することは非常に重要です。
数年前、閣僚理事会において、日本はOECDの将来について「OECDは現在岐路に立たされている。今後OECDは真にグローバルな影響力を有する国際機関になれるであろうか」という問題提起をしました。OECDが加盟国と世界の期待に応えるものであるならば、その答えは間違いなくイエスであるはずです。
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